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「縁側」-みんなが作る掲示板-からのお知らせ
縁側からのお知らせ

縁側をご利用いただく際のルール&マナー集を用意いたしました
ユーザーの皆様に楽しくご参加いただけるよう、主に投稿時の注意点などをまとめています。
ご投稿の前には必ずご一読をお願いいたします。詳しくはこちら⇒「縁側 ルール&マナー

紹介文

ここは主にホンダFIT3HVの徒然ない世間話や、
アウトドア・キャンプ・車中泊・ドライブ旅行記・オリジナル小説やCGなど
けっこうどうでもいい話題で盛り上がっております。

気だるい午後のひまつぶしにどうぞw

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はじめに。

お待たせしました。北海道ツーリング旅行記の続編です。
前回の「北海道への誘い」から3年経った世界が舞台です。

このツーリングも手書きの旅行記を記しておりましたが、実は志半ばで未完。
残り半分ほどは、今思い出しながら書くことになりますので
どのくらい忠実に再現できるものか、いささか不安です。

今回は最初から当時の写真をデジタル化して準備できました。
随所にうpしていきますので、臨場感のフォローにはなるでしょう。


それから、読んでいただける全てのみなさんにお願いです。
執筆途中の感想はこのスレッドでなく「ひまねこの縁側」のスレッドにお願いします。
ここは純粋に旅行記だけを記す場にいたしますので、ご協力お願いします。

続編とはいえ、ストーリーの途中で主役機が変わるとか、そんなことはありません。
今回は、前回の反省点を生かして様々な工夫をしてツーリングを快適にしようと試みてます。
そんな変化を楽しんでいただけると面白いと思います。


それでは、はじまりはじまり♪

2015/10/28 11:32  [1498-3949]   

初めての北海道ツーリングを終えたのぼる。
人生のターニングポイントとも呼べるその素晴らしき経験、再び北の大地に戻って来ようと
そう深く誓ったのであった。

あれから3年が経った。

また行くから。
そう誓ったのに、それから一度も行けなかった。
学生バイトの身分でそう簡単に行けるはずもなく、また就職活動という何より大切なことに
集中しなくてはならなかった。

だが、この間にバイクをホンダ400ccの中古BROSに乗り換え、石川県能登半島を4泊で一周する
ツーリングに行ったり、可能な限りのことをやっていた。
正確にいうと、その能登半島ツーリングは本来は北海道へ行こうと思っていたのだが、
その年は冷夏で毎日が雨。北海道行きの心が折れるのにさほど時間はかからなかった。


そして、チャンスは巡ってきた。
のぼるは県外就職に成功し、茨城県東海村の寮で一人暮らしをしていた。
クルマがないと不便なのにもかかわらず、バイク一台で生活していた。
寮だしクルマを求められる仕事でもなかったので、瞬発力や渋滞に強いバイクが
役立っていたわけだ。
雨も少なく冬も積雪がほとんど無いことから、年中バイクに乗っていられるわけだ。

仕事をして収入を得るという自活の根本に成功し、新品のバイクを買い、
再び北海道への血が沸き立ってきたのを実感してきた。
折りしも、職場の先輩ヒイロもバイクに乗っており、一緒に北海道へ行くか、と賛同してくれた
こともあって急速にその計画が現実味を帯びてきた。

北海道再上陸プロジェクトが始まり、いろんなものを買った。
まずバッグを一新。
タンクバッグ、リヤに載せるサイドバッグとメインとなるツーリングバッグ。
収納できる容量は当時の比ではないが、なんでもブチ込め、というノリにはならない。

きちんとしたアウトドア用のグッズも準備した。
まずはいちばん欲しかったゴアテックスのレインウェア。レイングローブにブーツカバー。
これで雨対策は万全となったわけだ。
あとはいちばん欲しかったレザーマンの万能ツールナイフ。
その他いろいろ揃えたが、そのうち紹介するとしよう。


のぼるの愛車は3台目となる。
カワサキ・ザンザス。
400ccの4サイクルエンジンのネイキッドバイクだ。

ザンザス。
ギリシャ神話の英雄アキレスの愛馬クサントスを英語読みした名前。
バリウスの兄に位置するペガサスだ。

全国でも約3000台程度しか生産されなかった希少車・・・まあ、不人気車だったが、
ツーリング向けに設計された良好な搭載性、ストリート向けネイキッドながら本気を出せば
レプリカにも引けをとらない加速性能は他に類をみない。
そんな孤高のスピリットをもつかっこいいバイクなのだ。


出発予定は7月の下旬。
夜勤明け休日と会社の休暇に少し有給休暇を足してやれば1週間ほどの休みになる。
職場の先輩ヒイロはその予定で組んでいたが、のぼるは更に休暇をとって
合計20日もの休日をゲットした。

つまり、途中まではヒイロと行動をともにするが、それからはのぼるの単独ツーリングに
なるわけだ。

まあ、もちろんだが、職場の上司には相当なお叱りを受けた。
入社2年目でそんな暴挙がよくできたものだ、と我ながら思う。
クビになっても当然だったろうに。

2015/10/28 17:06  [1498-3951]   

のぼるの会社の先輩であるヒイロは、あと2人の同行者を見つけてきた。
これで北海道ツーリングの序盤「グループツーリング編」は4人で行くこととなった。

のぼる。
主人公で茨城で一人暮らし中。本格キャンプと北海道全域制覇の野望を胸に、
またちょっぴりでもいいからロマンスを求め、それとなく熱き炎を燃やす。

ヒイロ。
会社の先輩。カワサキZRX400を駆る都会派ライダー。キャンプなど興味対象外で生粋の宿派。
パジェロにジェットスキーを持つセレブな遊び人。のぼるをパシリに使うことに情熱を燃やす。

ユキ。
ヒイロの彼女でメンバーの紅一点。ヤマハのネイキッド・ジールを駆る。大食漢。
好奇心旺盛な行動派で、なにがあろうとも絶対に誰よりも早寝早起き。

ユージ。
ヒイロが世話になっているバイク屋の息子。いちばん年下だがヤマハFZR1000というバケモノを駆る。
バイクに関しては知識もメンテ技術も頼れる存在。物腰が低い。


のぼる以外の3人は北海道が初めてらしく、基本的にはのぼるが旅のプランを任された。
彼らと旅をするのは上陸後の4日間。
基本的には苫小牧にフェリー到着後、まずは函館を目指す旅となり、それから札幌へ行って
まる1日遊び尽くし、その翌朝に3人と別れてのぼるだけ単独行動開始となる予定だ。



いよいよ明日、出発となる。
寮の部屋で、荷物をひとつひとつチェックしながらバッグに入れる。
旅立つ前の準備は、やはり心が躍る。
特に、ソロツーリングになってからの行動にわくわくが止まらない。
以前洞爺湖なんかでキャンプしたときに不便と感じたことは、考えられる限り
対処したつもりだ。今回はそれらを駆使した楽しいキャンプ生活に期待に胸を膨らませた。

のぼるの職場は、まあ、なんというか、茨城県東海村にある有名な国の研究機関だ。
敷地内にはイオンのショッピングモールのような巨大な建造物がいくつも立ち並び、
コンビニ、レンタルビデオ、図書館、銀行まである施設だ。
敷地内は徒歩ではなくバスやクルマなどで移動するため朝は大渋滞する。
そんなときにバイクが重宝するのだ。

のぼるの住む寮も、200人程度が住めることができ大浴場も完備された大きな施設だ。
まあ、そういう大きすぎる施設というのはなかなか信頼できる仲間もできにくく
地方から出てきた者にとっては「だっぺよ」という語尾に代表される茨城弁に翻弄されたり
住むのが難しいところではあった。
必然的にレーザーディスクなどという引きこもりご用達のアイテムに手を出すこととなり、
バイクのローンに加えて万年金欠状態となっていたりする。

あえて言おう。赤貧であると!
社会人になって裕福になったつもりなのが、日々の生活とバイクローンとレーザーディスクに
追いやられ、学生時代のバイト生活より貧乏になったような錯覚すら覚えるのだ。
何故だ!(ボウヤだからさ)
こういうことは大切なことなので、予めはっきり言い切っておくことにする。
この旅は、以前にも増して貧乏旅になるであろう、と。
ジーク・ジオン!

2015/10/29 10:41  [1498-3953]   

出発直前の寮の駐車場にて フェリーターミナルのロビーにてヒイロ・ユージ・ユキ

出発の日がきた。
フェリーの出航は夕方の日没後であるため、昼間にゆっくり準備をする。
寮ののぼるの部屋は1階。
窓から芝生の地面に向けてポイポイと荷物を投げ出していく。
寮に住み着いている野良猫たちが「何事か」とその荷物に群がる。
「これはおまえたちの遊び道具ではなーい」
威嚇するとねこたちは散開していく。

その荷物をザンザスに順に搭載していく。
最初にリヤシートにサイドバッグ、その上にいちばん大きなバッグをクロスロープで
しっかり固定し、もうひとつ太いゴムロープで固定。
このバッグはバイクツーリング用に開発されたもので、ちょうどいい箇所にロープを
引っ掛けるためのDリングがあり、ゴムネットを使わなくてもバッグを固定できるのだ。

そしてトドメに燃料タンクの上にマグネット固定のタンクバッグをくっつけて準備完了だ。

荷物をぜんぶのっけた状態は、実は初めてだったりするのだが、その無骨さがまたイイ。
デンドロビウム・ザンザスと呼ぶに相応しい。

荷物を搭載するのは思ったほど重労働ではなかったが、いまはけたたましくセミが鳴く夏の午後。
暑さでシャツが汗でびっしょりになった。
そのシャツをそのまま置いていくわけにもいかず、洗濯をして部屋に干した。
ついでに、帰ってくるまでのテレビ番組の録画予約もチェック完了。

さて、出発準備完了だ。

バイクシューズを履き、上野のバイク街で奮発して買ったパープルのライダーズジャケットを着て、
通気性の良い薄地のグローブを装備。
そしてショウエイのフルフェイスヘルメット。当時としては画期的なフロント部分が
上部に跳ね上げられる構造をしており、場合によってはジェットヘルのような快適性も
兼ね備えている逸品だ。

エンジンをかけると、ザンザスの4ストロークエンジンが軽快なサウンドを奏で躍動する。
これから一緒に冒険する、頼もしき相棒だ。
さあ、行こう。出発だ。

やや涼しくなった夕方、アクセルをふかし、スタートする。
「おっと」
リヤシートに大荷物を載せて重心が後方に引っ張られるため、急加速をするとウイリーしそうになる。
これはちょっと気をつけないとだ。

集合場所であるユージのバイク屋に4人全員が集まり、そこからフェリーターミナルの大洗港へ
向かう。
後にガールズ&パンツァーという戦車と美少女のアニメの舞台となる大洗港。
トワイライトの中、その特徴的な大洗タワーの向こうに、これから4人が乗るフェリー
「さんふらわあおおあらい」がその巨大な姿を現していた。
バイク用の駐車場には、もう何十台ものフェリー搭乗待ちのバイクがスタンバイしていた。

搭乗手続きを済ませ、乗り場のロビーで搭乗時間までしばしくつろぐ。
のぼる以外の3人は道内すべて宿で泊まるため荷物は着替えやレインウエアくらいのもの。
のぼると比べて圧倒的に荷物が少ない。
「のぼる、おまえオレらのなかで浮いてるぞ」
ヒイロにつっつかれる。
「ふっふっふ。かっこいいでしょー。ザンザス・フルアーマーですよ」
「意味わかんないから。どうせなんかのアニメ用語なんでしょ?」
ユキが呆れながらにらむ。
「まあまあ」
それをユージがなだめる。
この4人のそれぞれの立ち位置は、だいたいそんな感じだ。

2015/10/30 10:53  [1498-3959]   

いよいよ出航。
バイクをフェリーの車両甲板に載せ、荷物はすべてバイクから下ろす。
必要な荷物だけ持って客室へ上がる。
4人は二等船室という、ベッドが個人に割り振られた部屋だ。
いまは7月の下旬とあって、まだ旅行シーズン前。けっこう空いていた。

大洗港の夜景を見ながら、フェリーは動き出した。
さらば茨城。さらばひたちなか市。さらば動燃。

4人は酒とつまみを持ってラウンジへ繰り出した。
出航直後でテンションが上がっているわりに、もう夜なので寝るか呑むか、しかないのだ。
日本酒を紙コップに注ぎ、乾杯をする。
いよいよ始まった北海道ツーリングプロジェクト。
道内ではどんなことが待ち受けているのか、4人とも舞い上がっていた。

酔いつぶれる前に上陸してからの行程をみんなに改めて説明する。
明日の19時頃に北海道の苫小牧港に到着。
すぐに登別の宿へ行き宿泊。
翌日は海沿いを南下して函館へ行き宿泊。
次の日は小樽を経由して札幌へ。
簡単にこんなところだ。

昼食のポイントなどはその都度タイミングをみて決めていく。
宿はすべて予約してあるので安心だ。

「のぼるさん、オレ北海道初めてなんスよ。どんなとこなんですか」
ユージが聞いてきた。
「そうだな。飽きるまでバイクをかっとばしても、景色が変わらないほど広いんだ」
そう簡単に説明すると3人は「ほーっ」とため息をついて目を輝かせた。

「宿はどんな所なんだ?」
ヒイロが聞いてきた。
「初日の登別はユースホステルで素泊まり。ユースですが温泉付です。
函館では漁師の民宿で、食事は獲れたてのイカが食べ放題らしいです。
ラストの札幌では大通りに近い旅館で2泊します。食事はすべて外食。」
「なるほど。それで各宿が一泊5000円以内なのだから安いもんだ。のぼるのくせにやるな」
なんか誉められた気がしない。

「美味しいもの、どんなのを食べる予定なの?」
グルメ担当のユキが聞いてきた。
「カニ飯、イカ刺、サッポロの味噌ラーメン、ビール園でジンギスカンなど、メジャーどころは
一通り食べ尽くすつもりでいるよ」
「あら、さすが。1回しか行ったことないくせに北海道通を気取るだけあるわね」
ぜんぜん誉められた気がしない。

トイレへ行って戻ると、ユキは先に船室に戻って寝たらしい。
あとは男同士、バイクの話を肴に盛り上がった。
そして正午をまわった頃、船室に戻って寝た。

ちなみにこのフェリーは少し老朽化しており、船室が船のエンジンの近くらしく
騒音と振動がひどかった。
新潟・小樽のフェリーはもっと静かで寝心地がよかったわ。

2015/10/31 09:35  [1498-3965]   

朝。
小鳥のさえずる声もない。フェリーのベッドで寝ているのだから当たり前だ。
時計をみるとまだ7:00。昨晩は飲んだくれて寝るのが遅かったから、もう一眠りしたい。

8:00。
「ちょっと、みんな起きなさいよ。大変なの!」
ユキが大声で男どもを起こす。
「何事だよユキ・・・」
眠い目をこすりながら起き上がる。
「レストランの朝食は8:30までの受付だから、早く食べに行かないと昼食まで何も食べられないの」
「えー。オレ二日酔いだからあんまり食べたくないんだけど」
「いいから行くの! ゴールドクラッシュ!」
首筋に地獄突きをされる。
「ギャー」

のぼるとヒイロは仕方なく起きてユキとレストランへ向かった。
ユージはなにをしても起きず、グッスリと寝たままだったので放っておく以外なかった。

船内レストランは1000円で食べ放題のバイキングだった。
二日酔いで食欲ないのに1000円ぶんも食えるわけがない。
こんなことなら乗船前に朝食用の菓子パンをいくつか買っておけばよかった。

それにしてもユキはよく食べる。
大盛りごはん、焼魚、納豆、温泉卵、特盛サラダ、牛乳、オレンジジュース、ピーチジュース。
のぼるがチョイスした3倍の量はある。
「食べ放題だし、もったいないからおかわりしてくる。あ、ハムエッグ出来たてだ♪」
まだ食うか、この娘は。
「いつものことだから気にするな。ユキのこと普通の女だと思ったらバカ見るぞ」
ヒイロはすまし顔でコーヒーを飲んでいた。

朝食を終え、船室に戻るとユージが起きていた。
「いきなりハブるとかひどいっスよ。俺だけ置いてメシ行くなんて」
爆睡ぶっこいてたくせに何を言うか。

昼間は特になにもすることがないので、各自思い思いに行動した。
風呂に入ったり、ゲーセンに行ったり、甲板で海風にあたったり。
外は快晴で非常に気持ちがいい。
北海道でも毎日こんなくらい天気がいいということナシなんだが。
特に3人と別れた後はキャンプ生活が主体となるので雨天は勘弁してほしいところ。

船内をブラブラしてると、ゲーセンに「ダライアス外伝」があったので思わずプレイ。
TAITOのシューティングはかなり好きだ。
このゲームはセガサターンでもやり込んでいたのでワンコインクリアもできるはず。
なんてことをしていたら、気付いたときには5〜6人のギャラリーに囲まれていた。

夕方、すこし早めの夕食をとった後、海を見ていたらフェリーの速度に合わせて
野生のイルカが飛んだりして遊んでいるのが見えた。
まるで「北海道へようこそ♪」と歓迎してくれているかのようだった。

間もなくして、苫小牧の陸が見えくると、次第に船内は下船の準備で慌しくなってきた。
さあ、いよいよ北海道に上陸だ。

2015/11/1 21:31  [1498-3966]   

フェリーが苫小牧港に接岸する頃には陽は完全に暮れていた。
ライダーは車両甲板に降り、荷物の搭載作業に追われた。
ほかの3人は、基本的にバッグをネットロープで縛るだけなので大した時間はかからないが
のぼるの場合は大きなバッグを載せることによって、ゴムロープのテンションに
けっこう気遣うので、NS−1のときより簡略化されたとはいえ、やはり時間がかかる。

ま、どうせバイクがフェリーから出れるのは自動車やトラックが全て出てからになるから
焦る必要はない。

「それではバイクの方、順に出てください!」
係員の合図に従ってタラップを進み、港に降り立った。
ついに、再び北海道の地に戻ってきたのだ。
「ソロモンよ、私は還ってきたー!!」
もうね、こう叫ぶしかありませんよ。興奮、テンションマックス。
あーにーじゅー、あーおーちゅー。ヘビロテだ。

4人は一旦止まり、のぼるは本日これから向かうユースホステルに確認の電話を入れた。
苫小牧港から登別までは2時間ほどかかり、到着は21時頃になる予定だ。
あまり時間がないので、すぐ出発だ。
「到着した余韻を楽しむ余裕もありませんが、すぐに登別のユースホステルへ向かいます。
とりあえず話はそれからです」
4人はさっそく出発した。

夜の海沿いを疾走する。
市街地を抜け、街明かりの乏しい地域になっていくが、4車線が多く信号が少ないので
かなり快適に進むことができた。

やがて、遊園地のような施設が見えた。
登別パークニクス。前回ちょっと立ち寄ったところだ。
ああ・・・見覚えのあるところに来ると、なんか安心する。
まる1年かけてイスカンダルを往復し、地球の姿を見たときの沖田艦長の気持ちがよくわかる。
「登別か・・・なにもかも、懐かしい」

そこから少し内陸へ進むと、登別の華やか温泉街が広がる。
ユースホステルはその温泉街からやや離れた、静かなところにあった。
ユースのおばさんが出迎えてくれて、バイクは車庫に入れさせてくれた。

必要な荷物だけ持ってユースに入った。
建物は古いが、施設内は清潔でキレイだ。大切に運営されているのがよくわかる。
2階の部屋に案内される。
10帖ほどの広さに二段ベッドが4つ。いわゆる8人部屋だ。
ユースはたいてい男女別相部屋になるものだが、いまはシーズン前なので客も少ないため
ウチらの貸切部屋にすることができた。

ジャージに着替えると、ようやく一息ついた。
「のぼる、ちょっとそのへんのコンビニ行って酒買ってこいや」
一息ついた瞬間にヒイロからパシリにされる。
まあ、ヒイロの奢りだから、いいか。

外に出てコンビニを探して歩く。温泉街の繁華街へ向かうとローソンがあった。
「お」
ふつうにビールを買おうとしたら、北海道限定ビールがあるではないか。
キリンビールで「北のきりん」アサヒビールで「道産の生」サッポロビールは
「サッポロクラシック」だ。こいつはうまそう。
まずは北のきりんを4缶買ってユースへ戻った。他のやつは明日以降の楽しみだ。

ユースの居間で4人で乾杯した。
「まずは無事初日終わり。お疲れさまでした」
「だな。夜だったから景色はなにも見れなかったが、明日からが楽しみだ」
「このビールうまーい♪」
「フェリーの中はすることなくて退屈だったから、明日はかっとばしたいです」
3人とも上機嫌だ。

そのあと、一番風呂に入った。
さすがに名高い登別の温泉。乳白色の熱い湯でけっこう硫黄匂があるが、疲れを癒すことができた。

さっぱりしたところで部屋に戻ると、3人は各々のベッドでくたばっていた。
フェリーのベッドは寝心地悪かったし、やや揺れてたのでみんな酔っていたのかもしれない。
明日の予定についてミーティングしたかったが、まあ明朝にやるしかないな。

のぼるも布団に入ると、一瞬で深い眠りについた。

2015/11/3 09:58  [1498-3968]   

長万部のシーサイドロード かにめし屋の前で

よく寝た。
朝日が眩くて目覚めた。

布団から起き上がると、なんと他の3人はとっくに起きて荷物の整理をしていた。
「やっと起きたのか、のぼる。相変わらずトロいんだよお前は」
え。いままだ7時だよね。
「あたし5時に起きて温泉に入ってたよ」
それは早起きすぎるだろ。
「いい天気ですよ、今日は暑くなりそうですね」

朝食を済ませ、昨日できなかったミーティングをする。
本日の目的地は函館。
基本的には海沿いを走るため、道に迷うことはありえないので、のぼるが先導するまでもない。
途中、長万部で昼食、大沼でおやつ。
夕方には函館の民宿に到着し、余裕があれば夜景を見に函館山へ。

ちなみに長万部と大沼の間に「森町」という街があるのだが、そこはいかめし発祥の地で、
他のものとは一線を画すうまいいかめしが食べられるらしい。
だが、たぶんそんないろいろ食べることなど無理なので、いかめしを割愛するしかなかった。
そんな話をしようものならユキが「絶対食べる」とか無理を言い始めるだろうから、とりあえず
内緒にしておいた。

荷物をまとめ、オーナーのおばさんに挨拶し、ユースホステルを出発した。

ユージ、ユキ、のぼる、ヒイロの順に走る。
無理なき走行と判断ができるものが先頭、あとは遅い順に走るのがセオリーだ。
虻田町まで内陸を走り、そこから海沿いとなる。
いくつかのトンネルを抜けると果てのない一本道になる、思いで深いとても懐かしい道だ。

単調な景色に飽きると、最後尾のヒイロがしびれをきらせて急加速してかっとんでいき、
ユージもそれにつられて超スピードで彼方へ行ってしまった。
おい・・・ゆっくり走っているつもりでいたのかもしれないが、これでも120km/hは出てるんだぞ。
あの2人は何キロ出してるんだ。
ユキのバイク「ジール」はいちばん排気量の少ない250ccで、120km/hくらいが巡航としては
限界のスピードだろう。
のぼるのザンザスはたぶんもっとスピードは出るだろうが、カウルのないネイキッドでは
それ以上のスピードとなると風圧が辛くなるので、このへんの速度で落ち着きたいところだった。

順調に進み、計算通りお昼に長万部のカニストリートに到着した。
3年前にのぼるがカニ飯を食べた店は健在で、そこでカニ飯を食べた。
当時と変わらず素朴な味は食べててほっとする。
北海道上陸後、最初のグルメとあって3人も満足げであった。

2015/11/3 14:25  [1498-3969]   

今日は暑い。
ヒイロとユージは昼食後ジャケットを脱いでTシャツ一枚で走っていた。
のぼるは肌が焼けるのを嫌うのでガマンしていた。
風呂に入ったときにヒリヒリしたり皮がむけるのは、イヤなんだよ。

長万部の海岸線沿いをひたすら走る。
3年前は対向車線がひどく渋滞していたが、今回はまだシーズン前なので空いていた。
ただ、それでもトラックやダンプカーが多いのでストレスが溜まる。景色の邪魔なんだよ。

そういえば、すれ違うライダーの多くが、リヤの荷物に小さな旗(フラッグ)付けて
走っているのが気になっていた。
みんな同じような旗をつけているのだ。
途中、JOMOのスタンドで給油したときに店員に聞いてみたら、あの旗はホクレンの
ガソリンスタンドで給油するとタダで貰えるとのことだった。
あー、ライバルの他社のものだったのか。悪いこと聞いてしまった。
ちなみにホクレンは本州ではほとんど見かけないが北海道で全域をカバーするメジャーなスタンドだ。
バイクへのサービスが手厚いことから多くのツーリングライダーから絶大な支持を受けている。

進行方向の海の彼方にキレイな三角形をした山、駒ヶ岳がうっすらと見え始めた。
あの山を越えたところに大沼がある。
だが走っても走っても一向に山が近づく気配がしない。
ほんと、広いわけだ。

ひまなのでヘルメットの中で大声で歌う。
レパートリーは主に尾崎豊。

 街までのハーフマイル アクセル踏み込む スピードに目をやられ 退屈が見えなくなるまで
 少しくらいの時は 無駄にしてもいいさ 色あせた日常につぶやく 俺にとって俺だけが
 全てというわけじゃないから 今夜俺誰のために 生きてるわけじゃないだろ

くぅー。シビれるね、尾崎。

やがて山あいの道に入っていくと、すぐに大沼に到着した。
のぼるがキャンプした地でもある。
湖のほとりに遊園地やホテル、キャンプ場など様々なレジャー施設がある有名な観光地だ。

バイクを停め、湖のほとりにあるだんご屋に寄って、名物のだんごを注文し、店内で食べた。
小さな折詰の箱に小さめのだんごを敷き詰め、その上に醤油だれと胡麻のあんが半分ずつ
かけられている。
「うわぁ、だんごやわらかくておいしぃー!」
ユキも大絶賛。
のぼるは3年前にここに来たときに惜しくも食べられなかったのだが、今回こうして食べることが
できたのは、なんとも感慨深いものだ。

休憩の合間にのぼるは今日これから向かう宿に連絡をして、夕方には到着する旨を伝えておいた。
たしかここから函館に市街地までは1時間もかからないはず。
夕方前には楽勝で宿に到着できるだろう。

2015/11/3 22:23  [1498-3972]   

大沼の湖畔でリフレッシュし、函館へ向けてラスト・ラン。
空は相変わらず快晴で、林からセミが泣き叫び、まさに真夏の暑さ。
3年前にはなかった、夏らしい暑さだ。

15時過ぎに函館の民宿に到着した。
民宿ピープル。
大通り添いにあったのですぐ見つけることができた。

一階はもと居酒屋だったところで、そこが食堂。
二階の客間に案内された。
16畳もの広い部屋をウチらだけの貸切にしてくれた。
もともと漁師をしている夫婦が民宿も経営しているが、とても親切だ。
夕食まではまだ時間があるので、風呂を準備してくれた。

「オレ、一番風呂な!」
ヒイロが速攻で準備をして風呂へ向かった。
昨晩のぼるが一番風呂に入ったのを根に持っていたのかもしれない。

ヒイロが風呂から上がるまで部屋でくつろいでいたが、暑くてたまらん。
とりあえず近くのコンビニでビールを買ってきてユージとユキとで乾杯した。
くはー、キリっと冷えていてたまらん。
「お前ら・・・」
風呂からあがってきたヒイロが怒る怒る(笑)

全員が風呂からあがると、まもなく夕食となり一階の食堂へ降りた。
座敷のテーブルには、とても食べきれないくらいのご馳走が並べられていた。
これでもか、と盛られたイカ刺、カレイの煮つけ、イカと白魚と豚肉の天ぷらなど豪華すぎ。
イカ刺はむちむちした食感とほんのり甘い味がたまらない。
これが新鮮なイカの味なのか。
煮つけも天ぷらも、食べごたえ満点であった。

出されたごちそうを全て食べ終えると、全員これ以上入らないくらい満腹状態となった。
大食漢のユキも、しばらく動けないほどであった。

部屋に戻ると「ねえ、あたし函館の夜景を見に行きたい!」とユキが提案してきた。
そいつは名案だ、と全員で表へ出た。

30分ほどかけて函館駅前へ行き、そこからバスに乗って函館山へ向かう。
函館山は自家用車やバイクの乗り入れは禁止されているから、一般の観光客はバスを利用
するしかないのだ。
「オレ、ここに来たときはあの函館駅のそばでシュラフ敷いただけの状態で一泊したんですよ」
とちょっと自慢気に説明すると
「旅するときくらい宿に泊まれや、この腐れ貧乏人が」
と辛辣なヒイロ。
「女の子にはできない芸当ね。でも安全が保障されていたとしても私は歩道とかで寝るのはイヤ」
と露骨にイヤそうな顔をするユキ。
「へえー、すごいっすね」
感情のこもっていない褒め言葉を突き刺すユージ。

みんな男のロマンがわかってないよ。ふん。
テレぴーに案内された激ウマ海鮮丼の店「道南食堂」なんて絶対教えてやるもんか。

2015/11/4 22:57  [1498-3974]   

夜のバスに揺られてひたすら山を登りつめる。
このバスは函館山行きで、乗客も函館山観光目的なのでバスガイド付きだった。
函館山のウンチクを山頂到着まで延々と聞かされた。

山頂に到着。
観光客についていくと、展望台があり、そこから夜景を見ることができた。
百万ドルの夜景。宝石を散りばめたような街灯やホテルの明かりが
津軽海峡に突き出た函館の街並みを照らしている。
海の沖にはイカ釣り漁船のライトがいくつも光っている。
いや、これは見事。これは見るべき。ブラボー!

などと感動するのは眺めて5分ほど。
あとは、観光客のごったがえしに人酔いし、子供は泣き叫び、見知らぬカップルはここまできて口論、
そしてそのへんのスピーカーから迷子の案内がひっきりなしに流れ続け、せっかくの雰囲気が台無しだ。
できることなら、ここへは平日で人が少ないときに来るのがベターなのだろう。
でもまあ、来てよかったとは思った。

帰りのバス。
ぎゅうぎゅう詰めで、運よく席に座れたが目の前に初老のおばさんがいたので譲ってあげた。
山頂から出発して間もなく、バスガイドがまたウンチクを説明しはじめた。
「え、みなさま函館山から見た夜景はいかがでしたでしょうか。ふもとへ降りるまで、
バスの中少々揺れるかと思います。お気分の悪くなられた方、わたくしの方でゲロ袋を
ご用意しておりますので、おっしゃっていただければ差し上げます」
ゲロ袋、と聞いて車内は大爆笑。
美人のバスガイド、すまし顔でウンチクだけ語っているだけかと思ったが、ここにきて
ネタに走るとは、やるじゃないか。

そんな感じで函館駅に到着し、宿へ戻った。
部屋でビールを飲みながら、明日のミーティングをした。

明日の目的地は札幌。
本日走行した200キロよりももっと長い、約300キロを走らなければならない。
ルートとしては2つ。
本日走ってきた道をそのまま戻る「太平洋側ルート」と、のぼるが3年前に走った
「日本海側ルート」である。
距離的に少し長くなるが、まだ走ったことのない日本海側ルートのほうが景色的に楽しいし
ダンプやトラックが少ないのでかなり魅力的なルートである、そう説明した。
ユキとユージはもちろん日本海側ルートに賛成したが、ヒイロは太平洋側ルートに挙手した。
「ただでさえ300キロもの長距離を走るんだ。最短距離を走ったほうがいいだろ」
という理由だ。

このメンバーの最年長でのぼるの先輩であるヒイロの意見は、鶴の一声に等しく絶対なので
それに従うこととなった。
くそう、同じ道を引き返してなにが楽しいってんだ。
違う道があるならふつう絶対そっちをチョイスするだろうに。
そんな感じでミーティングを終え、それぞれ布団に入って消灯した。





・・・いまいち眠れない。
ヒイロとユージ、ユキまでも高々とイビキをかいて寝てるというのに。
トイレに行こうと廊下に出ると、奥の部屋からオーナー夫婦ともう一人、別の客と思われる人の
なにやら楽しそうに盛り上がっている声が聞こえた。
ここはひとつ、図々しくも仲間に入れてもらいましょうか。

「ちわー、眠れないので少し私も仲間に入れてください」
と部屋に入ると、大人たちは快くのぼるを歓迎してくれた。
奥さんはイカを慣れた手つきでさばいて出してくれた。
それを食べてみると、夕方食べたイカとは何か違う。歯ごたえがシャキシャキしてるのだ。
「わかるか。ついさっきオレが釣ってきた獲れたての超新鮮なイカなんだよ」
お客のおじさんがそう説明してくれた。
「そうだったんですか。獲れたてのイカってぜんぜん味が違うんですね!」
これは感動。
この民宿では希望する客に「イカ釣り体験ツアー」という、イカ釣り漁船に乗って沖合で
イカを釣るという体験ができる。
ウチらは体力的にヘトヘトだったのでお断りしていたのだが、こんな美味いイカが食べられるなら
そのツアーも大いにアリだと思った。
「イカってのは鮮度が命だからな。まあ飲め! 他の仲間たちみたいに寝なくてよかったな」
オーナーの旦那さんがビールも勧めてくれた。
3人には悪いけど、ここは内緒で文字通り漁夫の利を頂くとしよう。
ラッキーちゃちゃちゃ! フィーバー!!

などと調子こいて午前2時くらいまでフィーバーしていたのぼるであった。

2015/11/5 22:35  [1498-3975]   

「のぼる、いつまで寝てるの。朝ごはんだって。早く起きなさい。ギャバンダイナミック!」
「ギャー」
ユキに手刀で脳天を叩かれる。
起きると、もうみんな布団をたたんで仕舞っていた。
うあー。寝不足だ。昨日遅くまで起きてたからな。

朝食はごはんに味噌汁、そしてガバ盛りのイカ刺。昨日に引き続き大盤振る舞いだ。
もうしばらくイカは見たくないと思えるくらい食べつくした。

食後、顔を洗って速攻で出発の準備を整え、宿の夫婦に挨拶をして出発した。
9:00か。今日もがんばって走ろう。

朝の函館を抜ける。
2度来て、大して観光していない。五稜郭や外人墓地、トラピスチヌ修道院など
まだ行ってないとこ、たくさんあるのに。
函館に来てウニ・イクラ・ホタテを食べてないのも心残りでもある。
ま、またいつか来れるさ。そのとき堪能しよう。

大沼、森をスルーし、長万部まで来たところで給油タイム。
ホクレンのスタンドで給油したら、情報通りフラッグがもらえた。
「セフティサマー北海道」と書かれた緑色のフラッグ。
それを荷物のてっぺんに取り付けた。うむ、かっこいい。これでザンザス北海道仕様の
ドレスアップは完璧だ。
ちなみにエリアによってもらえるフラッグの色が違うらしい。
道北ではオレンジ、道東ではイエローなのだそうだ。
ようし、これはコンプする楽しみができた。全色揃えて掲げてやるぜ。

長万部の市街地を抜けると、今度は内陸のワインディングロードとなる。
しばらく走ると右手に羊蹄山が見えた。
懐かしいな、羊蹄山。
あの山の彼方に洞爺湖があるんだった。ヌッシーとイクラちゃんは今どこで何をしているのだろう。
羊蹄山を見ながら懐かしい思い出に心を躍らせた。

しかし、寝不足ののぼるの思考能力はここにきて限界になっていた。
時計はすでに13:30をまわっており、空腹と睡魔が交互に襲ってくる。
先頭を走るヒイロは超絶スピードで観光バスだろうが大型トラックだろうがお構いなしに
ガンガン追い抜いて走っている。

ようやく信号待ちで止まり、会話することができた。
「ヒイロさん、どっかで食事にしましょう。オレもう限界です」
「あたしもおなかペコペコだよ」
「なんだよだらしねーな。まあいい。どこか食堂かレストランでもあれば止まるか・・・あれ、
ユージはどうした」
振り返るとユージがいない。のぼるの後方で走っていたはずだが。

突然後方のダンプカーがホーンを鳴らして、運転手のオヤジが身を乗り出して叫んだ。
「おーい、あんたらの後ろを走っていたFZRのライダー、ついさっき事故ったぞ!」
なに! ユージが事故っただと!?
「そのライダーは無事でしたか?」
のぼるがダンプのおやじに聞く。
「わからん。オレは事故の瞬間を見ただけだ。事故処理を手伝うより、あんたらに事故を
伝えたほうがいいと思ってな。そのバイクは、右折しようとしたクルマを追い越そうとして
ぶつかったんだ。けっこう派手にぶつかったからな、早く現場に行ってやんな」
その話を聞いて、ヒイロは顔がひきつり、ユキは眼をうるうるさせていた。
「わかりました。わざわざ伝えてもらってありがとうございます!」
3人はオヤジにお礼を言うと、一刻を争う事態にすぐに引き返した。

ユージ、死ぬな。死ぬなよ!

2015/11/6 23:25  [1498-3977]   

数分走ると、事故現場についた。
ユージは無事か。無事なのか!

あ。立って歩いてる。ゾンビになっていない限り、無事のようだ。
自動車に乗っていた人は、オバさんが二人。二人とも怪我はなかったが
気付いたらバイクが突っ込んできた、という精神的ダメージがあったようだ。
白のセダンは右後方ドア部が見事にへっこんでいた。

ユージは運よくかすり傷程度で済んだ。クルマに突っ込んでおいてその程度で済むとは
バイク屋のせがれは伊達じゃない。ただし、昨日のようにTシャツ一枚で走っていたら
どうなっていたことか。今日はジャケットを着ていて本当によかった。
バイクは左のウインカーがつぶれ、クラッチがひしゃげたくらい。
カウルに大傷ができてしまったが、走行に支障はなかった。

警察がやってきて、現場検証がはじまった。
ユージはスピード違反、追い越し違反(追い越し禁止区域だった)の切符キップを切られた。
だが、ツーリング中の安全やネズミ捕りのポイントを教えてくれたり、と親切な警官だった。

被害者のオバさん方と保険のやりとりも連絡先をとりあい、後日改めて、ということにして
その場は解散となった。
「みなさん、ご迷惑おかけしてほんとにすみませんでした」
ユージが改めて謝った。
「いやいや。大した怪我がなくてほんとによかったな」
「本当よ。事故ったって聞いたときは、ユージ死んじゃったって思ったんだからー!」
「俺も悪かったよ。もうちょっとスピード抑えて、安全運転で走ることにしよう」

チームワークも元通りになったところで、再び出発した。
札幌まで残り約50キロ。1時間程度で到着するだろうということで、食事はしないで
進むことにした。
まあ、事故のあとでメシといってもまともに喉を通らないし。

途中、小樽市に入ったらへんのバイク屋に寄って、ユージのバイクのクラッチレバーを交換した。
ウインカーだけは交換部品がその店に無かったので茨城に帰ってからの修理となった。

小樽の市街地を抜け、日本海の海沿いを札幌に向かう。
北海道の県庁所在地である札幌は、ほかの地域と比較にならないほど近代的な建物が並ぶ。
高層ビルが立ち並び、整然と区画された道路は4人の方向感覚を一発で狂わした。
交差点の信号に「東2 南3」と現在位置を示す座標の標識があるのだが、
本日の宿のある「東4 北4」にたどり着くまで街中を30分ほど彷徨うこととなった。

本日の宿は「泉屋旅館」。札幌駅から徒歩10分という好立地にありながら素泊まり3500円という
すばらしく格安の宿である。
どんなボロ宿かと思っていたが、部屋もキレイだし布団もふかふか。
なにも指定していないのに、ウチらのために4人用の部屋を2部屋も貸してくれた上に
洗濯機も洗剤付きで使い放題ときた。
ここでは2連泊する予定なので、大助かりのサービスだ。

バイクから荷物を全部降ろし、部屋に運ぶとさっそく衣類の洗濯を開始。
ジーンズなどは洗う機会があまりないのでここぞとばかりに洗いまくる。
荷物を固定するロープを部屋に張り巡らせ、片方の部屋は瞬く間に洗濯専用部屋と化した。
身体的にはヘトヘトなのだが、洗濯できるタイミングは今しかないから、働く働く。

各々の荷物の整理がひと段落つくと、ヒイロが立ち上がった。
「よし、少し早いが、ビール園へ行って夕食にしようか」
待ってました。もう腹へって死にそう。

夕食の場、サッポロビール園までも宿から徒歩15分程度。
まったく素晴らしい宿だよ。この泉屋旅館は。

2015/11/7 22:32  [1498-3978]   

サッポロビール園は繁華街から外れたところにあった。
屋外に何百人も収容できる広大な敷地。サッポロビールの工場と直結して新鮮な生ビールを
ジンギスカンとともに味わえる札幌の名所のひとつだ。
証明が灯り、レンガ造りの工場がスポットライトの演出でキレイに照らされている。

さすが名所、園内はほとんど満席でごったがえしており、4人は少し待たされてからようやく
野外のテーブル席に座ることができた。
飲み放題食べ放題で一人3000円。高いか安いかは、食べる人次第だ。

余分な脂が流れるよう傾斜のついたジンギスカン鍋に、野菜をドサっと載せ、その上から
肉をかぶせていく。
各地によって焼き方は違うようだが、ここではそうやるのが定番らしい。

「というわけで、今日はみんなお疲れさま。ユージが事故って一時はどうなるかと思ったが
何はともあれなんとか無事に札幌に到着できてよかった。死ぬほど飲んで食べようぜ!」
ヒイロが音頭をとって、みんなジョッキを高々と掲げる。
「かんぱーい!」
ズシリと重量感あふれるジョッキを傾け、息の続く限り喉を鳴らして飲む。
っぷはー!
さすが出来立て新鮮の生ビールはうまい。この快感、たまらん。

肉が焼けると、みんな箸をのばして肉を次々と自分の皿に載せ、ポン酢をぶっかけて食べた。
くはぁ。うめー。
焼けるまですこし時間がかかるので、焼き始めた段階で次の皿の注文を繰り返した。
「ユキ、肉ばっか食ってると太るぞ」
「太らない。あたし太らない体質だから」
「そか。じゃあ今何キロなんだ。言ってみ」
「うっさい! 乙女の体重を聞くんじゃないわよ。シャイニングフィンガー!」
「ギャー! 割れる割れる割れる!」
タマ姉直伝のアイアンクローをかまされる。

昼食を抜いたぶんまでさんざん飲み食いし、これ以上なにも入らない状態で宿に戻った。
それぞれ順番に風呂に入り、あとは寝るだけの状態になったところで明日のミーティングをした。

明日は1日札幌の見どころを巡る予定。
「大通り公園、時計台、旧北海道庁とか・・・食いどころとしては、軽食に雪印パーラー、
あとは定番としてススキノあたりでラーメンですかね」
のぼるがだいたいのプランを提案すると、皆それに頷いた。
「まあ観光箇所としては王道ってとこだな。ラーメンは横町で食べるとダメらしいけど
なんかうまい店知ってるか?」
ヒイロが質問する。
「味の時計台っつー店が評判いいらしいのでそこがいいかなと」
「あ、なんか聞いたことある。みそラーメンといえばそこっていう感じだよね」
ユキが目ざとく太鼓判を押す。ではそこに決定だ。

計画がまとまったところで、消灯し布団にもぐった。
次の瞬間意識が飛ぶ。
寝不足で300キロもの長距離を走ったのだから、当たり前だ。

2015/11/8 20:52  [1498-3980]   

札幌の夏は、暑い。
目覚めるとシーツが汗でじっとりと濡れている。またTシャツ洗濯しなきゃ。

4人は軽装で外に出た。
真夏の日差しが寝起きの眼球に突き刺さる。
ツーリング時の天気が安定して快晴なのも珍しい。いつもはたいてい雨にやられるのに。
のぼるは雨男だと思うが、今回はどう考えても晴女の勢力が圧倒的に勝っているのだろう。
「なんか言った?」
ユキが冷たい視線でのぼるを見る。
「いーえ、じぇんじぇん。あ、そこを曲がると時計台らしいよ」

たくさんのビルの立ち並ぶ隙間に挟まれるように肩身の狭い建物があった。
しかも、現在改修中らしくシートで建物全体が覆われており、その全貌は見えなかった。
そのシンボルである時計だけは透明なシートで外から見えるようにはなっていたが、
べつに現時刻が知りたくてここに来たわけではない。
明治維新時代のステキな建物が見たかったのだが、まあ仕方ない。次に行こう。

そこから歩いて10分ほどで旧道庁に到着した。
北海道旧本庁舎。緑のきれいな公園の奥に鎮座する、明治の古きよき時代を象徴するかのような
赤茶けたレンガ造りの議事堂のような建物。
文明開化を偲ばせる堂々たる庁舎は一見の価値ありだ。

公園の露店のテーブルで休憩した。
朝からなにも食べてないのでなんか軽食を、と思うよりも先にヒイロとユキは速攻でビールを
飲んでいた。

休憩後、旧道庁内部を見学し、その流麗な内装を堪能した。

さて、次は雪印パーラーで昼食だ。
旧道庁の公園を出てすぐのところにある、文字通り雪印乳業直営の主に乳製品デザートが楽しめるお店だ。
小奇麗な喫茶店で、いかにも女子高生やOLしか来れないような雰囲気の店だった。
のぼるとユージはドリアやスパゲティと軽食を頼んだが、ヒイロとユキはボリュームランチとかいう
やたら胃と腹にきそうなものを頼んだ。おまえらさっきビール飲んでたよな。

ちなみにここのウエイトレスのコスチューム(制服っていえよ)はとても可愛い。
清楚で小洒落た衣装に清潔感のあるフリル付エプロンの姿。
そのウエイトレスの中でも池田ちゃん(実名:ネームプレートで判明)が特に可愛かった。
タッチの南ちゃんのようなショートボブの髪型がとても素敵。

デザートにフローズンヨーグルトを食べたが、コク深くまろやかな舌触りが市販のものとまるで違った。
これはうまい。
他にも、3〜4人でつつきあう超大盛パフェなんてものもあって、ちょっと食べてみたかったが
全員の同意が得られず断念。まあ、パフェというより鍋だよありゃ。

食事を終え、外に出た。
「くったくった。少し昼寝したい気分だ。いったん宿に帰るとするか」
ヒイロがそう言いだした。
昼から他に行く宛てもない4人はひとまず宿に戻り、のぼる以外は昼寝を開始。

のぼるは別の部屋でテレビを見ていた。
さすがに地方のテレビは面白い。CMなど北海道色があるれている。
「バ〜リバリ、夕張♪」
という夕張市のCMは何度も流れ、気付くと鼻歌でフレーズを歌いだすくらいインパクトが強かった。

2015/11/9 10:49  [1498-3981]   

ツーリング先に来てまでテレビっ子してるわけにいかないので、一人で外に出た。
すぐ近くのサッポロファクトリーという商業施設に遊びに行った。
今でいうところのイオンの大型ショッピングモールで、1日中見て遊べるところだ。

そこで本屋をみつけて、ある本を探した。
「疾駆北駆’す ツーリングマニュアル」という北海道バイクツーリングの本だ。
道内で作られた北海道を旅する者のための冊子で、これは本州では手に入らない幻といわれた本だ。
だが、残念ながらここでは入手できなかった。
理由は後で知ったのだが、その本は一部のとほの宿やユースホステルなどの宿泊施設でしか
出回っておらず、こういった一般書店では流通していないのだそうだ。

仕方なくいろいろ立ち読みし、ウインドウショッピングして時間をつぶしてから宿に戻った。

夕方になって全員が起きた。
昼間の暑い空気もだいぶ和らぎ、涼しい風が吹いていた。
さて、夕食を食べにいこう。
ここからススキノへは歩くとやや遠いのでバイクで出かけた。

夕方のラッシュをヒョイヒョイと避けながら「ラーメン寶龍(ほうりゅう)」という店に着いた。
ほんとうは「味の時計台」という店に行きたかったのだが、手元の情報で場所がいまいち
わからず、この店に来たのだった。
だが、この「ラーメン寶龍」も有名人が多く来店する評判の店として名高いので、きっとうまいのだ。

店内は夕方とあってかなり混んでおり、数分待ってカウンターに座った。
みそチャーシューめんを頼む。
カウンターごしに見える料理人のおやじの手さばきは実に見事。
大量の野菜を中華なべに投入、2〜3種の調味料とともに手早く炒め、チャーシューの塊を
丁寧に切り、ゆでた麺を丼の中に入れ、野菜、チャーシュー等をトッピング。
ひとつひとつの動作に無駄がない。

「ヘイおまち、みそチャーシュー一丁!」
おお、うまそう。野菜が超大盛でボリューム満点だ。
まずはスープ。野菜のエキスがたっぷり合体した味噌スープが実にいい。
麺は、生臭さがなくコシの強い麺はとても歯ごたえがあってスープに合致している。
チャーシューは口の中でとろけるほどやわらかくて激ウマ。
この高次元のバランスの良さは特筆に値する。
などと感動しながら黙々と食べた。

空席を待つ人がたくさんいたので、食べ終わるとすぐに外に出た。
いやぁ、満足満足。
だが、ふと店の隣に「味の時計台」と書かれたラーメン屋があるのを発見。
一同絶句・・・。


宿に戻り、テーブルを囲んでミーティングをした。
「明日の朝にのぼるとはお別れだな」
そう。いよいよ明日からは3人と別行動となるのだ。
いままでの宿生活ではなく、ひとりキャンプ生活が主体となる。

そこに不安がないとは決して言えない。
この3人と過ごした4日間は楽しかったし、またこのメンバーでどこかに行きたいとも思った。
しかし、のぼるは気付いていた。
この4日間、他のライダーとの出会いがまったくなかったことを。
旅をするなら、そういった現地で知り合った仲間との交流を目的のひとつにもしたい。
グループツーリングは楽しいが、他人との交流という観点ではやや閉鎖的になってしまうもの。
明日からは自分の力でそういう部分も切り開いていくことになる。
すこし不安ではあるが、何よりも楽しみなポイントでもある。

ヒイロ、ユキ、ユージは、明日は早朝から出発し、サロマ湖のほとりにある「船長の家」という
とほの宿を目指し、あとは帰りのフェリーに乗るために苫小牧に戻るルートになる予定だ。
のぼるは、まずは一気に北上して最北端の「宗谷岬」を目指す。

「げ! みんなちょっとテレビ見てよ」
ユキが奇声をあげる。何事かと男どもがテレビを見ると、NHKニュースで天気予報をやっていた。
「おお、茨城は明日も晴れか」
「バカ。北海道の予報を見なさいよ。雨だよ雨! 降水確率80%もあるんだよ」
「なんだと。外は月はきれいに見えるし、星だって出てるぜ」
信じたくはなかった。今までの快晴続きで身体がマヒしているのかもしれない。
「ふむ。とりあえずいつ雨が降っても対応できるようにレインウェアの支度だけはしておこう。
のぼる、明日オレたちは朝7時に出発するから、そのつもりでな。
「わかってます。オレはもうちょっと宿に残ってから出発しますが、もちろんお見送りはします」

こうして最後のミーティングは終了し、一同は明かりを消して布団に入った。


明日、のぼるの本当の旅が始まる・・・!

                            − グループツーリング編 完 −

2015/11/9 17:28  [1498-3982]   

泉屋旅館の前で

新しい朝がきた。希望の朝だ。

そう、のぼるのソロツーリング開始となる記念日なのだ。
だー!
まさかの雨。ものの見事に雨だ。
昨晩は星もキレイに見えるほどの天気だったのに、なんだよこの有様は。
ひとりになろうとするととたんに雨とか、どんだけ雨男だよ。

ヒイロたちは出発の準備をしながらテレビの天気予報に耳を傾けていた。
停滞前線が北海道全域を覆っているため数日は雨が続くとのこと。ふざけやがって。雨のやつ!
「しゃあねえ。今日の宿のためだ、レインウェアを装備して出発するか」
ヒイロ、ユキ、ユージは諦めて雨装備をして荷物をそれぞれバイクに載せた。
のぼるは雨の様子を見ながら出発しようと思っているので、3人を見送ることとなった。
彼等は計算上本日の道のりがいちばんの長距離となる予定なので、ツイてないことこの上ない。

「よし、じゃあ行くぜ。のぼる、元気でやれよ」
「茨城に帰ったらみやげ話聞かせてね」
「のぼるさんお世話になりました。お気をつけて」
3人はエンジンをかけ、降りしきる雨の中出発していった。

3人のバイクの音が街の彼方に消えていく。
さて、これから一人だ。
泣いても笑ってもこれから2週間、自らの責任だけで行動しなきゃな。賽は投げられたのだ。

まずは・・・二度寝だ。寒いせいで眠りが浅かったみたい。おやすみ。
2時間ほど寝て、9時に目覚める。
さて、まずはちょいと準備しないと。
宿の傘を借りて近くの銀行へ行き、これからの旅費をおろした。
実をいうと今日が給料日で、ついさっきまで財布の残高が3000円くらいしかなかったのだ。
ヒイロたちにバレないようにひた隠しにしていたが、内心ビクビクものだった。
ていうか、冷静に考えてみると今日から2週間も休暇しておきながら来月の給料を
ちゃっかりもらおうとか、会社ナメてるとしか思えない。

宿に戻り、窓の外を眺めながらタバコをふかす。
今日はどうせ晴れないのなら、雨の中無理に発進せずにここでもう1泊するのも仕方ないだろう。
などと思った瞬間、雨が止んだ。
なんなんだ、この天気。ムカつく!
とはいえ、今がチャンスだ。出発しよう。

荷物をバイクに載せ、その荷物すべてに防水カバーを施す。
そして自分自身にレインウェア、レイングローブ、ブーツカバーを装備。
完璧な雨装備となった。

「2日間お世話になり、どうもありがとうございました!」
宿のおばさんにお礼を言って、出発する。
雨あがりの札幌、涼しい風を受けながら北を目指して走る。

北へ向かう海岸線の道路、R231に入るころに雨が再び降り始める。
今度は先ほどとは比べものにならないほどの土砂降りだ。
「ギャー」
3年前の装備ならば、一発で浸水して下着までぐっしょりになっていたところだが、
この雨装備は一味違う。
ゴアテックスのレインウェア。
水は通さず水蒸気は通す、という魔法の素材ゴアテックスを使った理想の雨具だ。
だから、身体から発散する余計な熱によるムレもなく、常に内側はドライな状態を保つ。
これは素晴らしい。
数分もするとレイングローブが浸水したが、これは想定内。
濡れた状態でもグリップを確実にするためのものなので、浸水は仕方ない。
手首から上に雨水が侵入しなければ無問題なのさ。

対向車のでっかいトラックに、水たまりの水を豪快にぶっかけられたが、
それでも防水機能は完璧だった。けっこう精神的ダメージはあったが。
「あのトラック、次会ったらただじゃおかねえ」

2015/11/10 10:37  [1498-3985]   

すこぶる快適なレインウェアなのだが、体力の消耗は半端ではない。
なぜなら、ヘルメットとレインウェアの境目は、少し俯いたりするだけで水滴が侵入するため
同じ姿勢を維持した運転を強いられるのだ。
これは、足を伸ばせず狭いところで寝て、寝返りもうてない状態に似ている。
生理学的にいえば、血液の循環が悪化し、だんだん意識がもうろうとしてくる。
ていうかそもそもタイヤが滑りやすくなってる時点でハラハラしてるのだ。

ソロ開始からいきなり事故るわけにはいかないので、適当なところで雨宿りすることにした。
ふと見ると「札幌テルメ」と書かれた大きな建物があった。
プール、サウナ、温泉が揃っている施設、いわゆる健康ランドのような所らしい。

屋根のある駐輪場にバイクを停め、レインウェアを脱いだ。
さすがゴアテックス、どこも濡れてねーぜ。ゴッグを初めて操るジオン兵のような感想をつぶやく。
施設に入ると、かなり人が多い。学校はすでに夏休み、アウトドアに出かけた家族連れが、
のぼる同様に雨宿りに来ていたように見える。

まずはレストランでビーフストロガノフを食べた。
朝からなにも食べてなかったので、とりあえずカロリー補給だ。
簡単にいえば洋風牛丼。なかなかうまい。
ビーフストロガノフといえば猪熊柔。彼女の手料理を一度食べてみたいものだ。さぞうまかろう。

窓の外を見ると、雨がドザーと降っている。
このままでは本日はキャンプはできそうにない。
宿を確保するならば、早いほうがいい。
そう思ったのぼるは手持ちの情報誌を検索し、北へ120キロほどのところにある小平の
ユースホステルに目星をつけた。
公衆電話から電話すると、一発予約OKだった。
ウジウジ悩むよりも行動したもん勝ちだ。よし、今夜の宿の確保はOKだ。

気が楽になったところで温泉施設に入った。
こんなこともあろうかと海水パンツを持ってきたのだが、温水プールは子供がごったがえして
水柱が立っている。なんだ、肉塊を投げ入れたピラニアの沼か、ここは。
仕方なく普通に温泉とサウナに入った。

心身ともにリフレッシュしたところで外に出た。
駐車場に戻り、再びレインウェアをまとい、当分晴れそうにない天気を気にしながら発進した。

しばらく走ると日本海が見えてきた。
海岸線を数十分走るとようやく雨がやんできた。
この調子で夕方までに晴れてくれれば、日本海に沈む夕陽を眺めることができるか。
などと期待したが、停滞前線は微動だにせず暗雲は空を凌駕してやまず、のぼるのささやかな
希望は奈落へと突き落とされた。

2015/11/11 09:23  [1498-3988]   

時として仲間ができる瞬間というのはタイミングがズレるときがある。

どんよりした空と海の海岸沿いを走っていると、後方より接近する1台のバイクが。
ユージが乗っていたFZR1000だ。
まさかユージがのぼるを追ってきたのか、と思ったが他人であった。
しかしながら同じ水戸ナンバーなので茨城のライダーのようだった。

信号待ちのときに話しかけてみた。
「ちわっす。茨城からですか? オレ東海村からです」
「東海村けぇ。オレは下館だっぺよ」
他人とはいえ、遠く離れた地で同じナンバーのバイクを見ると妙に親近感が湧くのは北海道に
限った話ではない。
近くの駐車場で停まり、改めて自己紹介した。
ヘルメットをとると、なかなか男前のの彼は沼田さんといい、のぼるは彼のことを
ぬみゃ〜と呼ぶことにした。

「のぼるくん、きみの荷物の量から察するとキャンパーなんだろ? 今日は一緒にキャンプしないか」
ぬみゃ〜はそう誘ってくれた。
もちろん、と二つ返事で快諾したいところだったが、のぼるは先ほど本日の宿を予約したばかり。
ぬみゃ〜とキャンプする場合、ユースをキャンセルしないとならない。
どうする。

この選択は、実は思うより非常に重大な選択だったりする。
雨が再び降りそうな天気、無理してキャンプするか、それとも誘いを断って安心安全な宿で泊まるか。
「わかりました。一緒にキャンプしましょう」
少し悩んで、前者を選択した。
安定した安心よりも、不確定要素のあるイベントのほうがワクワクするだろ。それだけの理由だ。
このツーリングだって、その前提で計画したのだ。それに準じた選択をしたのだから理にかなっている。

のぼるは公衆電話から今晩予約していたユースにキャンセルの連絡を入れた。
キャンセル料1000円かかる、と言われたが仕方あるまい。自業自得だ。

のぼるとぬみゃ〜は留萌の街に到着した。
札幌から最北端の街稚内までの中間地点のあたりだ。
「ようこそ留萌へ!」と書かれたアーチが印象的で、多くの商店が並び大きな漁港もある
活気あふれた街だった。

2人は街はずれの海岸にバイクを停め、その海水浴場兼キャンプ場でキャンプすることにした。
雨上がりとあってキャンプしている人はまばらだ。
管理人もいないみたいだし、勝手にテント張っちゃえー、と2人はそれぞれのテント組立作業にかかった。

砂地を平らになるよう整地し、ポールを組み、テント本体のフックを付ける。
風下に入口を向け、ペグでテントを固定し、最後にフライシートを全体にかぶせて完成。
ジョイフル山新で3980円の激安テントだがなかなか頑丈そうだ。

少々荒れた日本海を眼前にしたキャンプ。
晴れた日ならば今頃夕陽のキレイな時間帯だろうに、それだけが残念でならない。

とりあえずメシの支度をするべく、ガスストーブやコッヘルなどを取り出し、準備した。

2015/11/12 10:08  [1498-3991]   

米をとぐのに水道を探したが、近くになかった。
少し歩けばきっと炊事場があるのだろうが、近くでバーベキューをしているシニア団体がいたので
ちょいと聞いてみた。
「水道?きみたちこれからメシ作るのか。だったらここ来て食ってけや。食いきれないくらい
焼いちまったから困ってたんだ」
なんとバーベキューに招待されてしまった。
のぼるとぬみゃ〜はご厚意に甘え、折り畳み椅子を持参してシニア団体の輪に入った。

聞くと、この人たちは地元の漁師とその奥さんで、ほとんど毎日のようにこうして浜辺で
バーベキューして楽しんでいるのだそうだ。
ふと見ると、その中に20代前半の若いおねーさんが混じってウーロン茶を飲んでいるのを
目ざとく発見。ポニーテールの似合うかなりの美人さんだ。
彼女もこの中のオヤジの奥さんの一人なのだろうか・・・どのオヤジも50歳はイってるように
見えるけど・・・

バーベキューは、どちらかというと浜焼きに近かった。
肉はもちろん焼いているが、ホタテや魚も焼いてたり、アルミホイルを敷いて鮭のチャンチャン焼き
もやってたりバリエーションが豪華すぎる。
ビールまでごちそうになり、何もしていないのになんというVIP待遇。

もはや彼等の話題はのぼるとぬみゃ〜に集中し、今日はどこから来た、とかいつまで道内巡りするのか
など問答と食事に大忙しとなった。
その中でも「出身はどちらかね」という質問で「いまは茨城に住んでますが、出身は新潟です」
と答えたところ、いきなり先ほどの美少女が興味津々に身を乗り出してきた。
「新潟なんですか! 実は私も新潟なんですよー!」
なんですと?

聞くと、彼女は新潟の亀田出身で、単身で北海道ツーリングに来たところ、この留萌に住む
とある男性に惚れられ、あんまり熱心に迫られてしまい、気が付いたら嫁になって、さらに
この土地の漁師たちのアイドル的存在になっていたとのこと。

そうだったのか。なるほどね。
などと感心していたら、
「おーい、そろそろ配達行ってこいやー!」
と丘の上の「大滝商店」と書かれた酒屋の前で仁王立ちした男が大声で彼女に向かって叫んだ。
奴がウワサの旦那か! 遠目でもわかるほど筋肉質のダンディーだった。
「はぁーい! じゃあ私はこれで失礼しますね。のぼるくん、ぬみゃ〜さん、大してお構いできず
ごめんなさいね。じゃあごゆっくり」
そう言って彼女は丘へ上がっていった。

そのあと、おにぎりもいただき、肉や魚介類をがっつりいただき、満腹になった。
さすが漁師の集まりとあって、焼魚のうまいことうまいこと。
しかし、直後にまた雨が降ってきて、彼等は大急ぎで撤収することとなった。
「あまりもので申し訳ないんだけど、よかったら食べてね」
漁師の奥様からおにぎりとつぶ貝をいただき、元気な漁師たちは帰っていった。

まだ寝るには早すぎる時間。
小雨の中、のぼるとぬみゃ〜は飲みなおそうかと酒を買い出しに行こうとしたとき。
ZZR250に乗ったライダーがキャンプ場に駐車しようとしているのを発見。
彼もまたソロツアラーらしいので一緒のキャンプに誘ったら快くOKしてくれた。

彼の名は室田さん。なのでアムロと呼ぶことにした。
3人で手分けしてアムロのテントを建て、ささやかに宴会をはじめた。
ランタンを囲んでビールで乾杯。さきほど戴いたつぶ貝を食べてみたが、かなりうまい。

辺りはキャンパーの明かりが少し、遠くには街明かりと灯台の光。
かろうじて雨は止んでいるが、荒れた波が大雨の音のようで少し不安になる。

3人はバイクと旅について楽しく語り合った。
ツーリングライダーのほとんどは走行中に歌を歌うのだが、ためしに聞いてみたら
ぬみゃ〜もアムロも大声で歌う派だった。
「オレ、今日なんてゲゲゲの鬼太郎の歌を歌いながら走ってたよ」
というアムロに一同大爆笑。なんで辛気臭い天気のときに辛気臭い歌をうたうかな。

21時。
普段であればこれから夜更かしモードに入るが、ツーリングの夜は早いのだ。
後片付けをして、それぞれのテントに入っていった。

雨の日のツーリングも悪いことばかり起こるものじゃないな。
前向きに走れば、今日のように親切な人々との出会いだってあるのだ。
明日もいっちょ、がんばるか!

という感じでシュラフの中にもぐって、眠りに落ちたのであった。

2015/11/13 10:18  [1498-3997]   

留萌の海岸キャンプ場にて、アムロとぬみゃ〜

寒い。ひどく寒い。
雨天になると温度差が激くなるのが北海道。すっかり忘れてた。
まったく、札幌の朝に寝汗で目覚めた一昨日がウソのようだ。

7時、外に出てみると静かな霧雨が辺りを幻想的な風景に変えていた。
ぬみゃ〜とアムロが起きてきたところで朝ごはん。
昨日いただいたおにぎりとつぶ貝をみんなで分けて食べた。

8時、出発の準備をそれぞれはじめた。
アクティブになりはじめたところで雨脚が強くなるのがムカつく。
荷物が濡れないようにパッキングするのが非常に大変。
特にテントは砂を払い、水滴をできるだけ払って収納するのはかなりのテクが必要。
フライシートを残して内部テントを分解すると、そのフライシートの中が濡れずに
最後に着替えたりできるわけだ。

出発前、ぬみゃ〜がいいことを教えてくれた。
「のぼる、小樽へ行くなら『おしょろ』というライダーハウスに行くとよかっぺよ。
一泊2500円ながら夕食は大ごちそうだべ♪」
それを聞いてのぼるは最終日の小樽発フェリーに乗る前夜の宿はそこにすることにした。
小樽といえばフェリーターミナル近くの芝生でしかキャンプできないが
そこも正規のキャンプ場などではない。安くてもきちんとした宿泊施設の情報はありがたい。

そんな感じでぬみゃ〜とアムロは先に北へ向かって出発していった。
できれば一緒に走りたかったのだが、実はのぼるには寄るところがあった。
昨晩の予約キャンセルしたユースホステルへキャンセル料を払いに行かなければならなかったのだ。

5分ほど走ると、そのユースが見えた。
立派な建物の玄関の受付でオヤジにキャンセル料1000円を払う。
「ははは、昨日予約の電話をもらったとき、たぶんこの人は来ないだろうと思っていたよ」
そんなふうに言われた。
そんなにのぼるの電話口の口調は責任感も信頼性もない印象があったのだろうか。
精一杯ていねいにしゃべったつもりだったのだが。

雨が一段と強くなってきたので、そのユースの玄関にて少し雨宿りさせてもらった。
ロビーの木椅子に腰かけてボーっとしていたら、ユースの奥から荷物をかかえた若い女の子の
団体7〜8人がチェックアウトしていくのが見えた。
みんなチャリダー(自転車のツアラー)らしくカッパやポンチョを着て外へ出ていった。

その出ていく人みんなが女の子だったので、のぼるはなんともいえない焦燥感にかられた。
もし昨晩このユースに泊まっていたら、あの子たちと楽しくキャッキャウフフ状態で
盛り上がっただろう。
まさにメスばかりのひつじ牧場に放たれたオス一頭状態だったろうに、これは悔しい。
まあ、昨日の漁師たちの超豪華バーベキュー、大滝商店の若奥さん、ぬみゃ〜、アムロとの
楽しい思い出もかけがえのない素敵な思い出ではないか。
オレの選択は間違いではなかった。そう思うことにして降りしきる雨の中再び出発した。

海沿いのR232を疾走する。
今日はこんな天気ではキャンプなど無理だ。
晴れたとしても、ぬかるみの中キャンプとか絶対イヤ。
稚内あたりにちょうどいい宿などあれば予約しておいたほうがいいだろう。
そう思って近くの電話BOXに駆け込み、情報誌を検索して『ドミンゴ』というライダーハウスに
予約を入れた。朝一番なのですんなり予約はとれた。

これで心置きなく雨の中を走れる・・・と思ったら途端に晴れた。
「いや、なんなんだよこの天気は!」
ひとりキレるのぼる。

2015/11/14 11:12  [1498-4001]   

カムラン この道路はオレのものだー!

雲間から青空が差し込み、道路もだんだんと乾き、すっかり気分も上々となった頃
バイクにちょっとしたトラブルが起きた。

しょりしょりしょりしょり・・・・
『すりおろしりんご』を飲んでる感覚になるような、何かが擦れる音がエンジンあたりから
するようになった。
やばい。マシントラブルか?
これは降水時にオンロードマシンでぶっとばしたりしたせいで泥がチェーンにかかり、
それが乾燥して後輪の歯車に噛み合った音で、当然放っておいたらマシンに悪影響が及んでしまう。

とはいえ、いま走っているところは民家もないオロロンラインといわれるシーサイドライン。
左には海の向こうに利尻島、右にはサロベツ原野と呼ばれる国立公園の原野が広がる、
まったくもって何もない海沿いの一本道なのだ。
まあ、稚内の市街地に着けばバイク屋のひとつもあるだろう。そこまでガマンして走ろう。

カっと晴れた。
空はちぎれ雲と青空が半々ずつ占めており、その隙間を太陽が顔をのぞかせたり引っ込んだりしている。
これならば雨装備を取っ払ってもよかろう。
どこかの路肩でレインウェアを脱ごうと思っていたら、前方でソロライダーが自分のバイクを
被写体にしてカメラを撮っているのを発見。
「ちわー。一枚撮りましょうか?」
停止し、気安く話しかけるのぼる。
海をバックにZZR400を撮ろうとしているメガネのライダーは
「じゃあ、一枚お願いします」
と笑顔で迎えてくれた。

手渡されたカメラは、どでかいバズーカのような望遠レンズの一眼レフで、とても高価そうな
ものだった。
こんなすごいカメラをバイクで持ち歩く人もいるのか、と感心しつつシャッターを切る。
彼のことをカムランと呼ぶことにした。
ついでに、のぼるの「道路のド真ん中に大の字に寝そべる」というシーンを撮ってもらった。
いやぁ、一度やってみたかったんだ。

自己紹介が済んだところで、二人はお互いに今日の目的地が稚内であることから一緒に走ることにした。
カムランはそのデカいカメラを丁寧にカメラ収納用と化したタンクバッグに仕舞い、のぼるは
自分の雨装備を一式脱ぎ払い、出発準備完了となった。

カムランと走り始めてかれこれ数十分が経っただろうか。
信じられないことにまわりの景色がほとんど変化しない。
まるでジェミニの黄金聖闘士にアナザーディメンションをぶちかまされたような、いつまでも
同じところを延々と繰り返し走っているような錯覚を受けた。
わずかに変化したとしたら、海の彼方にぽっかりと浮かぶ利尻島がわずかに右後方へ動いた感じが
するくらいだ。

その利尻島が視界から外れようとする頃、小さな公園が見え、二人は休憩した。
抜海原生花園というところで、自然の花畑を楽しめる公園のようだ。
公園を散歩してみるが、開花の時期がズレていたのか、花という花は特に咲いてはいなかった。
それでも、瑞々しい草木が気分をリフレッシュしてくれた。

「そういえばのぼるさんは今日どこで泊まる予定ですか。オレまだ決めてなくて」
「オレはキャンプ派なんだけど、朝から雨だったから今日は宿に泊まる予定。稚内のライダーハウスに
予約しておいたんだ。カムランさんもそこにしませんか。一泊1000円だから安いでしょ」
そう勧めると、カムランは喜んでさっそく近くの公衆電話から予約の電話を入れた。

2015/11/15 10:47  [1498-4002]   

ねこフィットV(さん) さん  

2015/11/16 22:41  [1498-4004]  削除

北へ・・・ もっと北へ・・・! ノシャップ岬でギャルとツーショット♪ ようやくここまで来たぜ!

地図によると稚内まではあと少しだ。
いまは14時だから、もはや楽勝。

しばらく走ると、ぽつぽつと民家が見え始めた。
いよいよ最果ての都市、稚内に突入だ。
最果ての宗谷岬は稚内からもう少し北にあるので、明日の朝イチにそこへ目指すとしよう。
なので今日はお預け、といいたいところだが、ここにはもうひとつ岬がある。
ノシャップ岬だ。
せっかくここまで来たのだから、こちらも行かねば。

案内標識に従って二人はようやくノシャップ岬に到着した。
札幌から320km、函館からだと600kmもの距離を走破したことになる。
長かった。ほんとに長かった。

コンクリートの護岸に立つ十字架を象ったシンプルな岬の碑は、最果ての少し寂しい雰囲気があった。
ここからの晴れた日の夕陽は最高だ、と聞いたこともあってそのチャンスを求めて来たものの
ちょっと曇りであったため、今回は諦めるしかなかった。

「すんませーん、写真撮らせてもらっていいですか〜」
カムランがソロで来ていたらしい女の子に話しかけていた。素早いな、カムラン。
「え、あたし? あたしを撮るの? やだ、はずかしー」
とか言いながらビっとピースを決めていた。

女の子を見送ったあと、ウチらも出発。
ライダーハウス「ドミンゴ」はここから10分くらいで到着した。
JR南稚内駅の近くの喫茶店が受付だ。
優しそうな若奥さんが喫茶店の裏にある宿泊施設に案内してくれた。
むかしの女子寮を改築してライダーハウスとして宿泊施設にしたのだそうだ。
その2階の部屋に案内されると、6畳ほどの部屋に先客が2人座っていた。
痩せたあんちゃんと太ったあんちゃんだ。
「夜8時から1階の広間でミーティングがあるから時間になったら降りてきてね。それまでは
自由にくつろいでいて結構よ。洗濯したかったら1階の洗面所にあるから。シャワーは順番が
あるから順々に入って。布団はないから自分で持ってきたシュラフで寝てちょーだい」
若奥さんは淡々と説明して出ていった。

のぼるとカムランは同室となる2人に挨拶した。
痩せてるほうがタカ、太めのほうがハニャーと呼ぶ。
タカとハニャーは小樽に上陸するフェリーで出会い、一緒にここまで来たのだという。
もとをたどれば全員ソロなわけだ。
今日この時にこの4人が出会ったのは、気の遠くなりそうな確率なわけだ。
それを考えると、ちょっと感動だ。

まずはやらなければならんことをしなければ。
カムランと手分けしてバイクの荷物を一式2階の部屋まで運び、まずシュラフを広げる。
時間がたてば繊維に空気が行き渡って、寝る頃にはふかふかになるのだ。
あとは洗濯物を準備、そしてレインウェアを邪魔にならないところに広げて乾かした。

次にバイクのメンテ。
しょりしょりと音のするザンザスを直さなければ。
カムランもZZR400がちょっと調子がおかしいというので一緒にバイク屋へ行くことにした。
喫茶店の若奥さんに場所を聞いて、バイク屋へ向かった。

目の前が海、という絶景スポットのバイク屋「FUJITA」。
ザンザスの異音はチェーン張りの調整とチェーンルブ(潤滑油)を塗布することで解決した。
カムランのバイクも少しいじった程度で直った。
これで一安心だ。
さあ、ドミンゴに戻ろう。

2015/11/16 22:45  [1498-4005]   

ドミンゴの2階の部屋に戻ると、タカとハニャーがおにぎりをうまそうに食べていた。
うわ、うまそう。たかがおにぎりなのにヒトが食べてるのを見ると、倍うまそうに見える。
考えてみると今朝漁師のおじさん方からいただいたおにぎりとつぶ貝を食べたきり
何も食べていなかった。ていうか海沿いの道で何か食べれる店がなかった。

タカは笑いながらパックに入った2人ぶんのおにぎりを差し出した。
「ははは、君たちのもあるよ。ドミンゴの奥さんの差し入れなんだよ」
なんだ、そうだったのか。うわーい!
のぼるとカムランは渡されたおにぎりを無我夢中で平らげた。サイコ〜♪

とはいえ、おにぎり2個ではまだ不足だ。
近くのコンビニでパンを買って食べ、ついでに買った日本酒で4人は乾杯した。

陽もとっぷりと暮れ、洗濯とシャワーを済ませ、明日の旅の準備をしていると
一階の方から「ミーティングを始めますよー」との声がかかった。
2階の各部屋の人々がドヤドヤと階段を下り、広間のテーブルに座った。

本日の宿泊者、約30人全員が揃った。
なんと、こんなにたくさんの宿泊者がいたのか。どこに潜んでいたのだろうか。
オーナー夫妻が簡単にあいさつをした。
ミーティングといっても堅苦しい話などは一切なし。
みんなの知りたいであろう、稚内の見どころやそこからフェリーで行ける礼文島や利尻島など
旅の情報を訥々と語ってくれたのであった。

礼文島という島はウニが豊富で、遠浅の海の中から採ったその場で食べまくることができたり
島のユースホステルの夕食は超新鮮なウニが食べ放題という、まさにウニ好きの聖地なのだそうだ。
その話を聴いただけで、もう断然行く気になりかけていた。
明日天気が良ければマジで行ってみようか、と本気で思った。

次に、宿泊者全員ひとりずつ自己紹介することとなった。
のぼるの番になり「茨城から来たのぼるです。プルトニウム作ってます」と正直に言ったら
全員にドン引きされた。

全員の自己紹介が終わるとあとはフリーとなり、広間は雑談場と化した。
30人ものライダー、みんな個性が強くいろんな目的をもってこの地を訪れたのがよくわかった。
女の子も数人いて、みんな和気あいあいでお話しをしていた。

のぼるはここで風間さんという無精ひげのよく似合うダンディーと仲良く話をした。
彼は「ヤングマシン」というバイク雑誌でライターをしている人で、V−MAXという
ドでかいバイクに乗っているという。
彼のことをエイジと呼ぶことにした。
今回は仕事抜きの個人旅行として北海道をツーリングしているのだそうだ。
のぼるが、いつかは旅のライターの仕事をしたい、と話すとエイジは「大変だけどやりがいがあって
面白いぜ」と語ってくれた。

夜も更けていき、みんなぽつぽつと自分たちの部屋に戻っていった。
ウチらの部屋のメンバーも一緒に部屋に戻り、荷物の整理を簡単にすませてシュラフに入った。

明日は晴れるといいなぁ。礼文島だぜ。ウニだぜ。ウニなんだぜ・・・ZZZ

2015/11/17 22:23  [1498-4006]   

朝、ドミンゴの駐輪場で 稚内空港をバックにエイジの雄姿 ついに、ついにここまできたー!

ライダーハウスの朝は早い。
朝6時には出発する人が出はじめ、それにつられて出発する人が後を絶たない。
いやもう、エンジンの音がうるさいのなんのって。
ついには部屋の4人も6:30に起床、洗顔のあと荷物のパッキング作業にかかった。

しかしのぼるだけは足踏みしていた。
天気の様子をみて、礼文島へ行くか迷っていたのだ。
島へ行くならばパッキングする必要はなく、荷物は預かってもらいナップサックひとつに
着替え等を入れて行こうかと考えていたのだ。
しかしながら、空はどんよりとした曇り空。

どうするか悩んでいると、カムラン、タカ、ハニャーの3人は出発していった。
またどこかで会えたらいいな。またね。

3人を見送ったあと、バイクに寄りかかって悩んでいると、
「よう、のぼるくんおはよう。どうした、出発しないのか?」
と昨晩知り合ったエイジが荷物をパッキングようと外に出てきた。
「ええ。礼文島へ行くべきか悩んでいるんです。雨なら諦めるんですけどね」
そう言うと、エイジは実にあっけらかんと答えた。
「さっき天気予報みたけど、今日は雨だってよ」
うは。さすがバイク雑誌のライター。情報が素早い。いや、のぼるが疎いだけか。

「オレはこれから宗谷岬経由でオホーツクの海岸沿いをなんかしていくが、のぼるくんはどうする?」
「雨天なら島は諦めることにします。じゃあ途中までご一緒させてください」
礼文島行きは残念ながら中止となった。いつかきっと行けるチャンスはあるさ。
のぼるは急いで荷物をバイクに載せた。

ドミンゴの受付の喫茶店で軽く朝食をとり、奥さんに挨拶をしてから出発。
初めてのライダーハウスだったが、いいところだったな。

まず行くべきは長年の憧れであった日本最北端、宗谷岬だ。
稚内の街から宗谷岬までは30kmほど。すぐ着く距離だ。
雨は降っていないのでレインウェアは着ていないが、風が強くひどく寒い。
8月の気候とは思えないほど寒い。

途中、稚内空港が見えた。
東京・札幌を航路としている空港だが、2人が走っているときにちょうどジェット機が
滑走路から離陸しようとスピードをあげているのが見えた。
これはまさにアレだ。アレをせずにはいられない!

右手でゴーサインをジェット機に向けて突き出す。
そう、映画トップガンで味方機が離陸するとき、地上でバイクに乗ったトム・クルーズが
無事を祈念してやったポーズだ。
くはぁ、最高のシチュエーションですな。
朝っぱらから中二病全開だぜ。

間もなく、宗谷岬に到着した。
のぼるとエイジはバイクを降りて「最北端の地」の碑を眺めた。
ついにここまで来た。
日本最北端。
バイク雑誌や旅行情報誌でこのピラミッドのような石碑を何度も見たが、実際にそれが
目の前にあるのだ。
もう感激して声も出ない。
さすがにエイジは何度かここに来たことがあるらしいが、やはりこの「てっぺん」の地には
並々ならぬ思いがあるようで嬉しそうな顔をしている。

まだ朝だというのにけっこう観光客が多い。
昨日行ったノシャップ岬は碑の他は何もなくて寂しいところだったが、この宗谷岬は
土産物屋もあったりしてかなり賑やかなところであった。

2015/11/18 22:25  [1498-4007]   

最北端の石碑の向こうは、何もないオホーツクの海。
その彼方に樺太・サハリンがある。もう外国なのだ。
そんな景色と雰囲気を充分に堪能した二人は再び出発した。

エイジは宿泊まりがメインとあって荷物はダッフルバッグひとつだけ。
中身はシュラフと着替えくらいなものだろう。
だが、仮にのぼるの大荷物を彼のバイクV−MAXに載せて走ったとしても
そのバケモノじみたスペックのバイクには敵わない。
なんたってV−MAXは人気ロボットアニメ・レイズナーの必殺技の名をとったもの。
逆輸入車だと本当にVブーストという超加速装置が搭載されているのだ。
仮面ライダークウガに出てくる合体バイク「トライゴウラム」「ビートゴウラム」のベース車と
なっているのも伊達ではないということだ。

昨日は日本海を延々と走っていたが、今日はオホーツク海を沿って走る。
左には大海原、右には手つかずの原生林が広がる。そんな景色が何時間も続く。

正直、この景色は飽きた。
午後からは内陸を走ることにしよう。
今日はどこまで走る、とかまったく決めていないから、行き当たりばったりの無計画で走ってる。
だから気分によって道を決めてまったく構わないのだ。
北海道を一周するといっても、外周だけ攻めても仕方ない。もっと内陸も走りたいのだ。

紋別の街に着いた。
もうお昼時なので、エイジとのぼるはてきとうな海沿いの食堂に入った。
古びたお店で、客は誰もいなかった。
メニューを見ると「ボリューム満点 ライダー定食700円」というのがあったので二人とも
迷わずそれを注文した。

10分ほどでおばちゃんがライダー定食を運んできてくれた。
大盛ごはんに焼肉、焼魚、みそ汁、サラダ、おしんこ。
肉と魚は圧巻のボリュームで征服のし甲斐があるというものだ。
「いっただっきま〜す!!」
二人とも腹ぺこだったので無我夢中でかぶりついた。

ふぅー、満腹。ちょー満腹。
700円でこの満足感はなかなかないね。最高でした。

食後にタバコをふかしながらエイジが世間話をしてきた。
「のぼるくん、ヤキソバンって知ってる?」
ヤキソバン。この時代に一世風靡した日清UFOのCMキャラだ。
マイケル富岡がダサかっこいいヒーローになる設定で大ヒットしている。
「実は、この北海道でヤキソバンのコスプレしたライダーが走っているらしいよ」
「なんと! 仮面ライダーのコスプレライダーはよく聞くけど、ヤキソバンは初めて聞いたわ」
しかもヤキソバン一人だけでなく、悪役のケトラーに扮した人と一緒に走っているというのだ。
面白い。そういう人がいたらぜひ会ってみたいものだ。
でもヤキソバニーはいないのが少し残念。

妙な話題で盛り上がってしまった。
二人は外に出た。
「エイジさん、オレはこれから内陸方面を走ることにします」
「そうか。じゃあここでお別れだな。お互い事故らないように楽しく旅しようぜ」
そう言うと、二人は住所と電話番号を交換した。
旅が終わったあと、こうやって住所交換した仲間と手紙と写真のやりとりをするのも
また楽しいものなのだ。

V−MAXの野太いサウンドを響かせながらエイジは走っていった。
その姿を見送ると、のぼるも出発した。
国道273の渚滑川沿いを走る。
海もいいけど、こういった川沿いも楽しいものだ。

2015/11/19 22:18  [1498-4008]   

あれは・・・柴犬? キツネだっての

渚滑川沿いののんびりした田園風景をゆっくりめに走る。
さきほど別れたエイジの言った通り、雨が降ってきた。
いったんバイクを停め、レイン装備を装着する。
どこぞの宇宙刑事のように「蒸着!」とか叫んで一瞬で装着が完了できるといいのにな。
あわてて着ると汗をかいてインナーからぐしょ濡れになることにもなりかねないので
装着作業は慎重かつ迅速に遂行しなくてはならない。難しいのだ。

再び走り出すと、5分も経たずに本降りになってきた。
早めに着替えて正解だったし、礼文島にも行かなくてよかったのかも。
雨にやられたら島の魅力も半減してしまうだろう。

雨、となるとまた今日もキャンプができないのだろうな。
またどこかで宿をとるにしても、ライダーハウスってのは海沿いか主要都市近辺しかないし、
とほの宿にしても一泊5000円レベルの出費は正直痛い。
ならば、どこかの無人駅で泊まるのはどうか。
なるほどそれは面白いアイデアだ。いい駅があればいいのだが。
などとひどく適当に物事を決めつける人間がここに約1名。

滝ノ上という街に入った。
ここは滝ノ上公園という花の名所があるらしく、案内看板が道路のいたるところにあり、
なんだかしらんが行ってみるか、という気にさせられた。
案内に従って坂を上ると、公園に到着した。
クルマが2〜300台は停められそうな広い駐車場には1〜2台しか停まっていなくて
公園そのものが閑散としていた。雨天ってのはこれだから・・・。

駐車場のすみっこに土産物&休憩所があったので雨宿りさせてもらった。
予想通り客はひとりもいない。
ヘルメットをかぶったままレインウェアずぶ濡れ状態で建物に入ったので、従業員のおねーさんを
少しビビらせてしまった。
「すみません、すこし雨宿りさせてください」
そう言うと、おねーさんはステキな笑顔で「どうぞごゆっくりしていって下さいね」と言ってくれた。

レインウェアを脱ぎ、椅子に腰かけて一服した。
ふぃー。
14:30か。午後のいちばん気だるい時間帯だな。さて、これからどうしたものか。

はっと起きたら15:00になっていた。うわ、寝てたのか。
これからどうするか本格的に考えなければ。
MAPを広げてみると、ここからもう少し山奥に進んだところに「岩尾内ダム」があり、
そのダム湖の湖畔に緑豊かなキャンプ場があるらしい。
この天気でキャンプってのも大変だろうけど、とりあえずそっちに向かって走ってみるか。

おねーさんにお礼を言って外に出た。
「気をつけていってらっしゃい」
おねーさんから励まされつつ発進。
ていうか、公園に来たんだから公園見ろよ。

国道から外れ、峠道となる。
標高が高くなるにつれて雨はしだいに小降りになってきた。
このまま晴れてくれたら言うことナシなんだがな。

高地のワインディングロードを一人走る。
対向車はほとんどなく、この世に自分ひとりしかいないような錯覚すら覚える。
しかも今度は壮絶な霧が視界を遮る。
徐行運転しても目の前が真っ白、ハイビームにしても視界を悪化させてしまい焼石に水だ。

こんなところでガス欠やらマシントラブルやらで立ち往生したら、たぶん泣きながら死ぬな。
などと思ってたら、ほんとうにガス欠になってしまった。
ザンザスの燃料コックを予備に切り替えて事なきを得たが、残り80kmでスタンドが無ければ
ほんとうにゲームオーバーとなってしまう。コンティニューや復活の呪文はありません。

不安が募ったが、やがて雨はあがり霧も晴れてきた。
標高も下がってきて、ゆるやかな林の続く道になった。
そんなとき。
林の影から何者かが出てきた。
こんな民家もなにもない樹海で、なにがいるってんだ。
まさかクマか。死ぬのか。食われるのか。うまいのか、のぼる。

キツネだった。
やせ細ったボディにふわふわのしっぽ、ツンととがった鼻と耳。
そんなヤツが一匹、トボトボと道を歩いていた。
のぼるに気が付いたのか、こちらを見る。

目と目が合う瞬間。
https://www.youtube.com/watch?v=y7mA8p-1
nlE

2015/11/20 22:30  [1498-4009]   

キツネはともかく先を急ぐ。
なだらかな丘陵地帯に出ると、牧場が広がり、ポツポツと民家が見え始めた。
ここが岩尾内だ。
そんなとき運のいいことにホクレンのスタンドを発見。
さっそく給油する。
スタンドのおばちゃんにオレンジ色のフラッグをもらう。道北のフラッグゲットだぜ。
あと残すは道東のやつだけだ。

おばちゃんにキャンプ場への道を教えてもらい、再び出発。
いちおう雨も上がったことだし、今日はキャンプにしていいだろう。

天塩川の川沿いを上流に進むと10分ほどで岩尾内ダムが見えた。
周辺を山に囲まれた巨大なダムはその上をバイクで渡ることができた。
ダム湖はゴミの少ない湖面で、秋ならば紅葉がキレイだろうと容易に想像できる。

ダムの端から折り返すと、入口のところでVT250に乗るおじさんライダーが止まっていた。
どうやらのぼるのことを待っていたみたいだ。
「きみ、私はこの近くのキャンプ場でテントを張るのだが、よかったら一緒にどうだい」
「おお、オレもそこでキャンプしようと思っていたところです。一緒に行きましょう」

おじさんはヘルメットを脱ぐと、宮崎駿にそっくりな人だった。
なのでマンマミーヤと呼ぶことにした。

ダム湖のほとりを少し走ると岩尾内白樺キャンプ場に到着した。
その名の通り白樺が生い茂る、整備されたとてもきれいなキャンプ場だ。
管理棟はあるが、料金は無料でたき火もOKとある。これはありがたい。

どのへんにテントを張ろうか物色していると、奥のほうにライダーが二人キャンプしているのを発見。
ウチらもそれに混ぜてもらおう。
「すみません、このへんにテント張って、一緒にキャンプしてもいいですか?」
たき火の準備をしているオフローダーと、カワサキZ−Uを整備している無精ヒゲのあんちゃんに
話してみると快くOKしてくれた。
オフローダーの兄さんは織田裕二そっくりなのでサンテと呼ぶことに、Z−Uのあんちゃんは
バリデンと呼ぶことにした。

のぼるとマンマミーヤはテントを張っていつでも寝れる準備を整えると、バイクで街まで戻って
パンと飲み物、そして酒を買って戻った。
もはや自炊する体力とか残ってないから。
雨天時の走行は想像以上に気力と体力の消耗が激しいのだ(言い訳)

キャンプ場に戻るとあたりはすっかり暗くなっていた。
そのへんのキャンパーがランタンを照らし、肉を焼く香ばしい匂いを漂わせていた。

サンテとバリデンのところに戻ると、もう一人小柄なおにーさんが仲間に加わっていた。
キャンパストップ付の軽自動車キャロルで一人旅をしており、キャンパと呼ぶことにした。

こうして本日のキャンプ、5人のメンバーが揃ったところでたき火を囲んでそれぞれ自己紹介をした。
「オレはのぼる。茨城の東海村から来ました」
のぼるがそう言うと、サンテとバリデンが驚いた顔をした。
「マジか。オレたち(サンテとバリデン)はお互い一人旅をしていてさっき出会ったばかりなんだけど
偶然茨城の日立出身同士でびっくりしていたところだったんだ」
なんと。日立市は東海村のすぐ隣で、のぼるも半年ほど暮らしていた思いで深いところだ。
「すげえ偶然ですねー」

5人はビールや日本酒で乾杯し、パチパチと火花を散らすたき火の前でそれぞれの冒険譚を語り合った。
いやぁ、いいね。こういうの。
洞爺湖でヌッシーやイクラちゃんとキャンプで語り合ったのを思い出す。

キャンパが「明日オレちょっとすごいキャンプ場に行こうと思うんですけど、だれか一緒に行きませんか?」
みんなに誘った。
どうすごいキャンプ場なのか聞くと、無料で泊まれるバンガローがあるサービス満点のところなのだが
どうも夜中にお化けが出るらしいというウワサで持ち切りのところだという。
つまりはキャンパはひとりでそこへ行く勇気がないのだ。

バンガローに泊まれるのならばここでテントを張ったまま、シュラフと着替えだけを荷物にして
出かけるだけになるので気楽なものだ。
「ならば行ってみようか」
のぼる、サンテ、バリデンの3人が挙手した。

そのキャンプ場はここから1時間程度のところにあるらしい。
なんだ、すごく近いじゃないか。ならば現地で1日遊んで暮らそうか。

そんな感じで話がまとまり、夜も更けたところでそれぞれテントに戻って就寝した。
明日の楽しみができた。おやすみ。

2015/11/21 20:51  [1498-4010]   

8時に目が覚めた。キャンプ生活にしては寝坊だ。
空はカラリとは言い難いが、少なくとも雨は降っていない。
とりあえずシュラフをテントの上に開いて干した。寝汗はかいていないが吸収した水分は
けっこうバカにできないものだ。放っておくとカビたりもするからな。

サンテ、バリデン、キャンパの3人は焚火をしながら朝食の準備をしていたが、マンマミーヤの姿が
見えない。よく見るとテントもバイクもない。
「マンマミーヤさんならゲロ吐きながら朝はやく出発していったよ」
とバリデンが説明してくれた。二日酔いなのに速攻出発していったのか。
昨日なんてそんなにたくさん呑んでなかったと思ったが、まあ少し呑んだだけで翌日にまで
影響する人もいるのだろう。とはいえ、誰もムリヤリ飲ませたりはしてない。
そんなことするくらいなら自分が飲むから。

のぼるは寝起きの状態でシェラカップに牛乳を入れて直火で温めた。
なけなしのお金をはたいて買った、丈夫で長持ちのチタン製のシェラカップだ。
「熱ー! 熱!熱!熱!熱!熱ー!!」
取っ手が一瞬にして灼熱に。危うく火傷するところだった。
チタンが熱伝導率に優れた素材であることをすっかり忘れていた。

さて、今日の予定。
キャンパの誘いにより、4人で上川の東にある「浮島湿原」という名所にあるキャンプ場で
一泊の肝試しお泊り会をする。
ただし、サンテとバリデンはここから西の旭川のバイク屋に用事があるそうで、それを済ませてから
のぼるとキャンパのいるキャンプ場で合流することになった。
4人が揃ったあとには、サンテとキャンパはこの機会に渓流釣りをすることとなった。
釣りとは粋なことをするものだ。アユとか岩魚とかが釣れるらしい。楽しみにしよう。

朝食後、さっそく4人は準備にとりかかった。
バイク乗りのメンバーの荷物は唯一自動車のキャンパのクルマに載せ、とっても身軽になった。
のぼる、サンテ、バリデンはそのあとまたこの岩尾内白樺キャンプ場に戻ってくるので
テントは張ったままだ。
キャンパだけは翌日また旅立っていくので全て片づけて仕舞っていた。

全員の準備が整い、さっそく行動開始だ。
サンテとバリデンは旭川へ向かって出発し、のぼるはキャンパは浮島湿原のキャンプ場へ出発した。
場所はキャンパがだいたい知ってるので、のぼるは彼の軽自動車キャロルの後を追って走った。
空はみるみる晴れてきて、走っていてとても気持ちがいい。
なんだか久しぶりの晴れなので気分爽快、今日は楽しい1日になりそうだ。

昨日通ってきた道を滝ノ上まで戻り、その街のスーパーで夕食用の肉と酒なんかを買い込み、
キャロルに載せてある自動車用の冷蔵庫に入れた。なんと便利なクルマだろう。
冷蔵庫を携帯するなんて発想はいままでまったくもってなかったね。

牧場のなだらかで広大な景色が続いたあと、山岳のワインディングロードを走る。
道路の脇にきれいな小川が流れている。サンテとキャンパはこういう川で釣りをするのだろう。
なるほど、こういう川は渓流釣りがとことん楽しめそうだ。
とはいえ、のぼるは釣りに関してはズブの素人で興味もあまりない。天性の食べる係である。
子供の頃はよくザリガニ釣りとかしていたけどね。

2015/11/23 23:04  [1498-4013]   

気持ちのいい山岳道路をしばらく走ると、道内でも屈指の長さを誇る「浮島トンネル」に入った。
途中、何度かキャンパの自動車のブレーキランプが光る。
ふつうに真っ直ぐのトンネルだし、前方にトロいクルマとかもいないのに、何故ブレーキ?

トンネルを抜けると、すぐにキャンプ場に到着した。
四方を森に囲まれたちょっと閉鎖的なキャンプ場だ。
「浮島トンネル記念公園浮樹浮木LANDキャンプ場」
浮樹浮木LANDと書かれているわりに、ウキウキするような形容から対極にありそうな
日当たりも悪くひっそりとした雰囲気があった。
うきうきランドというならば、子供向けの遊具やアスレチック施設などを想像させられるが一切なし。
そもそもトンネルの出口すぐそばにキャンプ場なんて作るものか?

でも、軽食もできる管理棟、バンガロー3棟、炊事場、トイレなどキャンプ場として不備はない。
シャワーなどの入浴施設が無いが、どこか近場の温泉に入りに行けばいいだろう。
なによりバンガロー宿泊利用が完全無料なことが素晴らしい。

管理棟で受付をし、バンガローのひとつを貸してもらった。
まずはそこに荷物を入れよう。
バンガローの前までクルマとバイクを乗り入れ、荷物を片っ端から建物の中に入れる。

バンガローはログハウスで、2段ベッドがふたつに裸電球の照明。あとは小さい窓があるくらい。
シンプルな設計ではあるが、思ったより清潔な建物だしシュラフひとつあれば雨風が凌げるのは
とてもありがたいものだ。

屋外では3組ほどキャンプしているグループや家族連れがいた。
これから撤収するのか、今晩も泊まるのかはわからないが。

さて、天気もいいので外でなにかして遊ぼう。
管理棟のおじさんに聞くと、すぐ近くの丘の上に「浮島湿原」がある、と教えてくれたので
まずはそこを観光することに。
徒歩で林の階段を上る。昨日の雨のせいで足場がぬかるんでいるので気をつけないと。
それにしても浮島とはなんぞや。島が浮いてるのか? ラピュタか? バルスなのか?
疑問は尽きない。

階段を上り切ると視界が開けた。
草野球ができそうなくらいの平原がそこにあった。ここが目的地「浮島湿原」だ。
いたるところに池が点在していたが、昨日の雨の影響ではなく、もともとそういう地帯なので
湿原というのだろうな。
足元がぬからないように板が湿原の周囲まで敷かれており、のぼるとキャンパはその上をたどって歩いた。朝なので他に誰もいない。うっそうとした雰囲気だった。

ところどころに「熊出没注意!」の看板が。
ちょ。シャレになってない。こんなところで熊に遭遇したらどうしろってんだ。
熊よけの鈴とか持ってないし。
そんなときはなんでもいいから歌でも歌うといいという。
ということで最初に思い浮かんだ歌をうたった。
「いざ進めやキッチン めざすはジャガイモ〜♪」
「なんでいきなりキテレツ」

のぼるはこの湿原の池に点在する、座布団ほどの島が気になっていた。
「この島もしかして・・・」
そのへんにあった棒きれでその島を押してみると、その小島は水面に波紋を描きつつ
前に進んでいったのだ。
「こいつ・・・動くぞ・・・!」
これらの小島は浮いている。浮島の秘密が解明されたのだった。
これは面白い。

大きな島なら人が乗っても沈まなそうだ。
キャンパはそういってちょっと大きい島を見つけてそこに乗ろうとした。
島までちょっと離れているので足のつま先で寄せようと試みる。
ちょっとでもバランスを崩したら池にドボンという状況だ。
「いいか、押すなよ・・・・絶対に押すなよ!!」
そう言った瞬間、地面の足を滑らせて片足を池に突っ込んでしまった。
「ギャー!」
念のためにいっておくが、のぼるは何もしていない。

2015/11/24 12:38  [1498-4015]   

片足を池に突っ込んだキャンパはパニック。
救出しようとするのぼるも腕を引っ張られてパニック。
極めて危険な状態だ。
一瞬でも運が傾いていたならば、二人ともウオーターハザードになっていたことだろう。

キャンパの右足がヒザ部分までどろんこになった状態で、二人はなんとかキャンプ場に生還した。
気分は水曜スペシャルの川口探検隊でインド洋で巨大ザメ「グレートホワイトシャーク」に
片足食われてしまった現地住民のそれだった。
まあ、キャンパはすぐに足を洗って着替え、すぐに復活したが。

管理棟で受付のおじいさんがひまそうにしていたので、そこでうどんを注文して食べた。
「このキャンプ場って幽霊とか出るって噂なんですけど、管理人さんはなんか知ってますか?」
キャンパが直球ストレートに聞いた。
おじいさんは「そうじゃな・・・」とすこし俯きながら語り始めた。

話がけっこう長かったので要約するが、このキャンプ場の目の前にある「浮島トンネル」は
北海道で一番長いトンネルで、工事後その採掘資材置場の跡地を利用したのが、この
「浮樹浮木LANDキャンプ場」なのだ。
トンネルは見ての通り無事に完成したが、トンネル内は微妙に下り坂になっていて気づかぬうちに
けっこうなスピードになっていることが多く、出口すぐに急カーブとこのキャンプ場の入口が
あることから、オーバースピードで曲がり切れず事故を起こす者が後を絶たない。
つまりキャンプ場の目の前のトンネル出口付近は、道内屈指の死亡事故ポイントなのだそうだ。
このキャンプ場は、そんな事故で死んでしまった旅人の魂が成仏できずに地縛霊として
住み着いているのだという。

キャンパはその話を聞いて「そうなんですか、なるほど、納得〜」とか平気でいたようだが、
のぼるはけっこうな怖がりなのですっかりビビっていた。
まったく、美味しくうどん食ってる前で何てこと語るかな。しばらく麺類が食えなくなっただろーが。

二人がうどんを食べ終わると、おじいさんは店をたたみ、キャンプ場の安全を確認したあと
早々に帰っていった。

夕方前にサンテとバリデンが到着した。
「それじゃあすぐに釣りに出かけよう」
とキャンパとサンテは釣りの準備をしてキャロルで出ていった。

残されたのぼるとバリデンは夕食の準備をして、いつでもすぐに調理できるようにした。
「そうだ、旭川でうまそうなワインを買ってきたんだ。キャンパの冷蔵庫に入れておこう」
キャンパのクルマの冷蔵庫は車用の12V電源からログハウス備付の100Vコンセントのほうに
移してあったのだ。ちゃっかりしてる。

2015/11/25 09:42  [1498-4020]   

浮島湿原 浮樹浮木LANDキャンプ場 バリデン サンテ キャンパ

日暮れ前にサンテとキャンパが帰ってきた。
「遅くなってごめんよ、岩魚を3匹釣ったんだけど、人数分のあと一匹がどうしても釣れなくてさ」
サンテがそう言うと釣れた岩魚を見せた。
少し小振りではあるが、正真正銘の天然の岩魚だ。

一同はさっそく夕食の支度にとりかかった。
かまどで薪に火を起こし、火が安定したところで予め研いでおいた米の入った鍋をのせる。
次に岩魚にナイフを入れ、ワタを取り出して小枝に突き刺し、塩を振ってから火の近くに刺した。
直接火に焼かず、まわりからじっくり熱をかけて岩魚の中まで火を通すことでふっくら焼くことが
できるわけだ。
それから豚肉を4等分に切って、フライパンで焼く。

グツグツと米が煮える音が消えた頃、鍋を火から下し逆さまにして数分間蒸らすとふっくら美味しい
ごはんの出来上がりだ。

さあ出来上がり。
ごはん、焼肉、岩魚の丸焼きだ。星みっつですッッ!
まずはバリデンとサンテの差し入れのワインを各々のマグカップに注いで乾杯した。
よく冷えたワインをクイっと飲む。旭川オリジナルの白ワインは酸味と甘みが絶妙なバランスの
美味しいワインだ。
岩魚の丸焼きを頭からかぶりつく。いい塩加減で中はふっくら、とても美味い。
焼肉もごはんも、みんなで作ったから美味しい。
幸せな夕食であった。

食べ終わると、鍋や食器類を片付けてバンガローに入った。
サラミやポテチなどのツマミを置いた小さなテーブルを囲んで日本酒やビールで乾杯。
時間がたつのも忘れて旅の話に花を咲かせていた。

明日の予定としては、キャンパはこのまま新天地へ旅立っていき、サンテとバリデンは
岩尾内白樺キャンプ場に戻るという。
のぼるも最終的にはテントを張ったままの岩尾内白樺キャンプ場に戻ることになるのだが、
せっかくなのでこの近辺を見てまわり、温泉などを楽しんでから帰ることにした。

そんな感じで午前0時を過ぎたあたりで就寝とした。
それぞれベッドに入って自分のシュラフにくるまって寝る。

のぼるはちょっと飲みすぎたようで、トイレへ行った。
バンガローの外に出て、ひんやりとした夜のキャンプ場を一人で歩く。
こんな時間なので近くでテントを張っていたファミリーキャンパーも静かなもので
物音ひとつしない。
照明はなく、自動販売機の明かりだけを頼りにして管理棟脇にあるトイレへ向かう。
キャンプ場の前にあるトンネルは、中でクルマが走っていると「ゴオオオオオオ・・・」
という不気味な音が響く。昼間はべつに気にもならない音だったが、漆黒の闇に独りでいると
ブラックホールに吸い込まれそうな感じがしてかなり怖い。

用を足し、自販機でアクエリアスを買ってバンガローへ戻ろうとしたときだった。

バンガローのそばに停めてあるキャンパのキャロルの脇に人影が見えた。
キャンパがクルマの荷物を出入れしていたものかと思い、
「キャンパさん、どうしたんです」
と小声で呼びかけると、その人影はササっとクルマの影に隠れてしまった。
「?」
近くに寄ってみると、クルマに付近には誰もいなかった。
おかしい。確かに誰かいたんだけどなぁ。

バンガローに戻った。
「いま外に誰かいたんだけど、誰か外に出てました?」
「いや、のぼる以外はみんなベッドで横になってたよ」
「えー。絶対誰かいたのになー」

するとキャンパがベッドから身を乗り出してきた。
「あれじゃね。昼間言ってた、地縛霊ってヤツ」

一同絶句。

2015/11/26 09:40  [1498-4023]   

翌朝。
バンガローの外から3人の話し声が聞こえ、目を覚ました。
「なんかあったんですかぁ」
目をこすりながら外に出る。
3人が揃って地面を指している。見ると・・・
大人の手のひらくらいの獣の足跡が無数に地面のあちこちに刻まれている。
「これって、まさか、アレですか」
「アレとしか言いようがないね」
恐怖で誰一人その名称を口にしないが、まさにクマの足跡に違いない。
信じられない。昨晩このバンガローのそばでクマがウロウロしていたのだ。

「ていうか昨晩オレが見た人影って、こいつだったんじゃ・・・」
「その可能性は充分にあるな。ヘタしたら今ごろのぼる自身が地縛霊になってたんじゃね?」
キャンパにそう言われて、顔面蒼白。
だがクマではなく幽霊だった可能性も否定はできない。
今となっては確認のしようもないが・・・
ひとついえることは、クマだろうと幽霊だろうと、アルティメット恐怖であることに
変わりはないということだ。

ひとまずそれはおいておいて、4人は朝食にした。
外のベンチに座って、昨日買っておいたパンとヨーグルトを食べた。
空は曇りだがときどき青空が見える。このまま晴れてほしいものだ。
このところ雨続きで行きたいところにほとんど行けてないからな。
まあ、今日はどこかの温泉でゆっくりくつろぐとしよう。稚内で泊まったドミンゴ以来
まる2日風呂に入ってないからな。不潔ですよ、マイケル。

食事を終えるとそれぞれ出発の準備を始めた。
荷物をまとめ、ゴミを捨て、ログハウス内をほうきで掃除した。
準備が完了すると、それぞれ発進していった。

「じゃあ、サンテ、バリデン、夕方には岩尾内キャンプ場に戻りますね」
「おう、夕方また会おう」
のぼるは発進する。
今日の目的地はここから東にある「丸瀬布」という小さな町だ。
気持ちのいい温泉があるらしい。

浮島トンネルを抜け、国道333号を東に進む。
山岳地帯の気持ちの良いワインディングロード、近くの山、遠くの山が多重スクロールで流れていく。
途切れた雲の隙間から太陽が顔を見せるたびに景色が神々しく映える。

1時間も走るともう丸瀬布の街に到着した。
空は雲も少なくなり晴れた。そのへんからけたたましくセミが鳴いている。
街をスルーし、山間に少し走ると一件の温泉宿があった。
宿のすぐ前にきれいな沢があり、釣りを楽しんでいる人がけっこういる。
そんな森の一軒宿だが大きな木造の建物で、丸瀬布の温泉といえば有無をいわずにココ、といった
感じの宿であった。

受付で入浴料500円を払い、さっそく浴室に向かう。
途中の休憩室には10人ほどの客がたむろしていたので風呂も少し混んでるのかと思ったが、
脱衣所には誰もおらず、広々とした室内風呂を貸切状態で楽しめた。
ややぬるめの温泉で、長湯するには最適な温度だった。

外はいい天気、自然の中の一軒宿でのんびり温泉に浸かる。
これ以上の贅沢があるものか。
「ヒャッハー! フリーダムだぜベイビー!」
うるさいですよ、マイケル。

2015/11/27 10:19  [1498-4030]   

2日間の汚れを洗い流し、さっぱりしたところで休憩室で一休み。
何はなくともスプライト。こ、これがうまいんや。
自由と平和っていいよなー。

などとくつろいでいると、風呂上りの20代の女の子がのぼるの正面の座布団に座り、
牛乳を飲みながら話しかけてきた。
「ステキな湯でしたねー。すごくさっぱりしましたー」
きれいに焼けた小麦色の肌のショートヘアの女の子。半乾きの髪を宙にフルフルさせる仕草が
なんだかとても色っぽい。大きめの荷物から見て単独徒歩旅行者のようだ。
「オレも北海道に来てやっとまともに老舗旅館のいい雰囲気の温泉に入ったよ」
そう言うと、その娘は「そうなんだぁ」とクスクス笑いながらいろんな世間話をはじめた。
なんだか人懐っこい娘だ。
とは思ったものの、まわりを見ると休憩室にいる人はみんな地元の年配の方ばかり。
同じ世代なのはのぼるだけだったので話しかけただけにすぎなかったのだろう。
彼女のことをアレンビーと呼ぶことにした。

話によるとアレンビーは予想通り徒歩旅行者で、毎日とほ宿やユースホステルに泊まっていて
移動は主に電車やバスなのだそうだ。
「女の子ひとりで徒歩旅とか、すごいな」
「そうかな? あたしは昔からそういうスタイルなのですよ。ときどき男の旅行者のひとから
ごはんごちそうになれるのです」
「いやいやいや、あんましそういう男を信用するのもちょっと危険かと思うけどな」
「大丈夫。あたし空手やってるのです。めつぶし!」
「ギャー! それ空手じゃねーし!」

調子こいてお昼過ぎまで話し込んでしまった。
お腹が減ったので丸瀬布の市街地でうまいものを食べに行こう。
「それじゃ、オレはそろそろ行くよ。アレンビーもよい旅をな」
「あい。またどこかで会えたらよいのです。気をつけて走ってね、のぼる」

老舗宿を後にしてバイクを走らせる。
だが、午前中は晴れていた空がどんよりした雨雲に覆われており、今にも降りそうな・・・
ドザー!
「うわっ 言ってるそばから降ってきやがった! 最悪だ!」
みるみる凄まじい雨脚に。

たまらず近くの民家の車庫に飛び込んで雨宿りをさせてもらった。
「スミマセン、ちょっと雨宿りさせてください」
何事か、と見に来た家の人に頭を下げると「あらあら、どうぞごゆっくり」と言ってくれた。
くっそ、温泉に入ってさっぱりしたばかりなのに、少し濡れちまったじゃねーか。
こんなことならさっきの宿で、もっとアレンビーとお話ししてればよかった。

2015/11/28 09:26  [1498-4031]   

丸瀬布駅にて 強虫ペダル

雨が止みそうにないので、仕方なくレインウェアを着用しJR丸瀬布駅へ向かった。
駅の周辺なら食堂なんかがあるはずだから。

駅に到着すると、とりあえず待合室に駆け込んだ。
ほとんど無人駅のようなところだが、奥のほうに駅員がいて電車がくると改札しに出てくるみたい。
とはいえ2時間に1本ほどしか電車が来ないのでひどく物寂しい雰囲気があった。

だが、待合室にはひとりの旅行者が雨宿りしていた。
のぼると同い年くらいの青年チャリダーで、待合室の中で自転車を組み立てている。
「どうも。オレも雨宿りしに来ました」
「どうぞどうぞ、お構いもできませんが(笑)」
長距離移動では、分解した自転車をバッグに入れて電車で目的地へ移動し、そこから
自転車を組み立てて走る、というスタイルのようだった。
彼のことを「強虫ペダル」と呼ぶことにした。

「さっきまで晴れてたから、自転車組み立てて走ろうとしてたのに、この有様ですよ」
強虫ペダルは恨むように窓の外を見た。
「オレもさっき温泉入ってきたばかりなのに、ジーンズとか少し濡れちまった」
「お互いツイてないね」

ひとまず腹が減りすぎていたのでメシを食べに行くことにした。
強虫ペダルも一緒に、と誘ったがさっき食べたばかりだ、というので一人で行くことになった。
折り畳みの傘を差し、雨の丸瀬布駅前の商店街を歩く。
少し歩くとすぐに肉の焼けるうまそうな匂いのする食堂を発見、速攻で入った。
小奇麗な大衆食堂で、客はのぼる一人だけだった。
メニューを見ると「豚丼」なるものが。
おっと、うまそうではないか。というわけで豚丼を注文した。

熱いおしぼりで顔をまんべんなく拭く。きもちいー。
「はーい、豚丼おまちどう!」
おばちゃんがどんぶりを運んできてくれた。
どんぶりの中を見ると・・・
炭火で焼かれたと思われる厚めの豚ロース肉が6切れほどごはんの上にのっかって、どろりとした
甘めの匂いのするタレがまんべんなくかけられていた。

がまんできずかっこむ。
じゅわりと肉汁がにじむ豚ロース、甘辛いタレと融合して熱いごはんと絶妙なハーモニーを奏でる。
う・・・うますぎる!
こんなうまいどんぶりは生まれて初めてだ。
ざまあみやがれ海原雄山。北海道にはこんなうまいB級グルメがあるんだぜ。

はっと気づくと完食していた。あああ、もっと食べたかった。
しかも写真撮り忘れてるし。

駅に戻ると自転車の組立を終えた強虫ペダルがベンチに腰掛けて一服していた。
まだ雨は止まず、とりあえず雨宿りして様子をみるか。

強虫ペダルと旅の話で盛り上がっていると、外でバイクの音が聞こえた。
ヤマハ・セローに乗った女の子が駅前の観光案内を見ながら立ち往生している。
「やっはろー。駅の待合室で雨宿りしていったらどうですか」
女の子は「そうするわ」と言って待合室に入ってヘルメットとレインウェアを脱いだ。
長めのウェーブヘアーの髪型、すこしぽっちゃりした顔の娘であった。
彼女のことをモーラと呼ぶことにした。
「あーもう、雨ばっかしでチョーむかつくわね。いやんなっちゃう」
モーラはちょっと不機嫌そうにつぶやいた。
「だよなー。せっかく北海道を旅してるんだから、もうちっと天気良くしてほしいもんだ」

2015/11/29 17:35  [1498-4035]   

モーラの乗るセローは女の子でも扱えるキャパの広いオフロードマシンで多くの旅人が乗るバイクだ。
ゆえに誰でも乗ってるというイメージが強く、特にのぼるのような「オレだけ特別」とか思ってる
おのぼりさんには向かないバイクでもある。

なぜのぼるはザンザスに乗っているのか。
かっこいいから、の一言に尽きる。
専門学校時代に発売されたバイクで、当時はもちろん高くて買えなかったが「いつかは乗りたい」と
願っていた憧れのバイクだったのだ。
エンジンはZRXの高回転型エンジンを街乗りでも楽に扱えるようにデチューンしたものだが、
その「デチューン」というイメージが多くの人に悪いイメージを植え付けてしまった。
デチューンとは用途に応じて元々高い出力を扱いやすいように下げる調整を施すことをいうが、
バイクで馬力をあえて下げることなど愚かなことだ、と敬遠されたわけだ。
乗ってみればその良さ、低中域トルクがアップしたことによる扱いやすさがわかるのだが、
試乗車がほとんど無いことから、買わなければ理解もできるわけもない。
つか、のぼるも買ってから理解したクチではあるが。

すっかり話が逸れた。

モーラは待合室の自販機で買ったジョージアのエメラルドマウンテンを2〜3口で飲み干し、空き缶を
ゴミかごに投げ捨てた。
「ちぇっ 夏でも寒いんだから、ホットの缶コーヒー置いておけよな」
なんだかすごく男勝りの豪快な女の子だ。
「モーラは今日はどこまで行くの?」
「あたし? 北見に宿を予約したからそこまでさ。ここからあと1時間くらいで着くかな」
モーラは北海道の道東をメインにあっちこっち走り回っているらしい。
最近のこの雨のせいで摩周湖や屈斜路湖、開陽台などの景観は霧やガスでぜんぜん見られず
不満が溜まっているという。なるほど、気持ちはみんな一緒のようだ。

のぼる、強虫ペダル、モーラ。
それぞれ違う目的地を目指していたのだから、雨が降っていなかったらきっとここで出会うことは
なかっただろう。
出会いというのは本当に不思議なものだ。

14:30。降り続ける雨の中、モーラは意を決してレインウェアを装備した。
「なんか晴れそうにないから、あたしは行くよ。余裕あるうちに宿に着きたいからな」
「そうだな。気をつけてな、モーラ」
のぼると強虫ペダルはモーラを見送った。
別れ際、モーラはのぼるのバイクを見て聞いてきた。
「あのバイク、見たことないけど、なんていうの?」
「カワサキ・ザンザス」
モーラはまじまじとザンザスを見ると
「へえ。かっこいいじゃん。じゃあね、のぼる」
そう言って発進していった。

かっこいいじゃん。
自分のマシンが他人にそんなふうに言われるのは、なんと嬉しいことだろう。
まるで自分が褒められたような気分になる。
その一言だけで、もう雨でも陽気に走れるくらい気持ちが高ぶっていた。
「よし、オレも行くよ」
強虫ペダルにそう言うと、のぼるもレインウェアを装備し、ザンザスにまたがった。
「のぼる、気をつけて。オレはこのまま雨が上がらなかったら最終電車が出たあとそのまま
この駅でシュラフ敷いて一晩過ごすことにするよ」
「そっか。でも晴れるといいな。それじゃ、幸運を!」
「お互いに!」

そういうと、アクセルを吹かして出発した。
さあ、岩尾内白樺キャンプ場へ帰ろう。

2015/11/29 23:33  [1498-4039]   

おバカなことに岩尾内白樺キャンプ場への帰り道で迷った。
あれ、さっきのとこ曲がるんだっけ、いやあっちだっけ。
などとそのへんをウロウロしつつ、キャンプ場にたどり着いたのは日没後であった。
雨は上がって、そのへんのキャンプサイトではランタンの明かりがぽつぽつと照らされていた。
「よう、のぼる。遅かったなー。この雨で土砂崩れでもあったのか」
バリデンとサンテはターキーを飲んで盛り上がっていた。
「ハハハ、ちょっと心の土砂崩れが・・・」

とりあえず焚火の前に座り、セイコマートで買ってきたおにぎりをかぶりつく。
今朝別れたあと、サンテとバリデンはこのキャンプ場に戻り、旭川で仕入れたバイク部品を
バリデンのZ−Uに組み込んで修理していたらしい。
とりあえず走行はできるようになったようだが、ここが居心地がいいらしく、もう数日は
ここに居座るつもりのようだ。

「明日は快晴らしいぞ。さっきラジオの天気予報でそう聴いたんだ」
バリデンがそう言ってきた。
「マジで? じゃあオレは再び冒険の旅に出発することにしよう」
のぼるは久しぶりの天候に心が躍った。

「なら、今日は3人でターキー祭りといこうか。飲もうぜ!」
チタンのシェラカップにワイルドターキーをなみなみと注がれる。
ちょっとまて。
このシチュエーションはトラウマがあるぞ。
そう、3年前の原チャツーリングで瀬棚キャンプ場の展望台で飲み会をしていたときに
ランタンを修理してあげたお礼にターキーをたくさんごちそうになった時だ。
初めて飲んだバーボンウイスキーにコテンパンにやられ、記憶を失ったのだ。

とはいえ、注がれた酒は飲み干すのがのぼるの流儀だ。
「ごちになりまーす」
と一口飲む。
口が焼ける! 何度飲んでもストレートのバーボンはキツい。
「ほら、チーズとビーフジャーキーもあるから」
バリデンからもらったツマミをかじりながらチビチビ飲むと、ようやく慣れてきた。

酒を飲みながら、二人に今日の出来事を話した。
丸瀬布で温泉に入ったこと、帰りに雨にやられて駅で雨宿りしたことなど。
そうしたらサンテにとても羨ましがられた。
「なんだよのぼる、行く先々で女の子と知り合いになってんじゃん」
え、羨ましがられたのって、そこ?
「ソロで走ってる女の子だって稀少だというのに、仲良くなれるのなんてかなりラッキーだぜ」
「そうなの? なんとなく出会ってなんとなく話しただけなんだけど」
3年前のときだって、けっこう自然に出会って自然に話してたし。イクラちゃんとか。
こんなことなら住所とか電話番号とか、連絡先を聞いておけばよかった。

そんな感じで、焚火を囲んで旅の出来事を語って過ごした。
ツーリングの何が楽しいって、こういう夜のひとときを現地で出会った仲間と語り明かすのが
何よりも楽しいと感じる。
そこには上下関係もなにもない。仮に大統領だろうが総理大臣だろうがカズだろうが、ここでは
旅先で出会った仲間。それ以上でもそれ以下でもない。
キャンプの焚火の前では、誰しも一人の冒険者でしかない。そんな雰囲気が楽しいのだ。

2015/11/30 22:22  [1498-4042]   

岩尾内白樺キャンプ場にて サンテとバリデン

朝。小鳥のさえずりで目覚めた。
はい? 小鳥がさえずっているって!?
ガバっと起き上がり、外に出てみる。
青空と、そして太陽がさんさんと輝いている。
おおおお! 晴れた!

待ちに待った快晴だ。
キャンプ場のあちこちから子供のはしゃぐ声が聞こえる。
朝っぱらから元気なことだ。いや、声を出してはしゃぎたいのはのぼるも一緒か。

せっかくなのでキャンプ場を散歩してみた。
ダム湖のほとりへは行けないが、その全貌を見ることはできる。
朝日に照らされて湖がキラキラと輝いており、たくさんの白樺も瑞々しく茂っていた。
ほんと、こんないいキャンプ場はなかなかないんじゃないか。

「おはようさん、予報通りいい天気になったな」
サンテとバリデンも起きてきた。

テントの埃を払ってシュラフをその上に干す。
シュラフにたまった湿気もすぐに乾くだろう。
その間に朝食だ。
ごはんを焚き、お湯を沸かしてインスタントの味噌汁を作る。
サンテから戴いた卵で目玉焼きを作り、ウインナーを炒めて出来上がり。

「のぼる、今日はどこまで行くつもりだ」
ごはんを食べているとき、バリデンに聞かれた。
「この天気なら、屈斜路湖とか摩周湖もよく見えると思うから、弟子屈方面だね」
屈斜路湖や摩周湖は晴れていてもよく霧が出て見えないことが多いので有名だ。
雨の日の翌日に快晴となった場合は、えてして霧が晴れているだろうから、アタックする価値は
充分にあるといえる。
「なるほど、今日はどこに行っても気分がいいだろうな」
おうよ。

朝食の後片付けを終えると、出発の準備にかかった。
キャンプ用品、着替え、シュラフを片付け、テントをたたむ。
その最中にふと気づいたことがあった。
下着類のストックがあとわずかなのだ。
雨にやられたり汗をかいて着替えたり、いろいろあったからな。
どこかコインランドリーでもあればいいのだが、仮にあったとしてもそこで洗濯・乾燥で
2時間くらい足止めを食らうのは痛い。せっかくの天気なのだから、ガンガン走りたいところだ。
まあ、この問題は走りながら考えるとするか。

全ての荷物をバイクに搭載完了した。
ヘルメットをかぶり、晴れたとき用のグローブを付ける。
最近はほとんどレイングローブしか付けていなかったから、それだけで嬉しい。
セルスイッチを押し、ザンザスの軽快な4ストロークエンジンに火を付ける。
お前も晴れの日が待ち遠しかったのだろう。今日は思いっきり走ろう。

「それじゃ、サンテ、バリデン、3日間どうもありがとう。またどこかで会おうぜ!」
「おう、気をつけてな」
「道中思いっきり楽しめよ。茨城でまた会おうぜ」
アクセルをぶん回し、岩尾内白樺キャンプ場をあとにした。

さあ、走ろう。ここからは道東エリアに突入だ。
この旅もいよいよ後半だ。

2015/12/1 23:48  [1498-4043]   

アイスパビリオン 究極の寒さ-41℃ 国道39のワインディングロード 層雲峡 銀河の滝

あっつ。
日が昇るにつれてどんどん気温が高まっていく。
もはや真夏のそれだ。
雨のときはエンジンの熱に助けられていたこともあったが、この天気だとかなり熱い。
フルカウルのバイクだとかなり厳しいのではないか。ネイキッドでよかった。

愛別町を過ぎ、上川町へ。
いい天気を軽く通り越して、激熱だ。
そういえばこのへんの地域は日本の最低気温と最高気温を記録しているあたりではなかろうか。
走っていても汗をかくのはけっこう異常だろ。
とりあえず冷たい飲み物が欲しい。何かないか。コンビニでも自販機でもいい。

そんな感じでフラフラ走っていると、目の前に大きな屋内施設が見えた。
「アイスパビリオン」と書いてある。
日本最大級の氷のミュージアム、なのだそうだ。
おお、いいね。ここで少し涼んでいこうじゃないか。

入場料800円を支払って館内に入る。
おお、ちょっと室内に入っただけで気持ちのいい冷気が。
一気に汗が引く。
「いらっしゃいませぇ、お客様はお一人でしょうか?」
大して混んでいないので、ひまを持て余した案内嬢が話しかけてきた。
「はい。涼みにきました」
そう正直に答えると、
「それでは、もっと涼しい場所にご案内いたしますよ〜」
ほう。それは楽しみだ。外はオニのような暑さだから、身体をよく冷やしてから出発したいものだ。

案内嬢のあとについていき、とある入口で防寒具のコートを渡された。
「これを着て中に入ってくださいね」
なんだ、オーバーな。オレは暑いんだ。こんなもの着なくてもへっちゃらなのさ。
といいつつ言われた通りコートを羽織る。
「準備できましたね。それではご案内いたします。究極の寒さ-41℃の体験コーナーでございます」
そう言うと扉を開けた。
いや、ちょっと待て。いま-41℃っつったか?
室内に入るやいなや、痺れるような突き刺さるような冷気を浴びる。
なんだこれ、痛い、痛いよママン!
なにか叫ぼうにも口を開けてられない。
こ、これがアキラが寝ていた絶対零度かー!(違います)
ていうか、シャツの吸い込んだ汗はまだ乾いていないんですけどー!

ガクブルの世界を堪能しつつ外に出た。
あー。あったかい。
ちょっと前まで地獄のような暑さとか思ってたけど、ふつうに天国じゃないか。ハハハ。
ていうか、なんでふつーの涼しさを求めただけで-41℃の世界に行くかな。極端なんだよ行動が。

再び走り出す。
国道39号の気持ちのいいワインディングロードを南下していくとやがて層雲峡に到着。
切り立った断崖が続く景勝地だ。
崖の上から流れる滝、銀河の滝を見上げる。こりゃすごい。
露店のあんちゃんから呼び止められる。
「記念に買ってってよ。安くするから」
露店を見ると、どこにでもあるようなキーホルダーしかない。
なんだよ、層雲峡オリジナルのものなら考えたんだけどな。

さあて、まだまだ走ろう。
もうすぐお昼か。どこかで何かを食べよう。

2015/12/2 22:32  [1498-4044]   

石北峠で会ったライダーとチャリダー 土産物屋のキタキツネ

石北峠にたどり着いた。
層雲峡から東へ、北見へ向かう途中の峠道のてっぺんにある展望台だ。
近くの樹海から遠くの山々が見渡せ、とても景色がいい。
標高がやや高いこともあって涼しい風が気持ちいい。
露店もあり、いもあげ、焼きとうもろこしなどいろんな地産のものが楽しめる。

何を食べようか迷っていると、地図を持った一人のおじさんライダーに話しかけられた。
「すみません、層雲峡ってどのへんにあるのか、わかります?」
層雲峡。さっき通ってきたところだ。それならわかる。
「この地図でいうと、ここが今いる石北峠なので、そこから西へあー行ってこう行くと着きます」
「おお、なるほど。わかりました、ありがとう!」

間髪入れずに今度は焼きとうもろこしを持った女性のチャリダーから話しかけられた。
「すみませ〜ん、層雲峡ってどっち方面にあるんですかぁ」
わお。連続して同じ質問かよ。
先ほどと同じように説明してあげると「なるほど。ありがとう。がんばって走らなきゃ」
とお礼を言われた。

せっかくなので先ほどのおじさんライダーを呼び止めてその娘を紹介してあげた。
同じ層雲峡が目的地なので、と言うといろいろ話が弾んでいた。
カップルになれば面白いのだが、かたやバイク、かたや自転車だからなぁ。
ここで別れてしまうだろう。

先を急ぐことにして、二人と別れ出発する。
走りはじめて5分ほどしてふと気がついた。
「あ。なんか食べるの忘れてた」

しばらく樹海の峠道が続き、今度はいきなり平坦な直線道路が続く。
左右に牧草地が広がり、これまた北海道らしい景色が楽しめる。

走りながらいろいろ考えた。
今日の目的地は弟子屈方面なのだが、旅をする前から少し注目していた宿があった。
「ましゅまろ」というとほ宿なのだが、ガイドブックによるととても居心地のいい宿で
ぜひ泊まるべし、とまで書かれていたのだ。
まあ、ここ数日は出費も抑えられていたし、ちょっと奮発して宿に泊まるのもよかろう。
本当はこんな快晴の日にこそキャンプするべきなのだが、目先の問題は溜まった洗濯物。
どこかでドバっと洗わないとどうにもならんのだ。

というわけで、ようやく見つけたセイコマートで焼きそばパンを食べながら「ましゅまろ」に
予約の電話を入れた。
当日いきなりの予約だが、男女別相部屋(見知らぬ同性同士が同じ部屋に泊まるシステム)なので
なんなく予約OKであった。1部屋貸切にしようとすると、こうはうまくいかないだろう。

昼過ぎに立ち寄った土産物屋に、キタキツネの子供が飼われていた。
ダンボールの中で気持ちよさげに昼寝中だったのに
「おら、お客さんだよ。挨拶しな!」
と店員のおばちゃんにダンボールを蹴られ、ビクビクしていた。
やめんかい。寝ているなら寝かせてやれよー。かわいそうに。
ちなみにエキノコックス予防接種を受けているため、触っても大丈夫。
エキノコックスとは北海道に生息する寄生虫。人間の体内に寄生すると大変なことになる。マジで。

さあ、先を急ごう。
もうすぐ屈斜路湖だ。キレイに見渡せるといいなぁ。

2015/12/3 22:51  [1498-4046]   

緩やかな上り坂を登り切ると、美幌峠の展望台に到着した。
ここでいきなりドーンと向かい側に現れるのが、日本最大のカルデラ湖「屈斜路湖」だ。
でかー!
しかも洞爺湖と同じく湖の中央に中島がある。
小高い丘の上へ歩いて登ると、さらに景色が良く見える、
これは見事。今日来て大正解だったようだ。

ここで一句。

 くっしゃろ湖 魔王とびこむ 水の音

魔王とは怪獣クッシーのことであることを示唆する名句だね。
・・・というネタを知ってる人はそうとうなダメ人間だと思うよ。

美空ひばりの「美幌峠」の歌詞が彫ってある石碑がある。
すみません、あんまり演歌とか聴かないので知りませんでした。
https://www.youtube.com/watch?v=jN4UH2Rr
TDA


この調子だと摩周湖もキレイに見れそうだ。
早く見に行きたいぞ、摩周湖。
バイクでふもとまで降り、湖畔を走る。
キレイな湖で釣りをしている人もちらほら。
ニジマスとかが釣れるそうだ。
また、場所によっては湖畔の砂場を少し掘れば温泉が湧くらしい。
いろいろと野趣あふれる遊びが楽しめそうな所だ。

次は摩周湖へ向かう。
はっきりいって、今回の旅でいちばん行きたい湖である。
理由は、幼い頃に読んだ風景写真の雑誌で「世界一透明度の高い湖」として摩周湖が掲載されて
いたのが記憶に深く刻まれており、いつかこの目でその湖を拝んでみたい、と思い続けていたのだ。
これはロマンである。
さあ、行くぞ摩周湖。

その前にガソリン補給。
いいところにホクレンがあった。
道東の黄色のフラッグをもらい、リヤの荷物に取り付けた。
おおお、ついに3色揃ったぜ。
コブラでいえばドミニク、キャシー、ジェーンの3人娘が揃ったことになる。
これで銀河はオレのものだ。クックック(なぜか口調がクリボー)

2015/12/4 23:19  [1498-4050]   

憧れの摩周湖 ぼくご満悦♪ 摩周湖から見た屈斜路湖 第一展望台で会ったザンザス乗り

うなるエンジンに無理をさせて上り坂を登ると、摩周湖に到着した。
ここも、ものの見事に晴れていた。

周囲を絶壁で囲まれた神秘のカルデラ湖。
湖の中央には外周10mにも満たない小さな島「カムイシュ島」が浮かんでいる。
年間を通じてほぼ一定の水位になっている謎多き湖だ。
北の山奥にある「神の子池」へ地中から水路が通じている、と言われていたが
近年の調査で実はそれは間違いであることが判明している。
環境保全のために、そういった研究調査での立ち入りすら、ここは厳しく制限されているのだ。
冗談でも釣りなどしてはいけない。

それにしてもなんと綺麗な摩周ブルー。
なんか感無量で言葉もないわ。
感動で泣きそう。
だが、まわりの観光客がギャーギャー言ってるので台無しだ。
まあ、誰しもこの見事に晴れた摩周湖が見れて感激してるのだろうが。

こういった観光客が多く訪れるのはべつに悪いことではないのだが、心無い者がポイ捨てした
ゴミや排気ガスの影響で、透明度は残念ながら世界一ではなくなった。
現在の世界一はロシアのバイカル湖だ。それもヘタしたら中国の環境汚染のせいで
どんどん透明度が失われてしまうことが懸念されている。
のぼる自身もバイクに乗っている以上は排気ガスをまき散らして走っているわけで、
はっきりいって偉そうなことは何一つ語ることはできない。

展望台の逆を見ると、はるか彼方に先ほど通ってきた屈斜路湖が見える。
西に傾いた陽が湖面に反射してかなり神秘的だ。
なんと見事な景観なことか。
来てよかった。ほんとうにそう思った。

ちなみに摩周湖には対岸にも裏摩周展望台という観光用の展望台があるのだが、
ここよりももう少し高い位置から見下ろせるので、かなりオススメだ。
ただし今いる第一展望台からはいったんふもとまで戻り、超遠回りの道を走ることになるので
1時間は軽くかかる。余裕をもって見学することが望ましい。
今回はもう夕方なので、その裏摩周展望台へ行くことはできなかった。
2年後、神の子池とともにそこへ行くことが叶うこととなる。

この景色を心に深く刻みこんだところで、出発しようと駐車場へ戻ろうとしたら
なんとのぼるのバイクのとなりにまったく同じザンザスが停まっているではないか。
「これ、あなたのザンザスですか?」
そのライダーに話しかけられた。五分刈りの青年だ。
「そうです。こんな誰も知らないバイク、オレひとりしか乗っていないと思ってました」
「そりゃお互いさまです」
そういって二人で笑いあった。

このバイクは決して「値段が高くて誰も買えないバイク」ではない。
たしかに400ccのネイキッドにしてはちょっと高いとは思うが、常識の範囲の値段だと思う。
純粋に人気が無いだけのバイクなのだ。
だから、これに乗っている者は「誰がなんと言おうとこのバイクが好きだから乗っている」のである。
そういった好みが似た者同士が出会えば、即仲良くなるに決まっている。

その場で時間が経つのも忘れてバイク談義に花を咲かせた。
憧れの地で、稀少車同士が出会ったのも、カムイの奇跡なのかもしれない。

2015/12/6 22:06  [1498-4051]   

ザンザス乗りの青年と別れ、弟子屈のふもとに降りた。
本日の見るべきところは完遂したので、あとは宿へ向かうだけだ。

JR摩周駅の次の駅「美留和駅」のすぐ近くにとほ宿「ましゅまろ」があるとの事で
わかりやすく、すぐに見つけることができた。
16時に宿に到着か。なかなか理想的な時間だ。
宿の前には宿泊客のものらしい、クルマ3台とバイクが3台と自転車2台がある。
のぼるのザンザスもそのバイク置場に停め、玄関に入った。
「ちわっス。予約したのぼるです」
そう言うと、奥から若い奥さんが出迎えてくれた。
「のぼるさんね、いらっしゃい。部屋に案内するわね」

2階の一室に案内された。
10畳ほどの部屋に2段ベッドが3台。つまり最大6人部屋というわけだ。
すでに2人の先客がくつろいでいた。太ったおじさんと大学生らしき青年だ。
「ども、のぼるです。よろしくお願いします」
挨拶を交わすと、まずは荷物の整理を急いではじめる。
バイクの荷物をすべて部屋に持ち込み、風呂が空いていたので直行し、上がると同時に
汚れた下着類を洗濯機にかける。

やることをやってようやく落ち着けた。
すでに陽は暮れて外は暗闇になっていた。
1階の広間では奥さんと旦那さんと住み込みバイトが食事の支度をしており、その邪魔に
ならぬように奥へ行くと、マンガ本や旅の情報誌などがたくさん置いてあった。
ひまつぶしには事欠かないが、ひまというわけではないのでそのへんでくつろいでいた女性客と
だべっていた。
本日のお客は約10人ほどで、その半数は女性だった。
ソロの女性でも安心して泊まれる宿というのは信頼のある宿である証拠だ。
そういう意味では、たしかにいい宿なのだろう。

食事の準備が整い、本日の客が広間に揃い、夕食開始となった。
焼肉といろんな温野菜というベーシックなメニューではあるが、ボリュームもあって満腹になった。
野菜は裏の畑で自家栽培したものを使っているそうで、もちろん無農薬。やるな。

食事が終わると、今度は自家製の果実酒をサービスしてくれた。
これには女性客も大喜びで、それを飲みながらワイワイと旅の話をしたりして盛り上がった。
なるほど・・・可能な限り自家栽培、自家製酒にすればコストも抑えられることから
宿代もそのぶん安くすることができるわけか。

いやいや、いろいろ勉強になる宿だ。
客室は2段ベッドと寝具だけのシンプルな配置。トイレや浴室は共同だがキレイに掃除されている。
加えていうなら、JRの駅から歩いてすぐという立地の良さも便利さでいえば申し分がない。
これは・・・なんか、こういう宿を経営する小説が書けそうな気がしてきて、いろんなアイデアが
思い浮かんできた。

3姉妹が経営する北海道のとあるペンション。長女は引きこもりだがネットを駆使して客を呼び込み、
行動派の次女は食材の仕入れと近隣のツアー担当、末っ子は料理と接客を担当・・・
それぞれの長所を駆使し、短所をお互いに補うようなアットホームな関係。
そして彼女らが働く目的のひとつに、王子さまのような少年のためという設定を付加すると
物語的に説得力と深みができるか・・・

などと思い描いていた。
それは数年後「HEAVYDUTY SISTERS」というタイトルで日の目を見ることになる。
http://homepage2.nifty.com/burst_out/sto
ry.html


夜も更け、それぞれ部屋に戻った。
同室の男たちでお話ししたかったのだが、1週間ぶりの布団ということもあって
ベッドでごろりと横になると次の瞬間のび太のように速攻で眠ってしまった。
今日1日走りっぱなしだったし、今までの旅の疲れも溜まっていたのかもしれない。

2015/12/7 03:29  [1498-4052]   

わふ〜 ましゅまろ前にて集合写真

翌朝。
早めに寝たせいか、6時に目覚めた。
部屋のほかの人はまだみんな寝ているので、1階に降りた。
広間では奥さんと旦那さんが朝食の支度をしていたので、挨拶だけして外に出て深呼吸した。

今日も晴れだ。
弟子屈の朝は瑞々しくて気持ちがいい。
宿の裏にまわってみると、犬小屋にシベリアンハスキーが一匹寝ていた。
のぼるに気付くとしっぽを振って「わふー」と言ってじゃれついてきた。
「わぁー、なんだよおまえは〜」
寝そべって「かまってかまって♪」のポーズをしたので、しばらく腹をさすって遊んでやった。

7時になると朝食開始。
ごはんと味噌汁、目玉焼きと温野菜。おしんこも自家製で、ごはんが進む進む。
これでひとり5500円なのだから泊まって損なしだろう。

なんだか居心地がよくてこのまま連泊したくなってきたが、そんな金もないから無理。
バイトや居候としてタダで居座ることも、募集していれば可能でもあるのだが、
そんなのは少なくとも半月以上が条件になるだろうから、いくらなんでも無理。

とりあえず荷物をまとめておき、いつでも出発できるように準備を整えておいて、
広間で情報誌を読み漁って本日から明日にかけての目的地を探した。
まず網走へ行って「オホーツク流氷館」というミュージアムが評判らしいのでそこへ行き、
その次にお約束の「網走監獄」へ行き、そのあと時間があれば手作りぬいぐるみの店「やまね工房」
へ行き、そしてサロマ湖らへんでキャンプ・・・ってとこか。
じゃあその翌日は知床半島を巡る冒険をする感じでゴーだな。

チェックアウト前に全員で記念撮影。
そのあと、それぞれが出発していった。
「さあて、オレも行くか」
バイクに荷物を載せ、ヘルメットをかぶる。
宿の夫婦にお礼をして、出発した。

弟子屈の森は深い。
陽は照っているが、木々がそれを遮り道路まで届かない。
だからひんやりとして気持ちがいい。弟子屈が人気のリゾートなのもそういうのが理由の
ひとつなのかもしれない。

2015/12/8 10:20  [1498-4053]   

R391をしばらく走ると海に出た。
おお、なんだか久しぶりじゃないか、海。
オホーツクの海は穏やかでとてもキレイだ。
冬になるとこのへんにも流氷がわんさか押し寄せてくるのだろうな。

海岸沿いのR244を走っていると、小高い丘にフレトイ展望台という所があったので立ち寄ってみた。
なんだか無駄に珍しいピラミッド型の展望台で、インパクト抜群だ。
そこからの眺めがとてもいい。まっすぐな海岸の彼方に知床半島が見える。
あれが明日攻略予定の知床か。待ってろよ。

再び出発すると、間もなく網走の市街地に入った。
ファミコンの推理ゲームの名作「北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ」の舞台となった地であり
今でもごくまれに聖地巡礼に訪れる人がいるらしい。
街並みは、北の街としては華やかでたくさんの店が立ち並んでいた。

そんな街を通り過ぎ、網走監獄を目指すとその途中に「オホーツク流氷館」があった。
小高い丘の上にある建物で、そこの屋上からの景色もこれまた抜群。
網走の街が一望でき、さらに彼方の知床まで見渡すことができた。
いやいや、いい天気のときに来てほんとうによかった。

流氷館の中に入ってみると、昨日のアイスパビリオンみたく極寒レベルのクーラーで、
奥には天然の流氷がたくさん展示してあった。
その流氷の前で、案内係のおねーさんにアイヌの民族衣装の羽織ものを着せられて写真を撮られた。

外に出てちょっと走ると、すぐに網走監獄に到着した。
監獄というわりには土産物屋が乱立する観光名所になっているが、むかしの監獄を博物館として
見学できるようにしたものである。
明治や大正時代に建てられた赤レンガの建物が当時の監獄施設としては豪華なものに見えるが、
受刑者にとってこの監獄は威厳がありすぎて恐怖の対象として恐れられたそうだ。

などとガイドブックに書かれていたので、とりあえず見学だけしようかとバイクを駐車場に
停めようとした。

そんなときだった。

目の前にパンフレットを片手にキョロキョロしている女の子のライダーがいた。
その娘も監獄を見学しに来たようだ。
「ちわ。どこか見たいところを探しているの?」
そう話しかけると、彼女は笑顔で答えた。
「うん。赤レンガ門っていう正門を見たいんだけど、どこにあるのかよくわからなくて」
「そっか。オレも今来たばかりでこれから見学しようと思ってたところなんだけど、よかったら
一緒に行かないか」
「いいですよ。ご一緒しましょー」
てな感じで彼女と一緒に見学することになった。
ホンダ・ジェイドというバイクに乗っていたので、彼女をアビスと呼ぶことにした。
バイク乗りらしくショートヘアで、Tシャツとジーンズというラフな格好がよく似合う娘だ。

ていうかちょっと待て。
これはいわゆるナンパ成功ってやつじゃないか。
すっげーな。なんて自然な勧誘。お見事。のぼるも隅に置けない人間に格上げされたね。
ちゃんとエスコートしろよ。

2015/12/9 10:46  [1498-4054]   

アビスちゃん アビスたんin刑務所 わんこin刑務所

アビスと網走刑務所の施設を見てまわる。
刑務所でナンパして、刑務所でデートというのもオツなものですな。

小柄で元気なアビスはなにを見ても勢いよく感動し、眼を輝かせていた。
のぼるの言うくだらない冗談にもケラケラ笑い、子犬のようにはしゃいでいた。
「わぁー、独房って狭いんだねえ」
「オレ、実家で何年も3畳の部屋で暮らしてたけどな」
「うそー。それ狭すぎだよ」
オレもそう思う。
「でも、狭くてもサンゲツのオシャレな壁紙貼ったら居心地よくなるかも」
「オシャレな監獄があったら入りたいのか」
「うん。3食昼寝付きだし、快適そうでしょ」
「アビスが刑務所に入るために犯罪を犯すとしたら、なにするんだ」
「結婚詐欺。のぼる、あたしと結婚して」
「フザけんな。詐欺とわかって結婚するバカがいるかよ」
「とりあえず500万の婚約指輪ちょーだい」
「話を進めるな」

妙なトークで盛り上がりつつ、一通り巡って駐車場に戻った。
もうお昼か。
このままアビスと別れるのもイヤなので、昼ごはんに誘ってみよう。
「アビス、お腹すかね?」
「すいたー。どこかで美味しいもの食べに行こうよ」
やった。アビスから誘ってくれたぞ。これはアレだ。脈アリだ。きっと。

なにを食べるか話し合った結果、カニを食べに行くことに決定した。
海に面した網走は海産物が豊富であり、中でもカニは有名ということだし、さらにいえば
のぼるもアビスもカニをまるごと1パイなんて食べたことがない。
ならば、ということでカニになったのだ。

二人で並んで走り、網走の海沿いを目指す。
すると、すぐに「ゆでたて毛ガニ」というのれんを掲げた店を発見、さっそく中に入った。
コンビニほどの広さの店内は、カニ専門店だった。
タラバガニ、ズワイガニ、花咲ガニ、そして毛ガニ。なんでも揃っている。

「北海道っていったら、やっぱり毛ガニだよね」
毛ガニの売り場を見ると、1パイ2000円から。なかなか高い。
ならば値段交渉だ。
「この場で食べたいのですが、安いやつを2ハイでいくらですか」
店員のおばちゃんに聞くと
「いちばん安いのなら、1パイ2000円のやつを2ハイで2400円にしてあげるよ」
と言ってくれた。

安っ! いきなり価格破壊かよ。ひとり1200円なら上等だろう。
アビスもそれで喜んでいたので、割勘で払い、奥のイートインコーナーでさっそく食べた。
ハサミでカニの足をバッチンバッチン切って、カニフォークで身を取り出して食べる。
うまーい! さすがゆでたて。身もぎっしりで美味しい。

ただし、困ったことに会話が無い。
ふたりともカニを食べるのに夢中で「こりゃうまい」「すご、うまー」程度の会話しかできないのだ。
うーむ、デートでカニを食べるのは失敗だったか・・・?
でもまあ、アビスも終始ご満悦な表情をしているので、これはこれでOKか。

2015/12/10 10:27  [1498-4055]   

毛ガニを食べ終えてお茶をすする。
アビスは、本日は美幌の宿に泊まる予定との事。
ここから美幌までは20kmくらいの距離にある所なので、バイクならすぐそこだ。
なので、夕方くらいまではのぼると付き合っても構わない、と言ってくれた。

「なんかこのへんで面白そうなところあるかな」
アビスは好奇心の目でのぼるを見た。
これは試されてるな。ここで彼女を満足させる場所を案内すれば、ポイント加算で
攻略フラグも立つことだろう。ギャルゲー的に。
「よし、まかせろ。いいとこに案内しよう」

先ほど行ってきた網走監獄への道を少し戻って脇道に行くと、間もなく目的地に到着した。
オシャレなログハウス調の店だ。
「ここはなんのお店? 喫茶店かな」
看板には『やまね工房』と書かれてある。
「入ってみればわかるよ。きっと喜べるとこだと思う」
そう言って入口に入った。

「わああああ!」
アビスが歓喜の声をあげる。
「かわいいー! なにこれ、すごーい!」
そう、ここは女の子ならきっと誰でも喜ぶ、オリジナルのぬいぐるみショップだ。
しかもここは、北海道に生息する生き物を主に作って売っているところで、
やまね、ももんが、ウサギ、エゾリス、キツネ、フクロウなど、よりどりみどり。

アビスはひとつひとつ手にとってみては「かわいー!」を連呼していた。
「のぼるすごいね。こんなお店知ってるなんて」
とっても喜んでもらえたようだ。
北海道の旅情報ハンドブックに書いてあってチェックしていただけなのだが、男ひとりで入るには
ちと場違いかと思って最初は行くのを諦めかけていたのだが、女の子と一緒ならまったく問題なく
入れるのでどちらかといえば、アビスをダシにしたようなものでもあったりする。

こう言ってはナンだが、のぼるはぬいぐるみがちょっと好きだったりする。
水族館の土産物コーナーによくある魚や水棲哺乳類のぬいぐるみなんかはガチで買う派だ。
ただし、ディズニー系やUFOキャッチャーによくある女性キャラのぬいぐるみなどは興味がない。
小動物なんかのふわもこ系のぬいぐるみをこよなく愛するのだ。

さんざん迷いながら、アビスは友達へのおみやげと自分用に小さなぬいぐるみを二つ買った。
のぼるは自分用にももんがをひとつゲット。ヤマザキの中華まんほどの大きさなので楽勝で
バイクの荷物に入れておける。

二人は満足して外に出た。
「のぼる、いいお店を教えてくれてありがとう。すごく楽しかったよ」
「そか。喜んでくれてなによりだ」

もう15時か。そろそろお別れの時間だ。
「今日1日どうもありがとう。すっごく面白くていい思い出になったよ」
「オレも、こんないい天気の日にアビスと一緒に遊べて楽しかった」
「のぼるはこれからキャンプ場を探してテントなんだっけ。がんばってね」
「ああ。アビスこそそのへんでスッ転んで怪我とかするなよ」
「はぁい。じゃあ行くね」

握手を交わし、アビスは出発していった。
その後ろ姿を見送ると、のぼるも出発した。

なんというか、いい娘だったな。裏表のない性格ではきはきしてた。
旅には、時としてこんなロマンスがあったりするものなのか。
いい思い出ができたね。ちょっと自慢できるかもしれない。

さて、いつまでも浸ってもいられない。
今日の寝床、キャンプ場を探そう。

2015/12/12 22:12  [1498-4056]   

サロマ湖のほとりの牧場 キャンプ場・バックは海 キャンプ場・バックは湖 サロマ湖の見事なトワイライト

本日の寝床はサロマ湖のほとりにあるであろうキャンプ場とメドをつけていたので
サロマ湖があるであろう北へ進む。
20kmも走ればすぐ到着する・・・はずだった。

「着いた。ここが、サロマ湖かぁー!」
違った。網走湖だった。
「今度こそ着いた。ここが、サロマ湖かぁー!」
違った。能取湖だった。

間抜けな間違いを連続しつつ、ようやくサロマ湖にたどり着いた。
琵琶湖、霞ケ浦に次いで日本で3番目に大きな湖。もちろん北海道では一番の大きさの湖だ。
最大の特徴は、海と直結してるくせに「湾」でなく「湖」と言い張っているところだ。
だが、実はいろんな川から流れ出た河水で形成された、立派な湖である。
水質的にも、海の成分と川の成分のハイブリッドとなっており、ホタテの養殖に適している。

いちばん良いキャンプ場を探すべく、ぐるりとサロマ湖を巡ってみた。
東側のはじっこは原生花の公園になっており、デートコースにするのもよいところ。
ここでアビスと歩きながら巡るのもよかったかもしれない。よりデートっぽくなったはずだ。
それからぐるりと湖の内側を走ると、畑や牧草地が広がる。のどかなところだ。

それから西側のはじっこへアクセス。
そこの先端にあったのが、三里浜キャンプ場だ。その先は行き止まりで海と湖の境界。
その向こうには湖の対岸が見える。対岸まで200〜300mほどの距離がある。
地図では「ちょっと泳げば渡れそう」なイメージがあるが、実際には無理。カナヅチだし。

一通り巡ってみたが、この三里浜キャンプ場がいちばんよさそうだった。
サロマ湖の海と湖の境目にあるキャンプ場で、その特徴をもっとも楽しめる施設だ。
キャンプ場入口の受付で500円を払う。ここはきっちり整備されたキャンプ場なので有料だ。
天気もいいし、キャンプ客もたくさんいたので、少し離れた静かなところにテントを張った。

夕方前に湖と海の景色を堪能したり、そのへんをブラついて探検。
それから夕食にとりかかった。
本日の夕食は、カレーである。
函館に行ったときに非常食としてレトルトの「函館カレー」なるものを買っておいたものだ。

ごはんを焚き、それを蒸らす隙にお湯を沸かしてカレーを湯煎。
そしてカレーをごはんにかけて、残った湯でインスタントスープを作った。
完成。函館カレーディナーの、完成ですっ!
ただし、野菜が皆無なので星ひとつですっ!
でも函館カレーは肉がごろごろして濃厚な味わいでとても美味だった。
山岡士郎がこれを食べたら絶句しながら悶絶したことだろう。

陽はすっかり暮れた。
まわりはファミリーキャンパーばかりで、大きなRV車に大きなテントでいくつもランタンを
灯して騒いでいた。
今回はライダーが近くにいなかったので、珍しく単独でのキャンプだった。

風も出てきて肌寒くなってきたので、テントに中に入って寝そべった。
今日1日楽しかったなぁ。
明日も天気で、またステキな出会いがあるといいなぁ。

そんなことを思い描きつつ、眠りに入った。

2015/12/13 11:04  [1498-4058]   

ねこフィットV(さん) さん  

2015/12/15 23:24  [1498-4061]  削除

R334 知床への道 オシンコシンの滝

ぶるぉっ! ぶろおおおおおおおおおお!!!

外からけたたましくパワフルなエンジン音があたりに響いた。
誰だ。朝っぱらからポータブル電源のコンプレッサーをかけてる非常識なやつは。
気持ちよく寝ていたのに、このクソ野郎が。

文句のひとつでも言ってやろうか、と思った矢先に近くのファミリーキャンパーのオヤジが
先陣をきった。
「おい、うるせーぞ、早く音を止めろ!」
コンプレッサーをかけたやつに向かってそう怒鳴ると、
「このへんならテントも少なくて大丈夫かと思ったんですけど・・・」
などと意味不明な言い訳をしながらコンプレッサーを止めた。
テントが多かろうが少なかろうが、迷惑になる人が確実にいるのだから、
他人のテントがひとつでも近くにある場合は大音量になる機器は使ってはならない。
当たり前だ。

うーん、早く目覚めてしまった。
今日も快晴なので、とりあえず着替えてそのへんを散歩した。
朝の澄み切った空気が気持ちいい。サロマ湖もオホーツク海も穏やかだ。
海側のテトラポットで釣りをしている人もちらほら。
朝食に焼く魚を調達しているのだろうか。

テントに戻り、コーヒーを沸かしてパンを食べる。
さて、今日は知床半島巡りだ。
がんばっていこう。
準備をして、さっそく出発した。

このときのぼるは何も知らなかった。
今回のキャンプが、この旅最後となるキャンプであったことを。
残り5泊がすべて宿になることなど、予想だにしていなかったのだ。


昨日、網走から通ってきた道を戻り、網走の街を抜け、のどかな海沿いを走る。
いやぁ、朝のバイクは気持ちがいい。
斜里町を通り過ぎると、いよいよ知床半島の付け根となり、ここから半島を巡るR334になる。

左には海、右には山が迫り、ところどころに民宿が建っている。
どことなく新潟の佐渡の景色に似ていた。
資源が地域の末端まで届かないような最果ての雰囲気ってやつだ。
でも、このへんの海の幸は間違いなく美味だと確信できる。
最果ての雰囲気漂う田舎の郷土料理ってのは例外なく美味いからね。

奇形な岩場のある海沿いを走っていると、途中に「オシンコシンの滝」というひときわ大きな滝が
道路のすぐそばにあった。
岩場に沿って流れる、落差約70mのでかい滝だ。
水しぶきが周辺に漂ってひんやりしている。マイナスイオン最高ー♪
有名な滝なので観光客で賑わっていた。
とりあえず美人のおねーさんを見つけて
「すみません、カメラお願いできますか」
と言って撮ってもらうのが精一杯。
こういう、人がたくさんいるような観光名所でのナンパは難しいのさ(なにを目的にしているんだ)

2015/12/15 23:23  [1498-4067]   

カムイワッカ湯の滝へ向かう 足湯だけ。安心してください。履いてますよ 全裸で湯に浸かる強者も

さて、先に進む。
知床半島を横断するR334を途中で左折し、いよいよ知床の大自然あふれる山中への道へ。
いきなり砂利道となるが、構わずゆっくり進むと知床五湖への入口が見える。
あろうことか、それをスルーしてさらに先へ進む。
知床五湖へはあとで寄るのさ。

今はその先にあるという、伝説の「カムイワッカ湯の滝」を目指す。
それはどんな滝なのか。
自然が生み出した、温泉の湯がそのまま滝になっているのだ。
これは行くしかあるまいて。

ダート道を30分も走ると、カムイワッカ湯の滝への入口があり、道路の脇にクルマが何台も
駐車してあるのが見えた。
そこのすみっこにバイクを停め、タオルだけ持ってさっそく出発。

急こう配の渓流をどんどん登る。
バイク用のシューズだとかなり滑りやすいので注意だ。
クルマで来てる人はゴムのサンダルなんかを履いており、そっちの方が登りやすそうだった。
時にはロープに掴まって斜面を登る。
5分もすると汗が滝のように頬を流れてくる。この汗のほうがよほど湯の滝って感じだ。

登り始めて20分ほど。
へとへとになった頃、渓流からにわかに蒸気があがっているのがわかる。
それでもまだ水は冷たい。
根性入れてさらに登る。
ところどころに「熊出没注意」の看板がある。コエー。

それから5分ほどすると、ついに滝が見えた。
もくもくと煙をあげる滝壺。どうやらこれがカムイワッカ湯の滝のようだ。
湯を触ってみると、たしかにお湯だ。
すこしぬるめではあるが、ふつうに入って温まれるレベルといえる。

ここまで来たら全裸でその中にダイブしたかったが、まわりには他の観光客が何人もいて
若いムスメもちらほら。
そんなことできるわけなかろう。
というわけで足湯感覚で足だけ浸かった。
ああ・・・これだけでも気持ちよかですばい。
目の前が滝で、その流れる滝そのものが温泉なのだ。こいつはすげえぜ。

ちなみに全裸で入っている大人の男が約2名いた。
すぐ近くに女性がいても、お構いなしだ。
脱衣所もなければなんの囲いもなく、混浴としか言いようがないのだが。
あと、チビっ子が水着を着て泳いでいた。
あー、それはアリだな。持ってくればよかった(着替える場所などぜんぜん無いが)

駐車場に戻る頃には汗でTシャツがびしょびしょ。
また着替えなきゃ。トホホ。

ダートを戻る。
この道は観光バスもたくさん通っており、すれ違うたびに壮絶な土煙に襲われる。
やめてくれ。マジやめてくれ。

知床五湖への道に入り、少し進むと開けた場所に出て、広々とした駐車場に着いた。
バイクを停め、深呼吸。やっと一息つけた。
知床五湖はその名の通り、五つの小さな湖のある名所。

がんばって散策してみる。
遊歩道は、それ以外ほぼ手をつけないままの自然の景色が楽しめる。
いろんな植物が生い茂り、場所によっては花が咲いていて飽きない。
ゆえに、やはりいたるところに「熊出没注意」の看板がある。マジコエーっての。

五湖すべてを見届けようとすると1時間以上かかるので、一湖と二湖を見てセンターに戻った。
正直、ヘトヘトだ。
またもや汗だくになって、着替えを余儀なくされる。

自動販売機のスプライトを、ほとんど一気飲みして喉を潤し、出発した。

2015/12/16 22:36  [1498-4068]   

羅臼らへん 羅臼らへん まだ天気のよかった羅臼らへん

お昼。
知床半島の反対側の海の羅臼で昼飯。
旅人からの情報によると、このへんではトドの肉を使ったカレー、その名も「トドカレー」が
名物だということで、それを食べてみたかったのだが、食堂やレストランでは提供されていない。
あるのは土産用の缶詰だけだった。

仕方ないので、食堂で親子丼(卵と鶏肉のオーソドックスのやつ)を食べる。
このへんは魚介類がうまいらしく、そういったどんぶりものを食べてみたかったのだが、高い!
ふつーの鮭いくらの親子丼でも1800円、ウニとか入ると2500円以上もする。
まあね、そんなにがっつり観光客の来る地域じゃないから、単価を高くしないと儲からないのかもね。

それはそうと、天気が悪くなりはじめていた。
知床五湖を出たあたりまでは快晴だったのだが、午後からどんよりとした雲が広がってきた。
空気も湿り気を帯びてきて、一雨来そうな予感がした。
降ってから行動を起こすのでは遅いので、もう今から宿の予約をしていこう。
道内のライダーハウスの載っている情報誌を開き、浜中町の霧多布の「ライダーハウスきりたっぷ」
を予約しておいた。

そんな感じで午後からはそのライダーハウスに向かって走ることとなった。
レインウェアを装備しておいて大正解。10分も経たずにヘルメットのバイザーに雨が当たる。
とうとう降り始めたか。
でもまあ、快晴のときにいいところを巡れたのでよしとしよう。

海沿いをひた走り、標津というところから内陸へ。
山という山は無く、基本的には湿原や平原ばっかり。ほんとうに何もない。
延々と続く一本道に、かつてない眠気が襲い掛かる。
こんなときは歌うに限る。
思い浮かんだのは、劇場版機動戦士ガンダムU哀戦士編の挿入歌「風にひとりで」

 慰めあって ザンジバル
 いやしないのさ ザンジバル
 今日はひとり ザンジバル
 そして 明日は ザンジバル

なにを意味不明な替え歌にしているのか。
だが妙なノリが出てきて、めぐりあい宇宙編も歌いだす。

 いぇすまぃすぃー いぇすタバコ吸ぃてぇ〜っス
 お前らどまい わぁゆぅワーイ
 愛しい人よ もうイチゴ(もイチゴー)
 いぇすまぃすぃー いぇすタバコ吸ぃてぇ〜っス
 お前らどまい わぁゆぅワーイ
 誰もひとりでは生きられない・・・

 宇宙世紀0080、この戦いの後、地球連邦政府とジオン共和国において終戦協定が結ばれた・・・

なぜか永井一郎のナレーションまで語る始末。

目の前にようやくコンビニが見えたので、ありがたく休憩。
現在位置とライダーハウスまでの距離をマップで確認してみる。
「え?」
ここからまだ60kmもある。
うそだろ、もう15時だぞ。もう30分くらいで着くかと思ってたのに。
仮に霧多布に到着しても、ライダーハウスそのものを探すのにどうせ迷うに決まってる。
日暮れまでに到着できないと泥沼だ。
「くそっ! 出発だ。いくぞアスラーダ! ブースト・オン!!」
休憩どころの話ではなくなった。

雨の中急いで走る。
ウェットコンディションでアクセル全開。
目の前にZZR1100という巨大なバケモノバイクが走っている。
雨の中ノロノロ運転をしていたようだが、のぼるが彼を抜くと、なにかに火がついたように
かっとばしてきた。
「悪いが相手をしている余裕はないんだ。いっけー!!」
せわしないったらありゃしない。

2015/12/17 23:12  [1498-4070]   

なぜか雨の中でZZR1100とバトルしているのぼる。
排気量では3倍近いしカウルがあるぶん空力に優れたZZRが圧倒的に有利、というかはっきりいって
相手にならないはずだが、雨のせいかいい勝負になっている。

10分ほどスピード勝負をしていると、諦めたのかZZRのあんちゃんはスピードを緩めて離れていった。
すまないな、ZZR。お互い出会う場が違ったら酒を酌み交わす仲間になっていたろうに。
そう、ライダーハウスが遠くなければこんな猛烈なスピードを出すことなんてなかったんだ。

かくして16時過ぎにライダーハウスに到着した。
なんとか日暮れ前に着いた。もうヘトヘトだ。
ここ霧多布は海に突き出た小さな半島で、切り立った断崖の上の岬と灯台がとてもいい景色らしいが
今から行く気になどなれない。明日だ明日。
霧多布の住宅街の一角にある「ライダーハウスきりたっぷ」、バイクを近くの駐車場に停め、
荷物を持って中に入る。
旦那さんと奥さんで切り盛りしているハウスのようで、今日は雨で客が多く、てんやわんやだ。

のぼるは奥の客間に通された。
10畳ほどの部屋に8人ほどのライダーが詰め込まれた。
マジか。こんなごったがえしたところで寝ろと?

そもそも雨天で駆け込んだライダーがたくさんいることを予想すべきだった。
とりあえず、近くのスーパーで弁当を買ってきて夕食とし、その後風呂に入った。
湯船が変色して妙な臭いが漂っていたのでシャワーだけにしておいた。

さっぱりしたところで客全員が居間に集まってミーティングとなった。
オーナーの旦那さんの挨拶からはじまり、霧多布の岬についての情報や近隣の見どころなどが説明された。
その後で「ちなみになんですけど・・・」
などと謙虚な前フリでオーナーが特別勧誘をはじめた。

「明日も連泊してくれた人で、昆布干しを手伝ってくれた人には宿泊代を無料に。さらに
希望者にはボートで霧多布の沖の無人島ツアーに連れてってあげます。そして夕食にはカレーを
ごちそうしますよ」

そんな話を持ち出した。
オーナーは昆布漁で生計を立てており、ライダーハウスはほとんど趣味のようなものだった。
その昆布も量がハンパじゃないので、こんなふうにライダーを雇って働かせているわけだ。
昆布で有名なのは利尻昆布だが、この霧多布も利尻に近いといえば近いので、その品質は
なかなかのものらしい。

ふむ。
面白そうなイベントではある。
ちょっと働くだけで宿代が浮き、普通じゃなかなかできない無人島ツアーが体験でき、夕食まで
食わせてもらえるとあらば、これは参加する価値は充分あるのではないだろうか。

明日ここを発つ人がほとんどらしく、ツアー参加に手を挙げたのは大阪出身の3人トリオだけ。
「オレも参加します」
のぼるも手を挙げた。

かくしてミーティングは解散となり、客はみんな部屋に散っていった。
連泊ツアーの参加者である大阪トリオとのぼるは居間に残り、酒を飲みながらオーナーから
細かい段取りの説明を受けた。
大阪トリオは仲良しの旅仲間らしく、3人で気ままにツーリングしているとのこと。
さすが関西弁が達者で、いろいろ話すとドラえもん3人組のような関係をしていることが判明。
少し太ったリーダーはジャイアン。
ひょろっとした知的なスネ夫。
そして劇場版ドラの、ドジながらちょっと頼もしいのび太。
そんな感じだった。

明日を楽しみに、それぞれ寝床へ戻った。
さあ、明日は霧多布で冒険だ。

2015/12/18 23:15  [1498-4073]   

昆布、ぜんぶ干してやったぜ 今や、バクダン投下〜! うわー! やめれ!

ようやく朝になった。
なんとも寝にくい夜だった。
狭い部屋の中、自分のスペースはタタミ1畳もない。
客がそれぞれ自分のシュラフにくるまって寝ている様は、あたかもイモムシの冬眠のよう。
寝返りをうつと隣のやつにぶつかり、寝返りをうたれると自分にぶつかる。
そしてイビキが気になってロクに寝れやしない。

ちなみに女性用の部屋は用意されていないので、女性客は一人もいなかった。
仮に女性客がいたとして、男と同室で寝るはめになるようだが、そんな勇気ある女性はいないだろう。
なぜ女性用の部屋が無いのか。
それは20年経ったあとで判明するが、驚天動地たる衝撃の理由があった。
まあ、あとで説明するとしよう。

ひとりが目覚めると、まわりがどんどん起きて出発の準備やらで慌ただしくなった。
次々と宿泊客は出発していき、気が付くと連泊ツアーたるのぼると大阪トリオだけが残った。

午前中に昆布干し作業を手伝うこととなっているが、まだ作業開始まで時間があるので、
4人それぞれバイクに乗って霧多布の丘へ行ってみた。
崖の上に開けた広場があり、霧多布の海が一望できる。
その地名から読み取れるように、この地は霧が多いらしいが、昨日の雨は上がり快晴となっていて
とてもよい展望が見れた。
ちなみにこの丘はキャンプ場にもなっているが、海を隔てるものが何もないので
天気の悪いときなど簡単にテントが吹き飛ばされそうなイメージがあった。

海の彼方にぽつんと小さ目の島が見えたが、あれが本日予定されている無人島ツアーの現場
「ケンボッキ島」なのだろう。いったいどんな島なのだろうか。
ハウスに戻る途中、コンビニに寄って朝食。パンと牛乳だ。

ライダーハウスに戻るとオーナーが軽トラックを準備して待っていた。
「じゃあ、さっそく行こうか」
のぼると大阪トリオは軽トラの後ろの荷室に乗り、出発した。
途中でスーパーに寄り、昼食のおにぎりを買っていった。

10分ほど走ると、昆布干しの作業場に到着した。
海からほど近いところの、小学生のサッカー場くらいの砂利が敷き詰められた平地。
その脇の大きな倉庫のシャッターを開くと、その中にたくさんの昆布が保管されていた。
「2人一組になって、これを全部外に開いて干していってくれ」

さっそく作業開始。
のぼるはスネ夫とコンビを組んで1枚ずつ二人で端っこを持って広げていった。
簡単な作業ではあるが、1枚の昆布は5メートルほどもあり、厚くて重い。
思った以上の重労働であった。
倉庫の中からオーナーが次から次へと昆布を出してくる。
ひー、一体何枚干せば終わるんだ。

1時間ほど作業して、ようやく全部干し終えた。
汗だくで、昼メシ用に買っておいたポカリのペットボトルがすっからかんで買いなおす羽目に。
「ごくろうさん。助かったよ。夕方になったら干したやつを倉庫に戻すので、それも手伝ってくれ。
それじゃ約束通り無人島ツアーに行くことにするけど、この近くのユースホステルのお客も
数人行く予定にしてるから、いまからオレは迎えに行ってくる。それまでそこの桟橋にある
手漕ぎボートに乗って遊んでいなさい」
オーナーはそう言うと軽トラで出ていった。

桟橋に行くと一人用の手漕ぎボートが置いてあった。
「手漕ぎボートか。面白そうやないけ」
ジャイアンがそう言うと、みんなで代わる代わる乗って遊んだ。
「のぼる、じぶんボート漕げるんかい。ちと乗ってけーへんか」
スネ夫が挑発してきた。
「乗れるさ。チョロいよこんなの」
誘いに乗ってひとりで漕いでみせる。
「今や、バクダン投下〜!」
桟橋から数メートル離れたところで、上の防波堤から大阪トリオが石を投げてきやがった。
むろん、のぼるに向けてではなく、水面に向かってだ。
のぼるはその水しぶきにやられてなすすべがない。
「うわー! やめれ! なにすんだお前ら」
まったく息のあったトリオである。

2015/12/20 00:53  [1498-4077]   

ケンボッキ島へ向かう

20分ほどして軽トラに乗ってオーナーが戻ってきた。
そこには3人の若いおねーさんが同乗していた。
彼女らが無人島ツアーに参加するという浜中ユースホステルのお客のようだ。
てっきり男かと思っていたのでびっくり。
スラリとした体形のスミレ。
標準体型のしずか。
ちょっとぽっちゃり系のジャイ子と(心の中で)呼ぶことにした。

オーナーのモーターボートに全員乗り込み、さっそく沖に出た。
島は陸から見えるが、意外と大きな島だ。
航行中、女の子たちから島についての伝説を聞いた。
「あの島って、むかしは人が住んでたんだけど、あるとき吸血鬼に襲われて、
それで恐ろしくなって誰も住まなくなったんだって」
はぁ? なんだその3流映画のようなリアリティに欠けるエピソードは。
ていうか女の子はどうしてそういう恐怖系の噂話が好きなんだろうか。
とはいえ、ハナっからそれを否定して距離をとられるのもいかん気がするので、話を合わせておこう。
「ヴァンパイアかぁ。それってあれだろ。ウリイイイ!とか無駄無駄無駄ァ!とか貧弱貧弱ゥ
とか言うアレだろ」
「・・・・」
ドン引きされた。

島に到着した。
唯一の砂浜のある場所で、ここ以外の外周はどこも崖っぷちになっているのだそうだ。
ツアー客全員が下船すると、
「それじゃ、私はちと用事があるのでいったん陸に戻る。3時くらいに迎えに来るから、
みんな仲良く島を冒険しろよ。くれぐれも怪我とかしないようにな」
オーナーはそう言い残し、モーターボートで戻っていった。
おい。話が違う・・・けどまあいいか。冒険ってのは案内役がいたらつまらんからな。
大阪トリオも女の子たちもそんな感じで「ほな探検いこか」「おー」などと意気揚々としていた。

砂浜から少し奥へ進むと、朽ち果てた小屋が2棟ほど見えた。
雑草が生い茂り、屋根は飛ばされ、壁もボロボロ。ほとんど柱だけになっていた。
かつてここで暮らしていた人たちの名残ってやつだな。
話によると動物好きで有名なムツゴロウさんもここに住んでいたらしい。

唯一ある散策用の小道の坂を辿って進んでいく。
それでも雑草が凄まじく、軍手やグローブをしないと手が擦り傷だらけになってしまう。

坂を登りきると、開けた草原に出た。
台形のような形の島の上辺に出たわけだ。
とはいえ、胸の高さほどの雑草が一面に茂っているわけで、そのへんを自由に駆け回って遊ぶとか
不可能であった。

必然的に散策用の小道を辿って進むことになるわけだが、だいたい島を一周するくらいの
安全な散策ルートになっているみたいなので、まあ不都合はなかろう。

それにしても暑い。
夏の日差しの中、長袖のライダーズジャケットとGパン、そしてグローブまでしているのだ。
せめてジャケットを脱いでTシャツの状態になりたかったが、それはそれで致命的だ。
女の子も、長袖長ズボンの完璧な防具で身を固めており、さらに麦わら帽子をかぶっていたが、
ラフな格好で麦わらというと旅として似合うスタイルになるがこの場合は農作業をするおばさんの
それに酷似していた。
むろん、その恰好はこの無人島探索において大正解ではある。

2015/12/21 00:10  [1498-4081]   

珍しい海鵜の生息地 ケンボッキ島にて大阪トリオとスミレ しずかとジャイ子

島の外周を反時計回りに進む。
20分ほど歩くといちばん南に着いた。
崖っぷち。
なにも柵とか無いので怖い怖い。

「あー、アレ海鵜じゃん」
崖の下をのぞき込むしずかちゃんがつぶやいた。
恐る恐る下を見てみると、崖のところどころに張り付くように休んでいるカラスのような
黒い鳥が見えた。だがカラスにしては首が長い。
長良川とかで有名な鵜。首に縄をつけて泳がせ、魚を飲み込ませてからたぐりよせて
その魚を吐き出させる珍しい漁をすることで知られているが、ここはその鵜の海バージョンの
繁殖地らしい。

運がいいと、ここではエトピリカという鳥にも出会えるらしい。
カラスほどの大きさの鳥で、オレンジ色のきれいなくちばしが特徴で、顔や身体はペンギンに
どことなく似ているが立派にきっちり飛べる。
一目でわかるほど美しい鳥で、その姿を見た者は幸運が訪れるという言い伝えがある。

なるほど、ここは天敵である動物もいないし、海の野鳥の恰好の繁殖地になっているわけだ。
バードウオッチングが好きな人にはたまらない島なのだろう。

今度は北へ向かって歩く。
相変わらず雑草伸び放題の道だ。
歩いている途中、足のふくらはぎに刺すような痛みが。
同じような足の痛みを訴える人もいる。

その痛む箇所を見ると、トゲかなにかに刺されたように少し腫れていた。
その次の瞬間、今度は太ももにも刺す痛みが。
見ると、刺した犯人が堂々とそこにいた。
絶叫しそうになるほどの恐怖!
なんとそれは・・・

蚊だった。
いや、ただの蚊ではない。
3センチほどもある、とんでもなく巨大な蚊なのだ。
な・・・なんじゃこりゃあああああ!!

ジーンズの上からでもくちばしをブっ刺し、血を吸っているのだ。
「うわああああ!!」
ジャイアンが、自分の足の蚊を叩いて潰すと、ジーンズに血ノリがじわりと広がる。
げっ。これは汚い。ジーンズの上から潰すわけにはいかない。
「これならどう!」
ジャイ子がリュックの中から虫よけスプレーを取り出し、ジーンズの上から吹きかける。
すると、巨大な蚊は逃げていった。

まったく、なんてやつだ。
通常の蚊がジオンのザクだとすると、ここの蚊はビグ・ザムって感じだ。
しかも多数いるから、量産型ビグ・ザムだ。
ドズル・ザビが「ビグ・ザムが量産の暁には、連邦などあっという間に叩いてみせるわ」
と言っていた世迷言がよもやこの地で現実になっていたとは。侮りがたし、ケンボッキ島。
ていうか、来るときに話していた吸血鬼の話って、この蚊のことじゃないのか。
こんなやつらにわんさか襲われたらひとたまりもないぞ。マジで。

途中、丘の上に少し開けた場所があったので、そこで昼食にした。
みんな地べたに座ってそれぞれ持ってきたお昼ごはんを取り出した。
男どもはおにぎりや菓子パンだったが、女性陣はユースで作ってもらったらしい色どり豊かな
豪華なお弁当であった。
「おほっ、なんやそれ、ごっつうまそーやないけ」
のび太が思わず羨ましがると、
「よかったらなんか好きなの取っていいよ」
と女性陣はそのお弁当を差し出してきた。
うわぁ、みんな優しいなぁ。
束の間の休息。和気あいあいで一同はランチを楽しんだ。

2015/12/22 10:47  [1498-4084]   

昼から再び雑草の中を歩く。
昼食のイベントもあって男女の仲もずいぶん良くなった。
女の子はこういう時に必ずチョコレートやクッキーなどお菓子を持ってきているものだが、
それも分けてもらったりして、男性陣は大喜びであった。
こうなるともう冒険とか探検というよりも単なるハイキングのノリになっていた。

島の北をぐるりと巡り、14時くらいには最初に上陸した砂場に戻ってきた。
あとはオーナーのボートが来るのを待つばかりとなり、そのへんで水遊びしたりして
過ごしていた。

のぼるはふと、考え事をした。
ここでもしオーナーが来なかったら、どうなるか。
この無人島で7人の男女がサバイバルすることになるが、食料や寝る場所など
かなり難しい問題となりそうだ。
ていうか、これってちょっとアレンジすれば小説のネタになりそうだ。
ふとした事で、ふつうの女子高生とちょっとした冒険家が無人島に取り残されてしまい、
そこでサバイバル生活を余儀なくされる、とかいうエピソードだ。
テントひとつ、あとは島内で食べれそうな何かを探して料理するようにして、
女子高生がアウトドア料理に覚醒する・・・ふむ、ひとつストーリーが書けそうだ。

なんて妄想をしていたら、だいたい予定時刻通りにオーナーの船が迎えに来てくれた。
全員が乗り込み、ケンボッキ島をあとにした。

離れゆく無人島。
ジュラシックパークみたいで、なかなか楽しかった。
こんな体験はなかなかできないものなので、いい思い出になったね。

霧多布に戻ると、男どもは午前中の昆布干しの撤収作業、女性陣はユースへ戻るのに
オーナーの軽トラに乗り込んだ。
「楽しかったです。じゃあね。またどこかで会えるといいね」
スミレ、しずか、ジャイ子は口々にそう言い別れの挨拶をすると、軽トラは出発していった。

「ええ娘たちやったなぁ。おまえら、あの3人の中で選ぶとしたら誰や?」
広げられた昆布を畳みながらジャイアンが問う。
「スミレ」
「スミレ」
「スミレ」
全員いちばんスタイルのいいスミレに挙手。
まあ、スタイルもそうだが3人の女性の中でリーダーっぽくてはきはきしていたからな。
でも、しずかとジャイ子も優しくていい娘だった。

昆布の撤収作業を終え、日暮れた頃にライダーハウスに戻ってシャワーを浴びた。
そのあとお待ちかねのカレーを食べることになったのだが、本日のハウスの客が食べた後の
残り物になっていた。
だがけっこうな量のカレーが余っていたので、もはや遠慮なくおかわりして食いまくった。
ふつうのバーモントカレーなのだが、ジャガイモごろごろ、豚肉のでかい塊もごろごろ。
最高にうまかった。

その晩は大阪3人組と夜遅くまで居間で飲みながらいろんな話をして盛り上がった。
いろんなことがあった1日だった。
さあ、明日はどんな1日になるのだろうか。

2015/12/23 10:33  [1498-4086]   

翌朝は、どんよりとした曇り空だった。
なんだか今にも降り出しそうな天気なので、予めレイン装備をしていくことにした。
オーナー夫妻や大阪トリオに別れを告げ、9時にライダーハウスを出発した。

今日の目的地は、とりあえず太平洋沿いを南下していき、北海道ひし形の南端である「襟裳岬」を
目指す予定だ。
途中、天気が良ければ釧路湿原とか見たり、帯広まで行ってうまいもん食べたりできれば
言うことなしかな。

霧多布にも湿原がある。まんま「霧多布湿原」というのだが、基本的には荒れた沼地だ。
開拓がめんどいから放置しているように見える。
そんな沼地の脇を走る。

とりあえずのんびりと走る。
これまで楽しい毎日を過ごしてきたが、残すところあと3泊。
最後まで楽しい出来事が続くことを願ってやまない。
しかしのぼるは知らなかった。
楽しい過去を振り返った瞬間にアンラッキーフラグが立つ、ということを。
そう、それはあたかも「おれ、この戦いが終わったら結婚するんだ」という絵に描いたような
死亡フラグのようなものだ。

パラパラと雨が降ってきた。
あーあ、きやがったか。
まあ、昨日に降られるよりはいいか。昨日こんな天気だったらケンボッキ島には行けなかっただろう。
どんよりとした暗雲、今日はもう晴れないかもしれない。
また今日も宿を手配するべきだろう。
宿か。どうするかな。
ライダーハウスは、今日はちょっと遠慮したいところ。
理由は、霧多布のライダーハウスの部屋が狭い上人口密度が高くて安眠できなかったからだ。
せめて今日はベッドか布団がひとりひとりに与えられた所でぐっすり寝たいと思う。

それはともかく、朝食を食べていない。
昨晩おかわりしまくったカレーはとっくに消化を終え、胃は次のエモノを待ち焦がれている。
だが、コンビニに入るにもいちいちレインウェアを脱ぐのは非常にめんどくさい。
あと1時間ほど走れば釧路の市街地に着くのだろうから、そこで少し早めの昼食にするか。
そのついでに宿を探して予約確保すれば効率的だ。

そんな感じで雨の中を走る。
国道はやや内陸にあり、海は見えない。
そのかわり牧草地の中に馬が見えたりして、これはこれで北海道らしい風景が楽しめた。
晴れてればもっと楽しい景色だったろうにな。

釧路に突入した。
民家が多くなり、商業施設や工場なんかも目につく。
たしか、JR釧路駅から徒歩すぐのところに「和商市場」なる施設があるはず。
鮮魚、青果など様々な新鮮な食材が豊富に売られているところで、気に入った魚介類を
すこしずつどんぶりに入れてもらい、自分だけのオリジナル丼を作ることができる、という
画期的な食事ができるところだ。
よし、そこへ行こう。

JR釧路駅を探し、駅前の邪魔にならないところにバイクを停める。
そう、なんてことない当たり前のことをしたまさにそのときに事件は起きたのだ。

2015/12/24 10:55  [1498-4089]   

がしゃ!
鈍い音とともに、愛車ザンザスが転倒した。
雨の中スリップでもしたのかと思われるだろうが、そうではない。

あまりに眠く、あまりに空腹で、1秒でも早く和商市場へ行きたい一心で、
サイドスタンドを立てないまま(正確には、立てたと思い込んで)左に傾けそのまま転倒したのだ。
知らない人が見たらわざと倒したようにしか見えなかっただろう。

いや、ここは釧路駅前。人通りもけっこうあって数人の注目を集めてしまった。
さっさとバイクを起こそうとしたが、大荷物を搭載しているため起き上がらない。
すぐ近くにいたタクシーの運転手のオヤジが
「がんばれー」
とのぼるに声をかける。
声援なんていらねーから手伝ってよ!

仕方なく荷物をいったん全部パージしてからバイクを起こした。
なんてこったい。

各部損傷個所チェック。
サイドバッグがクッションになってくれたおかげで傷らしい傷は特になかった。
精神的ダメージの方が大きかった。

駅の中でレインウェアを脱ぎ、折り畳み傘を差して駅前を歩く。
ものの数分で和商市場に到着。迷うこともなくわかりやすいところにあった。
屋内施設なのでこんな雨の日は助かる。
中に入ると、広い敷地の中にたくさんの店が並んでいた。
鮮魚系の店だけでもかなりある。しかも店によって貝を豊富に取り扱っていたり、
イクラやタラコなど魚卵系を重点的に取り扱っていたり、いろいろあった。

一通り巡ってみて、入口付近にあった「ごはん売り場」でスチロールのどんぶりのごはんを買い、
目星をつけた店を巡って食べたいものを少しずつ買って、そのどんぶりの中に入れてもらった。
ウニ、イクラ、ホタテ、中トロ、イカ刺など、新鮮なものをのっけてもらい、しめて1800円。
おお、安いじゃないか。
こんな豪勢なもの、どこかの食堂で食べたら倍くらいするんじゃないだろうか。

イートインコーナーのテーブルに座り、さっそく食べる。
さすがに市場とあって鮮度は抜群。すげえうまい。
中には、のぼるがそうやって食べているのを見て、自分もソレやる、とばかりにごはんコーナーへ
向かっていく客の姿もちらほら。

いやはや、ごちそうさまでした。
さて、ホットコーヒーで一息つきながら、宿の情報誌を開く。
今夜の宿を探さなくては。
襟裳岬近辺でライダーハウス以外の安い宿はあるものだろうか。
「えりも岬ユースホステル」があった。
おう、ユースならばまあまあ安いし、安心して泊まれる。
ついでに溜まった洗濯物も洗えるだろう。よし、決定。

市場の公衆電話から「えりも岬ユースホステル」に電話し、今晩の予約を確保完了。
よしよし。

2015/12/25 09:58  [1498-4091]   

さて。
美味なる昼食を終え、午後から再び走り出す。
しとしとと降る雨の中、釧路の街を過ぎ去っていく。

途中、釧路湿原への道案内があったが、こんな天気では行く気にならないのでスルー。
天気が良ければ、展望台で美麗な景色とロマンスでも期待できたのだろうが。

こう雨が多いと、ゴアテックスのウェアはなんと素晴らしいものだと実感できる。
ムレない、濡れない、乾きやすい、の三拍子そろった逸品。
お高くともこれは奮発して大正解だ。
しかも、このとき装備方法を改案し、最初に頭にウェアのフードをかぶり、それから
ヘルメットをかぶるようにしてみたら、さらに快適になった。
これで走行中に首を左右に振っても雨漏りの心配がなくなった。

とはいえ、雨天の長距離走行は決して歓迎できるものではない。
ヘルメットのバイザーは閉めきると吐息ですぐ曇るので、数ミリほど開けておかなければならず、
めんどいし、レイングローブは濡れても滑らない仕様ではあるが手そのものは濡れてふやけきって
気持ち悪い。ブーツカバーにおいては、ゴアテックスではなくゴムっぽい素材で出来ているため
内部はけっこうムレている。日本に数人いるであろう靴下フェチの人に嗅がせたらごはん三杯は
いけるだろうと思われる。

それにしても、こんな雨の日だというのにライダーは多い。
もちろんみんなレイン装備で固めているが、中には通常のジャケットとジーンズで走っている人もいた。
見るからにびしょびしょになっていたが、あんな状態でどこで何をするというのだろうか。

釧路から襟裳岬まではざっと150kmある。
いまどのへんを走っているのか確認することもめんどくさくてやってられない。
とにかくひた走る。

浦幌を過ぎ、十勝川を渡り、R336を延々と走ると、やがて海沿いの「黄金道路」と
呼ばれる地帯に突入した。
なにが黄金なのか。
このへんは日高山脈が連なり絶壁が多く、襟裳岬にかけてとにかく道路の敷設が難航したらしく、
莫大な金額が投じられたという。
昭和2年から8年間の歳月をかけて完成したが,黄金を敷きつめたほど経費を要したところから
「黄金道路」という名が生まれたのだ。

風が強く波がやたら高い。
岩場をえぐるように掘ったようなトンネルなどがいくつも続き、ほんとうに苦労して作られた
道路なのだと思わせる。

いくつもの岩場の難所を過ぎると、ようやく目的地である「えりも岬ユースホステル」に到着した。
真の目的地である襟裳岬はもう少し先にあるようだが、こんな雨の中を行ったり来たりするのは
ちょっと御免被りたいところなので、今日はもうチェックインして休むことにした。

2015/12/27 09:21  [1498-4092]   

バイクを屋根のある小屋に入れさせてもらい、荷物を持ってユースに入る。
もう夕方とあって本日の宿泊客もけっこういる。
全部で30人ほどの客となるらしい。
部屋は2階の6人部屋。いつもの2段ベッド三つという部屋だ。

荷物をバラし、レイン装備類を干し、暖かい風呂に入ったあと汚れ物を洗濯機にぶち込み、
ようやく一息ついた。
談話室に行くと、数人の旅人(男)が旅の話をしていたのでのぼるもその中に加わった。

「だれかカムイワッカ湯の滝に行ったことある人いる?」
と聞かれたので「3日前に行ってきたよ」と言ったら「すげー度胸あるな」と褒められた。
いや、べつに度胸試しで行ったつもりはさらさらなく、実際そこには親子連れであからさまに
レジャーで来てた人たちもいた、と説明したら「なんだそれ、おかしいなぁ。話が違うぞ」
と怪訝そうな顔をした。
どうやら彼は旅の噂話で「カムイワッカ湯の滝はかなり怖い所」という固定観念を植え付けられた
ようだった。
カムイワッカに行って急こう配の岩場で足を踏み外し、渓流を十数メートルも滑り落ちて
大怪我をしたライダーが過去にいたらしい。それ以来その男のあだ名は「ウオータースライダー」と
なったという。
そんな話を怪談話のような口調で言われたらしい。

たしかに急な坂で滑りやすい岩場であるのは事実ではあるが、そんなにビビることはない。
天然の湯の滝は一見の価値ありだと思う。超ラッキーなら美女と混浴できるかもだ。
・・・なんて説明をしたら、最後の一言が効いたのか「そうなのか、よし、明日はそこへ向かおう」
なんて鼻息を荒くしていた。

超アンラッキーならクマと混浴できるかもしれない。
という蛇足は言わないでおいた。

「ていうか、もっと怖いところに行ってきたけどなぁ」
のぼるはそう言って「浮樹浮木LANDキャンプ場」での出来事を説明した。
トンネル出口すぐそばのキャンプ場に現れる地縛霊やヒグマの話だ。
「なんだそれ、そんなとこあるのかよ。マジコエーな!」
その場にいる全員の顔がひきつっていた。
ああいう恐怖体験も、なかなか良いネタになるもんだな。

夕食を終え、洗濯物を乾燥機に入れ、再び談話室で今度は別に旅人を世間話をする。
今度は女の子二人組だ。
摩周湖と屈斜路湖を目指して自転車で旅をしているらしい。
のぼるが先日行ってきたときの話をしたら、とても羨ましがられた。
天気予報ではこれから数日は天気が悪いままになるらしいので、これから摩周湖へ行っても
霧で見えないことが懸念していたのだ。

摩周湖・屈斜路湖からもう少し足を伸ばして網走まで行くと「やまね工房」というぬいぐるみの
お店がある、と説明すると「わ、おもしろそう。そこの住所と電話番号教えて」と予想以上の
食いつきであった。

旅人の情報交換というのも面白いものだ。
22時に消灯ということで部屋に戻る。
ふかふかベッドにくるまって目を閉じる。
屋根に当たる雨音、風音が聞こえる。
こんな日は宿にして正解だろ。
しかもベッド。気持ちよかー。
おやすみ。

2015/12/28 23:10  [1498-4094]   

えりも岬ユースホステル前で記念撮影 襟裳岬に到着 赤ザンザス乗りがいた!

朝。
霧多布のライダーハウスで2日連続でロクに眠れなかったので、もうグッスリ眠れた。
目覚めスッキリで、朝食を食べ、顔を洗い、洗濯物を取り込んで、出発の準備をした。

空はまたもや雨。
まだ小雨程度ではあるが、今日もレインウェア必須となりそうだ。
出発前に宿泊者全員で記念撮影。
お世話になりました。

海沿いを少し進むと、ほどなく襟裳岬に到着した。
北海道は富良野から南に向かって巨大な日高山脈が連なっているが、その山脈の終点がここで、
しかもそれで終わらず海の彼方までもその尾根が続いているのだ。
なので、モーゼの十戒の逆バージョンのように、海の上にはるか先まで道ができているように見える。
すごいもんだな。

晴れたときに来たらもっと感動していたのだろうが、なにしろ風が強い。
この地方は何はなくとも風が強いことで有名だ。
風力発電とか設置しても風が強すぎてブレードが飛ばされてしまいそうな気がする。

ある程度景色を堪能したら出発してしまおう。
そう思って駐車場に戻ると、なんとのぼるのザンザスのとなりに同じザンザスが停まっている。
しかも今度は赤いザンザスだ。
ちなみに真っ赤ではなく、ワインレッド系の赤である。

「これ、あなたのザンザスですかー」
とそのライダーが話しかけてきた。
「そうです。こないだ摩周湖で同じ黒ザンザスと一緒になったことがあったけど、赤ザンザスは
今回が初めてですね。やっぱこのバイク同士で出会うと、特別な親近感がありますね」
「そうなんですよねー」

彼のと自分のバイクを見比べてみる。
雨の中走ってきただけあってどちらもドロだらけ。
アーバンスタイルのネイキッドなのでピカピカにしているほうが当然かっこいいのだが、
ツーリングのとき、特にこういった雨天のときはドロにまみれても仕方あるまい。

彼と旅の情報交換を少ししてから出発した。

さて、今日の目的地は、富良野である。
北海道のへそ、と呼ばれる富良野はその異名の通り、ほぼ内陸のド真ん中に位置するところだ。
なので、てきとうな所から内陸を走り、北へ北へ向かうこととなる。
そうなると、今日はけっこうな距離を走らないとならない気がする。
覚悟して走ろう。

2016/1/5 00:17  [1498-4107]   

雨天の海岸線ほど憂鬱なところはない。
晴れていれば景色として楽しめる奇岩も「バイク降りてじっくり見よう」と思ったら負けなので
あまり興味を持たないようにしているのだ。

襟裳岬から2時間ほどかけて100kmほど。
日高に到着した。
太平洋側にしては開けた都市だが、牧草地と都市部の境界が顕著にわかる所も珍しいかも。
あることろを境に田舎と都市がスッパリ別れているような感覚だ。

それはそうと、急いでいるときにはこういった都市部で昼食をとるべきだ。
メニューもある程度選べ、ハズしも少ない。
しかしのぼるは「街はずれにこそウマい店がある」という独自のポリシーを掲げ、都市部を全てスルー。

そして都市部を抜けて山間部の道路に突入すると、とたんに閑散とした雰囲気になってしまい
店どころの話ではなくなった。
つまり、昼食のタイミングをすっかり失ってしまったわけだ。

日高から占冠(しむかっぷ)村までの約70km、さらに何も食えず。
山間部は峠道ではなく、スピードにある程度のれるワインディングロードなのだが、とにかく何もない道だ。
まあ、人気のない山間部にコンビニが欲しい、というのも無茶な話なのだが。
たまにある休憩用の駐車場にも自販機も何もないことが多い。
ほとんど周辺は樹海。手つかずの森に囲まれた一本道だ。
晴れてれば「マイナスイオン最高ー」とか言いたくなる雰囲気の道だが、現状ではひたすら
距離を稼ぐだけの道路。
すれ違うライダーも極端に少なく、たまに会うときは心から嬉しくて手をブンブン振ってしまう。

そんな感じで、昼遅く占冠村のコンビニを見つけて駆け込み、九死に一生を得た。
レインウェアを脱いだついでに、昼食後もゆっくりと休憩。

宿のガイドブックを開く。まずは今日の宿を決めないと。
ここから北へ少し走れば、南富良野に突入する。
なんとか富良野エリアの宿にありつけることが可能だ。
しかしだ。
毎晩5千円クラスの宿に泊まってばかりもいられない。
財布の中身がピンチになりはじめていたのだ。

そうなると、今日は安価なライダーハウスという選択肢となる。
いろんな情報を見たり聞いたりしたが、キレイなところと汚いところ、いろいろあるようだが
キレイなところに巡り会いたいものだ。
「ライダークラブヒグマ」というライダーハウスに泊まることにして、公衆電話から予約をした。
これで今夜の寝床は確保。

フィリップモリスをふかし、リフレッシュしたところで再び出発した。

2016/1/5 12:51  [1498-4108]   

富良野へ向かって雨の中を疾走する。

そういえば、なのだが、海沿いから山沿いになる地点の日高というところは、
そのまま海沿いを走り続けると、およそ30km程度で苫小牧にたどり着く。
目と鼻の先である。

そう。
のぼるはこの時点で北海道1周を完遂したことになるのだ。
まあ、正確にいうと東端の根室半島は行っていないので「大まかに」という前提は付くが。
会社の先輩のヒイロたちと苫小牧に上陸してから、実に2週間かけてゆったりと北海道を
一周してきた。

なんか「やったぜバンザーイ」みたいな個人的フィーバーのシーンがあってもいいようなものだが
実際に見覚えのあるところに行き着かないと実感できないもの。
正直にいえば、そんなことすっかり忘れてて、内陸に突入したのである。
まさに雨天の憂鬱のなせるワザってやつだ。

今回上陸してから、とか前回NS−1で来たときから何か成長したことはあるか、と問われても
実はよくわからない。

こんなくらいで北海道通を気取れるほど狭い大陸じゃない。
まだ見たこともない場所は、これまで走ってきた景色よりもはるかにたくさんあるのだ。
そういう意味では、成長したのは「それがより実感できた」ことに他ならない。

キャンプ経験レベルは多少成長したかもしれないが、はっきりいって甘ちゃんレベルを
脱した気にはなっていない。
テントを素早く設営できたり、ごはんをふつうに炊けるようになった程度のレベルで
何を自慢できようか。
テントの中なら多少まわりがざわついていても熟睡できるようにはなったが、それも2〜3日
テント生活をすれば誰でもなれる。

真のキャンパーならば雨が降ろうが風が吹こうが「こんなときはどうテントを張るべきか」を
考えるものだ。
それが今ののぼるに足りないステータスといえる。
雨か。ならキャンプは無理。
最初から諦め、金にものをいわせて宿泊まりばっかり。ヘタレすぎるだろ。

いや、まあそうなのかもしれないが、それに関しては言い訳させてもらおう。

NS−1で北海道デビューした翌年、BROSという400ccのバイクに乗り換えた夏に
能登半島を一周するツーリングに出かけたのだが、ほぼ毎日雨ばっかりで大変辛い旅になった。
それでも初日は、せっかく準備して買ったテントやシュラフに申し訳ないので、と雨天でも
テントを強引に張って楽しんだ。

そこまではよかった。

翌日、雨が悪化。
テント撤収などできるわけがない。
まる1日そのテントの中で過ごした。
はっきりいって発狂しそうになるほど退屈だ。
寝るか、眼を閉じているか、くらいしかやることがないのだ。
雨は夕方まで止まず、結局もう一泊することとなった。

そのときの出来事が発端となり、今では「雨=テント不可」という等式が
右脳及び左脳の両方に切り刻まれている。
つまりはトラウマになっているのだ。
仮に今小雨でテント設営が可能と判断できようが、翌朝天候が更に悪化する事態を想定してしまい
そのキャンプ場で足踏みするくらいなら、最初から「宿にしよう」と思ってしまうわけだ。

この判断は、決して間違いではない!

そうは思うが、それにはひとつだけ例外がある。
クルマにおける車中泊である。
雨風を単純にしのげ、室内で着替えができ、そして「その状態で移動ができる」
なんと素晴らしく画期的な旅行手段だろうか。

雨天を走るのぼるがその考えに達するにはさほど時間はかからなかった。

2016/1/6 10:20  [1498-4109]   

そうこうしているうちに、いよいよ富良野へ突入した。
遥か彼方の丘に向かって野菜畑や花畑が広がる、北海道の広大さを実感できる大地。
その先には何者をも寄せ付けない厳しい連峰大雪山がそびえ立つ姿は、ヨーロッパのリゾートである
スイスを連想させる。

はい。それはもちろん晴れているときの景観の話です。
こんな悪天候では遠くの景色なんてガスっていて見えません。
もうがっかりだよ。

富良野らしい景色を堪能してからライダーハウスに向かおうと思っていたが、もう一直線に
宿へ向かうしかない。
しかし、いろいろと道を間違えたりして宿に到着したのは結局日没前。
疲弊しきった状態で宿に入った。
ライダークラブヒグマ。富良野市街地から少し北、美瑛の手前らへんのところだ。

「おお、よく来たな。向かいの建物が寝るところになるので、空いているスペースに荷物を
置いておくといい」
ガタイのいい豪快なオーナーにそう案内され、向かいの大きな木造ガレージへ向かった。

ここで寝るのか・・・?
ガレージに入るなり、そんな懸念が脳内をよぎる。
広さはあるが、薄暗い室内、床はヨレヨレになったカーペット。
そんな中に何人かの旅人がすでにシュラフにくるまり横たわっている。
おい、まだ夕方だぞ。おまえら大丈夫か。生きているのか・・・?

ひとまず荷物を空いているところに置き、濡れたレインウェアを干してからオーナーのいる
民家へ移動した。

ちょっと狭い客間のソファーに座らされた。
室内にはテレビを観にきたライダー(ガレージにはテレビなど無い)が4人ほどいた。
「長旅ごくろうさん。疲れただろう。メシは食ったか? クマ肉や鹿肉などのジビエ系(?)の
珍しいメニューがあるが、ちょっと高いのでジンギスカン定食を頼んだ。

傾斜のついたジンギスカン鍋に自分で焼いて食べる。
サッポロビール園のジンギスカン食べ放題で焼き方は覚えている。
野菜を最初にのっけてその上に肉をかぶせるようにして焼くんだったな。
「おお、焼き慣れてるな。どんどん食べろよ」
火力が強かったので自分でコンロのガスを調整する。
「そうだ、うまいぞ、火が強いとすぐ焦げるからな」

なんかいちいちノリがいいオヤジだ。
聞くと、いまどきのライダーは誰かに調理してもらわないと焼肉ひとつ焼けないやつが多いらしく
世話がやけるのだそうだ。
「その点おまえさんは放っておいても自分でひとつひとつやっていける感じがするな」
それって褒められているのだろうか。
「肉を焦がしたくないからやってるだけですよ」
「まあ当たり前だな。だがその当たり前ができないライダーもたくさんいるってことだ」

ジンギスカンは、うまかった。
サッポロビール園のそれと比べてはるかに肉の質が高く、野菜も新鮮だった。
本来、食事をする場合はあらかじめ予約が必要だったようだが、いきなりで食べさせてくれて
非常に助かった。

2016/1/7 11:51  [1498-4112]   

はく製がたくさん ヒグマのはく製

夕食後、のぼるを含めた5人のひま人がオーナーの書斎に案内された。
そこには富良野の野生動物のはく製がたくさん置かれており、そのド真ん中にヒグマのはく製が鎮座していた。
のぼるとほぼ同じ背丈のヒグマだが、ブラックポリッシュのクローとかものすごい迫力だ。
これでも子供なのだそうだ。大人のヒグマなんてどんだけでかいんだ。
ヒグマにもし襲われたら渾身の昇竜拳でノしてやるぜ、とか考えていたが、無理。
そんなんでKOできるほどヤワな身体ではない。軽く死ぬわ。

「オレはな、昔は猟師をしていてな、あるときヒグマに襲われたことがあったんだ」
オーナーがそんな昔話をはじめた。
「瀕死の重傷でな、何日も生死の境を彷徨ったが、なんとか死にはしなかった。これがそのときの傷さ」
上半身裸になってその生々しい傷跡を見せる。
うわぁ。これは痛い。アナザーなら死んでるな。

オーナーは当時の状況を涙ながらに熱く語った。
「・・・だからな、命は粗末にしてはならないのだ」
生死の境を彷徨った者の言うことは重い。
だが、のぼるは『ライダー相手に毎晩のように涙流しながらコレ語っているのか』などと下世話な
勘ぐりばかりしていた。こういうやつは早死にするだろう。

オーナーの話が終わり、寝るためガレージに行く。
すると、ガレージ内の中央に数人のライダーが集まって旅の話をして盛り上がっていた。
のぼるもその中に混じって交流を楽しんだ。
こんなことを言うのもナンだが、汚い部屋でただ寝るだけなど、損だ。
ライダーハウスの楽しみってのは旅人同士の出会いからの生の情報交換が醍醐味なのだ。

「札幌のはずれにオートハウスっていうライダーハウスがあるんだが、なかなかいい所だぜ。
目の前にバーベキューができるところがあって、自分で肉を買ってきてそこで好きに焼いて
いいんだぜ」
ほー。それはまた面白そうなところじゃないか。
いい情報を仕入れたね。明日もしまた天気が悪いようならそこに行こうか。

のぼるも自分の体験談を交えながら、霧多布の無人島ツアーの出来事を話すと、みんな驚いていた。
「それは面白そうじゃないか。開陽台に行った翌日とかそのライダーハウスに行ってみよう」
などと盛り上がっていた。

話題として面白いのは、いろんな宿で「居候」をしてきた人の体験談だった。
主にとほ宿で募集している「居候」は、忙しいとき手伝ってもらう条件で宿代をタダにしてくれる
という、アルバイトより気楽なボランティアのような立ち位置の人だ。
ひまなときはその宿を拠点にして日帰りで各地を巡ることができる。

実はのぼるもそういう旅を考えたことがある。
学生時代の夏休みは1ヶ月以上もあるのだから、そんなスタイルの旅だって可能なわけだ。
社会人となった現在ではその夢は幻となっているが、この目の前には会社を辞めてそんな生活を
している人が実際にいる。
そんな人の体験談を聞くと、憧れはするが、やはり将来を考えるとおいそれと真似などできるはずもない。

でも、いまを楽しく生きるというスタイルは決して間違いではないとは思う。
生き生きと話すその人の輝く目が、そう感じさせてくれるのだ。

2016/1/8 09:45  [1498-4116]   

富良野の花畑にて ケイとミィ

朝、目覚める。
そのへんの人がひとり起きると、つられてみんな次々と起きて荷物をガサゴソ整理しはじめるので
とても寝てられない。
仕方ないので、のぼるも起きる。

泣いても笑っても、あと2泊でこの旅も終わる。
悔いのないよう最後まで楽しく旅を続けよう。

さて、今日は富良野周辺をまわりながら札幌を目指そう。
そんなに大した距離は走らないので、余裕のある行動ができるだろう。
天気は曇りだが、予報では「ときどき雨」なので雨装備は怠れない。

オーナーに挨拶をし、さっそく出発。

富良野というと花畑や農場など、自然に育まれたオシャレスポットとして人気の観光地が多い。
ラベンダー畑やチーズ工房などが点々とあり、そして富良野全体が「北の国から」の聖地として
どこへ行っても観光客が多い。

ラベンダーは7月中旬から8月上旬くらいまでが見ごろなのだが、今はお盆を過ぎているので
ほとんどが枯れてしまっている。
一人旅をはじめた最初の頃に来れば見ごろだったと思うが、渋滞や人ごみは苦手なので
あえて富良野の観光シーズンをずらして来たわけだ。

さて、観光シーズンをずらして来たのはよかったが、さらに天気の悪さも相まって観光客は
まばらな感じだ。
花畑のほとんどはシーズンが終わっていたものの、ところどころに遅咲きのラベンダーが咲いていたり
まだまだ楽しめるところがあった。

その中でもけっこう豊富な色彩でいろんな花が咲き乱れているところがあったので寄ってみた。
花とか、実はそんなに見て楽しいとも思ったりしないが、女の子が確実に来るところなので
ロマンスを求めて立ち寄ったわけだ。
下心だけで花畑に来るとかクズだな。

さっそく花畑を見学している美女二人を発見。
「すみません、シャッター押してもらえますでしょうか」
そう言って近づき、撮ってもらったあとで
「もしよろしければお撮りしますよ」
と言って相手のカメラで彼女らを撮ってあげる。
だいたいこれで世間話ができる土台が整った。

ブルーのレインウェアを来たセミロングの娘をケイ、ピンクのウェアを着たソバージュの娘をミィと
呼ぶことにした。
二人は大学時代の同級生で、今もよく一緒に飲みに行ったり旅行に行ったりしているのだそうだ。
うんうん、仲良きことは美しきかな。
電車とバスで旅しているとの事だった。
「気に入った観光名所で、もっとゆっくりしていたいと思っても、電車の時刻に間に合わせるために
諦めなきゃならんこともあるんじゃない?」
そんな素朴な疑問を聞いてみた。
「まぁね。函館とかもうちょっとゆっくりベイエリアを歩いてみたかったね」
とケイ。
「でも、旅をしていて自分の気の済むことなんて大してないんだから、それを思うと多少は
ダイヤに縛られながら次に向かうくらいがちょうどいいんじゃないかな」
とミィ。
そうはいっても、時間に縛られずに行動できるのぼるを二人は羨んでいた。

それならばレンタカーで行動したらいいのでは、と聞いたら
「や。それ無理」
「うん、絶対無理ね」
二人して間髪入れずに完全否定。
理由は、移動中は二人熟睡するから、なのだそうだ。
あー。気持ちわかるわ。
北海道の景色はすごい広大でいいんだけど、単調だから5分で飽きるんだ。
バイクやクルマだと、基本的にそこからは睡魔との闘いになるからな。

それを考えると、バスや電車の旅も悪くない、と思えた。

「あ。もうすぐバスが来る時間だわ」
「あらほんと。じゃあまたどこかでね。バイバイのぼるくん」
「あ・・・ああ。気をつけて」
ピンクレディーはせかせかと道路に向かって歩いていった。

前言撤回。
バスの時刻め。彼女らとせっかく楽しくお話ししていたのに邪魔しやがって。

2016/1/11 00:23  [1498-4121]   

さて。
ロマンスが一区切りついたところで昼めしにしよう。
富良野エリアでうまいものといえば何だろうか。
いろいろグルメはあるだろうが、かねてから目星をつけていた店に行くぞ。

富良野駅からすぐのところにある、ログハウスのオシャレな店。
それがいま話題のカレーの店「唯我独尊」だ。
欧風のこってりスパイシーなカレーに、手作りのソーセージが評判らしい。

窓際のテーブル席に座り、ソーセージ付カレーライスを注文。
10分ほどで運ばれてきた。
大き目のお皿にサフランライスとカレーが盛られ、てっぺんのソーセージの存在がそそられる。
その脇にじゃがいものフライが添えられていて、それもまたうまそう。

まずはカレーを食べる。
うおう、スパイスの効いた辛口はモロに好み。素直にうまいと思った。
そしてソーセージ。
歯ごたえプリップリで肉汁があふれ、噛むごとに肉の旨みがあふれる。
なんというオレ様カレー。すごい美味しいわ。

サロマ湖のキャンプ場で食べたレトルトの函館カレーも美味しかったが、唯我独尊のカレーは
もはや欠点の指摘もできないほどうまかった。

これはやばい。
もし次に富良野に来たとき、別の店で何か食って失敗したとき「なんで唯我独尊に行かなかった」
と心から後悔するに違いない。
つまり、次回もこの店に来ることが確定したようなもんだ。

心から満足し、再び出発した。

午後からは雨も上がり、曇ってはいたがアスファルトはだんだんと乾いてきた。
ここからは札幌へ向かっていくことになる。
昨晩教えてもらったオートハウスという札幌郊外のライダーハウスで今日は泊まりだ。
その翌日は小樽の「おしょろ」というライダーハウスで泊まり、その翌日のフェリーで新潟へ
帰るという予定になっている。
いよいよこのツーリングも大詰めというわけだ。

途中で夕張に着く。
丘の上にでっかい西洋風のがあったので、立ち寄ってみた。
「夕張めろん城」と書かれてある。
ああー。なんかガイドブックに書かれてあったな。
夕張は言わずと知れた高級メロンの産地で、それを全面に推した観光名所らしい。

その中に入る。
だだっ広い城では、メロンの販売はもちろん、メロンブランデーや加工菓子などの土産ものが
たくさん売られていた。
まさにメロン一色の城だ。

とはいえ、特に買うものがなく「ただ立ち寄っただけ」だと5分で飽きる上に「べつに次回
来ることもないかな」と素直に思った。
多くの人も同様の感想を抱いていたようで、この施設は赤字がかさみ転売を繰り返すこととなる。

むかしは炭鉱で潤っていた市ではあったが、資源が掘り尽されたあとは市政が悪化。
いろんな施設を観光名所にしようと市財をつぎ込んでは赤字がかさみ、市そのものが財政破綻
することとなる。
この夕張めろん城もそうだが「夕張ロボット大科学館」というところも観光客向けの施設だったが
内容が非常に陳腐でリピート客に恵まれなかったという。
観光客を誘致するために施設を作ったまではよかったが、運営・維持をきっちり考えていなかった
のだろうな。

札幌、千歳、富良野からけっこう近い好位置にあるというのに、なんだか切ない話である。

2016/1/11 22:05  [1498-4124]   

夕張市をあとにし、札幌に突入する。
突入はしたが、市街地を見事なまでにスルーし、山間部に突入。

支笏湖や洞爺湖へ向かう道路を少し走ると、ライダーハウス「オートハウス」があった。
おー、着いた着いた。

三角形のログハウスに「大自然の家」と書かれた看板。
たぶん、いままで泊まったライダーハウスの中でいちばん古い宿だと思われるが、
不思議と嫌悪感はなかった。
なんだかとても懐かしい雰囲気の宿だ。
「トム・ソーヤの冒険」に出てきたハックルベリー・フィンの、木の上の家を思い出す。

ああ、そうか。
子供の頃、近くの山の中で作った秘密基地、あのノリなんだ。

ログハウスの中から男性が出て来た。彼がオーナーだろう。
「あ、どうも。予約したのぼるですけど、バイクはどこに停めたらいいでしょうか」
彼はにこやかに笑って答えた。
「バイクはそこに並べてあるところのいちばん後ろに停めて。食事はないから自分でテキトーに
食べに行くなり、作って食べるなりしてくれ。ハウスの中のテキトーな空いてるスペースを
自分の寝床にすればいい」
「そっか。わかりました。どうもです」
別れ際に彼は言った。
「それと、オレはオーナーじゃないから」
ヘコー!
ただの常連客だった。

まあ、彼の説明は嘘ではなかったのでべつにいいのだが。
ハウスの中はなかなかのカオス。
玄関から奥の壁まで一切の仕切りなし。約50畳の大部屋に旅人が寝泊まりしている。
2階もあるようだが、荷物の運搬がめんどいので1階で過ごすことにした。
布団はあるが、あまり清潔に思えなかったので敷布団だけ借りてその上にシュラフで寝ることにした。

一息ついて外をぶらつく。
すぐそばに自炊設備とトイレと風呂のあるプレハブ小屋、そしてその外にはテーブルと椅子が
いくつか置いてあり、常連客とおぼしき人たちが雑談をしている。
いままででいちばんワイルドでアウトドアっぽいライダーハウスだった。

2016/1/12 23:26  [1498-4129]   

陽が落ちる頃、常連客が大鍋で豚汁を作って振る舞っていた。
のぼるは自分でごはんだけを焚いて、その豚汁を分けてもらった。
仕切ってる人に、材料費のタシに、と200円を渡すと「べつにいいのに。でもサンキューな」
と言って受け取ってくれた。

客の多くが野外で食べていたので、のぼるもそれにつられて外で食べた。
外で食べる豚汁は、ほんとうにうまいもんだ。
焚火の炭の香り、味噌の香り、たまりませんな。

食後は、常連客に混じって室内で酒盛り。
すでに疲れて寝ている客もいるので、すみっこでひっそりと盛り上がる。
約2週間の旅で間もなく本州に帰還する、とのぼるが打ち明けると、常連の一人がとんでもない事を言った。
「帰りたくなくなっただろ」
いまの心境をずばり打ち抜かれた。

それからは、北海道定住のイロハだの、旅先から辞表を送る方法だの、ほんとうに実践した人たちの
高説がはじまった。
もはやシャバに戻ることなど微塵も考えていない、この地でその日暮らしを満喫する若者たちの
熱き魂がぶつかり合う。

そりゃ、もっともっとこの北海道で楽しく旅をしたいとは思う。
あわよくば、もうこの地で暮らしたい、とも思う。

しかしだ。
旅というのは「非現実的な空間」へ行くことであって、そこから「帰る」ことも同じくらい
大切なファクターだと思う。
こんな長い期間ツーリングしてれば「帰る」とか「現実に戻る」ということがどれくらい
寂しくて切ないことか。
ヘタすれば、いま自分のやっているツーリングそのものが「自分のあるべき生活」とか思って
しまうくらい当たり前のような毎日になっていた。

それが自分にとって、どれだけ浮足立っていることか、鏡を前に自分の姿を見てみるといい。
なんてことをフリーダムな常連客の前で言ったりはしないが。

解散後、シュラフに潜り込んで寝る。
あと1日。
旅の終焉はもう目の前に迫っていた。

2016/1/13 22:47  [1498-4131]   

オートハウス前で記念撮影 ここで煮炊き可能(手前の犬は非常食w)

きゅるっばおん! ばおーん!
ばちばちばちばちばち・・・!!

朝イチで出発していったドカティの音で目覚めた。
いつ聞いてもすげえ音しやがる。

さて、1日行動できるのは今日がいよいよ最終日。
ラストを飾る楽しい行動ができるようがんばろう。

天候はどんより雲だが雨は降らなそうな感じだ。
さっそく荷物をバイクに載せて準備。
「いようのぼる、出発するのか」
昨日いろいろ話した常連のあんちゃんが外に出てきた。
「あい。このライダーハウスも楽しかったよ。またいつか遊びに来るよ」
「そうか。いつでも来いや、待ってるぜ」
彼と握手を交わすと、エンジンを始動させ出発した。
気付くと仲良くなっている奴がいる。それがライダーハウスの醍醐味かもしれない。

朝の札幌郊外の森林を駆ける。
湿度もあまり高くなく、さわやかな風が気持ちいい。

今日の目的地は、小樽郊外のライダーハウス「おしょろ」である。
覚えているだろうか。
単独行動初日に出会った「ぬみゃ〜」に紹介してもらったライダーハウスだ。
やっとあの伏線を回収できるのだ。こんなうれしいことはない。ララァにはいつでも会えるから。

そうはいっても、ここから小樽までは約50km。すぐに到着してしまう。
まあ、今日はラストなんだから、ゆっくり小樽を巡りながら楽しもう。

札幌の市街地をまたもスルーし、国道5号を西へ。
日本海の海岸を少し走ると、彼方に小樽の市街地が見えた。
「小樽かぁ・・・懐かしいな」
前回、NS−1で来たときは小樽がスタート地点でありゴール地点でもあった。
のぼるにとって初上陸した港町であることから、やはり特別な街に思える。

なんだか、無性に前回の最初に行った展望台に行きたくなった。
フェリーで小樽に上陸してから、最初に行った場所だ。
これからの自由に武者震いが止まらなかったんだよな、あのときは。
どこへ行くにも、なにをするにも、自分の自由。
なんと魅力的なことか、と思うのかもしれないが、いざそれに直面すると、意外と「怖い」
ものである。
親のスネをかじりまくったガキが、イキがって自由を手にすれば、まず最初にぶち当たる壁が
「臆病風」ってやつだ。

最初からなんでもできるやつなんていない。
トラブルが起きたときのことを考えると、無性に怖くなるわけだ。
なんでも自分の思い通りになるわけなんてない。
そんな既成概念という壁を、ぶち壊す勇気を自分の中から引きずり出さなければ、
一人旅の第一歩は踏み出せない。

高島岬の展望台は、その踏み出した第一歩だったといえる。

2016/1/14 23:21  [1498-4133]   

高島岬からの眺め 小樽の住宅街 なんと鹿の角の生えたハーレー! レストハウスおしょろに到着

高島岬からの眺め。
どんより雲なのがちょっと残念だが、いい展望だ。
尾崎豊の「坂の下に見えたあの街に」の歌がよぎるくらい、センチメンタルな気分になる。

小樽市街に戻り、運河のあたりを散策する。
相変わらず人が多い。
運河も、夜だとライトアップされてキレイなのだが、昼間だと水が濁っているのが目につく。
まあ、汚しているのは決まって心ない観光客だ。

そんな中、運河の橋の上で鹿の角の付いたハーレーを発見。
なんだそれ。なんかすげえクール。
北海道ならではのカスタマイズだな。ていうか車検通るのか・・・?

そんな感じで、夕方前に本日の宿であるライダーハウス「レストハウスおしょろ」に到着。
国道沿いのトンネルを出てすぐにあったので、わかりやすい。
昼間は食堂、夜はライダーハウスをしているところだった。
店のドアを開けて中に入ると、オーナーのおばちゃんが迎えてくれた。

ライダーハウスとして寝る場所は店の裏にある木造二階建ての部屋。
寝室はその2階になるのだが、階段の勾配がきつく、すぐに足を踏み外しそうでかなり怖い。
落ちたりしたら、かなり痛いな。うん。すげえ痛いと思う。

部屋の中は10人ほどが寝れるほどの広さで、すでに3人ほどの客がくつろいでいた。
荷物をまとめながら彼等と世間話をしながら過ごしたが、ここにきて大変なことを思い出した。
昨日風呂に入っていなかったのだ。
これはいかん。2日連続で風呂に入らないのはいかん。

というわけで、オーナーのおばちゃんに近場の温泉施設の在処を聞いて、タオルと着替えを
ナップサックに背負い、小樽市街へ戻った。
少し迷ったが、教えられたポイントに銭湯があった。
地元の人しか入らないような、番頭さんのいる昔ながらの銭湯だ。

さっそく湯船に浸かる。
「熱ー! 熱熱熱熱熱ー!!」
前回函館で入った地元スペシャルの銭湯でもそうだったが、なんでこう地元向けの銭湯って
熱湯のような温度なんだ。とても長時間入っていられん。

それでも足湯としてゆっくり浸かり、懐かしき黄色のケロリンの桶に感動しながら身体を洗い、
さっぱりして外に出た。
なんともスッキリした気分だ。

日暮れどき、18時におしょろに戻るとタイミングよく夕食の時間であった。
宿泊者約15人ほどが食堂のテーブルに集まり、想像を上回る豪華な夕食に舌鼓をうった。
大きなチキン照焼、刺身、煮魚、アジフライなど食べごたえ満点だ。
ていうか、これだけの品目のある食事は、何日ぶりだろうか(爆笑)

いや、2食ついて一泊ひとり2500円というのは格安だ。
ライダーハウスにしてはちょっと高いかなと思ったが、これは納得。むしろ感動だ。

2016/1/17 00:19  [1498-4139]   

おしょろで出会った愉快な仲間たち ブルマ「あたしの連絡先、書いておくね」 寝るまで大騒ぎ

夕食時に宿泊者が全員揃ってようやく判明したのだが、ここは女性客が他のライダーハウスより
多いことが特徴的だった。4〜5人は女性であった。
この日だけだったのかもしれないが、女性専用部屋をきっちり設けてあること、食事が美味しいこと
などがクチコミで広がり人気となっているのかもしれない。

夕食後は各々が自由で、食堂に残って雑談を楽しむ者、就寝部屋に戻って早々に寝る者、夜になって
温泉に出かける者もいた。

のぼるは北海道最後の夜なので食堂に誰かが残っている限り彼等とお話ししていた。
最後まで残っていたのは、ジャッキーチェンに似た陽気なイケメン「亀仙人」と
ちょっと内気な草食系男子「ヤムチャ」、若返った清水ミチコのような女の子「ブルマ」
この3人であった。

ビールやチューハイを飲みながら、のぼると亀仙人が「ここへ行くと面白いよ」と各地を紹介し
ヤムチャとブルマが「ほーっ」と相槌を打つ、そんなパターンになっていた。

人懐っこく陽気な亀仙人は3度目の北海道、気の向くまま各地をツーリングしている。
初北海道で今回がライダーハウスデビューのヤムチャは、まだ旅立ちの緊張が抜けていないようだったが
のぼるや亀仙人がはしゃいでいるのを見て、その緊張の糸が解れてきた。
ブルマはおっとりマイペースなソロツアラーで、各地のB級グルメを楽しみながら旅をしているという。

みんなはまだ明日から旅の続きがある。
「オレは明日のフェリーで新潟に帰り、ひとまずこの旅は終わりだ」
そう言うと、3人から「今回の旅はどうでしたか」と感想を求められた。
「そうだな。一言でいえば、北海道がもっと好きになった。2週間も居れば堪能できると思ってたけど
ぜんぜん足りないわ。
でも満足するまで居たいとは思わない。次また来ようっていう楽しみに繋がるわけだからな」

そして、ヤムチャに向いて言った。
「きみは北海道に初めて来たんだったな。オレも今回が2度目なので似たようなもんだが、
後悔しないよう思いっきり遊んでいけよ。この旅の思い出は大人になっても宝物として
心の中に刻まれるだろう」
「は、はい!」
ヤムチャは力強く返事をした。
「のぼる、かっこいい」
ブルマがぼそりとつぶやく。
「かっこいいけど、ビール片手にあぐらかきながら言ってても、中年オヤジの戯言にしか見えないよ」
「言うに事欠いて」
苦虫を噛み潰したような渋い顔をすると、ブルマはにっこりと微笑んだ。
「でも、おつかれさま。地元に帰ったらゆっくりと身体を休めてね」
いきなりハートを掴まれるような笑顔。なかなかの反則技だ。

すっかり意気投合した4人。
日がかわってもいつまでも話し込んでいた。
最後の夜に相応しい、とても楽しいひとときであった。

2016/1/17 14:39  [1498-4140]   

2階でくつろいでいたねこ 店の前で記念撮影 さあ、ラストラン行くぜ! また来るからな。待ってろよ!

最終日の朝。
ちょっと寝不足だったが、みんな起き始めたので寝てもいられずに目覚めた。
長かったこの旅も、ついに終わってしまうのだ。

宿泊客全員で朝食を食べ、それぞれ出発の準備ができた者から旅立っていく。
フェリーの出港時間にはまだ余裕があるので食堂のテレビを見ていたら、天気予報で
今日からしばらく北海道全域は高気圧に覆われ、晴れが続くのだそうだ。
「な・・・!」
この予報を見た瞬間が、もっとも帰りたくない衝動に襲われたピークであった。

北海道は今日からがライダーにとって遊びのシーズンになっていくのだろう。
「それじゃ、オレは出発するぜ。いつかまたどこかで会おうぜ、のぼる」
「私も宗谷岬を目指して行きます。いつかまた楽しい情報教えてください、のぼるさん」
「あたしは富良野のカレー屋に行くよ。昨晩はとっても楽しかった。またね、のぼる」
店の前で記念撮影をすると、3人の仲間も次々と出発していった。

さてと。
「オレもそろそろ行くとするか」
荷物をリヤシートに載せ、各地でもらった3色のホクレンフラッグを立てた。
どうせフェリーに載せるときにすぐ外してしまうのだが、旅のいろんな思い出を吸い込んだフラッグ。
最後まで立ててこそだろ。

店のおばちゃんに挨拶をして、バイクに乗る。
エンジンをかけ、ヘルメットのバイザーを閉じる。
「じゃあ、行こう。ありがとうおしょろ。いい宿だった」
ギヤを1速に入れ、アクセルを開け、クラッチを繋ぎ、発進。
小柄なのぼると大柄な荷物を載せたカワサキ・ザンザスは、軽快なサウンドを響かせながら発信した。

小樽のフェリー乗場で乗船手続きを終え、外で晴れた小樽の街並みを眺めながら一服する。
いちばん最初に北海道上陸したときと比べて、いまは少し大人になった気がする。
この旅で多くの出会いと別れを繰り返し、そのたびにいろいろ考えさせられたからだ。

困ったときは誰かに聞いていい。
助けてほしいときは、誰かに求めていい。
そのかわり、誰かに助けを求められたときは、何がなんでも力になること。

これが「絆」だ。
ライダーだけじゃない。旅人としてでもない。
出会った者同士の絆だ。
この北海道で助け、助けられた絆はきっと忘れない。

「あの、おひとりですか? もしよかったらフェリーの中、一緒に過ごしませんか?」
乗船前のバイク置場でオフロードライダーのあんちゃんに話しかけられた。
「いいですよ。ご一緒しましょう」
「あ、すごいですね。フラッグ全色揃えたんだ。どんなところを旅してきたんですか?」
「えーと、そうですね、船の中でゆっくり話しましょうか」

こうしてまた、新たな絆が生まれる。



北海道への誘い  -3年後-             The end of Files...

2016/1/18 04:39  [1498-4142]   

あとがき その1

ふえええ。終わったよう、なんとか無事に完結したよー。
これだけ過去の旅の出来事をよくもまあ(ほぼ実際に行った順に)書けたもんだ。
仕事から帰って、ほぼ毎日1〜2時間ほどかけて書き上げてましたが、10年以上も前の話を
詳細に描くのって想像以上に大変でした。

前半は当時書いた鉛筆書きの旅行記が残っていたのでそれを見ながら現在の文章にアレンジ
するくらいですんなり書けてましたが、それが途切れた後半からは、写真のインデックスに
書いてある「○○にて」という地名を見ながら、当時の思い出をムリヤリ脳味噌の奥底から
引っ張り出して書いてました。


それでは、順に物語の解説をしていきます。

旅の準備をするところの描写って難しい。
さっさと北海道上陸してツーリング開始のとこから書いていきたいのを我慢して
準備のプロセスを丁寧に書きました。

上陸後、函館でのエピソードでひとつ書き忘れていたことが。
ずっと後、サロマ湖でキャンプしたときに食べた「函館カレー」を買ったときのことを
すっかり書くのを忘れてました。
最初に書いておけば、伏線として物語が奥深くなったのに。残念。

ソロになってから出会った人のニックネームの由来は、基本的に本名をモジったものが多いが、
後半はその名前すら不明の人が多かったので、イメージに近いネーミングにしたり、
その人の特徴を活かしたネーミングにしたり、書いてるときのノリで決めたりしてました。

ぬみゃ〜、アムロ・・・本名からもじって
カムラン・・・カメラをもじってなおかつガンダムつながりで
タカ、ハニャー・・・本名からもじって
エイジ・・・V−MAXに乗ってる=レイズナーのパイロット
マンマミーヤ・・・宮崎駿だから(鉛筆書きの旅行記では「マンマ宮崎」と書いていたが
さすがにそれはわかりにくいだろうと思って変更)
サンテ・・・織田裕二出演の目薬のCM「きたああああー!!」
バリデン・・・ZUに乗ってる=バリバリ伝説
キャンパ・・・キャロルのキャンパストップだから
強虫ペダル・・・チャリダーなので
モーラ・・・ガンダム0083のアルビオンのメカニック。大柄で豪快な女性なので

だいたいこの「浮樹浮木LANDキャンプ場」編が終わったあたりで当時残されていた鉛筆書きの
旅行記が終わってしまう。
そこから先はいよいよ十数年経った現在執筆中の記憶だけを頼りに書くしかなくなります。
主要なイベント関係はけっこう覚えていますが、そこへ向かう途中途中の心境や景色などは
かなり忘れており、かといってウソを書くわけにもいかない。
このため、後半は「なんで旅をするのか」とか「旅のウンチク」「成長したこと」など
精神論的な書き方に変化しているのがわかると思います。
そうするしかなかったんですww

アビスちゃんは、今回イチバンのヒロインでした。
数日にまたがって一緒にいた女性は一人もいない中、アビスちゃんはもっともノリがいい女の子でした。
ネーミングは、ジェイドに乗っていた→ジェイド→テイルズジアビス(ナムコのゲーム)→アビス
たぶんわかった人は一人もいなかったと思います。
1時間ほど彼女のネーミングが思いつかずに悩んでいたところで、もうナンでもいいや的に名付けたので。

後半になると、もはやどこで燃料補給したか、ヘタするとどこでメシ食ったかすら覚えていないことが
多くなり、給油場面は皆無となったりメシのシーンも書かなくなることも。

カムイワッカ湯の滝のあと、霧多布のライダーハウスに着くまでの間はもはやほとんど覚えていない。


その2につづく

2016/1/18 05:44  [1498-4143]   

現在のきりたっぷライダーハウス

あとがき その2

霧多布のライダーハウスでの出来事はかなり覚えている。
ドラえもんの3バカはかなりインパクトあったし。
スミレ、しずか、ジャイ子はそんなノリで名付けてしまった。ごめん、ジャイ子。

ケンボッキ島の出来事もかなり覚えてます。
非常に貴重な体験で、あとあの巨大な蚊が心に残ってます。

釧路駅前での立ちゴケは、恥ずかしかったのもあったが、まわりで誰も助けてくれなかったので
ちょっと悔しかった。

ちなみに撮った写真はすべて「写るンです」で撮ったネガをデジタルスキャンしてCD−ROMに
焼いてもらったデータを使ってます。
走りながら撮った写真とか、意外といいアングルしていたりw

ミィとケイ・・・コンビといえばピンクレディだから

富良野の唯我独尊のカレーは3年後にまた食べましたが、やはりうまかったです。
その旅は仲間と3人で、電車・レンタカー・飛行機の旅で、特に書くこともないので
旅行記を書くつもりはありません。

亀仙人・・・ジャッキーチェン≒ジャッキーチュンだから
ヤムチャ、ブルマ・・・亀仙人を先にネーミング決めたので、あとはDB繋がりで


やっぱネーミングってのは覚えやすさ重視のほうが読みやすいね。


さて、すこし気になることを特集しましょう。
当時泊まった数々の宿は、現代においてどうなっているのか、です。

登別ユースホステル・・・・現在も営業。たぶん外観も当時のまま
函館 民宿ピープル・・・・今はたぶんやってない。ネット情報に引っかからない。
札幌 泉屋旅館・・・・・・現在も営業。札幌駅から徒歩圏内で素泊4000円クラス。
稚内 ドミンゴ・・・・・・閉鎖
浮樹浮木LANDキャンプ場・・閉鎖
民宿ましゅまろ・・・・・・現在も営業。
きりたっぷRH・・・・・・閉鎖(※)
えりも岬ユースホステル・・民宿仙庭と名を変えて営業。ただし2017年5月31日閉鎖予定
ライダーハウスヒグマ・・・現在も営業(たぶん)
札幌 オートハウス・・・・閉鎖
小樽 おしょろ・・・・・・閉鎖

(※)閉鎖の理由が壮絶。オーナーは実はホモで、あるとき美少年をケンボッキ島に連れて行き
「オレに抱かれるのを拒否するなら、お前を島に置いていく」と迫られたとの噂が。
その噂が旅人の間に瞬く間に広まり、RHは営業停止。オーナー家族は行方不明。
現在そのRHは廃墟となっている。一連の騒動は「ホモたっぷ」という名称で語り継がれている。


こんな感じですね。
まあ、この旅行記をもとに現代の北海道を旅しても、まったくアテにならんことを
明記しておきます。情報そのものにウソはありませんが、当時と現代では施設面や金額的に
いろいろ変わっておりますので。


ひとまずこれで終了となります。
これ以降、レスを解禁といたしますので、みなさんご自由に感想などレスを書いてください。
最後まで読んでくださってありがとうございました。

2016/1/18 06:40  [1498-4144]   

北海道の誘い執筆お疲れさまでした&楽しく読ませてもらいありがとうございますー<(_ _)>

楽しく読ませていただいてたぶん、「あぁ、もう終わりかぁ。。。」とちょっと凹み気味です(-ω-;)

もう少し見たい気もしますが、また別のお話でも書いてくれるのを楽しみにしときますね(^_-)-☆

でも、ねこさんが立ち寄った宿は閉鎖されてるところが多いんですね!
見てみたいなぁと物思いにふけってたらあとがきでみて残念に感じました(。>A<。)

機会があれば、ねこさんの立ち寄った名所は見てみたいですね!都内在住なので、中々帰省したときしかチャンスがないですけど、何泊か予定して見て回りたいです♪

2016/1/18 20:36  [1498-4146]   

ねこさん、こんばんわ!執筆完了お疲れ様でした。
楽しく読まさせていただきました。毎日朝昼晩と更新チェックしてました。
北海道は幼稚園時代(札幌冬季オリンピック時)と学生の時に住んでいたので大変に思い入れのある所なんです。前にも書きましたがケンボッキ島、実は畑正憲さんのファンなので良く知っていました。朽ち果てた2軒の廃屋は畑さんの住んでいた家に間違いないでしょう。霧多布から歩いて渡れる時もあるようです。

ところで1つツッコんでおきますぞ(^.^)

〉バリデン・・・ZUに乗ってる=バリバリ伝説

バリバリ伝説ではなく「あいつとララバイ」じゃないの〜〜!
バリバリ伝説はCB750とカタナですよねー(^_-)

ま、何はともあれお疲れ様でした。ひまねこ遊撃隊の続き読みたいな!なんちゃって!

2016/1/18 21:04  [1498-4147]   

>銀狼のるーちゃんさん
感想ありがとうです。物語のボリューム的にはこんなくらいが限界です。
現在閉鎖の宿はやはりそれなりの事情があります。
あれから十数年も経っていればなおさらです。後継者がいなくて閉鎖というのが
いちばんよく聞く理由ですね。

>群玉のおっさんさん
あー、そうだ。その通りです。
Z−Uは「あいつとララバイ」でしたね。もしくは「GoGo!爆走ハイスクール」か。
しまったぁ。絵に描いたような間違いをしてしまった。トホー
ひまねこ遊撃隊の続編ですか・・・実は少し書いたんですけど、無理でしたww
当時のテンポとノリはもう今になって再び生み出すことはできませんでした。てへぺろ。

ニーズがあれば、この縁側に「HEAVYDUTY SISTERS」を移植することはできますが、
はたして読みたい人がいるだろうか。
真子編のエピソードは自身の最高傑作だと思ってます。
書いてるとき「あ、神が宿ってる」って自覚したくらいです。自惚れでなく、ホントに。

2016/1/19 10:01  [1498-4150]   

 kas3さん  

ねこさん、執筆お疲れ様でした。
北海道への誘い-3年後-
最後まで読ませていただきました。
とても楽しかったです。
今まで、一度も北海道に行ったことがないのでとても勉強になりましたよ。
また、旅行記読ませていただきたいです。
よろしくお願いします!

2016/1/19 17:56  [1498-4151]   

>kas3さん
感想どうもありがとうございます。
今年のGWは珍しく長期間ですので、北海道旅行を検討してみてはいかがでしょうか。
ラベンダー畑では苗の植え付け作業を見学することができますよ。
雪解けの大雪山をロープウェイで中腹まで行くのも楽しいですし。

でもウニ漁解禁は6月以降なので捕れたて新鮮な生ウニを食べられるところはほとんどないです。
でも市場へ行けば他の新鮮な魚介類がたくさんあります。
四季を通じて、北海道グルメはハズレの時期の無いのが魅力。
カレーやラーメンにしてもいい文化が各地に根付いてますし、農作物・肉・乳製品なども
よりどりみどりです。
ぜひ、プランを練って探訪してみてほしいです。

2016/1/24 17:11  [1498-4164]   


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