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縁側をご利用いただく際のルール&マナー集を用意いたしました
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ここは主にホンダFIT3HVの徒然ない世間話や、
ドライブ旅行記、オリジナル小説やCGなど
けっこうどうでもいい話題で盛り上がっております。

気だるい午後のひまつぶしにどうぞw

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はじめに

日本国内はバイクなんかでずいぶん旅をしてきたが、それに飽き足らず今度は
海外旅行をしてみようとか考えだした。
しかも一人旅。

英語? しゃべれないし。
文化? いやマジで知らないし。
通貨? てきとーに両替しとけばなんとかなるんじゃね?

若さというのはこんな無謀な冒険にも向かっていける。

小説「Step Up!」を完成させるには、やっぱり現地に取材しないと。
ただその一点のためだけに、はるばるヨーロッパへ赴くとか、
いま考えると「よーやったな」と思う。

そんなオランダの旅行記をはじめます。
「写ルンです」で撮った写真も今回デジタルデータ化したので
シーンに沿ってお見せしますので、それっぽくお楽しみに。

それでは、はじまりはじまり〜♪

2016/9/10 12:13  [1498-4820]   

これから離陸するところ


ACT.1 OUT OF THIS WORLD


オランダKLM航空のジェット機の尻尾の窓側の座席にのぼるは独り座っていた。
「いよいよか…ついに始まる、今世紀最後にして最大のオレの冒険…」
ほぼ満席のジェット機はコンコースを離れ、ゆっくりと成田の滑走路へと進む。
機内にアナウンスが流れると、旅客はいそいそとシートベルトをしめる。

世界でも最高レベルのサービスを誇るKLMだけあってスチュワーデスはみんな美人だ。
懸命に救命具の取り扱いの説明をする姿が美しい。日本人のスチュワーデスは二人。
頼りにしてるぜ。

滑走路の最後尾でジェットエンジンがかん高く吠えたてる。
鳥が羽根を拡げるように、主翼後部のフラップが変型する。
「この発進の瞬間がいやなのよねぇ」
付近に座る老夫婦がつぶやいている。
たしかに、御老体にはつらい瞬間かもしれないが、のぼる自身には飛行機に乗って一番楽しい瞬間だ。

次の瞬間、機は堰を切ったようにロケットスタートした。
のぼるはシートにへばり付けられるようなGを受けながら、心の中で叫んだ。
「セイラ、ガンダムいきまぁーす・・・ああっ!!」
2時間と15分も遅れてのテイク・オフ。
約一人の愚か者を載せたKLMのジェット機は成田の空を旋回すると、天空の透過光に
照らされながら大空へと舞い上がった。
 

のぼるが社会人になって3年がたった。
社会に出て一人でどれくらいやっていけるのか、そう思って、一人暮しをはじめたり、
ソロツーリングをよくやっていたが、近頃なにか満たされない。

所詮日本という囲いの中で、日本語の手の平で踊らされてる、そんな漠然とした不安があったのだ。
「こうなった日本語の通じない外国に行ってやる!」
そう決心したのがその年の秋。

一口に海外といっても行き先は星の数ほどあるが、初めての海外逃亡ならば、多少無理しても
自分の行きたい国に行くべきだろう。
そうなると行き先は迷うことなくネーデルランドに決定だ!
オランダと呼ぶのが一般的なのだが、ここではネーデルランドと記させてもらおう。
ネバーランドみたいで雰囲気いいじゃん。

子供の頃から憧れた、風車とチューリップの国。
思えばのぼるの田舎志向は子供の頃からだったらしい。
海抜0メートルの平地が国土の1/4もあることから環境問題をどこよりも積極的に取り組んだり、
ヨーロッパを平和的に統一しようと各国の通貨をユーロにしようと持ちかけたのも、
このネーデルランドだ。
自然と共に平和で合理的な生活をしているようなイメージに、のぼるには想いを重ねていた。

「旅行」というといつも北海道とか、国内のイメージが常識としてあったため、
ネーデルランドなどそんな遠い外国になんてこれっぽっちも行けるとは考えてなかった。
それを、「行こう!」と決心したのは、歳をとるにつれて「夢をひとつひとつ叶えていこう」と
思えてきたからだった。

出発は翌年のゴールデンウイークと決めた。
それまでの期間、海外旅行とネーデルランドについて徹底的に勉強した。
インターネットやABロードで格安航空券を調査し、ツアーガーデンという旅行代理店で
志田さんという親切な男性と知り合い、海外旅行に関する知識を電話で徹底的に教えてもらった。

ビザの有無、パスポートの取得方法、空港での手続きの方法など、細かいことまで親切に
教えてもらえて、すんげー感謝してる。
本来ならネーデルランドの主要空港であるスキポール空港への直通便は、
ゴールデンウイークという時期を狙うと通常はキャンセル待ちとなるはずだった。
それを志田さんの方でキャンセル待ちの最前に順位を繰り上げてくれたり、
しかものぼるのわがままで窓側の座席をチョイスしてくれたり、本当に至れり尽くせりの
サービスだった。
彼がいなければ、この旅行は出発すらできなかったといっても過言ではないだろう。

ちなみに日本で予約したのは、その航空券だけ。ホテルは現地のvvv(フェーフェーフェー)
という観光案内所で予約することにした。
すこしくらい現地でホテルの予約を交渉するくらいの苦労はすべきだろう、という理由だ。
日本で予約すると割高になるし、安心した旅行も味気ないものだしね。
旅の苦労は後日いい思い出になる。それは今までの冒険で充分承知していたので、
不安はあっても、それは心地よい緊張感だった。

まあ、いくらきれいごとをいっても、これが間違いのはじまりであったのは想像するに
難くないだろう。

行き先はネーデルランドで決定したが、具体的にどの地域に行こうか、という問題があったが、
これも決定している。

マーストリヒト。

ベルギーとドイツとの3国の中間に位置する都市だ。他国と隣接する都市はいろんな文化が
ごちゃまぜになっているはずだから、絶対楽しいところのはず。
なんたって日本にはそういうのないからね。
これは専門学校のころから行きたいと思っていたところだ。

2016/9/10 12:19  [1498-4821]   

そして、出発の日は来た!

5月1日の10:00成田空港発のKLM航空、
アムステルダムのスキポール空港直行便だ。

7:30には成田に到着した。搭乗手続きを余裕もってしようと考えていたら・・・
電光掲示板に「KLMアムステルダム行き 遅延」の表示が。
「あ?」
我が目を疑う。
しょっぱなからもうアクシデントだ。

とにかく掲示板に見入った。
いったいどれくらい遅れるというのか。
アナウンスによると、ネーデルランドから来た機が給油してそのまま戻る、その便にのぼるは
乗るのだが、成田に到着したのが予定より30分遅れたのだそうだ。
単純に考えると、出発が30分遅れるだけのはず。それくらいなら別にいいや、と思っていたが、
事態はそう簡単な問題ではなかった。

ロシアの領空を飛行できる時間帯というものが思いっきり制限されているので、それ以外の時間は
「領空侵犯」とみなされてしまう。
つまり、30分遅れるだけでも次の飛行可能時間まで足止めを喰うハメになるのだ。
 それを計算した今回の出発時刻は12:15となり、2時間15分もの遅れだ。

「やべぇ…マジでやばいかもしんない…」
のぼるは狼狽した。
というのは、通常のフライトならば現地時刻の夕方前にスキポール空港に到着するので、
宿を予約する余裕は楽にある…そう考えていたのだ。
それが2時間以上も遅れて到着したとしたら、観光案内所が営業してるかどうかの問題にすら
なってしまう。

こうなったらKLMのチケットカウンターのおねーさんに交渉してみよう。
「オランダ現地の宿の予約をしてないのですが、フライトが遅延したことが原因で宿に泊れない
可能性は否定できない。この場で現地での宿を手配できないですか」
きれいな制服を着たきれいなおねーさんは満面の笑みで答えた。
「ムリですね」
ほのかな殺意が芽生えたが、空港内でコトを荒立てる真似はできない。
仕方なく成りゆきにまかせることにした。
ま、ここで慌てても仕方ない。大物らしくどっしり構えようじゃないかね、なあ中曽根くん。
 
とりあえずこの空き時間を利用し、現地でしようと思っていた両替をしよう。
空港の広いロビーのど真ん中に、でんと構える大和銀行の支店。
現地で両替するより手数料が高いので、イヤだったのだがそうも言ってらんない状況だ。
ネーデルランドの通貨はGL(ギルダー)。1ギルダーは70.16円。
(注・これは当時の通貨。現在は統一通貨ユーロとなっている)

のぼるは55000円を出し780ギルダーを手にした。
クレジットカードとこの現金をうまい具合に併用しよう。
世の中にはトラベラーズチェックという小切手みたいなものがあり、それなら支払が便利になる
らしいが、オレの目指すところは観光地でなく田舎だ。
「こんな紙切れは役にたたないねえ」などと言われたらどーしよーもなくなってしまう。
やっぱ現金が後腐れなく手っ取り早いね。

ようやくKLM航空の搭乗手続きが開始された。
のぼるはロビーのエスカレータを下り、税関に行った。
タグ・ホイヤーという高価な腕時計をしているので、帰国の際に税金を取られる可能性がある。
ここであらかじめ国内からの持ち出し品として申請しておけば安心だ。

それにしても、成田空港ではこのフロアに来るために「旅客サービス施設使用券」として
2040円を払わなくてはならない。遊園地じゃないんだからそーいうことすんなよな。ケチ!
いよいよ出国審査。
ゴールデンウイークのごったがえす旅行客のため数分順番待ちをする。

そしてのぼるの番。
緊張しながら審査官にパスポートと出入国カードを見せると笑顔で「よい旅を」
と出国のスタンプを押してくれた。
この瞬間にのぼるは日本にとって外国人になったのだ。

「さて、行くか!」
気持ちを新たに、たったひとつのズタ袋を右肩に担いでジェット機へのタラップを進む。
「ようこそ、いらっしゃいませ!」
「Welcome!」
スチュワーデス達が笑顔で迎えてくれた。
搭乗チケットを見せると、一番奥の二人掛けの窓側案内された。

となりの席にはちょっと太った外人の女性。
この機会に英会話を彼女からレッスンさせてもらおうかと思っていたら、荷物をまとめていたスキに
速攻でイヤホンを装着されてしまった。

仕方なく座席に標準装備されているKLM航空の発行する雑誌「ウインドミル」をパラパラと眺めた。
「あ」
あるページを見てがく然とする。
4月30日、つまり昨日はネーデルランド王国にとって最高の記念日のひとつ「女王の日」だ。
国中が王家の色であるオレンジ一色に染まり、飲めや歌えやのカーニバルになるという。
のぼるが到着するのはその次の日の夕方。
覚めやらぬお祭り状況で、ホテルの予約などできるのだろうか。

「ま・・・いっか」
いつものお気楽モードに入るのぼる。
そう。
これが、彼が幾多の冒険の中を切り抜けてきた「O型お気楽モード」なのだ。
ウジウジ悩んでも、不安になっても、今解決できない問題なら放っておく。
そういう気持ちの切り替えがこの状況でもできるというのは、我ながらいい根性してると思う。
まあ、そうでもなきゃ独りで海外旅行なんてできるわきゃ、ないわな。
 
「いよいよか…ついに始まる、今世紀最後にして最大のオレの冒険…」

2016/9/11 06:59  [1498-4822]   



ACT.2 RANDING


離陸から20分くらいして機内が安定した頃、最初のドリンクサービスが来た。
のぼるのいる列にはスチュワード(男のスチュワーデス)が来た。
アーノルド・シュワルツェネガーのような男に「Soft Drink?」と聞かれた。
初めての英会話にビビって固まる。
「お、おれんじじゅーす・・・」
ダッセーことこの上ない。せめてプリーズくらい言ったらどうかね。

日本海を数十分眺めると、夢にまで見たユーラシア大陸が眼下に広がる。
とてもじゃないが人間ふぜいに開拓できるようには思えないような巨大な山脈が
連なっており、頂上付近には雪が覆い尽くされている。

旅をしているときというのは、非現実な世界だ。
現実に生きていることを否定するのではない、見たこともない風景の中に身を置く、
もしくはその目で見ることで非日常の世界に入り込むということだ。
そういう状況でのぼるはいつもわくわくするのだが、今回に限っては頭の中が、
伝説のプロレスラー、タイガー・ジェット・シンにブスブスと串刺しにされるような
恐怖に怯えていた。
この下の世界に一人置いていかれたら、生きて行ける自身がまるでなかったのだ。

ロシアの巨大な国。
ユーラシア最大の国にしては、その地方地方で暮らす住民の文化がまるでベールに
隠されているように分からない。
春なのに雪に覆われた平原、整備されずに三日月湖が散乱する川、そして時々見える
核サイロのような人工的なドーム。道路はたまにあるのだが、人が住む集落や村など
見たことがない。まるでそのまま地獄へ続くような直線道路だ。
そんな、地上の風景が延々と続くのだ。
だから恐いのだ。こんなの日本にはありえない景色なのだ。

この飛行機が降り立つネーデルランドはそんなところではないようだが、こんな
殺伐とした風景の延長線上、つまり歩いて行ける大陸上にそういうトコがあることが
不思議でならない。

付け加えるとして、機の主翼が意外にベラベラとしなって飛んでいることも、なんだか
たよりなさげで不安になる。いつ「ベキッ!」と折れて墜落してもおかしくない感じなのだ。

日本時間14:00、出発から2時間ほどしてから最初の食事がきた。
またさっきのアーノルドだ。
さっきも思ったけど、きれいなおねーさんが来いよ。
「Chikin or Beef?」
またも固まってしまった。
また英語にビビったわけじゃない。機内食は和食か洋食かが選択できるはずであって、
鳥肉か牛肉を選択するなんて聞いてないのだ。

でも固まってばかりではアーノルドを困らせてしまう。
機内で「地獄で会おうぜベイビー」とか言われてショットガンをぶっぱなされてはたまらん。
「ち、ちきんぷりーず・・・」
すごいよ、プリーズも言えたよ。
これでのぼるも国際人だよ。

目の前にアルミホイルのかかったトレーが置かれ、さらに「Soft Drink?」と聞いてきた。
「アイスティ、プリーズ」
のぼるは答えた。
流暢な(?)英語のコミュニケーションに満足し、のぼるは得意げに渡された飲み物を飲む。
「ぶふっ!」
ちょっとだけ吹き出した。
注がれた飲み物はアイスティではなく、中国3千年の歴史の誇る由緒ある飲料茶、ウーロン茶だった。
「そうじゃないだろ!」とアーノルドにツッコミしてやりたかった。

食事は、チキンのマスタードがけとパスタ、バターロールとサラダと焼魚、そして何故か寿司。
寿司といってもサーモンとかっぱ巻きだけ。そしてデザートにモンブラン・ケーキ。
なんとも理解しがたいメニューだ。
どう考えても常識ある立派な人間の選定したメニューとは考えにくい。
どちらかというとスーパーの半額惣菜で適当なものを見境なくチョイスしたときのメニューに近い。
 
2度目の食事は更にぶっとんでいた。
メインディッシュが焼そばでおかずが小割そば。
ダブルそばかよ。

日本人のオレも初めてのメニューだよ。

2016/9/11 07:14  [1498-4823]   


機内で、ネーデルランドに入国する際の審査に必要となる用紙を渡された。
どんな目的で入国するのか、どこに泊まるのか、いつ帰るのかなどを英語で記入する。
記入例に従って書くが、宿泊場所が決まってないので「地球の歩き方」に載っている適当な
ホテルの名前を記入しておいた。
べつに悪いことなんてしていないのに、犯罪者のような気分だった。

現在、日本時間で19:00くらい。日本はもう夜なのに、機は太陽にさんさんと照らされている。
到着までまだ倍くらいかかる。
機内はカーテンを下ろして睡眠時間となっていた。
前方にある25インチくらいのモニターで時々現在の位置が表示されている。

先は長い。
多くの乗客はだいぶ疲れているらしく、毛布をかけて寝ている人が多い。
のぼるも少し眠ったが、喫煙席のため煙たくて眠れない(自分も吸うくせに)
前部の大型モニターで「ホームアローン」が上映された。
自分のイヤホンのチャンネルを合わせて音声を聞くのだが、数年前の学生の研修旅行でもバスの
中で観たことがある。
どこへ行っても上映するのは「ホームアローン」だけなのか。
とはいえ冒頭で飛行機が墜落する「クリフハンガー」などはこのタイミングでは観たくもないが。

まあ、ビジネスとかファーストクラスだと自分の座席にモニタが標準装備されて、ある程度
好きな番組をチョイスできるらしい。
のぼるは言わずとしれたエコノミーなので贅沢も言ってられないか。
座席も前後のピッチが狭く、自由度が低い。
せめて寝返りができれば、ね。
 
軽食タイムがきた。
機内では本当にやることがないので食べることがすげー楽しみ。
これはフェリーにしても同じことが言えるが、飛行機の方が自由度が低いぶんストレスがたまり
変に食欲が旺盛になる。これでは太るね。

イヤなことに軽食はカップヌードルとアイスクリームのどちらか、だった。
ほとんどのヒトはアイスをチョイスした。
当然だ。さっきダブルそばを食べたのだからヌードル系は誰もが嫌がるに決まっている。
頼むから人間心理を考慮したメニューにしてくれってば。
うーむ、これで世界屈指のサービスを誇ると言われてるのだから他の航空会社はどんな
サービスを提供しているのだろう。なんだか興味津々だね。

軽食が終わると、間もなく最後のドリンクサービスとなった。
スプライト系の飲み物が飲みたかったのでアーノルドに「サイダー、プリーズ」と頼んだら、
「Pardon?」と返された。
何度言ってもサイダーがわからないらしい。
「スパークリング・ウオーター」と言い直したら「Oh,OK!」とコップを渡してくれた。
飲んでみたら案の定「炭酸入りのミネラルウオーター」だった。
「Mother fucker!!」とか言ってドロップキックかまそうかと思った。
ちなみにサイダーとは日本にだけ浸透した名称。海外では「レモネード」と呼ぶのが一般的。

長い長い機内生活ももうすぐ終わる。
ネーデルランドに突入したらしく、地上の建物が活気あふれてきた。
となりの太った外人のおねーさんとは、トイレに行くときに「エクスキューズミー」と
言った以外なにも会話しなかった。
そのことに少し後悔しつつ、機は少しずつ降下をはじめた。

約12時間という機内生活。
帰りもこんな感じなのか、と思うと、そういう意味で帰りたくなくなった。
だんだんと地上が近付いてくる。
眼下に大きな空港が見えた。きっとそれが、アムスのスキポール空港だろう。
機内にシートベルト着用を促すアナウンスが流れる。
空港の頭上を大きく旋回した後、主翼後部のフラップが可変した。

着陸体制に入った。
ものすごい空気の抵抗を味方につけて、機はドンと着陸した。
間髪入れずに一気に減速する。消化をはじめてる胃の中のアイスが逆流しそう。
黒人のメカニックに改造されてド派手になったナイト2000のエア・ブレーキをしたときの
マイケルの気持ちがよくわかる瞬間だった。
機は完全に停止し、空港のタラップが接続された。
「長旅、大変おつかれさまでした。お忘れ物ないように順にお降り下さい」
アナウンスの声で乗客はそれぞれ立ち上がって荷物の整理をはじめた。

のぼるも手持ちの荷物を整理しつつ、腕時計を現地時間に合わせた。
今は日本時間で深夜0:00でネーデルランド時間では17:00。日本との時差は7時間だ。
12時間もたっているのに、昼間の12:00に出発してその日の夕方17:00に到着したという
へんてこなトリックにささやかに違和感を感じる。これが時差ボケか。
とはいえ約12時間もの空の旅。疲労だけは本物だ。

ため息をついている余裕はない。
はやく宿を手配しないと。
のぼるはズタ袋をかついで、タラップを進んだ。
 
なんか空気が違う。
まずそう思った。日本でいつものようにある無臭の空気が、ここでは違う香りがする。
なんだかチーズのほのかな匂い。一言でいえばそんな感じだ。
そんな香りによって異国に着いた、という実感が沸いた。
「さてさてさて! 来てしまったぜ! ネーデルランド!!」
抑えきれない興奮。もはや後戻りはできない。するつもりもない。
「7日間のネーデルランド旅行、絶対やってやるぜ!!」

2016/9/11 07:31  [1498-4824]   

上陸直後のスキポール空港にて


ACT.3 PAINS,TROUBLES,DIFFICULTY


ネーデルランド王国に無事上陸したのぼるは入国審査を受けた。
多くの旅行者は荷物受取所で自分の荷物がコンベアで運ばれるのをを待っていたが、
のぼるはズタ袋ひとつだけなので余計な手間はなかった。

審査官に「Sightseeing?」と訪ねられる。
サイトシーン・・・意味はわかるが、のぼるの脳裏には「とんねるずのみなさんのおかげです」で
昔ノリさんが「サイトシーン!!」と絶叫していたコントがよぎっていた。
「イ、イエス」
吹き出しそうになりつつ答えた。
思い出し笑いをするやつはスケベなやつらしいが、こんなとこに来てまでとんねるずを
想像するやつは、我ながらスケベというよりも変だと思う。

なんとか入国のスタンプをパスポートに押してもらった。
これで入国手続きは終了だ。
 
ゲートを通り、スキポール空港の中を歩く。
「さてさて、まずは電車でアムステルダム中央駅へ行かなければ!」
のぼるは電車の乗り場を探した。
ネーデルランドの鉄道は「NS」Nederlandse Spoorwegenの略。かっこよくレタリングされている
看板があったのですぐわかった。

目的地までの切符を購入しなければならないが、自動販売機はなく全て窓口での購入となる。
「プリーズ ワンウェイチケット トゥ アムステルダム・セントラルステイション」
発券窓口で緊張しつつお金をカウンターに出す。
アムスまでの片道切符を下さい、という意味だ。
機内でひそかにブツブツ勉強していたのだ。
「OK」駅員は慣れた手つきで切符をのぼるに差し出した。
「サンキュー」
のぼるは切符を受け取ると地下のホームへ向かった。
ふっ。英語のコミュニケーションなんてチョロいぜ。
なんだかヒザがガクガクしてるが、武者震いだろう。

ホームへ下ると、当然上りと下りの乗り場がある。
どっちで待てばアムス行きの電車が来るのだろうか。
どっち行きが上りでどっち行きが下りなのかがまずわからない。
ああわからない。

のぼるは近くにいたサラリーマン風のおやじに訪ねた。
「エクスキューズミー、ディスホームは ゴートゥ アムステルダム行き?」
「?」
まったく意味が通じない。
まったく英語になってない。
「えーと・・・ディスホームズトレイン ゴートゥ アムステルダム?」
「?」
ああっ、通じてないみたい。
どうしよう。もしかして変質者だと思われているだろうか。
などと疑心暗鬼していると、「Amsterdam CS」と表示された電車が来た。
のぼるはそれに飛び乗った。これに乗ればいいのだろう。

日本の鈍行列車とそんなに変わらない内装だ。
車内は会社帰りのサラリーマンで賑わっている。
発車して間もなく、列車は地上に出た。

ネーデルランドの街並みが広がる。
この国独特の積み木のような家々。鋭角な屋根、均等に並べられた窓。
どれもが本物だ。
日本でこの風貌の家を作ろうものなら「かぶれ」だの「レプリカ」だの言われてしまうだろうが、
ここではこういう家が当たり前なのだ。
長崎県にあるハウステンボスの風景が、ここでは当たり前の風景なのだ。
「うおお、たまんねっス!」

感激して窓にへばりついていると、のぼるの付くにいた夫婦がクスクス笑いながらのぼるを
指さしている。
やばい、浮いているか、のぼる!
「ハハハ、ヤーパン」そのダンナがのぼるに話しかけた。
ヤーパンとはオランダ語で日本人のことだ。
ちなみにオランダ語と英語はたいへん似ているので英語が話せれば、この国では充分通用する。
のぼるは英語すらろくに話せないが。
「イ、イエス」
思わず肯定してしまった。
日本人は金持ち、というレッテルが海外ではあるらしくしばしば狙われるという話をよく聞くので、
日本人ということは隠して旅をしようと決めていたのに。

そもそものぼるはビンボーなので気取ってもブランド品を着てない。
タグ・ホイヤーの腕時計はしているが行動時はジャケットのすその内側に隠している。
あとブランドといえばFILAのズタ袋くらいなもん。
そんなの世界中どこにでも売っているし高価な部類でもない。

「ぺらぺらぺらぺら」夫婦でなにやらのぼるについて会話している。
恐いヒトではなさそうなのだが、言葉がわからないというのは想像以上の恐怖がある。
日本語に訳したら放送禁止用語などマル禁サイレンが鳴るようなことを会話しているのかもしれない。
どうしようどうしよう。

疑心暗鬼していたら、夫婦は次の駅で降りていった。
なんだかなー。現地に住むヒトとコミュニケーションを取るのは、難しいんだな。
言葉の壁というのは想像以上の圧さがあるんだ、ということを痛いほど実感した。
 
ほどなくアムス中央駅に到着した。
いろいろ珍しい電車が停まっており、じっくり眺めたかったが、現状はとにかく観光案内所へ
行って今晩の宿を予約しなければ!
「間に合え、間に合え、間に合えー!!」
気分はコウ・ウラキ中尉だ。

情報によると、駅の中央ホールの右手に「vvv(ネーデルランドの観光案内所、フェーフェーフェーと読む)」があるらしい。
さっそくそこへ行ってみた。
しかし、閉っていた。
営業時間が終了しているのとは様子が違う。明らかに案内所そのものがツブれていた。
「なん・・だと・・・」

2016/9/12 21:50  [1498-4831]   

いや、まだだ。たかがメインカメラをやられただけだ。
確か駅前にももうひとつ「vvv」があるはずだ!
とにかくそこへ行ってみた。

しかし閉っていた。
今度は営業時間が終わっていたようだ。
確かに今は18:30で、営業時間は17:00とある。とっくに閉店してるのだ。
それにしてもまだ夕方はじめくらいの明るさだ。5月の日本じゃ考えられない気候だな。
「どうしよう・・・!」

アムス中央駅に振り返る。
東京駅そっくりだ。
というより東京駅がこれを真似したのだ。
しかし今はそれに感動している余裕などない。

のぼるは駅の中の「もとvvv」に戻ってみた。
すると閉じられたドアに何かが貼られているのを見つけた。
「これは・・・!」
そのはり紙には、この駅の別の場所に「vvv」が移転した、と書かれてあった!
「これは・・・!」

のぼるははり紙に書かれた地図を急いで辿っていった。
なんとはじめに降りたホームの目の前に新生「vvv」はあった。なんてこったい。
しかし、のぼると同じことを考えている旅行者はたくさんいた。
ホテルを手配しようと「vvv」のドアの前に10人ほどツーリストが並んでいたのだ。

のぼるは躊躇せずに列の最後尾に並んだ。
ここ以外に宿を予約できる所を知らないのだ。
しかもここは19:30までの営業なので、まさに本日の最終防衛ラインなのである。
「ふう」

待ち時間中にまわりのホームの様子をじっくり観察した。
たしかこの駅には、かの有名な超特急列車TJVが通る駅のはずだが、見られなかった。
映画ミッション・イン・ポッシブルでラストバトルのシーンになった列車で、一目見たかったのだが、
まあ仕方ないか。

そのかわり2階建の特急が何本も停まっていた。のぼるは上越新幹線MAXはおろか2階建バスに
すら乗ったことがないので、ひそかに憧れていたのだ。
ちなみにこの2階建特急は「INTERCITY」といい、この国内を走る標準の特急列車だ。
 
そうこうしているうちに待ち行列は進んでいった。
19:00になった。「vvv」の職員らしき巨漢の男がドアの前に出てきた。
アブドラ・ザ・ブッチャーのような、刑務所でムチでも持った看守のような男だ。

まさか、30分前にドアだけでも閉めてオーダーストップにするつもりか。
予感は適中した。
のぼるの目の前にブッチャーが立つ。
のぼるの後ろにも4〜5人の待ちがいる。
やめてくれ、オレを追い出さないでくれ!
ここを追い出されたらオレには行くところがないんだ!
フランダースの犬のネロの気分で神に祈った。

祈りが通じたのか、ブッチャーはのぼるの後ろで受付を終了とした。
どうやらのぼるのシューズのつま先がギリギリ敷居の内側にあったからだったらしい。
ブッチャーはのぼるを店内に誘導してドアをクローズにした。
後ろにいた人たちは落胆してそれぞればらけていった。
「オレの後ろにいた旅人よ、すまん!」
と心の中で彼らの明日を祈った。
つま先ギリギリでセーフ、危機一髪とはまさにこのことだ。
もうすこし遅くここに来ていたらいまごろどうなっていたか、想像もしたくない。

しかし、危機はさらに続いた。
いよいよのぼるの受付、つまり一番最後の番となった。
「I'd like to reserve a room for tonight」
今晩の部屋を予約したい、と英会話ハンドブックを片手に受付のおねーさんに話した。
このおねーさんをのぼるは心の中でファンタと呼ぶことにした。
「Sorry,Amsterdam's hotel is full」
と言われた。
のぼるの直訳では「アムスのホテルはバカです」となった。
「?」
再度聞き直して、ようやくがく然とした。アムスにあるホテルは全て埋まっている、ということなのだ。
うそだろー! どーすんだよー!
「Oh my god! I'd like to reserve at a hotel near the
this city!」
持てうる英会話のレパートリーを騒動員して、ここから一番近い都市のホテルを予約したい、
と言うと、「OK!」ファンタは端末をカタカタと操作してくれた。
話によると、ロッテルダムという都市に1件ある、とのこと。
ロッテルダムとはよく聞くが、どこにあるのだろう。
地図で確認する。
このアムスから南西に約50km離れたところ。
さっき見た特急インターシティで1時間くらいかかると言っている。
げー。まじですか。

多少遠くても背に腹はかえられない。そこを予約してもらった。
ロッテルダム駅からホテルまでの詳細地図をコピーしてもらい、のぼるは店を出た。
駅の窓口でロッテルダム行きの切符を買う。
この国では鈍行だろうが特急だろうが料金は一緒だ。
特急券という概念がないのだ。これはいいね。

で、ここでのぼるは困った。
どの急行に乗ればいいのかわからないのだ。
時刻表の見方がまるでわからない。

足踏みしながら悩んでいたら、そこに勤務を終えたファンタがのぼるのそばに来てくれた。
「14aのホームの特急に乗ればロッテルダムへ行ける」とジェスチャーを交えてのぼるに教えてくれた。
「Thank you for your kindness!」
知る限り最上級のお礼をしてのぼるはそのインターシティに乗り込んだ。
ほんと、ファンタが女神に見えたよ。

2016/9/21 10:20  [1498-4876]   

インターシティの席で ホテルの部屋の様子 味はあるが質素すぎだろ

2階建てインターシティ、のぼるはもちろん2階の座席に座った。
少しすると女の子の旅人が一人、のぼるの前に座った。
「Excuse me?」
のぼるにあいさつした。かわいいっ!

間もなくインターシティは発車した。
21:00、街はようやく夕暮れ・・・。
女の子とコミュニケーションをとろうといろいろ話をしてみたが、半分も通じたかどうか。
しかしのぼるが話すたびに笑顔で「フフフ?」と返してくれる。
気さくな女の子だなー。
いやいや、呂律の回っていないシャブ中毒者に思われ、とりあえず相槌をうっているだけ
なのかもしれない。
彼女は30分くらいして停まった駅で降りていった。
「バイバイ?」
バイバーイ。楽しかったよ。
のぼるの処世術は海外でも通用する。それだけでも嬉しかった。

それにしても、この国の鉄道は改札がない。それだとキセルし放題ではないかという疑惑があるが、
車内でランダムに切符の拝見に伺うのだ。
だからのぼるは一度アムスの駅から外に出て、再びホームに戻ることが容易にできたのだった。
ちなみにキセルがバレると3倍の運賃を払わされるらしい。
 
22:00、ようやくロッテルダム中央駅に到着した。
あたりは完全に暗くなっていた。
「とりあえずメシ〜」
のぼるは今晩のホテルがとれたことによって緊張感が一気に解かれ、ものすごい空腹になっていた。
駅の構内にあったファーストフードでフライドポテトを買う。
この国ではポテトにマヨネーズをつけて食べるのが普通。
カロリーがちょっと気になるが、これがなかなかうまい。けっこうクセになるね。

ポテトを食べ歩きしながら駅を出る。
「・・・う」
背中を走る戦慄。
筋肉質の男2人が駅前で乱闘騒ぎをしている。
ベラベラと英語(かどうかは不明。もしかしたらラリって現地人でも意味不明だったかも)を
叫びながら殴り合いをしている。
また一方ではぶつぶつ独り言をつぶやきながら歩くヒトや、へんな匂いのするタバコを吸うヒト
(たぶんマリファナ)が・・・

治安が悪い。

マジでそう思った。
一刻もはやくホテルに着きたい。その一心でのぼるは歩を進めた。
少し迷いつつ今日の宿「セントラルホテル」に到着した。
ホテルの横に「弁慶」という世界規模の日本料理チェーン店があったのだが閉店していた。
一度入ってみたかったな・・・

なにはともあれ、ホテルに入る。
「Excuse me、I have a reservation for tonight」
予約してるんですが、とフロントのおやじに言うと、部屋のキーを渡してくれた。
ボッてる。
実はvvvで予約したとき前払いで1万円近く払ったのでけっこう綺麗なとこだろう、などと
思ってたのに、ドラえもんに出てきた「つづれ屋」みたいにボロい。
しかも素泊まりだぜ。ざっけんな。
朝食とか夕食がついて1万ならまだ許せるけど、食事なしで1万はないだろう。
やはり初日の宿くらいは日本で予約しておいたほうがいいかもしれないね。

とにかく、部屋に入る。
ベッドとテレビ、あとはシャワーとトイレ。
あとはなにもなし。ビジネスホテルってかんじだ。
「うあー・・・」
とりあえず、疲れた。
湯がぬるく少ししか出ないシャワーを浴びてベッドに横たわる。
 
「腹へった・・・」
そうだよな。ポテトだけでお腹いっぱいになるわけないもんな。
なにはともあれ、綱渡りだらけの初日は、終わった。
ここで横になってる自分が、奇蹟に思えてならない。
明日の予定も大幅に崩れたな。

ま、いいや。
明日になってから考えよう・・・

2016/9/21 10:33  [1498-4877]   

ロッテルダムの街並 キューブハウス

ACT.4 IN THE RANDAM'S CITY



朝だ。
一瞬ここはどこだろう、とボケた。
機内ではあまり睡眠ができなかったので無理もないか。完全熟睡状態だった。

しかし朝方がかなり冷えたな。足下にどけておいた掛け布団がいつのまにか
アゴまで掛かっていた。
親切なポルターガイストでもいたのかな?

着替えながらテレビをつけた。
天気予報が見たかったのだが、なかなかチャンネルが合わない。
「お?」
ふとチャンネルを回す手が止まる。
洋楽を紹介している番組だ。
なんとナイトライダーのテーマをラップでリミックスしている。
なんだか時代の流れを感じさせる歌だった。
 
9:00にチェックアウトした。
せっかくだからこのロッテルダムの観光をしよう、とホテルのドアを開く。
雨。
「どぅあ〜」
せっかくの旅行なのに雨。
考えてみればのぼるは北海道ツーリングをしようが能登ツーリングをしようが、
いつも確実に雨に見舞われる、典型的な雨男だ。
この体質が世界に通用した証明となった。
インターナショナルな雨男。嬉しくもなんともない。

とはいえ、小雨程度だったので荷物に忍ばせておいた折畳み傘を取り出し、雨の中を進んだ。
雨だろうが行かなきゃ損だ。
まず見ようと思ったのは、この都市の名所のひとつ「キューブハウス」だ。
この都市はユニークな形をした近代建築が多いらしく、その中でもすごいインパクトを持つ
建造物が「キューブハウス」だというらしい。
そこへ行ってみることにした。

ロッテルダムの大通りを歩く。中世ヨーロッパを思わせる歴史の長そうなレンガの建物がたくさんある。
たまんないよな、こういう世界ってのは。

そんな通りを進むと、大きく開けた石畳の広場に出た。
そこには、市場ができており、雨のなか活気あふれていた。
「お。行ってみよう」
のぼるは市場の露店を見てまわった。
パン、チーズ、野菜、魚、ペッパー、日用雑貨、おもちゃなどたくさんのものが売られている。

チーズは「トムとジェリー」でよく見た穴開きのものがあり、さすがネーデルランドだ、と思わせる。
腹が減っていたので、のぼるはパン売りの露店でチーズパンを買い、それをかじりながら歩いた。
日本にもよくあるような小さなチーズのちりばめられたパン。うまいね。

市場を抜けるとキューブハウスはすぐにあった。
何年のも前に流行ったルービックキューブをななめにしたような部屋、それがいくつも重なっている建物。
ほんとにヘンな建物だ。
マンションなのだが、日本じゃヘンすぎて誰も借りるヒトはいないだろう。
事実、実際に部屋を借りて住んでいるヒトは少ないようだった。
「こんなとこに住んだら、なんかバランス感覚を失いそうだな」
とかなんとか捨て台詞を残しつつのぼるは街を彷徨った。

近くの商店でオレンジジュースを買い、飲みながら駅へ向かった。
ちなみに普通の350mlの缶ジュースなのだが、日本円にして200円くらいもする。
なんか知らんがジュースが高い。でもビールも同じ値段で売られている。
なんか知らんが酒は安い。不思議な物価だ。
今度からジュースのかわりにビールを買うことにするか。

そうこうしていたらロッテルダム駅に着いた。
さて、ここからどこへ向かおうか・・・

当初の予定では、本日はミデルブルグへ行こうと思っていた。
ミデルブルグとは、北極海に面した街で近代テクノロジーのあみ出した最新の風車がいくつも
稼動しているところで、かつ中世ヨーロッパの面影を色濃く残した素敵な街だと聞いている。
特に近代の風車が何機も稼動している風景は、マクロスプラスというアニメを思い出し、
「ここは行かなきゃな」と思っていたところなのだ。

しかし、昨日のホテル予約で散々なメにあったこともあり、一刻も早く目的地に辿り着きたい
という思いに駆り立てられていた。
「ぬうう。こうなったら1日早いが・・・行くかマーストリヒトへ!」
プロジェクトNo.S23からG86へ移行!
のぼるは決心を固め、駅の窓口へ行った。
「Prease,one-way ticket to Maastricht!」
マースまでの片道切符を頼むぜセニョール、と駅員に話す。
「アハン? マーストリヒト? オア、マーストリヒト?」
何をわけのわからんことを言っているのか、この駅員は。
どうやらマーストリヒトと発音が非常に似ている地名があるらしく、のぼるの発音では
駅員が理解できなかったらしい。
「まーすとりひと!」「アハン?」「マァストゥリィフィトゥォ!!」「アハン!?」
半分キレかかりつつ、地図を見せてマースを指した。
「オウ! マーストリヒト、OK!」
やっと理解したようだ。駅員の発音だってのぼるのと大差ないじゃないか。
うぬう。現地の訛りは難しいのう。

ともかく電車に乗った。
各駅停車の鈍行列車なのだが、まあゆっくり行こうさ。
4人がけの席に一人で座り、ビールとチョコレートを出す。
さあ、出発だ!

2016/9/22 10:04  [1498-4880]   

ロッテルダムからマーストリヒトまでは2時間半くらいかかる。
車窓から流れる風景は、それはそれは素晴らしいものだった。
この国のシンボルである風車、チューリップを中心としたたくさんの花畑、しだいに田舎へ
行くにつれて味が出てくる素朴な家々。
「あー。こんな旅ができるなんて、幸せだ・・・」

 グイグイとハイネケンを飲む。
日本から果てしない距離を隔てたこのネーデルランドに来ている。のぼるはようやく
そういった実感が湧いてきた。

「なぜ、ネーデルランドなのか」という質問を今までいろんなヒトから聞かれた。
実は自分でもよくわかっていない。
海抜0メートルの超低地に多くの風車があったり、自由なる都市アムステルダムがあったり、
チューリップ畑があったり。考えてみたら、べつにわざわざ高い飛行機代を払ってまで来るべき
魅力的なところは別段ないと思う。

ネーデルの料理は他の国にくらべてうまいという噂も聞かないし、物価が安くて海外旅行に
いいというわけでもない。
これ、という決定的な見どころがないのだ。

しかし、のぼるはこれまでの旅の中で観光地へ行きたいと思ったことはほとんどなかった。
いつもヒトがあふれているところは避け、気の赴くままに素朴な風景を走ることが好きだった。
(バイク時代の話です)

それがたまたま雲ひとつない晴天だったときには、この上ない幸せを感じることが
できたりするのだが、今回の冒険はその延長線上にあると思う。
みんなが行こうと思わないところにこそ、自分の求める幸せがあったりするのだ。
とはいえ、インドのラクシャディープ諸島なんかに行きたいとはあまり思わない。
まあ、チャンスがあれば生きてるうちに行きたいとは思うが、絵に描いたような絶海の孤島に
行ってもするやることなくて困る、というのが本音だ。

いつからか「ネーデルランドへいきたい」と思いを寄せていたのは、「日本から遠い」
「日本にはない文化と風景」そして「誰も行かないけど行くとおもしろそうなところ」
としてなんとなく決めつけていたからなのだ。

そして、この国の中でもいちばん注目していた都市が、これから行くマーストリヒトだ。
3つの国境に挟まれた都市なんて、日本では想像できない。
きっと通貨や言語や風習がごちゃまぜになっていて、それが当たり前の都市なんだろう。

そんなことを想像したら、もう行かずにはいられない。
のぼるの頭の中では、もはやネーデルランド=マーストリヒトというとんでもない
偏見のカタマリのような図式が組み立てられていた。
それが、後に作られる小説の舞台ともなるのだ。
 
途中、アイントフォーフェンという駅でとなりのホームの特急インターシティを見たら
「マーストリヒト行き」と書いてある。
その特急のほうが早くマーストリヒトに着きそうだ。
のぼるは急いでそのインターシティに乗換えた。
 行き先に間違いはなかったが、2階建てでないタイプのインターシティだったので
ちょっとがっかり。

そんなこんなで13:00。憧れの都市、夢にまで見たスプライトの活躍した舞台、
マーストリヒト中央駅に電車は到着した。
「うおっしゃあ! 来たぜマース!!」
ホームに降りて大きく深呼吸。ここからが本当の旅だ!
東にドイツ、西にベルギー。2つの国に挟まれた都市マース。
ここに5日ほど滞在して市街、市外を冒険するのだ!

2016/9/22 10:11  [1498-4881]   

アップルパークホテルの部屋 なんでツイン

ACT.5 MARRY STREET


マーストリヒト中央駅を出た。
「おお、雨も上がっているじゃん。ラッキー!」
駅前の交差点でいきなり事故りそうになった。
あまりに舞い上がっていたので、横断する際に日本の道と同様に右側を見て渡ろうとしたのだ。
外国では車線が逆になるのをすっかり忘れていたわけやね。
「ヒヤー」
おめーは藤子A不二雄かっての。

さて、ひとまず今日の宿を確保しなければならない。
街の散策はそれからだ。
のぼるはこの街のvvvを探して歩いた。
 
駅前通りはホテルやカフェなどで賑わっていた。
それぞれの店が互いに出しゃばらず、小粋でおしゃれな雰囲気を通りに装飾していた。
花もたくさん飾ってあり、とても瑞々しい。

しばらく歩くと大きな川に出た。
幅だいたい100メートルちょいのマース川。
水はすこし濁っているが、雨上がりなので仕方ないだろう。
川にかかる石畳の橋をゆっくりと歩いた。

この橋は自動車が通れないので歩行者天国みたいなものだった。
セント・セルファース橋という橋で13世紀に建てられたもの。
オランダ最古の橋のひとつで、かなり歴史的価値のあるものらしい。
「素晴らしい・・・」
アニメ映画「AKIRA」のドクターのような感嘆をこぼしつつ、のぼるは歩いた。

ズタ袋ひとつだけで見知らぬ街を歩く。
こういう気取らないラフな旅のスタイルが好き。
マジで自分に酔える。
 
橋を過ぎ、つきあたりを右に進むとこの街のvvvがあった。
石造りの建物の地下0.5階(!?)にあり、ファンタジー世界でありがちな、戦士たちが集う
酒場のような雰囲気の店だった。

店内は冒険者でけっこう混雑している。みんな今日の宿を探してきたのだろうか。
店員は3人で、それぞれ客の対応で翻弄されていた。
のぼるも負けじと店の奥に進んだ。

ふと見ると、日本人のような感じのする少年が一人、ホテルの手配をしていた。
だいたい22〜3才くらいに見える。
ただし日本人に見えるだけで、実際のところ韓国人だったりする可能性は否定できない。
彼のホテルの手配が完了したようだ。とりあえず話しかけてみよう。
「すみません」
思いっきり日本語で話しかけた。
これでシカトされたら彼は日本人ではない。
「はい?」
彼は思いっきり(思わず?)日本語で返事した。間違いなく日本人だ!
こんなとこで日本人がいるなんて、マジかよ。

「オレはのぼる。この街に今日着いて、4〜5日滞在するつもりなんだ」
「そうなんスか。ぼくは来紋(仮名)です」
来紋くんか。カタカナで呼ぶことにしよう。
「ライモンくんもゴールデンウイークで旅行なのかい?」
彼は首を横に振った。
「いいえ、ぼくはこの国に留学してるんです。たまたま長い休みがあったのでちょっと
旅行に来たんです」
なんと、留学生か。「ちょっと旅行に」でマースに来るなんて、一生に一度言えるか
どうかだな、そんなセリフ。
「もし時間があるなら、あとでマース駅で待ち合わせして一緒に見てまわらないか?」
「それはいいですけど、ホテルって郊外のとこしか空いてないですよ」
ホントかよ。昨日に続いて今日までも!
「では16:00にマース駅で待ち合わせしましょう」
ライモンくんはそう言うと外へ出ていった。

のぼるはvvvの店員に聞いてみたが、確かにこの近辺のホテルは全て満室らしい。
まあ、郊外とはいえ予約できるだけ運がいいと思うことにした。
アップルパークホテルという宿を予約した。
ちなみに英語がまったくダメなのぼるが店員とやりとりして予約するまで、ゆうに30分は
かかっていた。
アムロがガンダム起動させるまで5分もかからなかったのに(関係ないよ)
人と人がわかりあえるのがニュータイプだというなら、のぼるはその素質がないということだ。

のぼるはvvvを出て駅へ向かって歩き出した。
ホテルは駅をはさんで反対側にあるので、来た道を戻るかたちになった。

マース駅の反対側に出ると、住宅地が広がっていた。
とにかく緑と花のあふれる家ばかりで、日本でいうところの閑静な高級住宅地ってな感じだ。
それを過ぎると大通り(国道)に出て、ホテルはその道を渡ってすぐにあった。

8階建てのかなりきれいなホテルだ。レストランがとなりにつながっている。
自動ドアを開け、フロントへ行く。
vvvで受け取った予約チケットを受付のおねーさんに渡すと、笑顔で部屋のカードキー
と翌朝の朝食のチケットを渡してくれた。
このアップルパークホテルは、1泊朝食付きで1万くらい。昨日のようなじめじめした
ホテルかなと思っていたが、これならいいじゃん!

のぼるはエレベータで5階へ上がり、自分の部屋へ行った。廊下もきれいきれい。
「おお!」
部屋に入ると、なんとまあ広いこと広いこと。
それもそのはず、ツインベッドルームだったのだ。
なんてこった。これしか空きがなかったのか。
ま、いっか。

テレビもでかいし電話もある。バスルームは素敵な洗面台付きで広々!
昨日のホテルと値段は一緒なのに、なんだこの差は。
オシャレなアーバンホテルといった感じだ。
おおっと、アダルトのチャンネルがありますよ、旦那。
うおー、無修正。
すげー、パトリシア・マクファーソン(ナイトライダーの美人メカニック役)そっくり!
こんな美人の無修正なんて日本じゃなかなか見られないよね(誰に言っているか)
・・・そんなことより出かけよう。

のぼるは貴重品だけを持って外に出た。

2016/9/23 09:21  [1498-4889]   

マース駅に戻った。
今は15:30。約束の時間までまだ時間がある。
のぼるは時間になるまで駅周辺を散策した。

駅前通りの路地裏をてくてく歩くと、ぎょっとするものを発見!
小さな中国系の輸入雑貨店に「月桂冠」という日本酒がウインドウに置かれている。
「うおお、こんなとこにポン酒が!」
なんか嬉しい。とはいえ、中国と日本をごちゃまぜにしないでほしいね。

そんなこんなで有意義に暇つぶしをしたところで駅前へ戻った。
ライモンくんが手を振っている。
「あ、のぼるさん、ぼくも今来たとこですよ」
「よっしゃ。行こうぜ!」
二人は話をしながら歩き出した。

話によると、ライモンくんはこの国のライデンという都市のコンピュータ専門学校に
留学しているとのこと。
この国で暮らしはじめて半年になり、ある程度の英語はできるようになったらしい。
なんともうらやましい。
「そういやライモンくんはどのホテルを予約したんだい?」
「ぼくは駅の反対側にあるアップルパークホテルっていうホテルです」
「マジかよ、オレと同じじゃん!」
「そうだったんですか。どうやらそのホテルしか空きがなかったんですね」
マース川を渡り、石畳の通りを進むと、いろんなカフェが並ぶところに出た。
外にテーブルと椅子をたくさん並べ、大きな樹の木陰でビールが飲めるという、
なんとも開放的なカフェだ。いいね、これがヨーロピアンの雰囲気だよね。

気付くと、のぼるの腹の虫がメタリカ並みの高速ドラムを奏でている。
無理もない。食事と呼べる食事はいまだかつてないのだ。
「なあライモンくん、メシたべよーぜ。すげぇはらへってるんだ」
落ち着いた雰囲気のライモンくんは笑顔でうなずいた。
「そうですね。どっかテキトーな店に入りましょう」
二人は食事のできる店を探した。
オープンカフェは軽食しかできないので、他の室内専門のレストランを探した。
ふたつの尖塔が高くそびえるロマネスク様式の聖堂、聖母教会のわきを通る。
この街はそれとなく神秘的な建物が多い。
「のぼるさん、あの店なんてどうですか?」
ライモンくんがわき道にあった小さなレストランを発見した。
下町の洋食屋さん、という感じの店だった。

「PLAKA」という店だ。
新潟駅の南口に同名のショッピングモールがあるが、こことは無関係だろう。
メニューが店頭に書いてある。どうやら肉料理がメインのお店らしい。
「いいじゃん。ここにしよう」
二人は店内に入った。

店内は客が誰もいない。レトロなインディアン風な曲が流れており、雰囲気は悪くない。
好きなテーブルに座ると、マッチョなウエイターが水を・・・水じゃない、酒を持ってきた。
ガラスのおちょこに入った、少しどろっとした感じの酒。なんなんだろうか。

とりあえずメニューを眺める。
「・・・わからん。読めん。ライモンくん、訳してくれ」
「えーと、ミートドリアとか、肉料理の盛り合せとか・・・ですね」
「肉料理の盛り合せ! それいこう。オレそれ!」
「じゃあぼくはミートドリアにします。飲み物はなんにします?」
「オレはビールだな」
「ぼくは酒はだめなのでコーラにします。じゃ、注文しますね」
「流暢な英会話の見本を見せてくれよな」
「いやー、ぼくの英語力なんてそんな大したもんじゃないんですけどね」
ライモンくんが「Excuse me」と言うと、奥からマッチョが出てきた。
見せてもらおうか、連邦のモビルスーツの性能とやらを。

2016/9/23 09:27  [1498-4890]   

地獄の門 右:聖ヤンス教会 左:聖セルファース教会 マースの市役所

「ぺらぺらぺらぺらぺら!」
ものすごい早口で話すライモンくん。
きみが何を言ってるのかわからないよ。
マッチョは彼の英語をちゃんと理解しているらしく、聞き直しもせずに伝票に記入している。
連邦のモビルスーツはバケモノか。
マッチョは注文を聞き終えると奥へ下がっていった。

「すげーな! オレだったら注文するだけで30分はかかるだろーな」
ライモンくんは照れた。
「そんなことないですよ。生活がかかってるから・・・」
のぼるははっとした。彼の言葉の裏に、留学は決して楽しいことばかりでない、という想いが
ちらっと見えたような気がした。

のぼるは水のかわりに出されていたおちょこの酒をちびりと飲んだ。
「かあっ!」
口の中がビリっっとする。ノドが焼ける。クチビルが弾ける。
どうやらこれは消毒作用の強い酒らしいな。あーびっくらこいた。
ビールとコーラが出てきた。
「では、異国の地で出会った奇蹟に」
「かんぱーい!」
グラスを弾かせ、二人はグイッと飲んだ。
うまい。キリリと冷えたほろにが系のビール、たまらんね。

ほどなく料理が出てきた。
大きな皿に山のように盛られた肉ばっかの料理。
2種類のハンバーグ、くしに刺した焼肉、そして肉野菜いため。まさに盛り合せだ。
対してライモンくんのドリアは卵焼きにひき肉を挟んだような、どちらかというと
女性好みの料理だった。
「うおお、うまそう! いただきまーす!」
「のぼるさん、ぼくにも少しわけて下さいよー。このドリアじゃ少ないですよ」
「いいとも。ガンガン食べようぜ!」
もう二人とも夢中。肉料理も最高でビールが進む進む!
大満足であった。
のぼるにとっては上陸2日目の夕食にしてはじめてまともな食事であった。
 
店を出た二人はこの付近を散策した。
多くのオープンカフェやホテルの並ぶ通りを進むと高くそびえる赤い塔が見えた。
聖ヤンス教会。プロテスタントの教会だ。
そのとなりにはネーデルランド最古の司教区教会堂の聖セルファース教会があった。
ふたつの教会の前は大きな広場があり、市民の憩いの場になっていた。

聖セルファース・・・たしかマース川を渡った橋も同じ名前がしていた。
なんだかイースに出てきそうなネーミングだね。
聖セルファースとは、マーストリヒト最初の大司祭の名前らしい。
異なる宗教の教会が並ぶなんて、日本じゃ考えられない。派閥争いの火種になること必至だよ。

「ライデンの街にもこういう教会ってのはあるのかい?」
「ありますよ。こんな感じの古風な教会です」
「へえ。どんな街なんだ、ライデンって」
「大学がたくさんある街なんです。日本でいう筑波学園都市みたいなとこです。ライデン大学
というとこには日本学科ていう学科もあるんで日本ともけっこうゆかりが深いとこですよ」
「じゃ、日本人もけっこういるのかな」
「そうでもないです。たまに見かけますが、日本人の友達はいないですね」
「そっか。だから言葉をはやくたくさん覚えたんだろう」
「それはありますね」

20:00。ようやく辺りが夕暮れになりはじめた。
二人はトボトボとホテルへ戻っていった。
「では、ぼくは明日ベルギーへ行きます。今日は楽しかったです」
「オレこそ通訳助かったよ。どうもありがとうな」
二人はフロントで別れた。
明日の朝食でまた会えると思ったが、ライモンくんは素泊まりのため朝食はないとのこと。
それから彼と会うことはなかった・・・
なんだか、どことなくクールな少年だったな。

のぼるは部屋に戻るとシャワーを浴び、ベッドに潜るとものすごい勢いで深い眠りについた。
すごく充実したが、歩き疲れたね・・・
さ、明日はどこへ行こうか・・・
 

2016/9/23 09:39  [1498-4891]   

マースのストリート マース川 左奥は聖セルファース教会 スプライトがウィリスに撃たれた現場

ACT.6 RAINY BREEZE


朝だ。
いま、何時だろう・・・
のぼるは寝ぼけながら電子手帳を開いた。
14:50・・・
「なにィーッ!?」
ガバッと飛び上がった。
うそだろ、チェックアウトの時間とっくに過ぎてるじゃねーか!
信じらんねー、そんなに疲れてたのかよオレってば!

大急ぎで荷物をまとめようとした時、ふと壁掛けの時計を見た。
7:50・・・
な、なんだ、14:50って日本時間じゃねーか。
びっくりした。おお、びっくりした。
味方のシュワルツェネガーとはち合わせたときのサラ・コナーみたいだった。

「ふう・・・」
タバコに火を付け、落ち着いたところでカーテンを開けた。
小鳥さんは元気かな?(赤毛のアン風に)
雨。
しとしととかったるく降っていた。
「・・・」
こればっかりは現実だった。
なんてこった。すっげーブルー。
どうしたものか、と「地球の歩き方」をパラパラ見る。
眼が点になった。
今日はvvvが定休日! これでは今日の宿が確保できないじゃないか!
なんてこった。すっげーダーク。
悪いことは重なるものだ。

とりあえず朝食を食べようではないか。まだ朝、今日という日ははじまったばかりだぜ。
のぼるはホテルと並び立つレストラン「アップルビー」へ行った。
ウエスタン風のレストランだ。

朝食はバイキング形式とあり、のぼるはここぞとばかりに皿に盛りまくった。
ぶっといソーセージ、大量のベーコン、いり卵、プルーンペーストのかかった
ライパン、アプリコットタルト、ミルクのタルト、チーズ、ハム、紅茶、コーヒー
トマトジュース2杯、ストロベリームース。
朝から食べる食べる。
外は雨、vvvは定休ときたらヤケ喰いしかないっしょ。
味付けは、ややあっさり風。
オランダの食文化は薄味が基本らしく、良くいえば素朴な味わいといったところだ。
でもチーズは濃厚でうまい。ジャムも美味だ。
窓の外は、相変わらず雨・・・
 
満腹になったところで部屋に戻った。
さて、どうする。vvvが定休なのは痛い。この天気じゃ自力でホテルを探す気力もない。
手っ取り早いのはこのホテルに連泊すればいいのだが、資金がもはや赤字なのだ。
旅行中は1泊3000円くらいの安宿(ゲストハウスなど)に泊まろうと思ってたのだが、
予測し得ない事態が続き、連チャンで1万円クラスのホテルに泊まっていたことはかなり痛い状況なのだ。

まあ、ホテルの支払いは全てカードなので現金は心配ないのだが、日本に帰ったあとが
地獄になりそうで・・・
「・・・決めた!」
のぼるは立ち上がってフロントへ進んだ。
「I'd like to keep my room,if that's possi
bble!」
「OK!」
連泊が決定した。
同時に、さらに深く落胆した。
金で全てを解決してしまった。自分が日本人のいちばんバカな見本になってしまったかのような
錯角に襲われた。

のぼるはこんなことでよく悩む。
今までのツーリング中のトラブルもよく金で解決した部分があった。
その全てを後悔しているわけじゃないが、中には知恵をしぼれば自力で解決できる方法は
いくらでもある、と後で気付くことがかなりあった。自分が我慢すればどうにかなる、
という状況もたくさんあった。

今回も、そのひとつだったのではないか。
そう思えてならない。
これが、弱さだと思う。こんな自分が大嫌いだ。

11:00くらいに雨が上がった。太陽は出てないが・・・
ホテルでごろごろしているのはもったいない。出かけよう!
明日はきっと青空で、いい宿も見つかるさ!(このへんがO型)

駅前通りに来た。
ふむ、どこへ行こう。
のぼるは歩きながらじっくりと行き先を考えた。
この街の文化を知るのにうってつけの、博物館が近くにあるらしい。
「うし! まずはそこへ行こう!」
のぼるはマース川に並んで走る道路をてくてく歩いた。
ひたすらまっすぐの道路。商店街もなく、これから開発が予想される地区だった。

20分ほど歩くと、ディズニー映画に出てきそうな太ったロケットのような銀色のドームのある
大きな建物が見えた。
そこがボンネファンテン博物館だ。
ここで、この街の文化と歴史を勉強しよう!

のぼるは館内に入った。
マーストリヒト周辺(リンブルグ州)で発掘された考古学的遺物、歴史を知るカギになる発掘品が
たくさん展示されている。
化石から中世時代の戦争グッズなど、時代の片鱗が少しだけ見えたような気がする。
まあ、全て英語で解説されているのでまったくもって読めないのだ。
雰囲気だけの世界だね。

この町は古代ローマ時代から、マース川を中心に栄えてきた。
「マーストリヒト」とは「マース川のほとり」という意味らしい。
ローマ軍の駐屯地になっていたので、それゆえに史跡が多いのだろう。
ちなみに、有名な物語「三銃士」の主人公ダルタニアンの最期となった地でもある。
ダルタニアンは実在の人物だったのか。へえー。

大昔、マール石という建築材料がこのへんで採石できたことで街は発展してきた。
その廃坑は郊外に現存し、観光名所にもなっているらしい。全長200?にも及ぶ巨大な
洞くつなんだって。
なんかしらんがナポレオンのイタズラ書きもそこに残っているらしい。
マースは、近隣諸国で戦争が起こるたびに占領され続けた街だったようだ。
この地理的特性から何度も他国に占領されたり、隣国への行き来の際に宿場町になっていたり
したためいろんな国の文化が融合した、いろんな意味で多国籍都市になっている。

この博物館には絵画を展示してある部屋もあるが、のぼるの期待したこの都市の風景画はなかった。
ほとんどがイタリア絵画や現代アートなどマースの歴史に関係ない絵ばかりだった。
それはそれで面白かったが。

2016/9/24 16:34  [1498-4896]   

ケネディ橋の下のスケボー広場 賑やかなストリート 観光船の船着場

ボンネファンテン博物館を出た。
すぐ近くにマース川を渡る橋「J.F.ケネディ橋」が見えた。
なんつーネーミングだ。

橋を渡ると、その橋の下に造られたアスファルトの広場で数十人の少年たちがスケボーをして
遊んでいたのが見えた。
上手いもんだ。
のぼるも、もっと子供の頃にスケボーと出会えれば今頃どこかのストリートボーダーとして
人気者になっていたんだろうに。

などと徒然ない想いをしつつ、緑あふれる市立公園を歩いた。
小さな噴水があり、歩道にはたくさんのベンチがある。
この近くにあるリンバーグ大学の学生らしき若者が噴水と城壁跡のスケッチをしている。

たしか、この公園にある城壁のどこかで、ダルタニアンは処刑された、と聞いたな。
のぼるはベンチに腰掛け、タバコに火をつけた。
「あ、タバコがもうないや。どっかで買おう」
タバコを吸い終えると、のぼるは昨日ライモンくんと行ったレストランの地区へと歩いた。
小さな売店でタバコが売られている。
「LuckyStrike prease」
本来ならラッキーストライクはきつくて吸いたくないのだが、それかマルボロ以外に
知っているタバコがないから、仕方なかったのだ。

そういえば気付いたが、自動販売機はあまり見かけない。
タバコの自動販売機にかぎってはぜんぜん見かけない。
全て売店での販売だった。なんだろう、治安の問題でもあるのかな。

マリファナが合法だったりすごい自由のイメージが強い国なのに。コンビニもないし。
まあ、こんな中世ヨーロッパの面影を残すこの街でセイコマとかあったら
雰囲気ぶち壊しだな。

さて、どうしようかな。まだ夕方前、遊べる時間は残っている。
ふとマース川のほとりに立つと、観光船が南に向かって上っている。
ほほう、この近くに船着場があるのかな。
のぼるは観光船の来た方向へ向かった。
案の定船着場はすぐに見つかった。
「こりゃ、乗らなきゃウソだろ」
なにがウソなのかよくわからないが、のぼるは速攻でチケットカウンターで次の便のチケットをゲットした。

次の便まではまだ1時間くらい間があるので、のぼるは船着場と併設されたカフェで時間を
つぶすことにした。
「One beer prease」
マース川に突き出たベランダのようなオープンカフェ。川のそばのテーブルに座ると、
可愛らしいウエイトレスがビールを持ってきてくれた。
「サンキュー」
「You're welcome?」
「・・・Pardon?」
「You're welcome!」
まぬけな会話である。
彼女もまさか単純なお礼を聞き直されるとは思わなかっただろう。

少しするとのぼるの近くのテーブルに1匹のハスキー犬を連れた老夫婦が座った。
老夫婦はのぼると目が合うと軽く会釈をした。
「Hallo」
のぼるはチョビ(ハスキー犬)の前に立った。
「おー、かわいいなー。いいか、おすわり!」
チョビはすでに座っている。
「よーしよしよしよし・・・お手!」
のぼるはチョビに握手した。
チョビはなにがなんだかわからない顔をしている。

老夫婦はのぼるとチョビのやりとりを笑顔で見ていた。
「He is a clever dog」
老夫婦にチョビのことを誉めたら、二人は声を出して笑った。
「HAHAHA! Thank you boy!」
たしかに利口な犬だ。
ウエイトレスが運んできたポテトには興味を示さず、そのポテトを
老夫婦の手でチョビに向けてはじめてチョビは食べるのだ。
完全に主人に忠誠を誓っているかんじだ。

2016/9/25 18:00  [1498-4898]   

川岸の豪邸 豪華できれいなマンション 聖セルファース橋

そうこうしているうちに時間は過ぎ、クルーズ船の出航の時間になった。
観光船は隣の船着場に到着し、前の客がぞくぞくと降りていた。

のぼるは老夫婦にお別れをして船着場に向かった。
間近で見るとけっこう大きな船だ。
小さなフェリーてな感じだ。
乗船前に受付のおやじに記念撮影だとかいって写真を撮られた。
何に使うというのだ。

乗客はだいたい30人くらい。のぼるも船内に乗り込み、二人がけのテーブルに一人で座った。
英語のアナウンスが流れると、大きな汽笛を鳴らして船はエンジンの回転を上げた。
おお〜、いい感じいい感じ!
聖セルファース橋の下をゆっくりとくぐった。

ここで船内のウエイターが飲み物をオーダしに来た。
さっきビール飲んだから別にいいや、と言おうとしたが、他の客はみんな何らかの飲み物を
頼んでいる。
バカな! こーゆーとこの飲み物は決まって高いんだよ。サービス料が入るから。なのに
なんでそれでも飲みたがるのか! オレだけ頼まないとなんか仲間外れにされそうじゃねーか。
みんな踊らされている! いや・・・この場合踊らされているのはオレの方か・・・!?

仕方ない、一番安いコーヒーを頼もう。あ、アイスコーヒーにしよう。
「レイコー、プリーズ」
「What!?」
はああーっ! しまった! レイコーって日本語じゃねーか!(冷コーヒーの略。主に関西で使用)
「コホン・・・カフィ、プリーズ」
「OK,boy」
やかましい! ミスターと言え! 子供扱いすんな!
しかも運ばれてきたのはホットコーヒー。
しまったぁ、アイスだと言い忘れていた! うあー! なにやってるんだオレは!
「・・・」
冷静になろう。いいか、人間冷静さを失うと醜さだけが残るんだ。(誰に言っているか)

外の景色に集中しよう。
進行方向左手にボンネファンテン博物館が見える。さっき行ってきたとこだ。
進行方向正面にJ.Fケネディ橋が見える。さっき渡ったとこだ。
それをしばらく過ぎると左手にオートキャンプ場が見えた。
ひろびろとしたフィールドで、それぞれ自動車のそばにテントを張っており、これから
夕食でも作りはじめるか、といった雰囲気がひしひしと伝わってくる。
うおー。血が騒ぐ。
海外でキャンプツーリングとか一度やってみたいぜ。

それにしても船ってやっぱ好きやねん。岸辺から見た風景と趣が全然変わるよ。
岸にいると意外と気付かない部分とかあったりするからな。
もうしばらくすると、折り返し地点に接岸した。

このあたりになると街からだいぶ離れ、自然あふれる田舎風景が広がっていた。
ここは、博物館の中で説明した巨大な洞窟「聖ペーターズベルグの洞窟」の入口の近くだ。
洞窟への観光はこの船を使えば便利、というわけだ。
いまの時間では洞窟も閉館ちかくになっているので下船する客は誰もおらず、洞窟から
帰ってきた客が乗船してきただけだった。
船は岸を離れ、川を下っていった。
 
船がもとの船着場に到着すると、それぞれ下船をはじめた。
「う・・・!」
乗船前に撮られた写真が、船着場のボードに張られている。
しかも1枚200円くらいの金を取るというのだ。
もちろん買わなくても構わないのだが、これが買わずにはいられない。
見事な商魂。完敗だ。

さて、帰ろうか。今日のお遊びも消化しただろう。また明日にしようぜ。
のぼるはホテルへと歩を向けた。
そこで待ち受ける、今日最大にして最悪の出来事も知らずに・・・

2016/9/25 19:02  [1498-4899]   


30分くらいかけてホテルに戻った。
あー、歩き疲れた。はやくシャワーでも浴びたいぜ。
のぼるはフロントで新しいカードキーを受け取り、部屋へ行った。
部屋のドアのカード差し込み口にカードを入れる。そうすればドアは開く。
・・・はずなのに開かない。

部屋を間違えたかな、とカードキーと見比べても間違いはない。
いったいどうなってるんだ!
のぼるはフロントへ戻ってジェスチャーを交えつつ必死に事情を説明した。
「だすけ、マイルームイズ、ノットオープン! オーマイガー!」
オーマイガーじゃないっすよダンナ。
フロントの女性は一応のぼるの言った意味を理解したらしく、パソコンを操作した。
「I'm sorry,Now you are safe.Prease open t
he room door」
といって再びのぼるにカードキーを手渡した。
これで大丈夫らしい。

のぼるは部屋に行って再びカードを差し込むと、今度はちゃんと開いた。
ああよかった。チキショー、コンピュータ管理してるなら、そのコンピュータをきちんと
制御しやがれってんだ! まったく!

とりあえずシャワーを浴びて、一息ついた。
だが・・・最悪の出来事というのは、このカードキー事件ではない。
こんなもんじゃ、ない。
「さてと、夕食にくり出そうか」
のぼるは一階へ降りた。

夕食はこのホテルのレストラン、アップルビーで食べようと今朝から決めていたのだ。
雰囲気がいいし、何より近いから。
レストランはとても賑わっていた。
ホテルの宿泊客だけでなく、地元住民と思える若者たちもたくさんいる。
ロックのBGMが流れ、半分バーと化している。

のぼるはカウンターに座ってメニューを眺めた。
メニューは写真付きだったのでそんなに難しくはなかった。
「May I help you?」
小粋なウエイトレスがのぼるに話しかけた。
とりあえずテキトーなワインとボリュームのありそうなパスタを頼むと、彼女は笑顔で「OK」
とカウンターの奥からワインを出し、グラスに注いでもってきてくれた。
「Thank You」
銘柄もなにもわからずに頼んだ赤ワインだが、ちょいにが系の実にうまいワインだ。

のぼるがニコニコしながらグラスを傾けていると、今のウエイトレスがニコニコしながら
のぼるを見ていた。なんだ、気があるのか?
「フ・・・お嬢さん、オレに惚れるなよ。ヤケドするぜ」
「?」
当然ながら言葉が通じない。どうせ通じないならマル禁サイレン鳴りっぱなしの放送禁止
マシンガントークをかましたろかと思ったが、いずれにせよ変態扱いされそうだからやめた。

カウンターの内側ではウエイターが注文の酒を次々と作っていた。忙しさの中にも楽しさが
あふれている。
BGMに合わせて踊りながらリズミカルにスクリュードライバーを作っていく。
トム・クルーズの昔の映画「カクテル」を思い出すねえ。

そうしていると、のぼるの注文したパスタがきた。
トマトピューレのたっぷりかかったきしめんパスタ、ポモドーロ。
そのわきにチキンライスが大盛り。
こりゃボリューム満点だ!
一口食べる。
う、む。けっこううまいが少々塩気が少ないな。
やはりオランダは全般的に薄味なのだ。

のぼるはパスタとチキンライスにペッパーを振った。
「む」
ペッパーが全然出ない。
ふつうのガラスビンに入った粗引きのブラック・ペッパーだが、よく見るとビンの穴より
ペッパーの粒が大きい。
そりゃ出るわけないでしょや。

「仕方ないな」
のぼるはビンのフタを取ってかけようとしました。
「あ」
勢いあまってビンの中のペッパーを全てぶっかけてしまいました。
「な・・・・・!」
のぼるは孤独に完全パニック状態となった。
大盛チキンライスの上に大盛ブラックペッパー!
いやそれかなりヤバいだろ!

ぶっかかったペッパーをスプーンで懸命に除去したが、かなりの粒がパスタにへばりついている。
やばい、これ以上はこそぎ取れない。
どうする、我慢して食べるか。
とりあえずパスタを一口食べてみた。激辛だ。
カレーは辛口派だが、これはそういう辛さではない。
まったくの別問題だ。しょっぱ辛いのだ。
焦りで冷や汗、辛さで脂汗がしたたる。
「ぼくは・・・とりかえしのつかないことをしてしまった・・・ララアーっ!」

仮にここでウエイトレスが決定的瞬間を目撃していたなら、笑い者にされつつも新しいものを
作ってもってきてくれたりしてくれそうなもの。
しかし幸運か不運か、ウエイトレスは他の客に気をとられていたので、この大惨事を知ってはいない状況だ。

見られていたならともかく、自らウエイトレスにこの間抜けな有り様を報告するのは人としての
プライドが許さない。
ここはぐっと我慢して、完食するのだ。
これは要望ではない。命令だ!

かくして激辛のパスタ&チキンライス完食バトルの火ぶたは切っておとされた。
一口食べるごとに口の中に激痛が走る。
水を飲むと逆効果だとわかっていても飲まずにはいられない。
生き地獄とはこのことか。
 
部屋に戻ったのぼるはすっかり生気を失い、ベッドに倒れ込んだ。
あしたのジョー状態であった。

2016/9/25 19:09  [1498-4900]   

ねこフィットV(さん) さん  

2016/9/26 21:39  [1498-4901]  削除

ねこフィットV(さん) さん  

2016/9/26 21:41  [1498-4902]  削除

ホテルの部屋からの風景 平和な街並み

ACT.7 CROSS 3rd COUNTRY


朝が来た。
7:00に目が覚めた。胃がキリキリするためいつもより早く目が覚めてしまった。
内臓は昨晩のペッパーとまだ格闘しているのだろうか。まいったね。
それはそれとしてとりあえずカーテンを開ける。
「うお!」
雲ひとつない快晴!
これ以上ないくらいの天気だ。
窓からの景色が、昨日と比較にならないくらい最高だ。
昨日は雨のため見えなかった遠くの教会の十字架がはるか彼方に見える。
その向こうにはドイツに続くと思われる山々が連なっている。

これは、絶好の冒険日よりだろう!
のぼるは1階のアップルビーへ行って朝食にした。
ベーコン、いり卵、ハイジに出てくるようなコッペパン、カップケーキ、チーズ、ハム、
ミルクにコーヒー。
またもごっそりと食べる。
冒険の前の腹ごしらえだ。

エネルギー充填120%となったところで、波動砲でも軽く撃ちたい気分のまま部屋に戻った。
そして荷物をまとめ、9:00にチェックアウトした。
さらば、アップルパークホテル! 生きてる間にもう一度来れるかな。
「よっしゃあ、行くぜ!」
のぼるは気合いを入れて歩き始めた。
天気がいいと、街の風景までもアクティブに見える。
家が、草木が、道路を走る自動車までも全てが新鮮だ。
昨日の朝あれほどブルーだったのがうそみたい。
心から思った。晴れてよかった、と。
やっぱこうでなくっちゃね!

よーし、今日はバスに乗って国境へ行こう!
 
まずはvvvへ行った。
今日の宿を速攻で確保しておけば、行動が楽になる。
朝一番に行けば安くていいゲストハウスが楽勝でゲットできるはずだ。
vvvの受付のデリミタ(仮名)に話すと案の定、1泊朝食付き3500円の格安ゲストハウスを
紹介してくれた。
ゲストハウスとは、一般の家庭の一室を旅行者のために貸す、というものだ。
よし、安いから2泊しよう。
デリミタはさっそくそのゲストハウスにアポイントを取ってくれた。
予約したゲストハウスはここからすぐ近くにあるらしく、地図をおしえてもらい、

のぼるは早速外に出た。
この角を曲がり、突き当たりを曲がれば、ゲストハウスはある、はず。
なかった。
というより、わからなかった。
一般家庭の一室を貸すシステムならば、看板などの目印がないのは当然だ。
のぼるは付近の家々をしらみつぶしにあたったが、やはり見つからない。

デリミタが言うには、オーナーのクリーマおばさんが家の外に出て待ってくれているらしいのだが
それらしきヒトはどこにもいない。
仕方がない。vvvに戻ることにしよう。
のぼるはデリミタに助けを求めた。
「オレは現場へ行ったが、彼女(クリーマおばさんらしきヒト)はいなかったんだ」
と一生懸命英語で説明した。

デリミタは「仕方ないわね〜」という顔で再度ゲストハウスに電話してくれた。
「そこの椅子に座って大人しくしてなさい。クリーマ婦人があなたを迎えにきてくれるから」
デリミタはそうのぼるに説明した。
なんとも子供っぽい扱いをされ、非常に居心地が悪い。(自分のせいだろーに)

2016/9/26 21:38  [1498-4903]   

ミセス・クリーマ 部屋の中で撮ってもらった

10分ほどすると、少し太った感じのおばさんが店内に入ってきた。
彼女がクリーマ婦人らしい。
彼女もまた「しょーがないわねー」という顔をしていた。
のぼるはデリミタにお礼を言って店を出た。

おばさんと並んで歩く。
「あんた、出身は?」
彼女は英語で質問した。のぼるも必死に応対した。
「日本です」
「ふーん。スシトーキョーだね」
「・・・ははは・・・?」
「学生かい?」
「25才です」
「学生かい!?」
「違います」
「じゃ、サラリーマンだね」
「・・・そうです」
「なぜこの街に来たんだい」
「もう一度」
「なぜこの街に来たんだい」
「この街が好きだからです」
「それじゃ答えになってないよ」
「もう一度」
「それじゃ答えになってないよ」
日本語に訳すと非常に間抜けな会話である。

クリーマ婦人は一つの会話が成り立つたびに深いためいきをもらしていた。
彼女の心中はきっとこうに違いない。
やっかいな客を招いてしまった、と。
彼女の家はのぼるが行った通りのひとつ次の通りにあった。
どうやらのぼるが勘違いしていたらしい。
つくづくおっちょこちょいだ。

4階建てのレンガのマンションで最上階まで上がり、吹き抜けの中庭を通ると彼女の家に着いた。
なんだか不思議な感覚のマンションだ。4階が玄関で3階が居間でになっている。
「これが玄関のカギだ。あんたに渡すから。こうやって開けるんだよ」
「わかりました」

のぼるは玄関から入ってすぐの部屋に案内された。
「ここがあんたの部屋だよ」
「いい部屋ですね」
6帖ほどの部屋にテーブルとベッドと食器棚、そして洗面台。とりあえず2日くらいは快適に
過ごせる環境だ。
「朝食は何時がいいかい?」
「8時がいいです」
「わかった。じゃ、8時前にテーブルの前に皿とナイフとフォークを並べておくんだよ。
飲み物はコーヒーと紅茶、どっちがいい?」
「コーヒーで」
「わかったよ。トイレは部屋を出てすぐにあるから、電気は必ず消すんだよ」
「おっけー。そうそう、あさっての朝、カギはいつ返せばいいのでしょうか」
「あぁ? カギはこうやって使えばドアが開くでしょ。わかった?」
「わかったわかった。で、カギはいつ返せばいいのでしょうか」
「カギはこうやって使うって言っているでしょーが。わかってんの、あハん?」
かなり血圧が上昇しているらしい。
顔を真っ赤にして説明している。
「・・・このカギ。いつ。あなたに返す?」
「ああ、そういうことかい。午前中ならいつでもいいよ」
「ではあさっての朝食のあと・・・9時にお返しします」
「わかったよ。それにしてもあんたの英語、まるでなってないよ。話にならないよ」
「ごめん。英語、でぃふぃかるとぉぉぉ」
「ま、あたしもあんまりわかんないけどさ」

この国の公用語はネーデルランド語。
英語はある程度わかる、という人がほとんどだ。
「これからどこへ行くの?」
「バスで国境へ行こうと思ってます」
「ははあ。いいねえ。気を付けて行って来るんだよ」
「ありがとう、ミス・クリーマ」
「おだてるんじゃないよ!」
 婦人は笑いながら部屋を出ていった。
とりあえず英語がわからないなりに精一杯の会話だった。
婦人のごきげんもとれたし、まずはよかったよかった。

ラジオがある。音楽くらいはいつでも聴けるな。
それにしても質素な部屋だ。なんだかこの街の一般家庭を垣間見たようで、幸せだ。
この部屋でマースの残り2日間を過ごすことになった。
ようやくのぼるの希望通りの宿に泊まることができ、大満足だ。
婦人も話せばいいヒトそうだしね。
・・・そんなこんなで午前中がつぶれてしまった。
宿を確保するのに何時間費やしたんだ。

「さて、行くか、国境へ!!」
のぼるは軽装備で外へ出た。
おっと、カギはちゃんとかけて行こう。

2016/9/26 21:41  [1498-4904]   

ドリーランデンプントへ向かう途中 塔(展望台)から見た、アーヘンの街 行ってみたいねえ

のぼるはマース駅前のバス乗り場へいった。
目指す国境のある地は、ドリーランデンプントというところ。
バスでファールスという地域まで行き、そこから徒歩で行く予定。
ファールス行きのバス時刻を確認し、駅のカウンターでバスのチケット(回数券)を購入した。
バスの乗り方が日本のシステムと違うのでちょっぴりドキドキ。

バスが来た。前乗り前払いだ。運転手のおやじにチケットを渡し、行き先である「ファールス」
と言うと、そこまでの券をやぶいてくれた。
のぼるは後方の座席に座った。あとはほっとけば終点のファールスまで連れていってくれるはずだ。
同乗者は5人くらい、とてもゆったりしている。

間もなくバスが発車した。
そういえば、保育所に行っていたガキの頃、将来の夢に「バスの運転手」と書いたことがある。
理由は若い保母さん(山口さん。実名)を送迎したかったから。ガキの頃からマセてたねー。
それはともかく(何を狼狽しているか)景色は最高だね。
マースの街を離れると民家はいきなり激減し、畑や草原の続く丘陵地帯になっていく。
このへんの民家は田舎の好きなお金持ち、というイメージがある。
家は当然、庭も車庫も大きくてきれいなところが多い。
いーなー!
こんなところに暮らせたら、どんなに幸せだろうか。

対向車にトヨタのイプサムを見た。しかし「ピクニック」という車名になっていた。
のぼるの愛車テリオスも見た。自分の車が海外で見れるととても嬉しいね。
自分がインターナショナルな感覚になれる。

自分がまだ行ったことのない土地へバスに揺られて連れていかれる、ドキドキの好奇心と少しの心細さ。
最近忘れてかけていた感覚だ。
これが、旅における「心」の醍醐味だね。
心が洗われるというか、本当の意味でリフレッシュさせられる。

専門学校のころから毎年のように一人旅をしてきたが、このような「言葉も知らなければ
知り合いも誰一人いない土地」でふらふら旅ができ、かつそんな精神的余裕ができるように
なったのは、知らずのうちにけっこう成長してたんだな、と我ながら思う。
単に開き直っているだけなんだけどさ。

45分ほどで終点のファールスに到着した。
ネーデルランド、ベルギー、ドイツの三国の交通の要所として栄えた、小さいながらにぎやかな街だ。
ドイツのアーヘンへと続くメインストリートに沿ってカフェやホテルが並んでいる。

メインストリートの両側を眺める。南はベルギーへ続く山のような上りの丘陵、北はドイツへ続く
谷のような下りの丘陵。
風車もあるしまるで実物大の風の谷だ。
ガンシップでも飛んでいたら本物だね。

この街にもvvvがあったが、目的地であるドリーランデンプントは地図で見てわかったから
立ち寄ることはしなかった。
寄ったところでコミュニケーションに費やす時間は計りきれないしね。
「よし、行くぞ!」
のぼるは南の上り坂に向かって歩き始めた。
立て看板に「Drielandenpunt」と書かれた矢印に沿って歩けばいいだけだ。

ドリーランデンプントとは「三カ国の点」という意味で、その名の通り三国の国境の交わるところだ。
目に見える国境って、日本にないからね。一度は見たいさ。
のぼるはひたすら歩く。
上り坂に沿って民家が立ち並ぶ。
だんだんと家が少なくなって森が広がってくる。
汗がだくだく出てきた。
でも気持ちいいね、ハイキング気分だ。

30分ほど登ると20〜30メートルほどの高さの巨大な木の塔が見えた。
展望台だ。登ってみよう。
塔の下には小さな売店があった。塔に登るにはこの店の主人に2ギルダー(150円くらい)を
払わなくてはならないらしい。しょーがねーなー。
のぼるは1ギルダーのコインを2枚、駄菓子屋のような店のおばちゃんに渡し、塔に登った。

のぼるは勝手にこの塔を「風の塔」と名付けた。登りながら、のぼるはドラクエ2の塔のBGMを
口ずさんでいた。臨場感抜群だ。ここでマンドリルとか出てきたら戦っちゃうよ。
オレそーゆーヒトだから。(ここでBGMはボスのテーマに変更する)

最上階に到着。誰とも戦ってはいないが、体力は疲れてひん死に近い。
だが、いい景色だ。
ドイツのアーヘンらしき都市がはるか彼方に広がっている。すげえ。
「ソロモンよ、わたしは帰ってきたー!」などと絶叫したくなるね。(意味不明)

地上へ戻った。ゲームならば最上階から飛び下りればすぐに外に出れるが、現実にそれをしたら
人生のゲームオーバーになってしまう。
しかもコンティニューきかないよ。
そういうことを考えるとゲームは少し恐ろしくなる。
面白くするために制作者の御都合主義でつくる世界なわけだからね。
つまり面白ければ面白いほど現実との隔たりがある。そのギャップを正確に認識できないヒト、
世の中に意外と多いのでは、と思う。認識できないのか、したくないのかは別問題として・・・

すっかり別の話になってしまったが、のぼるはさらに林の小道を進んだ。
いちおう、ドリーランデンプントは観光地らしく、小さなカフェとホテルが2件ほどささやかに
あった。送迎バスなんかもあって日本でいえば料亭とか旅館みたいなかんじだ。

上り坂はこのへんまでだ。ここからはなだらかな平地が続く。
林のわきに自然の花畑があり、とてもいい感じ。
ハイジがバク宙でもしそうなきれいな花畑だ。

2016/9/26 21:53  [1498-4905]   

ここが3国の国境 オランダ最高峰の碑 ここらへんでスプライトとランダムは出会った スプライトが昼寝をした理由がよくわかる

間もなく大きな駐車場が見えた。
どうやら目的地ドリーランデンプントに到着したようだ。

自然公園といった感じで、芝生が生えている広場にいろんなモニュメントがある。
そのモニュメントのひとつに「ネーデルランド最高峰」の碑があった。
ここは三国の中点であると同時にネーデルランドのいちばん高い地点でもあった。
ここに来てはじめて知ったよ。
とはいえ、海抜322.5メートルしかないんだけど。
マースから乗ったバスを含めずいぶん高いとこまで来たかな、と思っていたが、
こうしてみると大した高度じゃない。いかにこの国全体が低い位置にあるか、ということが
よくわかった。

そのもう少し奥に、あこがれの国境はあった。
50センチメートルほどの高さの円柱に「ネーデルランド」「ベルギー」「ドイツ」のそれぞれの
国境が分断されている。
ここが三国の中点、ドリーランデンプントだ!
円柱のまわりにはそれぞれの国旗が掲げられていた。

国境が分断されてるとはいっても、有刺鉄線とかベルリンのような壁などは一切ないし、
パスポートチェックもない。それぞれの国がお互いに信頼しあっている証拠ではないだろうか。
テレビのニュースで、インドとパキスタンの国境が緊張とかいう報道がよくあるが、ここでは
そんな緊張は一切ない。
まったく、同じ人間同士を認め合えない宗教のどこに意味があるのだろう。
「・・・」
知恵熱が出てきたところで休憩しよう。

のぼるは露店でフライドポテトとビールを買ってテーブルに座った。
フライドポテトは注文してから揚げるので、少し時間がかかったがとても美味しい。
マヨネーズのディップはクセになるね、ほんとに。
本当にいい天気。来てよかった。
 
しばらく休み、16:00に出発した。
ファールスまでのバス停までの帰り道、今度は違う道を歩いてみた。
民家を少し外れた畑の続く緩い下り坂。とても絵になるね。
花畑とかあって、そのど真ん中で大の字になって昼寝をしたくなる。
畑のど真ん中に一本生えた、ささやかに茂った樹がいいアクセントになっている。
数十年後には大きな菩提樹になるかな。そしたらもっとカッコいいなー。
いろんな想像をしながらのぼるはバス停に向かった。

バス停にはタイミング良くマーストリヒト行きのバスが停まっていた。
のぼるが乗り込むと、間もなく発車した。
1時間に1本あるかないかのバスだったので運がよかった。
いやー、歩き疲れた。
のぼるは窓を開けて風を浴びた。
 
いつのまにか眠ってしまったようで、気付いたらマース駅に到着した。
風があまりに気持ちよくて、すごい熟睡状態だったらしい。
のぼるはバスを降りてマース川に向かった。
「ん〜、充実した一日だった。夕食は何を食べようかな」
適当なレストランを探して、聖セルファース教会と聖ヤンス教会の前のフライトホフ広場についた。

「ん?」
なんだか様子が昨日と違う。
広場の片隅に露店が4〜5件ほど出ているのだ。
もう夕方なので店仕舞いの露天もあったが、1件だけはまだ営業している。
なんだか珍しいベトナムの春巻の店だった。
「へえ。なんかうまそうじゃん。よし、夕食は春巻で決まりだ」

のぼるは店のベトナム人のおやじに野菜春巻を2本、その場で揚げてもらった。
ついでにジュース(スプライト)も買って、店を離れようとしたら、
「Are you Japanese?」とベトナム人のおやじに聞かれた。
すこし躊躇したが「Yes」と素直に答えると、
「ハハン! You are my friend!」と言ったあとに「どもありがと」と日本語で話した。
「どういたしまして!」
と日本語で返したら、笑顔で手を振ってくれた。

外国人が日本語をしゃべると、想像以上にびっくりする。
特に海外で日本語に出会うととても新鮮だ。
のぼる自身、最初から相手は日本語など話すわけないと思わなければやってられないので
ちょっとした日本語でも非常に嬉しいものだ。
今朝クリーマ婦人が「スシトーキョー」と言ったのも、実はちょっと嬉しかったのだ。
ただ、いやな話になるが、スリなどはそういう心のスキを狙ってくるので財布の管理だけは
メチャクチャ厳重にしていなければならない。

さて、のぼるは広場の片隅にあった誰かの銅像の下に腰掛けて春巻を食べた。
パリパリの皮の中に塩味の野菜いためがぎっしり入っている。
チリソースにつけて食べるとあつあつでうまい。
2本で腹いっぱいだ。満足満足!

フライトホフ広場の周辺をそれとなく歩いてみると、偶然だが日本のアンティークショップを
見つけた。
ショーウインドウに浴衣が飾られており「ZAZEN-KIMONO」と書かれてある。
なんでやねん! とつっこみをいれたくなったが、まあ海外から見た日本文化なんてえてして
へんてこりんなもんだろう。
のぼる自身隅から隅まで理解しているわけじゃないし・・・

19:00。各教会の鐘の音をバックにゲストハウスに戻った。
マースは、これから夕暮れに向かう・・・

2016/9/26 22:07  [1498-4906]   

ゲストハウスの部屋からの風景 子供たちが玉蹴りをして遊んでいた



ACT.7.5 MIDNIGHT WALK


日本ではもう暗くなっている時間なのに、ここではまだ夕暮れくらい。
子供たちも外でキャッキャ言いながら玉蹴りをして遊んでいる。
平和なもんだ。

ていうか、この旅では延々と歩いてばかりいたので、とにかく疲れた。
すこしベッドで横になるとしよう。

・・・・・

真夜中に起きた。
時計は1:30だって。よくもまあ、こんな深夜に目が覚めたものだ。
原因はふたつある。
一つめは、早く寝すぎたこと。20:00に部屋の明かりを消し、速攻で熟睡したのだ。
だから今くらいの時間に目が覚めてもおかしくはない。
二つめは、えらくノドが乾いたこと。
布団は暑くもなく寒くもなく快適だが、気候のせいか夕食のチリソースが効いていたのか、
ともかく異常に水分を求めた結果目が覚めたのだ。

前日泊まったアップルパークホテルでは各階にジュースの自動販売機があったので、その点では
どうにでもなったが、このゲストハウスではそうはいかない。
水道はあるが、できるだけ飲みたくないのが本音。
どうする・・・

「出るか・・・外へ・・・」
のぼるは英断した。
飲み物を求めて夜の街を歩くことにした。
着替え、財布から札を1枚だけ持って外に出た。
「う・・・」
寒い!
昼間は天気がよければTシャツで行動できるのに、夜は長そでのジャケットを着ても寒い。

慌てて部屋に戻ってトレーナを中に着てきた。それでも寒い!
いまの気温は10℃だって。ひー!
のぼるは飲み物を求めて街を彷徨った。
もちろんいたずらに徘徊するつもりはない。
昼間歩いていたときに自動販売機の設置してあるポイントを覚えていたので、
行き先ははっきりしていたのだ。

しかし、昼間あったはずの自動販売機は、夜になると例外なく全て店内に格納され、
堅い扉に錠をされていた。
ウソだろー。
日本のジュースの自動販売機は完全据置き型が当たり前だし、なによりそんな重い販売機を
毎朝毎晩店の外に出したりしまったりするのは面倒くさいだろうに。
のぼるは完全にあきらめた。

目の前にマース川に掛かる聖セルファース橋が見えた。
ガス灯の明かりがとてもいい雰囲気だ、と思っていたらまわりは全てカップルだらけ。
夜になるとここは恋人たちのスポットになるわけか。
「向こうのJ.Fケネディ橋の明かりが水面に反射してきれいね、ランダム」
「フッ、きみの方がずっと綺麗さスプライト」
「寒いわ・・・凍えちゃう」
「オレが暖めてあげるよ」
「寒いのは気温じゃないわ。あなたのギャグのことよ」
「ギャグじゃねっての。オレは本気できみのことを・・・」
「あたし(インドに)帰る」
「そりゃねーぜセリョリータ!」
「つまんないわ。Death!」
「デ・・デスですかぁ!?」
「Deathです!」
なんていう会話がささやかれているのか。(どういう会話だ)

それにしてもマジで寒い。
仕方ないから帰ろうか。
夜の通りに出るだけでもけっこう無謀なことしてると自分でも思う。
明日の夜はジュースの1本でも部屋に置いておいたほうがいいな。

ゲストハウスに帰ろうとしたとき、バーらしきお店が開いているのを発見した。
「ラッキー、こんな時間でもやってる店あるんじゃん」
ジュースといわずビールにありつけそうだ。店内には客も1人いる。
のぼるは店内に入り、速攻で「One beer Prease!」とマスターに頼んだ。
しかしマスターは「I'm Sorry」と言って両手を胸のあたりから離すジェスチャーをした。
閉店だと言いたいのだ。最後の客も立ち上がって支払をしようとしている。
「そんな・・・頼むよ、One beer Prease! 一杯だけ!」
しかし拒否され、仕方なくのぼるは外に出た。
寒い・・・世間の風ってやつが・・・うう・・・
 
のぼるはみじめな気分で自分の部屋に戻り、水道水を祈るように飲んだ。
「どうか当たりませんように」
そして再び深い眠りについたのであった。

2016/9/26 22:15  [1498-4907]   

聖ペーターの砦からの風景 カフェテリア貸切だぜ♪ 朽ちた城塞跡。ラピュタみたい

朝だ!
7:50に目が覚めた。やばい、もう朝食の時間だ。
急いでテーブルを片付けて皿やフォークを出して朝食の準備をした。
間もなくクリーマ婦人が朝食を持ってきてくれた。
「おはよう」
「おはようございます」
「朝食はこんなんで足りるかねぇ」
「もう一度」
「これで満足できるかっての?」
「問題ない」
「じゃ、食べ終わったらトレーごと廊下に出しておきなよ」
「アイ・マム」
婦人は出ていった。
さあ食べようか!
茶色の食パン、コッペパン、スライスチーズ3切れ、生ハム数切れ、そしてコーヒー。
昨日のホテルほど豪華ではないが、考えてみれば朝などこれくらいで充分だ。
マーマレード・ジャムをコッペパンに塗りまくってかぶりつく。うまい。
チーズとハムを食パンにのせてむしゃぶりつく。うまい。
コーヒーをノドを鳴らせて飲む。熱い!
 
お腹いっぱいになったところで本日のスケジュールのミーティングをしよう。
明日は朝一番でアムステルダムへ戻るため、今日がマースでくつろげる最終日となる。
というわけで、本日はマースの街を徹底的に歩きつぶそう。
のぼるは適当に決断し、外に出た。

まずはふたつの教会の前のフライトホフ広場に行った。
行ったところで意味は特にないのだが、マース散策はここから始まるような気がして、
とりあえず来てみたのだ。

広場の周辺のカフェは、まだ朝だってのに観光客がビール片手に賑わっている。
日本なら「いい生活してるよなー」などと上司にイヤミ言われそうなシチュエーションだ。
本心ではのぼるもあの集団の中に入ってゴイゴイとビールを飲みたかったが、そうもいかない。
街が、オレを呼んでいるからな。(酔ってるか?)

広場を過ぎ、しばらく歩くと、中世ヨーロッパを忍ばせる巨大なレンガ造りの門が見えた。
「地獄の門」というのだそうだ。
なんとも重厚なネーミングだ。この国最古の門なんだそうだ。
修羅の門はないのか、と思ったがなかった。「裏蛇破山 朔光」「ぬうう」「おおお」

その先にペストハウスなる建物があった。
ペストという伝染性の重病がヨーロッパ中に猛威を振るっていた当時、患者は「地獄の門」を
通ってそのペストハウスに隔離され、そこで死だけを待った・・・。
そんな凄惨な過去がここにはあったらしい。
そんな身の毛もよだつ場所も、今では市民にやすらぎを与える美しい公園になっている。
うーむ。なんだか恐い。
過去もそうだが現在もだ。
ペストを大流行させたネズミも今では千葉の埋め立て地でパラパラ踊ってるし、
時の流れというものは罪深いものなのかもしれない。

城壁に沿って公園を歩く。
途中に階段があり、そこから上にあがることができた。
まるでミニチュア版の万里の長城だ。
その途中には本物の砲台があったり(もちろん撃てないが)して、大戦当時の様子が生々しく
残っていた。
マースは国内でも有数の激戦区だったんだろうな。

城壁を後にし、のぼるは郊外へと歩いた。
ちょっとした観光名所「聖ペーターの砦」と呼ばれる丘に行くのだ。
緩やかな登り坂を淡々と歩くと、砦はあった。
「聖ペーターの砦」それは中世の時代からのマースの最終防衛ラインであり、そこを突破されたら
もはや街の平和は風前の灯となる、この街にとって非常に重要な拠点なのだ。

砦は頑丈にレンガで造ってあり、いたるところに砲台が設置されてあった。
砦というよりは基地というイメージが強いね。
で、この平和な時代になり、この砦は・・・内部を改装され、カフェテリアになっていた(笑)

のぼるは店に入り、窓際のテーブルに腰掛けた。
ミニスカートのメイドルックがよく似合うかわいいウエイトレスがメニューを持ってきた。
「One beer prease」
ウエイトレスは元気よく「OK」と言ってグラスのビールを持ってきてくれた。
うまい!
このビールは「アムステルビア」という地ビールで、コクがあるのにキレがある、
とてものぼる好みのビールだった。
「うむう、たまんねー。May I have another One?」
「OK♪」
ウエイトレスはスマイルで2杯目を持ってきてくれた。
のぼるの他に客はいないので、さっきまでヒマだったのだろう。

いやー、ビールはうまいしウエイトレスはかわいいし、景色も最高。
言うことなしだ。
ここが昔、激戦の現場だったことなど思わず忘れてしまう。それは悲しいこと
なのかもしれないが、悪いことではないだろう。
現代のここは平和で楽しく飲める場になった。
そこで楽しく飲んで何が悪いことがあろうか。

街の景色がここの窓から見える。
鋭角の屋根が多々並ぶ中にひときわ高くそびえる聖ヤンス教会の塔。
やっぱ街のシンボルだわ。迷ってもあの塔を目指せばたいていどうにかなるしな。
カランコロンとどこかの教会が12:00の鐘を鳴らしていた。
ああ、どこかの世界名作劇場の世界に迷いこんでしまったようだ。
そのへんでポリアンナが「チップマック〜」と叫びながら跳梁跋扈していたとしても
まったく違和感がないだろう(いや、アレはヨーロッパではなくアメリカの物語だが・・)

そうか・・・子供の頃に憧れたこういう景色は、ハウス食品提供の世界名作劇場を
毎週観ていた影響が強かったのだろう。
現在ですら「牧場の少女カトリ」や「ブッシュベイビー」のDVDが出たらマジで買おう
と思っているくらいだから、その想いは本物なのだ。

そんなへっぽこな想像をしているとは、ウエイトレスは思いもしてないだろう・・・。
「さてさて、もう行かなきゃな。明日にはもうこの街ともお別れなんだ・・・」
どこかで聞いたセリフをつぶやきつつ、のぼるは店を出た。

さて、今度はどこを探検しようか。
ささやかに砦をぐるりと1周してみると、のぼるは小さな歩道を見つけた。
明らかに観光客用の道ではなく、知るひとぞ知るといったけもの道だった。

2016/9/27 21:51  [1498-4908]   

丘の上からのベルギーの街並み ひつじ牧場 何気ない原っぱでさえも感動

「これは・・・」
もう行かずにはいられない。
ガキのころ裏山でドロにまみれながら探検ごっこをしたときの記憶が鮮やかに蘇る。
血が騒ぐとはこのことだろう。

森の歩道を草をかき分けながら進んだ。
どこへ続く道なのかわからないし、下手をしたら迷ってこの森から出られなくなるかもしれない。
「だったら戻れ!」と心の中のもう一人ののぼるが叫ぶが、そうもいかない。
この先に素晴らしい景色が待っているかもしれないからな。
今戻ったら後悔しちまうよ。

5分ほど進むと、開けてきた。そこは・・・
マジで素晴らしい景色があった。
丘の上の広大なひつじ牧場。
柵などなく、自然の芝生の中で20匹ほどのひつじがのんびりとしている。
まるでベイブ(実写の小ブタがしゃべるアメリカ映画)の世界だ。

丘の外れからはベルギーの街並みが見える。
やっぱこうこなくっちゃね。来てよかった。
すげぇいい眺めだ。
「とーとーとーとーとー」
ひつじのふかふかした毛並みに触れようと彼等に近付くと、集団で遠ざかる。
「とーとーとーとーとー!」
こっちが走って追いかけると向こうも走って逃げる。
常に一定の距離を保つようになっているようだ。
警戒心が強いのね。はぐれメタルか。北海道のひつじはもっと人なつっこかったぞ。
やっぱ英語で語らないとだめなのかな(そういう問題か)

のぼるはモフるのをあきらめて先に進んだ。
丘を下ると広い畑の一本道に出た。
これもまたなんともいえないシチュエーションだ。
フランダースの犬の、アントワープの街に続く一本道のようだ。
「うおおー、ネローッッっっっ!!」
思わずあのラストを思い出してしまった。
あれは生涯忘れられないクライマックスシーンだよ。

一本道の途中で森に続く小道を見つけた。
軽自動車がやっと通れるくらいの道だ。
やっぱり行かずにはいられない。
とうきび畑(だと思う)の間をてくてく歩いて森へ入っていく。
ひんやりとした空気が気持ちいい。
・・・などと思っていたのもつかのま、今度は行き止まりだった。
正確には、先に進めなくなっていた。
トンネルらしき入口に巨大な門が築かれており、厳重に錠がされていたのだ。

「おや」
門になにか文字が彫られている。
「Grotten St. pietersberg」だと。
ここが聖ペーターズベルグの洞窟の入口だったのだ。
噂ではこの洞窟は全長200キロメートルもある。
このためいくつもの入口がいたるところにあってもおかしくない。
むしろ当然だ。ここは観光客用の入口ではないが、立派な迷宮への入口だ。

えてしてこのように封印された迷宮にはお宝財宝が眠っていそうなもので、興味半分で探検したいが、
全長200キロと聞くとシャレにならない。
一度迷ったら絶対外には出れないだろう。運よく王女が捕われている部屋を見つけても、
番ドラゴンに見つかり「しかし逃げられなかった」の連続で炎の攻撃を受けたりしたら即死もんだ。
リレミトの呪文が使えるわけでなし。死んだら自動的に教会に瞬間移動されるわけでなし。
持ち金が半分にされ「おお、のぼるよ死んでしまうとはなにごとだ」などと神父にイヤミいわれる
だけなわけでなし。
「いやはや、霊験あらたかな洞窟(の入口)でしたな。さ、次行きますか!」
すっかりビビったのぼるは来た道を戻った。

もとの一本道に出てしばらく歩くと、小さな教会を見つけた。
最近建てられたようできれいな教会だ。
街の聖ヤンス教会や聖セルファース教会のように古くて大きくはないが、この田園風景に
マッチした素敵な教会だ。
教会のわきには多くの十字架が掲げられている。日本でいう田舎のお寺のノリだね。

ここでも大晦日の夜にキャンプファイヤーとかやってワラ人形をその火の中に投げ入れ、
そのあと酒盛りしておみくじで締めるのが風習なのかな(日本人が日本文化を曲解すんな)

2016/9/27 22:02  [1498-4909]   


ちなみに、だが。
先ほどビールをいただいた「聖ペーターの砦」もStep Up!で出てきてます。
ヒロインのスプライトがバイク組み立て間近というところで、気分転換にここに来て
気持ちを整理した、というシーンです。
その直後から暴走バイクとのチェイスのシーンになっていくところですな。



しばらく歩くとマース川のほとりに出た。
川に沿って北へ歩けば街に戻れる。
川のほとりの住宅地を眺めながら歩く。
ベランダがすぐマース川になってる家。なんだかすごいね。
玄関開けたら2分でジェットスキーができる。マルサが来ても速攻で逃げられる体制がとれる。

10分くらい歩くとJ.Fケネディ橋の下をくぐった。
その先はいつも知っている公園と聖セルファース橋へ行くので、もう少し冒険するために
内陸方面へ歩いた。
マースでもまだ歩いたことのないところはたくさんあるからな。
一般のヒトが生活していると思われる住宅地のエリアだ。
バイク屋や小さな雑貨屋など生活感あふれるストリートを歩いた。
うむう。庶民的でワンダフルでエッセンシャルでドモホルンリンクな感じじゃないか。
(超絶意味不明)

そんなこんなで森永チョコボールのキャラクターのようにキョロキョロしながら歩いていたら、
知らぬ間に大変な事態になってしまった。
迷ったのだ。
来た道もわからない。迷ったときの頼りの綱である聖ヤンス教会のシンボルの塔も見えない。
どうしよう。

とりあえず、歩き続けた。
住宅地は、一度迷うと永久に迷い続けるのではないか、と錯覚させられるほど同じ景色がリピートする。
これは日本においても同じ。
以前のぼるは引越ししたばかりで迷ったという恥ずかしい過去を持つが、根本的に
方向オンチなのかもしれない。
「やべーな。バグってんじゃねーか。セーブしたとこまで戻れないかな」
どこでセーブしたのか、とつっこみを入れてくれる合方もいないままのぼるは途方に暮れながら
トホホーと歩いた。

夕方。
なんとかやっとのことで朝のフライトホフ広場に辿り着いた。
身も心も疲れ果て、広場の銅像の下に腰掛けた。
「やれやれ・・・これでマースでのイベントは消化したかな・・・」
本当に楽しかった。毎日10キロ以上は歩いていたので足がかなりイカれているが、
歩けば歩くほど楽しいところ、楽しいことがあり、辛いと思うことは全然なかった。
ほとんどが、気付いたら疲れてた、
という状態になっていたのだ。これが無我夢中モードというやつか。

アインシュタインの相対性理論の原理では、夢中状態では時間が早く進み、
うらぶれ状態では遅くなる、という。
まさにそれだ。
本当にこの4日はあっという間だったね。
 
フライトホフ広場のそばにあったファーストフードでポテトとチキンのくし焼きセットを
テイクアウトし、ゲストハウスに戻って食べた。
夕食にしてはなんだか質素に思えるが、これが意外とかなりのボリュームだった。
スプライトを飲みながら出窓の景色を眺めた。
いまは20:00。ようやく太陽が西に沈みかける黄昏どき。
前のマンションの前でまた子供達がサッカーをしている。
日照時間が長いと、それだけ遊ぶ時間が長い。うらやましいね。

さてさて、明日はアムステルダムだ。
そして明後日には帰りのフライトとなる。
名残惜しいよ、まったく。
 
のぼるは荷物をまとめ、明朝すぐに出発できるようにスタンバっておいてから眠りについた。

2016/9/27 22:16  [1498-4910]   



ACT.9 LIBERTY TOWN AMSTERDAM


マーストリヒトと別れの日が来た。
顔を洗い、着替えるとクリーマ婦人が朝食を持ってきてくれた。
「今日はどこへ行くの?」
「アムステルダムです。明日日本に帰るので」
「そうかい。わたしもいつか日本とやらに行ってみたいねぇ」
「もう一度」
「わたしも日本に行きたいっちゅーてんじゃいや!」
「では一緒に行きましょうマダム」
「冗談は顔だけにしときな。じゃ食べたら食器を廊下に出しておきなよ」
「アイ・マム」
メニューは昨日と同じだった。

のぼるはマース最後の食事をよく味わって食べた。
それはあたかもこれから監獄へ閉じ込められてしまう最後の晩餐のような感覚だった。
それほどマースとこの宿の居心地がよかったのだ。
「来て良かった」という想いを通り越して「帰りたくない」という想いが駆け巡った。

ま、仕方ないやね。
この街でどっかのガレージ探してそこで暮らすとかいうどっかの物語じみた展開なんてないし、
仮にあったとしても言葉の壁のせいで職にも食にもありつけなくなるのは簡単に想像できる。
現実は冷たいもんさ。

出発の準備が整った段階でクリーマ婦人が部屋の鍵を取りに来た。
のぼるは婦人に鍵を手渡した。
「2日間、お世話になりました。本当にご親切感謝します」
「やだねえ、そんな言葉どこで覚えたんだい」
「もう一度」
「・・・いや、そんなことより、アムスの宿は決まっているのかい?」
のぼるは情報誌「地球の歩き方」のアムスのページを婦人に見せた。
「予約はしてないけど、このドリアホテルという宿にしようと思ってます」
「ふうん・・・ちょっと待ってな。そのホテルに電話して部屋が開いてるか確認したげるよ」
「ありがとう。助かります」
クリーマ婦人は電話をかけに階段を下っていった。
なんてこった。すげーいいヒト。
なんだかんだいっても優しいね。
やっぱ泊まるなら多少不便でもゲストハウスが一番だ!
ふつーのホテルじゃこんなことやんねーもんな。
婦人が戻ってきた。
「部屋はたくさん空いているから予約の必要はないよ。いきなり訪問すれば泊めてくれるってさ」
「もう一度」
「いきなり行ってオッケーだっちゅーの!」
「わ、わかりました」
「でも1泊120ギルダー(8000円くらい)もするねえ。他にもっと安くていいホテルが
あるんじゃないかい?」
「(何度か聞き返した後)うーん。そうかもしんない。とりあえずアムスのvvvで斡旋してもらうよ」
「それがいいね。アムス行きの特急インターシティはマース発10:31だ。そろそろ出発したほうがいいね」
「わかりました。それでは、お世話になりました」
「気を付けて楽しんでおいで」
「いろいろ親切にしてくれてありがとう。また会いましょう」
「ああ。そのときはたくさん英語覚えてきな」
のぼるはクリーマ婦人と別れ、外に出た。

この街にいた4日間、ぜんぶこのゲストハウスで泊まれていたらよかった。
安くて、メシはちゃんとあって、街に近くて、そして親切。
こんな宿はめったにないよ。よかったよかった。

のぼるは通りに出て、駅へ向かった。
聖セルファース橋を渡る。
マース川もこれで見納めか。
駅前通りでは市場が開かれていた。
のぼるはそこでスナック菓子とビールを買っていった。
アムスまでは電車で2時間半くらいかかるから、おやつ持参だ。(オヤジくせえな)

マース駅でアムス行きのチケットを購入すると、すぐに電車はホームに来た。
今度こそ2階建てか、と期待していたが1階建てのノーマルタイプだった。残念だー。
座席に座ると電車は動き始めた。
「また来るぜ、マーストリヒト・・・」
もう来れないかもしれない、と後悔するのではなく、次また来るために努力をしよう。
のぼるはそう思った。

しかし旅はまだ終わってはいない。今日はアムステルダムでいろいろ見るんだ。
初日にアムスの駅周辺だけは見たが、あのときは宿が取れるかどうかの切迫した状態だったから
ろくに覚えていない。今回はきっちりといろいろ見てまわろう。
自由の都市アムステルダム・・・世界中から冒険者が集う自由の聖地。
そんなフレーズを聞くと血が騒いで仕方ない。
インドから徒歩で歩いてきた旅行者がいても、不思議じゃないよ。

アムスでは何をしようか、とのぼるは情報誌をペラペラめくる。
車窓からは田園風景が広がっていた。
 
13:00アムステルダム中央駅に到着した。
この国のいちばん外れにあるマーストリヒトからアムスまで2時間半だから、
いかにこの国の面積が小さいかわかる。
大きさ的には九州と同じくらいなんだそうだ。
ユーラシア大陸の一部だから、すっげーでかい国なんだろうと思っていたが、
面積的にはそんなに大きいところではないみたいだ。

で、アムステルダムだが、13世紀にアムステル川の入り江にダムを作りそこに人々が住みはじめた。
それが現在のアムステルダムのはじまりだ。
港町として発展したアムスは、自由の都市として、各地で迫害された人々を受け入れていった。
港町として世界一に発展したアムスは、世界の物資が集まり、世界を見聞した人々の見識が
より街を「自由」「寛容」「合理的」に育てていったという。

第二次世界大戦、この街はドイツに占領されつつも、不条理な権力を嫌いユダヤ人を危険を
冒してまでもかくまった。
「アンネの日記」の現場でもある。
そのスピリットは現代において、またのぼるの目においてどう映るのだろうか。

2016/9/28 21:50  [1498-4911]   

アムステルダム・セントラルステーション 駅前のストリート ダム広場の戦没者慰霊塔 ドリアホテルの部屋

のぼるは駅のホームに降りた。
駅を出る前にvvvで宿の手配をしよう。
まだ昼過ぎなので宿はどこでも空いているはずだが、手配だけは早く済ませたほうがいいからな。

先日お世話になったファンタがいた。
彼女はのぼるを見て「Oh!」とびっくりした。
のぼるのことを覚えていたようだ。
ま、記憶力がいいというよりは閉店間際のやっかいな客として心に残っていたのだろう。
「この間はお世話になりました」
「あの後どーなったの? ちゃんとホテルに着けた?」
「もちろん。いい旅ができたのもあんたのおかげさ。愛してるぜ」
「そっかー、よかったね。今日は?」
スルーかよ。
「そうそう。今日の宿を手配したいんだ」
「条件はある? 金額とか、朝食付きとか、駅から近いとか・・・」
「特にないけど、こんな感じのホテルがいいかな」
のぼるはファンタに「地球の歩き方」のドリアホテルの案内ページを見せた。
「ふうん。このホテルならまあまあ駅から近いし、このエリアにしちゃ安いほうだね。ちょっと待ってて」
ファンタは端末を慣れた手つきで操作した。
「大丈夫、部屋は空いているよ。ここで予約すると手数料のぶんだけ高くなるから、
直接ホテルへ行ってフロントと話したほうがいいよ」
「そっか」

ドリアホテルに空きがあるのは今朝から知っていた。
のぼるの知りたかったのはドリアホテルより安くてグレードの高いホテルがあるか、ということだった。
ま、いいか。この会話だけでも10分はかかっている。
ドリアホテルにしていいだろう。
もうめんどい。
のぼるはファンタにお礼を言ってvvvを出た。
さ、行こう!

アムスの中央駅を出た。
改めて駅の外観を望むと、本当に東京駅だ。
アムスの街はこの駅を中心に扇状に広がっている。
駅の裏側は北海に続く大きな運河。駅の表側は幾本もの運河が駅を取り囲むように広がる。
駅前から水上バスが運行されており、これを利用するとたいていの名所に行ける。

とりあえずのぼるは駅からまっすぐ走るメインストリートを歩いた。
様々な人種がごったがえす。歩くだけでも楽しいね。
ただしスリが多発しているらしいので、軽快の中に警戒を強めないと。
「第一種警戒体制発令! ミノフスキー粒子、戦闘濃度への散布急げ!」
頭の中はさながらホワイトベースのブリッジのようだった。セイラさんの声も聞こえそうだ。
「アムロ、聞こえて?」
冗談はさておき、先を急ごう。

5分も歩くと「ダム広場」に着いた。街の中心に広がる大きな石畳の広場。
この広場がアムスの心臓、アムスの歴史が始まった場所。
アムステル川を塞き止めて発展を開始した場所。
左手に白い尖塔があった。
15メートルほどの高さの、黒板のチョークにビッグライトあてたような塔に石膏でできた
人間が張り付いている。
これが戦没者慰霊塔だ。第二次世界大戦で亡くなった人々の霊を慰めるための塔。
塔のまわりは緩やかな階段状の丘になっており、観光客のたまり場になっていた。

のぼるは塔の下で日本人と思われる女の子を発見した。
ジーンズとYシャツのオーソドックスなスタイルで、ショートヘア。かなり好み。
どうやら一人みたいだ。お話しちゃおうぜ。
ようし、オレが日本人であることを隠し、とりあえず英語で話しかけよう。
「Excuse me,prease take a picture for me」
「Oh,Yes,of course!」
のぼるは彼女にカメラを渡した。
「なに、あなた日本人じゃない?」
う、いきなりバレた!?
「ち、ちがいます!」
「日本語で否定されても説得力ないわね」
しまった!
「なぜバレた・・・」
「日本語の「写ルンです」渡されたらモロバレでしょや」
「あ・・・」
つくづくドジだ。

「オレはのぼる。マーストリヒトという街から帰ってきたとこなんだ」
「あたしはみゆき。ロンドンから戻ってきたとこなの」
「ロンドンかぁ。よかった?」
「まーね。でも3回目だからそんなに目新しいとこはなかったわ」
何度も海外旅行・・・のぼるより若いのに、セレブだ。
「ねえ、マーストリヒトってどんなとこなの?」
みゆきはマースに少し興味を持ったようだ。
「そうさのう・・・」
「あはは! じじーくさい話し方!」
のぼるとみゆきはそこでしばらくおしゃべりして別れた。
「ぢゃーね、のぼるくん。バイバイ!」
「ああ。バイバイ!」
あー。可愛かった。電話番号ゲットしとけばよかった。
それにしても女の子一人で海外旅行とは、すげーバイタリティだな。
 
ちょっとのんびりしたところでのぼるはホテルを探した。
目的のドリアホテルはダム広場の脇道を入ったところにすぐあった。
1階はレストランで2階から上がホテルになっている。
のぼるは2階のホテルのフロントへ上がると、奥から受付のおねーさんが出て来た。
「I'd like to reserve a room for tonight」
「I see」
のぼるは1泊朝食付きにしてもらった。

おねーさんから部屋の鍵をもらうと、エレベータで4階まで上がった。
「ここがオレの部屋か」
ドアを開けると・・・前の客が散らかしていったままの状態だった。
このぉー、掃除してない部屋の鍵を渡すなよ。
廊下を歩くボーイに頼んで清掃してもらった。
ホテル側のせいなのにチップを渡すハメになってしまい納得いかないが、まあいい。

とりあえず荷物を放り出してシャワーを浴びた。
ゲストハウスではシャワーを浴びることができなかった(髪だけは洗面器で強引に洗った)ので
かなり切実だったのだ。
さっぱりしたところで、街にくり出そう!

2016/9/28 22:03  [1498-4912]   

アムスの街並み

のぼるはホテルを出た。
まずは適当に歩こう。
観光名所で見たいところは特にない。運河が見たかったが、歩いていればいやでも見れる。
いや、ひとつあるか。「飾り窓」!!
この国ではマリファナはおろか、売春すら合法化されており、飾り窓の女性たちにも
れっきとした組合があって商工会議所にまで登録されているのだ。
とはいえ、アジアや中南米から人身売買に近い状態でこの飾り窓に連れてこられる女性が多いとも
聞く。
それが人間のすることかい。
のぼるはそこがどんな所なのか見に行くだけで、決して邪な気持ちで行くつもりはないのだ。
まあ、パトリシア・マクファーソン(じつばファンだったりする)くらいの美人がいたら、
そりゃグラッとはするだろうがね。
売春そのものに興味はない。無駄な文化だね。(そんなに否定せんても・・・)

そんな感じで歩いていたら、いきなり知らないオヤジに肩をたたかれて、
「How about this one?」
と言われ、小さく折られた紙袋を見せられた。
「は?」
オヤジは紙袋をそっと開けると、その中には乾燥した草の葉っぱが・・・
マ・・・マリファナ!!
大麻の葉。
コカインやヘロインとは違うソフト・ドラッグだが、のぼるにとっては同じ麻薬としか見えない。
煙草は吸うが麻薬はやらない、それがのぼるのポリシーだ(変か?)
「No thank you!」
のぼるは全身全霊をもって拒否した。
あぶねー。
飾り窓に思考が片寄ってて身に迫る危険に気付かなかったなんて。
「対空防御、左舷弾幕薄いぞ! なにやってんの!!」
あー。ブライトさんに怒られてしまったがや。

まわりをよく見ると、閉めきった喫茶店が多い。
さらによく見るとその中は異様に煙たい。
あれが噂に聞くコーヒーショップか。
見た目はその名の通り喫茶店だが、内部はマリファナ、下手するとヘロインなどがやりたい放題らしい。
一年戦争後の連邦軍のように腐敗してるぜ。
恐い恐い。飾り窓へ行くのはよそう。

のぼるは純粋に観光を決め込んだ。
水上バス、トラム(路面電車)、連結バスなど、日本ではなかなか見られない乗り物が
いたるところで見れる。
連結バス(BLT)なんて「つくば科学万博EXPO'85」以来だ。
あー懐かしい。
富士通パビリオンなんて今見ても新鮮だろーな。
HSSTもいまだ実用段階じゃないし。
想像していたよりも、ずっと未来は現実的だね(ポルノグラフィティ談)

腹が減ってきた。
そろそろ夕方だし、夕食にしようか。
のぼるはレストランを探してライツェ広場というところへ来た。
ファーストフードはけっこうあるが、最後の外食となると思い残さないために
立派な食事をしたくなるのが小市民というものだ。
「おっ!」
のぼるは小さな通りでひっそりとたたずむインド系カレーのレストランを見つけた。
ここにしよう。

「Akbar」というインドのレストランだ。
アムスへ来て、なぜにインドのレストランなのかよくわからないが、スパイシーな香りに
引き寄せられたような感じ。
こうなったらカレーしかないね。
店内は特にイスラムやヒンドゥーなどのドロドロした感はまったくなく、けっこうカジュアルな雰囲気だ。
「チキンカレーアンド、ワンビア、プリーズ」
シェフの女の子ミスティオは「Yes,sure」ととりあえずビールを持って来てくれた。

いやー。毎日ビール飲みっぱなしだったな。
べつにビールばかり飲みたいわけじゃない。
ジュースが高価なだけで、同じ値段ならビールがいいというだけ。
どちらかというと、ビールに飲み飽きて少し困っている。

やがてミスティオがカレーを持って来てくれた。
炒めた黄色のサフランライスには所々にカニの身が散っている。
そして、アラビアが発祥と思われる銀の器に、つんと鼻を刺激するチキンカレー。
これはうまそうだ。
いただきまーす!
カレーをいきなりライスの上にどばっとのせる。
これがのぼるの流儀だ。
「うん・・うん・・いける、うまい、うまい・・って・・うぐふうう!」
うおお、いきなり辛さが効いてきた。ぐわ、メチャクチャ辛い! 口が痛い!!

ミスティオがにこにこしながらのぼるのテーブルにやって来た。
「ライスのおかわりはいかがかしら?」
「・・・ありがとう、いただくよ・・・」
ミスティオはライスをてんこもりにして去っていった。
ちょっとまて! この辛さについてなんか一言しゃべってくれよ! どーせわかんないけどさー!
のぼるは汗をだらだらと流しながらミスティオ特製激辛チキンカレーを完食した。
ひぎぃー。胃が即効キリキリ痛んできた。

やっぱ地球の裏側まで来てまでもカレーを食べたいと思うのは間違いだったのかもしれない。
その土地その土地の文化あふれる郷土料理を食べるべきだったのではないか。
ネーデルの郷土料理といえば、豆の煮込みスープなどが有名だが、いかんせん薄味らしく、
日本人の口に合わないらしいので基本的に避けていたのだ。
また、ニシンの酢漬けは国民の大好物でのぼるも一口食べたかったのだが、残念ながら
初物はもうすこし時期があとらしい。
ニシンの酢漬けとはなんだかうまそうだったので楽しみにしていたのだが。

ただし、ニシンの卵「数の子」はこの国の人は全く興味ないらしく、ほとんど日本に
輸出しているらしい。
なんであんなにうまいものを食べないんだろう・・・数の子っていえば正月しか食べられないごちそうだろ。
あの食感がたまらないのに、まったく、この国にヒトは和の心がなってないよ。
(のぼるの和って一体?)

2016/9/28 22:14  [1498-4913]   

ねこフィットV(さん) さん  

2016/9/28 22:27  [1498-4914]  削除

店を出た。
いやー、メッチャクチャ辛かったけど、うまかった。
特にとろけるほどのチキンは特筆に値する。
一度ハマったらやめられないかもしんない。(まさか、麻薬かぁっ!?)

日没にはまだ時間があるので、市街を歩いた。
都市部に人口が密集しているため、必然的に狭い土地にせせこましく家を建てなければならない。
だからこの国の住宅は積み木を立てたような造りになっているのか。

運河が網の目のように細かく入組んでいる。
水と戦い、水とともに生きてきた。そういう生活感があふれている。
この場所ですら、海より低い位置にいる。
人類が滅亡するような地球規模の大災害が起こった時、まず壊滅するのはここだろう・・・
そう思わずにはいられなかった。
ひとつの防波堤が決壊しただけで、この街は簡単に壊滅しそうなイメージがある。
 
のぼるはしばらく歩いてホテルの部屋に戻った。
「おわったな・・・」
ベッドに腰掛け、深くためいきをついた。
やっぱ、旅行するなら、大都市でなく田舎がいい。
そういう意味でマーストリヒトを選んだのは大正解だった。
まあ、もう少し日があったならもう少しゆっくりできたのだろうが、今さら仕方のないことだ。

テレビを付ける。
「あ」
日本のアニメが放送されていた。「ピーターパンの冒険」だ。
昔のハウス食品提供の世界名作劇場シリーズの悪ノリ傑作だ。
金田ピーターパン、久しぶりに見た。
なつかしいね。
「さんをつけろよデコスケ野郎!」と今にも叫びそうなピーターパンだ(知らないヒトごめんなさい)
それが終わると、音楽番組になった。
新鋭のバンドが素敵なバラードを歌っている。
この曲はのぼるが旅をしている間、ずっと聞こえていた。
ホテルのテレビ、ゲストハウスのラジオ、そして街頭のスピーカー。
いったいなんていう曲なんだろう。
とても、心に残るバラードだった・・・

2016/9/28 22:27  [1498-4915]   



ACT.10 TRULY MADLY DEEPLY



いよいよネーデルランドと別れの日が来た。
のぼるにとってのネバーランドの夢のひとときも、もうすぐ現実の中へ強制送還されてしまう。
まったくもって残念で仕方がない。

英語にしても、この期間でのぼるはずいぶん成長した。
来たばかりのときは、相手の話を一度日本語に翻訳し、それに対する解答を日本語で考えてから
英語に翻訳して話していたのだが、何日も過ぎると面倒くさくなって、
思考そのものが英語に近くなっていた。
英語で言われた言葉をダイレクトに英語で対応しはじめていたのだ。
これが人間の状況適応能力か、と我ながら感動したものだ。
その成長途中で日本に帰らなくてはならないのは、本当にくやしい。

のぼるは朝食のため1階のレストランに降りた。
バイキング方式の食べ放題だ。
さーて、何を食べようかな、と迷っていると、
「やだー、さっちーったら!」
「うそじゃないよー、みっちーだってそーじゃんか」
などと日本語バリバリで楽しく会話している2人の女の子を発見した。
彼女たちもこのホテルに泊まっていたらしいな。

「おはよう、子猫ちゃんたち。同席していいかな?」
「あら、日本語!」
「のぼるです」
「あたしはみっちー。このコはさっちー」
「へえ。どっかの仲悪い熟女みたいだな」
うるさい! どうせ仮名なんだからいちいちつっこむな!
「のぼるくんはいつまで旅行を?」
「いや、実は今日の便で帰るんだ」
「うそー。そーだったんだ。あたしたちは昨日着いたばかりなんだよ」
「のぼるくんはどこへ行って来たの?」
「この国の外れのマーストリヒトっていう田舎さ」
「田舎かあ、いいわね」
「素敵ね、あたしたちも田舎の街に行こうよ、さっちー!」
「いいわね。どーせ時間はたくさんあるからね」
「時間がたくさんあるって・・・きみたちどのくらいこっちにいるつもり?」
「半月くらいかなぁ・・よくわかんない」
「帰りの飛行機も予約してないからねー。あはは!」
 あははってアナタ・・・なんてアバウトな。
「そうだ、今日はユトレヒトに行くんだ。あたしフロントで列車時刻と費用を調べてくるね」
「あいよ。しっかり聞いてきてね、さっちー」
さっちーは一人で階段を登っていった。

のぼるは状況がいまひとつわからない。
「さっちー、どうしたの?」
のぼるが質問するとみっちーは笑いながら説明した。
「あのコはとっても英語が上手で、計画性もバッチリなんだ。あたしはそういうの全然ズボラだから、
全部あのコに任せてるんだ。でもさっちーはそういうの得意なんだけど、一人じゃなにもしない
タイプ。あたしは純粋に観光したいけど計画性がないから、そういう意味で二人一組なのよ」
のぼるはコーヒーを飲みながら彼女の話を聞いていた。

「なるほど。ケンカとかしないの?」
「あはは、しょっちゅうするわ。でもすぐに仲直りするけどね。お互い一人じゃなにもできないから」
お互いの弱点を補える仲間。なんだか羨ましいコンビだ。
「のぼるは強いね。一人でさみしくなかったの?」
のぼるはいきなりの質問にコーヒーを吹き出しそうになる。
「さみしくない、というとやっぱウソになるわな。英語が思うように通じないときなんか
日本が恋しくなったよ。無意識に日本の店とか探しちゃうしな」
「でも、それでも一人で旅をやっちゃうところがすごいよ」
「そうかな。まあ、海外旅行は今回が初めてだったけど、昔から一人旅してたし、
それの延長線上みたいなもんだよ」

さっちーが戻ってきた。
「ただいま。10:00発のインターシティで小1時間てところだって。ちょうどいいんじゃない、みっちー」
「そうだね。よし、それでユトレヒトへ行こう!」
おもむろにさっちーはのぼるの顔を見た。
「・・・のぼる、顔赤いよ?」
あ。みっちーに誉められ、照れていたのが顔に出たか。やべー。
「まさかみっちーを口説こうとしてたんじゃないでしょうね!?」
「違う! そんなことしない!」
「そんなこととは失礼ね! あたしに魅力がないみたいじゃない!」
今度はみっちーに責められる。マジやべー!
「あたしのみっちーを取ったらだめだからね!」
「ちょっとさっちー、誤解を産むようなこと言わないでよ!」
「あー。おまえら百合か」
「そうよ!」
「違うわ!」
「やっぱり」
「(ハモリ)やっぱりってどーゆー意味よ!?」
朝からものすごいテンションに包まれ、のぼるの帰国に対する憂鬱はどこかへ吹き飛んでいった。

のぼるは二人と別れ、部屋に戻った。
さて、空港へ、行きますか。

2016/9/28 22:35  [1498-4916]   

アムス駅の中 スキポール空港 搭乗待ち さらば、ネーデルランド・・・

のぼるはチェックアウトし、駅へ向かった。
ダム広場のど真ん中で若者がスケボーを楽しんでいる。
みんな楽しそうだ。

「ポップ・ショウビットってのはこうやるのよ!!」

どこかの女の子が宙を舞っている・・・といいな。(あれは午後の話だって)

街は今日も活気立ってる。
多くの人が生きて、動いてる。
のぼるは、知らずのうちにこの国の人々から生きる楽しさを教えてもらったような気がした。
仲間にしか心を開かない多くの日本人。
誰とでも楽しくやりたがるネーデルランド人。
時々、ネーデルランド人のことを「合理的」と皮肉ることがあるが、個人的には彼等の思想には
賛同する。

社会のしくみを合理化して何が悪い。
今を楽しく生きるために、もしくは未来を楽しく生きようとしているのだ。
きっと、どこの国もそのためにあーだこーだしているのだろうが、この国はその理想社会を
どこよりも早く構築したのだと思う。

ヨーロッパを統一させようとがんばっているのもここだ。
ヨーロッパ単一通貨「ユーロ」を制定したのはどこでもない、この国なのだ。
やることがでかいね。まったく。
心を開いているからこそ、でかいことができるんだ。
 
電車でスキポール国際空港へ到着した。
搭乗手続きを全て済ませ、ロビーで搭乗待ちをした。
「ふう」
タバコに火をつける。
あとは、飛行機に乗るだけ。やることがない。
のぼるは窓の外でひっきりなしに離着陸するジェット機を見ながら、いろんな事を想像していた。
マースの風景、アムスの風景。そこで巻き起こる、あくまでも個人レベルのストーリー。

その想像は後に物語として形になることになる。
 
「日本行きのお客様、お待たせいたしました。ただいまから搭乗開始となります」
放送を聞いた旅行者は一斉に立ち上がった。
のぼるも、決心を固めて立ち上がった。
「よぉーし、やっっってやるぜ!!」

さあ、日本へ帰ろう。
そして、思うがままにこの国を舞台にした小説を書こう。




          ぼくは強くなろう
          
          信じる心を強く持とう
          
          だってぼくは・・・
          
          新たな始まりと
          
          生きる理由と
          
          より深い意味を手に入れたいんだ
          
  
          

日本に戻って半月が過ぎたころ、ネーデルランド内で聞きまくったバラードを発見した。
「サヴェージ・ガーデン」というデュオの「トゥルーリー・マッドリー・ディープリー」という
歌だった。
偶然か否か、その歌詞はのぼるの旅及び構築した物語に見事にマッチしたものになっていた。
 
https://www.youtube.com/watch?v=WQnAxOQx
QIU



                        ネーデルランドの異邦人(エトランゼ)


                             The end of files...


2016/9/28 22:44  [1498-4917]   


あとがき。


ネーデルランドの異邦人、いかがでしたでしょうか。
自分自身、改めて読み返してみると、若いときの行動力ってほんとうに
怖いもの知らずなのだなーって思いましたね。

旅行中は冗談でなくほんとうに1日10kmくらい歩いてましたが、夜グッスリ眠った翌朝は
その疲れを引きずることなくリフレッシュして、再びガンガン歩いてました。
今ではちょっと考えられませんねw

小説「Step Up!」は、実はこのオランダ旅行の前から書き始めていました。
当初はマーストリヒトの街だけを舞台にして、スプライトとランダムを中心とした
やりとりを書いていたのですが、どうにも行き詰ってしまい、途中で挫折していました。

旅のあと、小説はほとんど全部書き直しました。
ヒロインははるばる遠くから旅をしてきたというのなら、マースへたどり着くまでの
道程もきっちり書かなければならないだろう、ということで、ずいぶん細かい設定を
追加してインドからの旅のシーンを書いていきました。

それだけ、マーストリヒトでの出来事やシーンを引き立たせたかったわけです。
まあ、作業的にかなり難しかったですが、完成してみると「やってよかった」と
素直に思えましたね。


オランダ旅行そのものは、とにかく言葉との闘いでした。
電車やバスの乗り方ひとつをみても、日本とまったく違うシステムなので、
それを理解するのにも一苦労。
メシを食べるのも、宿を手配するのも、ジュース一本買うのにも、一苦労でした。

でも、それだけの価値ある旅であったことは間違いありません。
いつかまた、行きたいと思います。

でも、もし行くチャンスがあったのならば、次はイタリアのヴェネツィアに行ってみたい。
たぶん近いうちに海に沈んでしまうようなので。



ここまで読んでくださってありがとうございました。
なにか一言でも感想をいただけたら、嬉しいです。

2016/9/28 23:09  [1498-4918]   


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