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「縁側」-みんなが作る掲示板-からのお知らせ
縁側からのお知らせ

縁側をご利用いただく際のルール&マナー集を用意いたしました
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ご投稿の前には必ずご一読をお願いいたします。詳しくはこちら⇒「縁側 ルール&マナー

紹介文

ここは主にホンダFIT3HVの徒然ない世間話や、
ドライブ旅行記、オリジナル小説やCGなど
けっこうどうでもいい話題で盛り上がっております。

気だるい午後のひまつぶしにどうぞw

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ひまねこのけいじばんの掲示板に
ひまねこのけいじばんの掲示板に新規書き込み

これは以前書いたファンタジー世界の小説を、ここでも読めるように
移植したものです。

〜 あらすじ 〜
女の子のねこである主人公アリスは、アルピニアの城下町で暮らしているが、
モンスターの出現によりねこ集会の治安もだんだん脅かされそうになる。
今日の晩ごはんのために、仲間とともに立ち上がるのだ!

ほのぼのしているわりにバトルはけっこうハードです。
読んだことのない方は、毎日すこしずつ更新していきますので、
次の展開を楽しみにしながら読んでみてください。

ぜんぶ終わるまでこのスレにはレス等書かないようお願いいたします。
感想などは「ひまねこの縁側」の掲示板のほうにお願いします。

↓ イメージソングと思ってください
http://www.youtube.com/watch?v=WDAEjiIXj
g8



それでは、はじまりはじまり〜♪

2014/10/15 22:10  [1498-1461]   

ひまねこ遊撃隊


act.1  黄昏のひまねこ

「ふわー」
口から思わずあくびが漏れた。
アルピニア城下町の繁華街、にぎやかな喧騒がメインストリートから聞こえる。
アイテム倉庫番のおばちゃん、レイチェルの家の裏にある日陰の裏道広場が、
このへんのねこの集会所になっていた。

気だるい午後のひとときは、どこかの飼い猫やら、そのへんの野良猫やらが
みんなここに集まってくる。
その中のリーダー格のねこである、あたしアリスは何することもなく、
ただボーっと目を細めていた。
「ひまだにゃー・・」

どこぞの魔王だかがこのオムニバスワールドを席巻しようと企んで、
なんか各地に生息する動物や植物をモンスター化しはじめているらしい。
んで、王国騎士団ではとても対処しきれないからといって、いろんなところから
傭兵を集めてモンスター討伐なんかをしているらしい。
まあ、そんなことはあたしらにとってはどうでもよかったりする。
ねこたちにとっては、朝晩のごはんと、あとはゴロゴロできる場所があればそれでいい。
モンスターがどうの、賞金がどうの、転職がどうの、なんてことはぜんぶ人間たちに
任せればいいだけの話だ。しょせん一介のねこには関係ないし。

とはいえ、最近は日に増して人がたくさん集まっており、ねこたちの居場所もだんだん
狭められてきた。
なにも知らない傭兵初心者から「パッチキャットだー!」と誤解され、狩られそうに
なったことも数回・・。迷惑なことこの上ない。
まあ、だからといってどうすることもない。他に行くあてもやることもないから、
ここでこうして寝転んでいる。それだけだ。


夕飯どき。
いつもごはんをご馳走してくれるレイチェルおばちゃんを尋ねた。
「おばちゃーん、ごはんくださいにゃー」
のんびりとした口調で話しかけたが、レイチェルおばちゃんはせかせかと忙しそうに
カウンターと奥の倉庫を行ったり来たりしていた。
「おお、アリスかい。ごめんねー、今日はまだこの通り、忙しくてそれどころじゃ
ないんだよ。もしお腹が空いてたら向かいのアルポードさんとこか、隣のイアンさんに
食べさせてもらっとくれよ」
おばちゃんはそう言うと、カウンターに押し寄せてくる客の対応に追われて、再び
バタバタと走り回りはじめた。
人間も大変だね。

モンスターの勢力がだんだん増している証拠だろうか、ほんとに傭兵が多い。
夕暮れの繁華街なのに、バスケットを持ったの主婦よりも武器を携えた傭兵の割合が多いのだ。
もしかして、これちょっと異常なのかな。

ま、それはともかく、言われたとおり、ほかのヒトに食べさせてもらおっか。
精錬士のアルポードさんはいつも怒ってて怖いからイヤ。
こないだなんて自慢の鋭いツメを取られそうになったんだから。
というわけで、おとなりのイアンさんの家へ。
雑貨屋もしている初老のイアンさんもまた、客の対応に追われていた。
これだとまたごはんはめぐんでくれそうにない雰囲気だ。
「待たれよ」
空気を察して立ち去ろうとすると、イアンさんに呼び止められた。
「アリスよ、ちょうどいいところに来た。少しお使いをしてくれんかのう。お礼ははずむつもりだ」
「・・・? なにすればいいのにゃ?」

イアンさんの話によれば、草原に散らばっている、傭兵の拾い忘れた木の欠片を
30個ほど拾ってくればいいとこのと。
木の欠片は、精製・蒸留することで体力回復剤を作ることができるものだ。
イアンさんはそれを売り物にしているのだが、顧客が予想以上に多くてその体力回復剤が
不足しそうだと言っていた。
ねこの手も借りたい、ということわざがあるが、本当に借りるとはなんたること。
そこまでして忙しいというのは、もはや異常としか言いようが無いね。
ま、とりあえずヒマだからやってあげようか。
すぐに見つかる木の欠片も30個となると面倒だ。
集会所でひまなねこをお供に連れていこう。

集会所には、飼い猫はみんな自宅に帰っており、野良猫が2匹残って世間話をしていた。
おやっさんとダンガンだ。
おやっさんは、このへんでいちばん大人のねこで、このへんの元リーダーだった。
わけあって現在ではあたしがリーダーをしているが、人間世界の知識も豊富で
みんなから「おやっさん」と親しみ呼ばれている。本名はだれも知らない。
ダンガンは若いねこ。好奇心旺盛で、何にでも首をつっこみたくなる血気盛んな男の子。
1ヶ月前くらいからひょっこり現れてこの集会所に居座っている。
どこからきたのか、どこへ行くのかなど、だれも知らない。
「ふむ。ひまだからつきあおう」
「報酬は山分けだからなっ」
2匹は木の欠片収集協力を快諾してくれた。

2014/10/15 22:15  [1498-1462]   

ぷよぷよ、と肉球を石畳に鳴らしながら3匹のねこが歩く。
「城下町とそれを囲む堀まではモンスターが侵入しないように城の魔術師が
結界を張っているが、その外に出たら充分に注意しなければならないぞ」
おやっさんが諭す。
「めんどくせー。さっさと木の欠片を集めて帰ろうぜ」
ダンガンはやる前から帰ることを考えている。
確かに、おなかペコペコだからこんなお使いはさっさと終わらすに限るね。

城壁を出て、外堀に架かる石橋を渡ったところ。
急にあたりの空気が変わった。
おやっさんの言う「結界」の外に出たのはすぐにわかった。
夕焼けの草原、妖気じみた殺気があたりに漂っている。
「とにかく作業開始にゃ。1匹10個集めたら、ここに集合ね」
あたしがそう言うと、おやっさんとダンガンは散会していった。

さて、あたしも探さないとね。
モンスターは怖いけど、このへんのやつは手出ししなければこちらを攻撃したりはしないはず。
それさえ気をつけていれば、目の前にモンスターがいても問題はないのだ。

木の欠片。そのへんに生えている木から取れるものなんだけど、それだと木が可愛そうだから
モンスターを退治したときのドロップアイテムから収集するのが冒険者の暗黙の了解。
可能な限り自然を破壊しないように、というのがルールなのだ。
ゆえに、あたしたちが拾うのは、傭兵なんかがモンスターを退治したあと拾い忘れた類のもの。
ま、アイテム屋で売っても二束三文にしかならないので捨ててる人も珍しくない。
その場合はまとまって落ちているからラッキーなのだが、いざ探すときに限って
見つからないのも奇妙な相関関係だ。

10分ほど探し回り、10個のノルマまで、あとひとつというところまでこぎつけた。
おやっさんとダンガンはもう探し終わったかな。

そんなときだった。
「わ〜〜〜〜っ!!!」
ダンガンの叫び声が辺りに響いた。

何事か、とあたしとおやっさんが彼のもとに駆けつける。
ダンガンは腕から血を流し、木の欠片のばらまかれた地面にうずくまっていた。
「だ、大丈夫、ダンガン! いったいどうしたのにゃ?」
そばに駆け寄ろうとする、あたしの手をおやっさんが制した。
「まてアリス」
おやっさんの指す、ダンガンから少し離れた巨大岩の上に何者かがいた。
夕陽の逆光に照らされたシルエット、人間にしても大柄なほうで、がっしりと腕組みをしている。
全身が毛むくじゃらで、しましまの尻尾がどことなく毒々しい。
黒く輝く仮面から覗かせる、赤い瞳がらんらんと怪しく輝いていた。
「この地方のモンスターじゃないな・・・なんだ一体」
モンスター情勢にも詳しいおやっさんですら狼狽を隠しきれない。
「くそう、痛てぇ・・いきなり斬ってきやがった! 逃げろ2匹とも!」
ダンガンがうずくまりながら叫んだ。

そのモンスターは微動だにせず、ただ3匹を見下ろしていた。
あたしは恐怖のあまり足が動かない。どうすることもできない。
蛇に睨まれた蛙というのは、こういうことをいうのか。
一歩でも動いたら、次の瞬間ばっさりと斬られてしまいそうでならない。
「ふん、コソコソとドロップアイテムをネコババしているやつがいるかと思ったら、本当にネコか」
巨漢モンスターはぼそりと呟いた。
「ちょうどいい、今晩は猫鍋をいただくとするか」
背中のバスターソードをずしりと抜く。
そのへんに生えている木などまっぷたつにできそうな巨大な剣だ。

「フ、フ〜〜っ!!!」
勇気を出して体中を総毛立たせ威嚇したが、なんの効果もない。
巨漢モンスターはゆっくりと歩み寄ってきた。

やばい。逃げよう、逃げるしかない。
全身の細胞が真っ赤なサイレンを鳴らしてそう叫んでいる。
動け、あたしの身体! 動け! 動け! 動かなかったら殺される!
頭の中でそう繰り返すと、金縛りがなんとか解けた。
あたしはダンガンを起こし、おやっさんを連れて全力で逃げ出した。

「逃がさん」
ずんずんと追いかけてくる巨漢モンスター。
結界の中まで逃げきれば安心、あと50メートル。逃げ切れるか。

巨漢モンスターは意外にも俊足だった。
あたしたちとの距離はみるみる狭まっていく。
結界にたどり着く前に、間違いなくあのバスターソードの間合いに入るだろう。
このままでは全滅だ。
なんとかしないと、なんとかしないと・・・・!

やや前方に木の棒っきれがあった。
あれを武器にして対するのが、何かできる最後の手段だろうか。
などと悩む前に行動してしまった。
「おやっさん! あたしが引きつけるから、ダンガンを連れてはやく結界の中にっ!」
あたしは立ち止まり、振り向いた。
「何を無茶な! アリス、一緒に逃げるんだ!」
おやっさんの制止を聞かず、あたしは棒っきれに手をあてた。

ねこの常識では、棒など握れるはずもない。
だが、ここは違う。この世界は違う。
この世界、オムニバスワールドは、想うことすべてが実現できるはず。
世界そのものが、そうして生まれたのだ。
「掴め」
そう願い呟くと、あたしの指はすこし伸び、棒を握れる状態となった。
ほら握れた。
願うことが実現できるなら、このモンスターを退治することだってきっと・・・!

2014/10/17 22:55  [1498-1470]   


しゅんっ!

あたしの握った棒っきれは、構える前にあっさりと斬られた。
「ばかめ。そんな武器にもならんものでオレと戦おうというのか」
巨漢モンスターは、改めてゆっくりとバスターソードを構える。
あたしは一瞬振り返って、おやっさんとダンガンが結界の中に入ったことを確認した。

よし、あとはあたしの問題だ。
怖いけど、怖くてたまらないんだけど、もう後戻りはできない。
目の前に立ちふさがる巨漢モンスター。

いや、違う。

巨漢モンスターの前に立ちふさがるのが『あたし』なんだ!

「ありがとにゃ」
あたしは巨漢にそう言っていた。
いま、生死の狭間にいることをはっきり認識した。
覚悟。決めた。
手に残った棒の残りを口にくわえる。
「あん? 何言ってんだおま・・」
奴が呟く前に、あたしは駆け出す。
バッタのように、右に左に乱数加速で駆け回る。
あいつを凌駕できるとしたら、瞬発力しかない。
とにかく目にもとまらぬ速さで駆け回る。
一瞬のチャンスは必ずくる!

「この・・ちょこまかと小ざかしい!」
巨漢はバスターソードを振りかざした。
ここだ!
ぶぅん、と水平に斬りつける剣を地面スレスレでかわす。
あまりの豪快なスイングのあまり、そのソードのまわりに気流が生まれる。
スリップストリーム。
木の葉のように軽いあたしはその気流に流されるように身をまかせた。
それは、あいつにとってあたしが一瞬で消えたように見えたに違いない。
「ぬぅっ」
巨漢は、再び剣を上段に構える。
それが、結果としてあいつの失策だった。
地面にいたはずのあたしは、天空に舞い上がっていたのだ。
「この棒の切っ先を鋭く斬ってくれて、ありがとにゃ!!!」

ざす!

天空から、重力とありとあらゆる回転運動を加え、一点に集中された棒っきれは
巨漢モンスターの右目を見事、ピンポイントに貫いた。
「うぎゃああああぁぁあああ! 目が・・目が〜〜!!!」
巨漢の絶叫があたりに響き渡る。
「ぐぅぅぅぅっ 貴様、いつか必ずこのテスラー・ソート様が切り刻んでやるからな!
おぼえておけ!」
だらだらと血の流れる右目を抑えながら、巨漢モンスターは逃げていった。

「はぁ・・はぁ・・はぁ・・・っ」
あたしはその場にへたりこんだ。
かつてない恐怖が去った。それだけで全身の力が抜けたのだ。
「大丈夫か、アリス」
「す・・・すげえ! やったぜアリスーっ!」
結界を抜け出し、おやっさんとダンガンが駆けつけた。
「え・・えへへ・・・なんとか勝てた・・・かにゃ・・・」


アルピニア城下町。
酒場のカウンターの隅っこに3匹は座った。
依頼主のイアンさんに約束通り、木の欠片を渡してあげたら、お金をたくさんくれたので
こうして客として食事にきたのだ。
「ダンガン、あなた腕の怪我は大丈夫なのにゃ?」
「ああ、こんなの回復剤を飲んだから平気平気。それにしても、さっきはすごかったな。
やられたかと思ったら、空中に飛んでやがるんだもん」
ダンガンが興奮冷めやらぬ表情で言った。
「わしにもあの一瞬は見えなかった。アリスよ、どんな魔法を使ったのだ?」
おやっさんも興味深々の様子だ。
「あー。なんというか、もう一回やれ、と言われても絶対無理なんだけどね・・・」
あたしはそう前置きしてから説明した。

水平に振られたバスターソードの乱気流を利用して、そのソードの真下に潜り込んだ。
そうなるとはあたしはモンスターの死角に入ったことになる。
ソードが振り終えて制止した刹那、あたしはそのブレードに4本の手足のツメでしがみついた。
バスターソードなんてヘビー級な剣だから、そこにあたしがくっついている重さなんて、
ぜんぜんわからなかっただろうね。
そして、モンスターが剣を振り上げると、あたしはそのまま空中に放り投げられ、
あとは、落下する速度がカウンターとなって、クリティカルヒットが成功した、というわけ。

「なーる! さすが我らのリーダーだ。マジかっこよかったぜ! しばらくの間、
話のネタには困りそうにないなっ」
ダンガンはおどけてみせた。
「あの状況で、よくもまあそんな機転をきかせられたものだ」
おやっさんは燗したまたたび酒を片手に、すこぶる上機嫌であった。

そんな感じで盛り上がっていると、ウエイトレスのデフラさんが料理を運んできた。
「はぁーい、ねこちゃんたち♪ 特盛つゆだくペペロンチーノまたたびトッピング、
お待たせしましたぁ!」
どん、とカウンターに置かれたごちそう。
こんな美味しそうな食べ物、見たことがない。
「うわ、うまそーっ! 今日は最高の1日だったぜ! リーダー最高!」
「うむ! 我らがアリスに、乾杯!」


深夜。
誰もが寝静まり、誰もいないアルピニア神殿前の広場。
薄暗がりの街灯の下に何やら密会する二つの影があった。
「今日、モンスターとファーストコンタクトをしました」
「グルル・・・で、どうだったのだ?」
「見たこともない大きなモンスター・・確か、テスラー・ソートとか言ってましたが・・」
「テスラー・ソート・・・初めて聞く名だグル。明日にでも詳しく調査させるガル。で、アリスの方は
どうだったのだ?」
「ええ・・本人はあまり自覚がないようでしたが、見事な手さばきで、瞬間的ですが相手を圧倒
し戦ってました。相当な潜在能力を秘めているように思えます」
「グルル・・・そうだろうな・・・彼女はただのねこではない。『Sねこ』なのだ」
「Sねこ・・・スーパーねこ、でしたか」
「ちがうグル! スペリオルねこだ。英霊宿りし、最強のねこなのだ」
「英霊・・・・あの方が、彼女に宿っていると・・・」
「グルル・・・よいか、このことは他言無用だ。これからも彼女をサポートしてやってくれ」
「ははっ。それは誓って・・・・」


                                  
act.2 に続く

2014/10/18 20:11  [1498-1474]   

act.2  ひまねこクラン設立

「あたし、考えたんだけど」
退屈をもてあまして集まったねこたちの前で、あたしは切り出した。
倉庫番のレイチェルおばちゃんの家の裏の広場。
廃材や木箱が積み重なっているこの場所が、ねこ集会所なのだ。
今日は7匹ほど集まっていた。ダンガンとおやっさんもいる。
「なんだよアリス、やぶからぼうに」
武器屋シュレンの飼い猫のハムが首をかしげた。
飼い猫らしく、ちょっと小生意気な男の子ねこだ。
「みんなでモンスター退治の仕事をしたいのにゃ!」
「は?」
ハムをはじめ、一同の目が点になった。

「あたし、こないだすんごい大きなモンスターと戦ったのにゃ」
「あ? ああ、それならダンガンから話は聞いてるよ。すごい戦いっぷりだったって。
ていうかこのへんじゃ知らないねこはいないんじゃないの」
一言多いが、あたしは気にせず話を続けた。
「あの戦いのあと、ご褒美にもらったお金でダンガンとおやっさんと、酒場ですごく
美味しいご馳走を食べたんだよ!」
そう言うと、ねこたちの間でざわめきがおこった。
「え、マジか」
「残飯なんかじゃなくて、本当のメニューの料理なのか」
「めっちゃ美人のウエイトレスのデフラさんにチューされたんか」
みんなが羨ましそうにあたしやダンガンを見る。
「そうなんだよ(一部ちがう)! つまり、働けば美味しいご馳走にありつけるということにゃ。
ねこ1匹のやれることなんてたかが知れてるけど、みんなの力をあわせれば
きっとモンスター退治だってできるんだよー! そうすれば、報酬がもらえて
毎晩のようにご馳走が食べれるのにゃ!」
『おおー』
多くのねこが驚きの声をあげた。

「オレはいやだね」
ハムが頭ごなしに拒否した。
「んなかったりーことしてらるかっての。わざわざ危険を冒さなくても、オレは家に帰れば
うまいメシが食えるし、モンスター退治なんかしてるより、昼寝してたほうがマシだね」
すると、ソウェル商店ルアのペットである小猫ペシェも彼に賛同した。
「あたしルア様に、街の外には絶対出たらダメだって言われてるし、体力自信ないし・・・」
ペシェがそう言うと、飼い猫組は全員一致であたしの提案を否決した。
「うぐぅ」
悔しさのあまり、あたしはうめき声をあげた。

「オレはアリスに賛成だな」
ダンガンが前に出た。
「野良猫であるオレたちにとって、食べ物は死活問題だ。自分の食べ物くらい自分で稼げる
くらいにならねえとな。どうせなら思いっきりゴージャスなやつを食べたいぜ!」
そう言うと、野良猫全員が賛同した。
「言えてる。いつまでも人間の残飯ばかり漁ってたら、かっこわりぃもんな」
としんぱちが言う。東方の幕末時代を駆け抜けた伝説の剣豪の、生まれ変わりのねこだ。
「そうでござるな。拙者の遊び場である野原をモンスターに占拠されて怒り心頭でござったよ」
とにゃんざぶろう。左目に眼帯をつけたイブシ銀のねこ。
「おやっさんは・・・どう思うにゃ?」
先ほどから黙って話を聞いてるだけのおやっさんに聞いた。
野良猫組の最年長であるおやっさんが否定するなら、一考の余地がある。
あたしはそれくらいの信頼をおやっさんに寄せているのだ。

「ふむ。基本的にはアリスに賛成しよう。私とて毎食ありつくのは切実な問題だ。
特にここ最近は食べ物を恵んでくれる、余裕のある人間が少なくなったしの。だが・・・」
おやっさんは含みをもたせ、こほんと咳払いしてから続けた。
「モンスターと戦う以上、武器や防具は用意できるのか。ねこの牙やツメだけで太刀打ちできる
モンスターならば、人間がわざわざこれほどの人数をかけて討伐するものでもあるまい。
防衛力すら持たぬ我々がいきなり軍事力を持とうとすること、すこし無理があるのではないか」
「・・・・!」
ずばり、と現実的な問題点を的確に指摘され、あたしはぐうの音も出なかった。
「先日アリスが撃退したあの巨大なモンスターも、結果的には勝利だったが、もし相手が
連撃のきく短剣で戦っていたなら、死角無しで間違いなくこちらの負けだっただろう。
戦場では、もし、などという言葉はタブーだ。まずは相手を上回る『力』を持たなければ、
戦っても全滅して終わりだ」

結局、おやっさんの言うことは一理も二理もあったわけで、野良猫組も一気にテンションが
下がってしまい、その場は全員一致の否決となってしまった。


「事を焦るな、アリス」
悔しさのあまり集会所を逃げ出し、メインストリートをトボトボと歩くあたしに、
おやっさんが追いかけてきた。
「勢いは結構だが、もう少し現実を見るべきだ。今のまま戦いに赴いても全滅がいいところだ。
みんな大切な仲間だろう。誰一匹とて失いたくないだろう。まず、それを第一に考えるのが、
リーダーとしての役目だぞ」
「わかってるよ、おやっさん・・・あたし少し調子にのってたみたい。いまさらかもしれないけど、
自分の無力さが悔しいにゃ・・・」
あたしはがっくりとうなだれてため息をもらした。
おやっさんはそれを憂慮してか、ひとつの提案をくれた。
「お前さんの言いたいことも充分わかっている。そうだな、人間の騎士隊長であるエラに
相談してみてはどうだ。何か力になってもらえるかもしれないぞ」
エラ。若い娘なのに騎士隊長をやってるヒトだ。その細腕からは想像できないほどの腕力、
その若さから想像できないほどの戦術眼を持つという。毎日神殿前の噴水広場で傭兵たちに
討伐指令を下したり、兵を集めてそのリーダーを指揮したりしている。

2014/10/19 08:42  [1498-1476]   

「は? ねこのあなたがリーダーで、ねこの兵団をつくりたいですって?」
褐色の肌を惜しみなくさらけだしてる、防御力の概念すら疑うようなアーマーをまとったエラ隊長。
噴水の淵に腰掛けて小休止しているところを見計らって話しかけた。
「なにをワケのわからないことを。モンスター討伐は私たち人間に任せて、ねこは安心して
そのへんでゴロゴロしてなさい」
見事なまでに、まったく相手にされてない。
だが、ハイそうですかって引き下がるあたしじゃない。
絶対に食い下がるものか。
「ねこでも、生きるために稼ぎたいのにゃ! ねこにも何かできることはあるはずにゃ!
力になってほしいのにゃ!」

エラはあたしの真剣な瞳をじっと見つめると、ため息をついて語り始めた。
「あなた達がこのアルピニア王国公認の『クラン』となるならば、あなた方に相応しい仕事を与え、
それを完遂することで報酬を与えることができるわ」
あたしはそれを聞いて目を輝かせた。
「クラン! わかったよ、まずそれに入る! それでいいにゃ!」
エラは目を閉じて首を振った。
「ダメよ。クランとして認めるには、ウォーリア・アーチャー・ウイザードのいずれかの
上級職に属する者、ここからはるか東のレイン川に生息するモンスターを討伐したという
証明の提出、そして最後に登録金3万ゴールド。これら全てを満たした者に限られるのよ」
「そんなの人間の都合でしょ。ねこだから、特別に今認めてほしいにゃ」
エラはあたしの言葉を聞いて、キッと睨んだ。
「王国の対モンスター戦力を証明する最低限の免許試験なのよ。これは人間もねこも、
誰に対しても同じこと。差別してるわけじゃないの」
「つまり、ねこであるあたしもその条件を満たさなければ、クランはできない。
仕事ももらえない。報酬もあるはずない、と」
「物分りがよくて助かるわ。その通りよ」
「そんなの・・・無理にゃ・・・」


途方に暮れてメインストリートを1匹歩く。
ため息しか出ない。
戦力に人間もねこも差別しない、と言われたことは素直に受け止められたが、あたしにとって
何の解決にもなっていないのだ。
必要なのは、まずその戦力となるための装備。
そのためには、それを買うお金。
モンスターを退治すればお金がもらえるが、圧倒的な戦力不足の為不可。
ふりだしに戻る。
「うあー。しょせんねこには何もできないのにゃ〜〜」
無い頭をフル回転したおかげで、知恵熱が出そうだった。

そんなとき。

1匹の子ねこがあたしの前に立っていた。
「あなたは、取引所エシュリさんとこの、ジュリじゃない。どうしたのにゃ?」
たまに集会所に遊びにくる、取引所エシュリのペットの幼いねこだ。
「アリスおねえちゃぁぁん〜〜! うわぁぁん、わたし、どうしていいかわからないよう〜〜〜!」
彼女は堰を切ったように、大粒の涙をぼろぼろとこぼしながら泣き叫んだ。
「うわわわっ いったいどうしたのにゃ? ジュリ、あたしにわかるように話して!」

2014/10/20 13:18  [1498-1478]   


彼女から状況を聞き、あたしはジュリを連れて急いでねこの集会所に戻った。
集会所にはさきほどのメンバーが全員揃っていた。
「みんな! 緊急事態にゃ!」
大声をあげると、「なんだ、どうした」と一同があたしに注目した。
「ジュリの遊び友達のモリコが、その母親モーリーと共に行方不明なのにゃ!」
アルピニア城の北西にある『ささやく草原』、比較的モンスターの少ない岩場で
母親モーリーと暮らす娘モリコ。
いつもは約束の時間に遅れることなくジュリのところに遊びにくるはずが、今日に限って
いつまでたってもやって来ない。
心配になったジュリが、勇気をふりしぼって結界の外に出て、モリコの住処に行ってみると
そこにはモーリーもモリコもいなかった。
そのかわりに、付近の岩場に剣跡が刻まれていた・・・。

あたしがそこまで説明すると、一同がざわめいた。
「そりゃ、やばいんじゃないのか」
「モンスターの仕業である可能性がきわめて高いよ、それ」
「あの親子、人間が嫌いだからって、結界の外で暮らしていたんだよね」
「結界の外で暮らすのは危険だって、何度も言ってたんだけど・・・」
とりとめのない口論になろうとするところで「とにかく!」とあたしは制し、一同は再び静粛した。
「あたしはその親子の住処に直接行って、状況を確認したい。だれか一緒に行ってくれるねこは
いない?」
あたしの問いかけに手を挙げてくれたねこは、ダンガン、しんぱち、にゃんざぶろうの3匹。
おやっさんも手を挙げてくれるかと思ったが、手を組んで難しい顔をしていた。
「危険だ。装備を整えてから行ったほうがいい」
おやっさんがそう呟くと、挙手した3匹が声を荒げて反論した。
「そんな悠長なこと言ってる場合かよ」
「あの親子が、もしいままさに救助を待ってる状況だとしたらどうするんだ」
「助けられるものも、タイミングを失ったら見殺しでござるよ」

最初のときと、まるきり逆になってしまった。
装備を整えてから行動したほうがよい、という正論を唱えるおやっさんが、今度は非難されて
いるのだ。
野良猫組と3匹が声を荒げておやっさんに反論している。そうしてくれなかったら
あたしがおやっさんに反論していたところだ。
でも今はそのおかげで少しだけ冷静になれた。
救助者が丸腰なんかじゃ、文字通りミイラ捕りがミイラになるのがオチだろう。
「いいさ、行きたくなければ行かなきゃいい。オレは目の前に危険の迫っている仲間を
黙って見ていられるほど腰抜けじゃねえぜ!」
「拙者も左様でござる! 事は急を要するでござるよ!」
「そうだ! とにかく行こう、なあアリス!」
野良猫組の3人はじれったくて、今にも飛び出さんばかりにまでテンションが上がって
いた。
やばい。
言い出しっぺのあたしはそれを止めることがうまくできない。

「おまえら・・・ちょっと待ってろ!」

啖呵を切ったのは、ハムだった。
モンスター退治をまっさきに否定した、あたしにとっては敵のカテゴリにいるねこだ。
ほとんど蚊帳の外、という感じで口論にも参加してなかったのに、いったいなんなのだ。
「ペシェ、こい!」
「うん!」
ハムはペシェを連れて駆け出し、通りに消えていった。
いったいなにをするつもりだろうか。

2014/10/21 10:38  [1498-1483]   


5分ほどして、ハムとペシェが戻ってきた。
「お待たせ。問題を一気に解決してやる。これでいいんだろ」
そう言うと、ハムはあたしたちの前に荷物の入った風呂敷をがしゃりと放り投げた。
それを開けてみると、中身はなんと剣と防具一式、しかも数人分あった。
「ハム・・・どうしたの、これ」
「話はあとだ。今は時間がないんだろ? 好きに使えよ」
ハムがそう言うと、横にいたペシェも持っていた巾着を開いて見せた。
「ソウェルも持ってきたんだよ」
巾着の中には、輝く宝石、ソウェルがいくつも入っていた。
強大な魔力を封入した宝石ソウェル。
武器や防具にはこのソウェルを装着できるスロットがあり、そこに組み込むことで
攻撃や防御のポテンシャルを引き上げる効果があるのだ。

「うむ! これなら充分いけるだろう!」
おやっさんも力強く首を縦に振り、一同に活気が戻った。

「ありがとにゃ、ハム。でも、なんで? しかも軽くてねこにぴったりのサイズだし」
防具を装着しながら、あたしはハムに聞いた。
「オレの御主人は武器屋シュレンさんだ。以前、御主人と精錬士のアルボードさんで
武器や防具の軽量化の研究をしていた時期があってな、これらはその試作なんだ。
つまり、売り物にならずに倉庫に眠っていたものなんだよ」
ハムは少し照れながらそう言った。
「あたしはご主人のルア様に話して、中古の人造ソウェルをもらってきたの。
人造ソウェルは強化ができないから、あまり人気がないし、持ってっていいよって
言ってくれたんだ」
ペシェもそう説明した。
じゃあ、気兼ねなく存分に使っていいんだ。
あたしの武器。あたしの防具。あたしのソウェル。
これで戦える準備ができた!

「ふたりとも、協力してくれてありがとにゃ。ほんとのこと言うと、モンスター退治に
否定的だったから、少し嫌いになっていたんだ。ごめんにゃ」
「率先しての退治は今でも否定だ。だが、同じねこのピンチならこの程度しかできないけど、
協力は惜しまないぜ」

いま、この集会所にいるねこは団結していた。
みんながいれば、きっと何でもできる。あたしは胸が熱くなっていた。
「出撃準備、全員完了だ」
おやっさんがあたしに報告する。
「うし! ジュリ。モーリー親子の住処まで先導してほしいにゃ」
「うん。でもあたし武器とか持ってないから・・・」
「心配すんな。オレたちがお前を守ってやる!」
防具に身を固めたダンガン、しんぱち、にゃんざぶろうが声を張り上げた。
なんと頼もしい仲間だろう。

あたしは声を高らかに張り上げて叫んだ。
「モーリー親子を助けに、ひまねこ捜索隊出撃にゃ!」
「おー!」
「みんな、気をつけてね!」
ペシェの声を背中に、あたし、ジュリ、おやっさん、ダンガン、しんぱち、にゃんざぶろうは
駆け出した。

結界の外の荒野を、武装したねこの群れが疾走する。
間もなく太陽が西に傾きはじめる頃だった。
走っている途中、おやっさんはジュリにひとつ質問した。
「ジュリ。モーリー親子が行方不明と知ったとき、人間には知らせなかったのか?」
「知らせました。あたしはワラにもすがる想いでエラ隊長に助けを求めたんです。ですが、
騎士団や傭兵の方は余人がないらしく、人員を割ける余裕ができたら捜索手配するって
言われました。でもそれはいつになるかわからないって・・・」
ジュリは悲しそうな顔をした。

「ひでえな。ねこの有事に、臨機応変な対応ができねえのかよ」
しんぱちが唾を吐き捨てた。
「人間なんて頼りにならねえさ。ねこのことはねこで解決する」
とダンガン。
「むぅ・・・エラにもそれなりの事情があるのだろう」
おやっさんは一応のフォローを入れたが、誰も聞いてはいなかった。

2014/10/22 17:41  [1498-1484]   


モーリー親子の住処に到着した。
重なった岩の間にある、雨風が凌げる隙間がそれだ。
入口周辺の岩に、鋭利な刃物で刻まれた痕が数箇所ある。まだ新しい。
住処の中は、当然誰もいない。果実や木の実なんかの食料が散乱しているだけだった。
「もう・・・モンスターにやられたあとなのかな・・・」
しんぱちがぼそりと呟く。
「ふえ・・・・っ!」
ジュリが再び泣きそうになった。
「ばかっ 何てこと言うんだよ、しんぱち」
ダンガンがしんぱちの頭を小突いた。
「う、すまん。でも、一体どこに行ったっていうんだ」

おやっさんがいろんなところを細かく見ている。
「やられたわけではなさそうだ。そういった形跡がどこにもないからの」
「モンスターから逃げてどこかに行ったのかもしれないでござるな」
「よし、手分けして捜索するにゃ。2匹チームを組んで、風下から風上に向かっていくの。
何かあったら、この猫笛で合図するのにゃ」
あたしの指示で、ダンガンとしんぱち、おやっさんとにゃんざぶろう、あたしとジュリの
3チームに分かれ、散開した。

モンスターが現れてから荒れ放題の大地。
未開のジャングルに近い。ずぶりとぬかる小さな沼も点在していた。
「うう・・・モリコ・・・どこいっちゃったのかなぁ・・・」
周辺を警戒しながら進むあたしの後ろをトボトボ歩くジュリ。
「心配しないで。必ずあたしたちが見つけるにゃ」
今はそう言うしかできないが、それでも多少はジュリの元気が戻ってきたようだった。
「うん、ありがとうアリスおねえちゃん」

そのへんをうろつくモンスターをやりすごし、さらに風上に向かって歩く。
10分ほど進むと、ジュリがふと立ち止まった。
「このにおい・・・モリコだ・・・いたよおねえちゃん!」
「ほんとう?」
「うん、風にのってかすかだけど、モリコのにおいがしてきたの」
「よし、集合をかけるにゃ」
あたしは猫笛を取り出し、思い切り吹いた。
ふ〜〜っ!
ねこ以外は聞こえない猫笛だ。
モンスターにも聞こえない周波数での合図、ほどなくして4匹が集まってきた。
「見つかったのか?」
「うん、この風上にいるはずにゃ」
一行はねこみみをそばだてながら、慎重に歩みを進める。
太陽も山岳の彼方に間もなく沈む。
東の空にひとつだけ、星が見えた。

ほどなく、何か話し声が耳に入ってきた。
その話し声の中にねこの鳴き声があった。
「モリコの声だ。よかった、生きてたんだ〜」
「しっ 静かに。会話を聞き取るのにゃ」
一同、音をたてずにその会話に耳を傾けた。

「クエックエックエ・・・ようやく捕まえたクエ。なかなかうまそうなねこだクエ」
「わーん、この縄をほどきー!」
「パコのおやびん、鍋の湯が沸きましたぜ」
「よし、まずは親ねこを鍋に入れろクエ。いい出汁が出るクエ」
「わーっ おかぁさ〜ん!」

「まずい、いままさに食われそうなとこじゃないか」
「はやく助けないと!」
相手の様子をうかがう余裕もなさそうだ。
「おやっさん、どうしよう〜」
あたしはあたふたして、おやっさんに泣きついた。
考えてみたら1対1はともかく、複数同士のバトルでの戦術など無知に等しい。
「リーダーのお前が慌ててどうする」
「だ、だってぇ」
「仕方ない、私が作戦指揮をしよう。手短に言う。いいか、相手はねこ質を持っている。
まずはその奪還。アリスとダンガンで敵の目をひきつけ、しんぱちとにゃんざぶろうは
反対側へ移動し、その隙を狙ってモーリー親子を救出」
「了解した」
「心得たでござる」
「戦いが始まったら、わたしは敵の側面から攻撃を仕掛けよう。ジュリは木の枝の上に
隠れていなさい」
「う、うん。みんな、気をつけてね!」

かくして、作戦行動開始。
あたしは敵モンスターの数の確認をした。
巨大な茶色のこけしが宙に浮いているような不思議な身体をしてるのがボスのパコ。
両手に抱える巨大な鉄球、あれにヒットしたら、ひとたまりもないだろう。
そして、スプリングのような一本足でびょんびょん飛び跳ねる小柄なスタンプエッジが3匹。
たき火で鍋の湯を沸かし、縛られて身動きのとれない親ねこのモーリーを鍋に投入しようと
している。
モーリーはその後方、ソフィアの石像に縛られていた。

「こらぁ! ねこを鍋にするなんて、なんたる狼藉にゃ!」
あたしはモンスターに聞こえるよう声高らかに叫んだ。
「クエっ!? なんだっ」
ボスのパコがこちらを向く。
「なんだかんだと尋ねたら・・・」
あたしは草陰から身を出し、わけのわからないポーズをとった。
「答えてあげるが、世の情け」
ダンガンも横から身を乗り出した。
「その名もひまねこ救出隊、ただいま参上にゃ!」
「天にかわって、成敗するぜっ!」
決まった。
後ろから花火やスポットライトが欲しいくらい決まった。

「クエックエックエっ 何かと思えば、また鍋の具材が増えたクエ」
パコは不気味な笑みを浮かべてこちらを睨む。
「おまえたち、とっつまかえておしまいっ!」
「へい、おやびんっ!」
子分のスタンプエッジがぴょんぴょん飛び跳ねながらこちらに向かってきた。
「迎え討つよ、ダンガン!」
「合点承知!」

「クエクエ・・・なにをねこ風情がこんなやつらを救出に・・・」
パコはふと振り返り、縛っておいたモーリー親子をちらりと見た。
「あ」
「あ」
しんぱちとにゃんざぶろうが、パコと目が合う。
無音移動であたしたちと反対側から親子に近づき、縄を切って自由にした、
まさにその瞬間だった。
「まだ仲間がいたクエ!」
「残念だったな、チョコボール野郎」
「奪還、成功でござる!」

2014/10/23 09:57  [1498-1486]   

にゃんざぶろうは足のツメを鍋の淵に引っ掛け、パコに向かってその鍋を
ひっくり返した。
煮えたぎった湯がざばん、とパコの全身にかかる。
「クエ〜〜〜っ! 熱熱熱〜〜!!!」
パコは全身に火傷を負い、地面をのたうちまわった。
「おやびんっ!」
モンスターたちがひるんだ隙に、モーリー親子はジュリのいる木の枝の上に退避した。
「モリコ! 無事でよかったぁ〜!」
ジュリが歓喜の声をあげてモリコに抱きついた。
「うん・・・ウチももうダメやかと思うたわぁ」

じゃきん、と一斉に短剣を構える。
ここから先は、真剣勝負だ。
子分のスタンプエッジが地面をバウンドし、空中からダンガンに向かって突進してきた。
どかっ!
ダンガンは衝撃でやや後ずさるが、さしたるダメージはない。
銀色の輝く盾で防いだのだ。
「よし・・・いい盾だ。だが、こいつらの体当たりは見た目より重いぞ。それにトサカの刃物も
かなり切れ味が鋭そうだ。アリス、気をつけろ!」

「クエ・・・よくもやってくれたクエ。皆殺しにしてやるクエ〜!!!」
パコは空中浮遊でしんぱちとにゃんざぶろうに突進していく。
戦闘準備もままならない2匹はそのスピードに対応できない。
だが!
草むらに隠れていたおやっさんの一撃が、パコの突進を塞き止めた。
「残念だが、お前の相手はわたしだ」
「クエっ もう1匹いたクエっ!」
「しんぱち、にゃんざぶろう、お前たちはアリスたちの援護にまわれ!」
「わ、わかった!」
「承知したでござる!」
ようやく剣を抜いた2匹はあたしとダンガンの方へ駆けてきた。

あたしたちがロクな連携もとらずに大乱戦を繰り広げている最中、
おやっさんとパコは互いに間合いをとってじりじりとにらみ合っている。
「逃亡者パコ・・・仲間ののスレッジインプからも見放された哀れなやつよ」
「オレを知っているクエ?」
「モンスターからも忌み嫌われ、はるか辺境の夜の渓谷から、わざわざこんな
場所に逃げ隠れて、弱者を食って生きているのか」
「おまえの知ったことじゃないクエ!」
体当たりを仕掛けるパコ。
おやっさんはそれを紙一重で避け、剣で素早く斬りつけた。
だが、一撃では致命傷には至らない。
「むぅ、やはりブランクがあったか・・・踏み込みが甘かっ・・・」
おやっさんが振り向く瞬間、重い衝撃。
パコの体当たりがおやっさんの小柄な身体にのしかかる。
「このまま踏み潰してやるクエっ!」
「ぐぅ・・・・・っ」
みしみし、と鎧のきしむ音。
スタンプエッジ3匹に手を焼いて、だれもおやっさんを援護できない。
やばい・・!

そのときだ。
小さな太陽のような火球がパコの顔面を直撃した。
「グエ・・っ!」
パコがひるんだ隙に、間一髪おやっさんは脇に抜けることができた。
なんだ、いまの攻撃。
火球を放ったもの、それは枝の上にいたモリコだった。
「モリコ、あなた魔法が使えるの?」
となりのジュリが驚いた顔をしている。
「1回だけやさかい、あとは・・・もうダメや・・・」
へた・・っと力なくして崩れおちるモリコ。
「モリコっ!」
ジュリが叫ぶよりも先に、それを支える母親のモーリー。
「大丈夫、気を失っただけです。それよりも!」
「うむ、幼きながらの援護、感謝するっ!」
今だ、とばかりにおやっさんは剣に気を集めるように力を溜めた。
ぎん、とその瞳が輝く。

「平和に暮らす親子の日常を汚す悪しき魔物よ。万死に値する!」

鋭いダッシュでパコの懐にもぐりこむおやっさん。
そして、下から上に、左から右に、一瞬の斬撃!
パコの強靭な身体が斬られる抵抗と静電気による火花が、ばっと辺りに煌く。
「秘剣、十字斬り・・・!」
かちん、と剣を鞘に収めると同時に、逃亡者パコは地面に崩れ落ちた。

「く・・・クエっ・・・い、一体なんなのだお前は・・・」
力なくして地面に横たわるパコが血を流しながら呟く。
「ただのねこだ。ただし・・・」
おやっさんはあたしをちらりと見る。
「あやつを命に代えても守り抜くための、仮の姿、のな・・・」
「な・・・まさかあのねこが、伝説の・・・」

ほどなく、あたしたち4匹もスタンプエッジを打ち倒した。
「うし、なんとか倒せたぞ。これで一件落着だな!」
あたしは勝利の余韻にひたる間も惜しんでおやっさんに駆けつけた。
「おやっさーん、大丈夫? 怪我してない?」
おやっさんは握りこぶしをつくって、あたしに元気な証拠をみせてくれた。

そのときだった。

「貴様の命も道連れにしてやるクエ〜〜〜!!!」
最後の力で巨大な鉄球をあたしに向かってぶん投げるパコ。
その場にいた誰もが意表をつかれた!
「な・・・」
すぐ脇にいたおやっさんも、あたしに気をとられていたのだ。
「アリスっ!」
数歩送れて駆けつけてきたダンガン、しんぱち、にゃんざぶろうも、
気づいたときには誰もそれに届かない。
鉄球はまばたきする間もなく、あたしの身体を潰す勢いで迫る。
「あ・・・」
死ぬ・・・
ごめん、みんな・・・
そう覚悟して、目をつむった瞬間だった。

一閃、いや二閃。
光に包まれた何かがどこからか飛んできた。

それは、鉄球があたしに直撃する直前、そのど真ん中に命中し、
鉄の球を砕いた。
もうひとつの閃光はパコの心臓に寸分たがわぬ精度で命中。
パコは声もなく絶命した。

2014/10/24 18:54  [1498-1494]   


「な、なんだったんだ!」
「ていうか大丈夫かアリス!」
みんなが心配して駆けつける。
「あ、あたしは大丈夫っ!」
おやっさんが、砕かれた鉄球の痕を調査すると、ひとつの矢が見つかった。
「これは・・・クロスボウか・・・! 一体誰が・・・」
「クロスボウ・・・」

アーチャーの武器である矢に石の鏃をつけ、クロスボウで射る。
遠距離からの射撃を得意とし、その最大攻撃力は下手な剣士も軽く凌駕する。
つまり、いまの射撃は弓使いのもの。
あたしは目を凝らしてあたりを眺めた。
あたしの命を助けてくれたのは、一体誰なの。

いた。
遥か彼方。

アルピニア城砦の城壁最上段に誰かがいる。たぶん人間だ。
ねこ目の最大望遠でも、かすんで見えるか見えないか。
そんな遠距離から、薄暗がりの時間帯で、この精度のピンポイント射撃を、
しかも2発同時にしたというのか。
とても信じがたい。

「ナイトストーカー・・・!」
おやっさんがぼそりと呟いた。
「なに? ナイトストーカーって・・・?」
あたしは首をかしげた。
「アーチャーの最上級職の者だ。そのクラスになれば、これほどの超々距離射撃も
可能になる、と聞いたことがある。世界に何人もいない、弓の達人だ」
おやっさんはそう説明してくれた。
「ナイト・・・ストーカー・・・」



モーリー親子と住処で別れを告げ、一行はアルピニアに戻った。
もう陽はとっくに暮れ、街灯と店の明かりがあたりを照らしていた。
みんなは集会所に戻っていったが、あたしは他に行くところがあった。
エラのところだ。

何人かの傭兵が、本日の仕事の報告をしにエラ隊長のところに集まっていた。
あたしは全身の汚れを舐め取りながら、彼女の手が空くのを待っていた。

「今日の食料倉庫の見張り、楽でよかったね〜♪」
「うん、明日も簡単な仕事だといいなぁ〜」
若い魔法使いの娘二人がそんな会話をしながら、あたしの前を去っていくと、
エラのまわりには誰もいなくなった。

あたしは、もう我慢できなくなっていた。
エラの目線まで飛び上がると、その頬に渾身の力を込めて平手打ちをした。
「な! あなたは昼間のねこ! いきなりなにするのっ!」
「ねこの命と、食料の心配と、どっちが大切なのにゃ!」
「なんの話よっ」
「昼間、ジュリっていう子ねこが、ともだちの親子の捜索願いを出したでしょう」
「え、ええ。たしかに報告は受けているわ。でも」
「でもじゃないにゃ! さっきの若い魔法使いなんて、食料倉庫の見張りなんていう
楽な仕事させてたでしょ、そんなの中断させて、なんですぐ捜索してくれなかったのにゃ!」
「中断なんてできるわけないでしょう。あれでも立派な任務なんです!」
「食料倉庫が襲撃されたって、少しくらいみんながお腹をへらして我慢すればいいだけ。
ねこの命はそれにも劣るっていうの?」
「それは・・・」
「そもそも根本的に、ねこの命と人間の食料を比較することが間違ってるにゃ。
エラなんて大っ嫌い!」
「ちょっ・・・」

あたしは涙をぼろぼろ流して駆け出した。
悔しい。
なにもかも悔しい。
エラがモーリー親子を捜索手配してくれなかったこと。
戦闘がはじまると、パニくって仲間に指示できなかったこと。
そして最後の最後で人間に助けられたこと。
ぜんぜん活躍できなかった。
あたしらしいこと、なにひとつできなかった。
悔しくて悔しくてたまらない。

2014/10/26 21:06  [1498-1498]   


すっかり元気をなくし、とぼとぼと集会所に戻った。
すると。
「ひゃっほう! お姫さまのご帰還だ!」
「いよっ! 我らがリーダー!」
「待ってましたよ! 本日のヒーローだ!」
その場にいた全員から拍手を浴びた。その中にはハムも、ペシェもいた。
「なんで、あたし・・・」
あたしはワケがわからず困惑した。

「アリスおねえちゃんが、一生懸命にモリコを探してくれて、あたし嬉しかった」
とジュリ。
「仲間のために親身になって先頭に立った。それだけでお前はリーダーだよ」
とハム。
「あたしはソウェルをあげることしかできなかったけど、あたしのぶんも戦ってくれて
無事にみんな戻ってきてくれた。本当に嬉しかったんだから」
とペシェ。
「こないだのアリス、おれやおやっさんを助けるために戦ってくれた。アリスが
これからも戦うというのなら、いつでもおれはついてくぜ」
とダンガン。
「だな。アリスがパーティーにいるだけで、なんか戦えるって思えるんだよ」
としんぱち。
「最初から完璧な指示など、もとから誰も期待などしておらんでござる。今後とも、
共に精進していこうではないか」
とにゃんざぶろう。

みんなの声のひとつひとつがありがたかった。
「あ・・ありがとう、みんな。でもね、今日のヒーローはなんたって、おやっさんだよ。
すんごい強いボスを・・・」
そこまで言うと、ダンガンがあたしの口を塞いだ。
「待ちなよアリス。武勇伝はこんなとこで話しても味気ないだろ。それにみんなヘトヘトで
腹ペコなんだぜ」
「え・・・また酒場いくのにゃ? 今日なんて報酬がないから・・・」
横にいたおやっさんが、ずしりと重量感ある巾着をあたしにくれた。
中身はなんと金貨。1500ゴールドはある。全員で飲み食いしてもおつりがくる金額だ。
「逃亡者パコ、スタンプエッジ3体。それを倒したときに巻き上げた金だ。問題なかろう」
「そ、そか。おっけ。じゃ、約束通りご馳走と宴会にいこっか!」
「おー!」
みんなが軽い足取りで酒場に向かう。

そのあとを追っていこうとすると、だれかがあたしの手を引っ張った。
ハムだ。その横にはペシェもいた。
「あの・・・オレたちも行っていいかな。アリスたちが出ていったあと、もし万が一
のときはメシも喉を通らないと思って、今日はご主人にメシいらないって
言ってきたんだ・・・今日くらいは一緒に騒がせてくれよ」
「あ、あたしも・・・それに・・・あたしも酒場の料理たべてみたくて・・・」
二人ともねこみみまで真っ赤にして恥ずかしがっていた。
あたしはクスリと笑うと「もちろんだよ。一緒に行こう」と誘った。

2014/10/28 06:10  [1498-1499]   


酒場。
3つのテーブルを貸しきって、ねこ一同が占領した。
みんな飲めや歌えやの大騒ぎ。
まわりの人間客をも圧倒する騒ぎっぷりであった。

その中でも、あたしはなんとかく乗り気になれず、食べ物にも手をつけられずにいた。
「どうした、アリス。元気ないじゃないか」
おやっさんがまたたび酒のグラスを片手に、あたしの隣に座った。
「おやっさん・・・実は、あたしエラに・・・」
そう言おうとしたとき「カラン」と入り口の鐘が響き、酒場に誰かが入ってきた。
エラ隊長だ。
本日の業務が全て終わったようで、私服に着替えていた。
酒場のマスターから、キープしてある酒瓶とグラスを受け取ると、窓際の席に腰掛けた。
エラはこちらに気づくこともなく、ぼんやりと窓の外を眺めながらグラスを傾けていた。
なにか心ここにあらず、といった憂いをひめた雰囲気で、ほかの誰も寄り付かない。

「エラ隊長がどうかしたのか」
おやっさんに言われて、はっと我にかえる。
「え、ああ、うん。実は・・・」
あたしはエラ隊長に、ねこ捜索をしてくれなかったことに腹をたて、口論してきたことを
おやっさんに打ち明けた。
「そうか・・・」
おやっさんは「うんうん」と深々と頷いた。
「アリス、お前さんの言うことは正しい。命は人間だろうがねこだろうが、なにものにも
代えがたいものだ」
「でしょ。そう思うでしょ。だからあたし、あったまきちゃって・・・」
「まあ、最後まで聞いてくれ」
おやっさんはちびりちびりと酒を飲みながら語り始めた。

「アルピニアは四方を険しい山岳地帯に囲まれた盆地にある城砦都市だ。
ゆえに、食料の多くはここから遠く離れた、畑に適した土地に恵まれた小さな村
シラリスからの補給によってまかなわれているのだ。
だが、数年前からのモンスターの影響で田畑は荒らされ、また補給用の馬車も
何度か襲撃にあったことで、すっかり物資が少なくなってしまったんだ」
「そ・・そうなの・・じゃ、あたしたちが今食べてるものも、すんごい贅沢にゃ」
「その通り。だが、傭兵の多くを田畑の復興、防衛、そして補給経路の警備に
あたらせることで、以前のように充分な物資に恵まれている」
あたしはそれを聞いて愕然とした。
「それじゃ、食料倉庫の警備って」
「そうとも。多くの人が命をかけてつくりあげてきた、守り抜いてきた結晶だ。
その警備、簡単に放棄することなど、たとえねこでなく人間の命がかかっていたとしても・・・」
あたしはおやっさんの話が終わるのを待たず、立ち上がった。
「あたし、謝ってくる」
「待て。いまはプライベートだ。明日にしなさい。それに彼女は深い悲しみを背負って・・・」
「そんなの関係ない。あたしが悪かったから、誤る。それだけにゃ」
あたしはおやっさんの制止を振り切って、エラのところへ歩いた。

「ごめん」
あたしはエラの向かいの席に座ると、とにかく誤った。
「あら、あなた。今日は会うのが3度目ね。ていうか・・・」
エラは険しい顔をした。
「その席に座らないでくれるかしら。そこは指定席なのよ」
「べつに誰か来る様子もないし、いいにゃ。ねこの勝手。いいから話を聞きなさいっ!」
エラはきょとんとした。
無理もない。いきなり謝られれたと思ったら今度は怒り出したのだ。

とにかくあたしは話を始めた。
「食料倉庫の警備がこの上なく大切なこと、勉強させられたにゃ。それを知らなくて、
ごめんなさい。さっきの、痛かったでしょ」
エラはクスリ、と笑うとグラスをテーブルに置いた。
「ふふ。ねこパンチなんて私にはきかないわよ。心には響いたけどね」
「え?」
「あのあと後悔することがたくさんあったわ。倉庫番は2人組の仕事だったけど、
一人を捜索にまわしてもよかったかもって。そう考えたら、いろいろ手は討てた。
ねこの命と、食料。あなたの言う通り、天秤にかけること自体間違いだったわ。
どちらも大切。どちらも守る。私はそれを可能にする立場の人間」
「エラ・・・」
「それと、先ほど報告を受けたわ。あなたととの仲間で、行方不明のねこ2匹を助けたの
ですってね。大変ごくろうさま。聞けば主犯は手配中の逃亡者パコだったっていう
話じゃない。人間ですら手を焼いたあの凶悪なモンスターを、よく倒せたものね」
あたしは照れ隠しに顔をクシクシした。
「た、倒したのはあたしじゃない。あたしの仲間なんだ」
エラはそれを聞くと、にっこりと微笑んだ。
「いい仲間に恵まれたわね、フフフ。あなた、名前は?」
「アリス」
エラはおもむろに立ち上がった。
「少し飲みすぎたわ。帰ります。それと・・・アリス」
「は、はい」
エラは出口の取っ手に手をつけ、表情を見せないまま、店内に響き渡る大声で
こう言った。

「アリス一行のクラン設立申請を受諾、騎士隊長である私の独断にてこれを可決します!
明朝0800に設立におけるブリーフィングを行います。リーダーのアリスは、
遅れることなく私のところへ来ること。以上、よろしいか!?」
エラの軍人口調の迫力に圧倒され、あたしは「は、はいっ」と言うしかできなかった。
「結構。では、よい夜を」
エラはそういい残すと、出口のドアを開けた。

ぱたん、と閉まるドアを合図に、店内が「どわぁっ」と沸きあがる。
次々と祝福の喝采をアリスに浴びせられる声が、外のエラにも聞こえていた。
「フフフ。いまどき人間でもいないわね、ああいうタイプ。これから、楽しみね・・・」

                         
act.3 に続く

2014/10/28 22:31  [1498-1502]   

act.3  災厄のブリッジ

カンっ!
快晴のアルピニア城下町の片隅で、金属音が響いた。
「・・・・ふぅん」
あたしは弓を持つ手を下げて、10メートル先に転がる空の猫缶を見つめた。
けっこう当たるものだ。
というか、感触的に気持ちいいかも。

「アリス、なに遊んでるんだよー」
しんぱちが来た。
「いや、遊んでないにゃ。しんぱちもよく見ててよ」
あたしは練習用の弓で、もう一度猫缶に狙いを定めて射った。
カンっ!
百発百中に近い命中率だ。
「どう? あたしもけっこうできるにゃ」
と得意顔でしんぱちに向いたが、肝心の彼はそこにいない。
「あれ、しんぱち?」
「いやっほォ〜♪ いい転げ具合だぜ、この缶カラはよォ〜!」
振り向くと、しんぱちは地面に転がる猫缶にじゃれついて遊んでいる。
あたしは眉間に青筋を立てて呟いた。
「・・・・・そろそろ動く的も、欲しいと思っていたとこにゃ・・・!」
ぢゃきん、としんぱちを狙い定めるあたしであった。

「そんなわけで、あたしは弓使いになろうと思うのにゃ」
いつもの裏路地のひまねこ集会所。
いつものメンバーがたむろしていた。
「また唐突に。ていうか、どんなわけだよ」
ハムが気だるそうにあくびをしながら聞いた。
いかにも真剣に話を聞く態度じゃないね。
「弓使い。アーチャーよアーチャー。かっくいーにゃ。遠くの敵もイチコロにゃ」
「んな殺虫剤みたいな・・・つーか、だからどんなわけだっての」

わけ。理由。

数日前のモーリー親子救出作戦のとき、最後の最後で油断したあたしを
超々距離射撃で助けてくれた、ナイトストーカーであろうヒト。
いかなる距離でも、自分の間合いにできる弓使い。
いかなる動作をされても、一撃必殺の狙い撃ち。
あの狙撃に、あたしはハートまでも射抜かれたのだ。
あんな狙撃ができたなら、あたしは仲間たちをどんなときでも、どんなところからでも
守ることができるはず。
こんな素敵な職業があったなんて。

「そんなわけで、ハム、あたしに似合う素敵な弓を用意してちょー!」
「フザけんなっ! ていうかだからどんなわけだっての!」
あたしは手を合わせてうっとりと空を見上げた。
「はぁ〜ん、ナイトストーカーさまぁ〜、わたしはあなたのあとを追います〜」
澄み渡る青空には、あたしの妄想の限りを尽くした、超絶美形なナイトストーカーの
男性の姿が、白い歯を幾重にも光らせて微笑んでいた。
「ねこの話をきけよ!!」

本格的にアーチャーを目指すのならアーチャー転職神官のウェンディを
尋ねたらどうか、と以前おやっさんから言われており、あたしはその
転職神官詰所を訪れた。

たくさんの傭兵の集まるアルピニアでは、人々は一度はここを訪れ、
自分に合った職業を選択し、それに従った戦い方を学んでいくのだ。
ウォーリア、ウイザード、そしてアーチャー。
大きく分けて、この3つの職業から選択するわけだ。
とはいえ、人が多くてあまり長居したくない場所だね。
ほとんどねこには場違いな所だよ。

ふと見ると、数人のアーチャー転職希望者に囲まれ、弓使いについて
熱心に説明をしている黒髪の若い女性がいた。
どうやら彼女がウェンディのようだ。
「アーチャーはボウ、クロスボウ、バリスタという3つの武器から選択して
装備することになりますぅ。それぞれの戦い方に特徴があってぇ・・・」
とりあえず人の群れに紛れて彼女の話を聞いていたが、すぐに飽きた。
「しつもーん」
あたしは前足を挙げて、彼女の話の腰を折った。
「わわ。ねこちゃんに質問されたのは初めてですぅ。なんでしょうか?」
黒髪のウェンディはややたじろぎながらも、あたしに微笑んだ。
「ナイトストーカーって、どうやったらなれるのにゃ?」
彼女の笑顔が『ひくっ』と引きつった。
「な、なななな、ナイトストーカーですかぁ。ねこちゃん、ななナイトストーカーに
なりたいの?」
思いっきりかみながら、彼女は聞いてきた。
「うん。あたしは本気にゃ」

「なんだよこのねこは。邪魔だっての。オレたちはアーチャー転職の大事な話を
聞いてる最中なんだっての。ナイトストライカーだかワケわからん職業なんて
聞いたこともねえ。あっちいってろよ」
口の悪い傭兵の男は、あたしにそう言うと、ポケットから木の欠片を取り出し、
誰もいない草むらの方に向かって放り投げた。
「ほら、ねこはアレでもくわえてな」
むっとしたあたしは練習用の弓をさっと取り出し、狙いを定めて射った。

スカーン!

空中で、軽快な音を響かせヒット。
ねこ特有の動体視力と反射神経、人間にはなかなか真似できるものじゃない。
「な・・・!」
その場にいたアーチャー志望の人間、そしてウェンディまでもが言葉を失い、
あたしを二度見した。
「ナイトストーカーについて教えてほしいのにゃ」

2014/10/30 22:12  [1498-1504]   


「おまたせぇ、ねこちゃん」
その夜、酒場でウェンディと落ち合った。
昼間だとゆっくりと話できなかったので、こうして勤務時間外に約束したのだ。
「ねこって呼ぶのやめてくれる。さもないとあなたのことも『人間ちゃん』って
呼ぶにゃ」
「あわわわ。ごめんなさい、アリスちゃんだったわね〜」
「アリスでいいにゃ」
ウェンディは冷や汗をかきながら、カウンターのあたしの横に座った。
神官のくせに物腰の低いしゃべり方をする。
昼間の鎧姿とはうってかわって、ひらひらのワンピースを着ていた。

「さて、ナイトストーカーについて、だったわね」
注文したモスコミュールを一口飲んで、ウェンディは話し始めた。

ナイトストーカーとは、アーチャーの最上職のひとつで、世界に数人しかいない。
レンジャー、スカウト、チェイサー、ローグの順にジョブ・アップしていき、
その次にようやくナイトストーカーになれる。
ひとつジョブ・アップをするにも、そうとう厳しい条件と実績が必要らしい。
ウェンディはそう説明してくれた。

「ナイトストーカーになると、どんなことができるのにゃ?」
「王国からスカウトされて、神官になれるわ。あたしのように、ね」
「え・・! ウェンディって、ナイトストーカーなの?」
ウェンディはウインクをしてみせた。
べつに偉ぶってるわけでもないのに、このヒトはそんなすごい職業なのか。
「最上職に就いてないのに転職神官なんてやれるわけないのよ〜」
「・・・・!」
まさか先日あたしを助けてくれたのはウェンディだったのか。

「あら、ウェンディと・・・アリスじゃない。珍しい組み合わせね」
酒場に入ってきた騎士隊長のエラが、カウンターに座るウェンディとあたしを
見つけて寄ってきた。
「エラ。きょうは仕事おわりなの? あなたもご一緒にいかがぁ?」
ウェンディの誘いに、エラは申し訳なさそうに首を振った。
「せっかくだけど遠慮しておくわ。ごめんなさい」
「そう・・・残念〜」

エラは、マスターからボトルとグラスを受け取って、いつもの窓際の席へ
向かおうとしたが、ふと足を止めた。
「そうそう、アリス」
「うん?」
「あなたとその仲間たちに、ちょうどいい仕事があるわよ。依頼されて
もらえないかしら? もちろんきちんと報酬は出るわ」
あたしの眼がぱっと輝く。
「仕事! よっしゃ、やるやる!」

2014/11/2 01:09  [1498-1509]   


翌日。
あたしはひまねこ集会所で、集まった仲間にさっそく仕事の話をした。
「エラの話だと、ここから東にある山脈を越えるとレイン川があるらしいにゃ。
その川の橋を最近野良猫のモンスターが占拠してて、シラリスとの交易の妨げに
なりそうだっていうの。それをあたしたちでなんとかしてほしいんだって」

あたしの説明を聞いたダンガンは渋顔をした。
「なんとかってなんだよ。いくら同じねこでもモンスター化してるやつが話し合いに
応じるとは思えねえぜ」

あたしはその問いに毅然とした態度で返答した。
「たぶん話し合いで済むとは思えないよ。実力で排除ということになるにゃ」
人間が死んでゾンビになって人を襲うのと一緒。
ねこもモンスター化すれば、平和を脅かす破壊者となる。
ゆえに、人間ではなくゾンビ、ねこではなくモンスター。
戦うしかないのだ。

あたしの説明で、みんな納得してくれた。
そして、この遠征のメンバーを募ると、数匹のねこが手を挙げてくれた。
ダンガン、しんぱち、にゃんざぶろう。そして新たなメンバーである、トナと
ムスターファが今回のパーティーに加わった。
二匹はアルピニアの門番の兵士の飼い猫だったのだが、主人が多忙で
帰宅もままならなくなり、ゆえにだんだんと野良化し、ひまねこメンバーに
なったのであった。
トナはサポート系の魔法、ムスターファは攻撃系の魔法がある程度得意とあって
なかなか期待できそうなメンバーであった。

おやっさんは、今回はなにか急用があるらしく、数日の間留守にするとのこと。
よって、この6匹が遠征メンバーとなった。
主人の命令で街の外へ出ることを禁じられているハムとペシェは、武器や防具、
ソウェルなどの装備係となった。
本日は準備や戦闘フォーメーションの打ち合わせなどを行い、出発は明朝となった。

「いらっしゃいませー・・・あら、アリスちゃん、いらっしゃい」
夜。酒場にひとりで入ると、ウエイトレスのデフラが笑顔で迎えてくれた。
いつも傭兵たちで賑わい、他愛もない会話、ぶどう酒の香りと煙草の煙で店内は
飽和していた。
カウンターにちょこんと座ると、いつものつゆだくペペロンチーノを注文した。
料理を待っている間、あたしは昨日のウェンディとの会話を思い出していた。

   「ウェンディ、先日あたしを助けてくれたナイトストーカーは、あなたなのにゃ?」
   「いえ? あたしはここしばらく神官の仕事が忙しくて、モンスターを
   狩ってはいませんよう」
   「ウソにゃ。だって先日の夕方、城壁から矢を射って助けてくれたにゃ」
   ウェンディは「う〜ん」と首を傾げていたが、やがて手を鳴らした。
   「あー、パコを倒したっていう、あの事件ね〜。エラから話は聞いてたわぁ。
   神官の間でもちょっと話題になってたわよ〜。あれはあたしじゃなくて・・・」
   「知ってるの? ぜひ紹介してほしいのにゃ。お礼を言いたいのにゃ!」
   ウェンディはウインクをひとつすると、詳しく語ってくれた。
   「クリアンという男の人です。彼は、このアルピニアからずっと東にあるシラリスの
   アーチャー転職神官なのです。先日は、たまたま出張でこのアルピニアの神殿に
   来ていたのです。彼の出張は不定期なので、次回いつこのアルピニアに
   来るのかは、あたしにもわからないですぅ」

「クリアンさん・・・シラリス・・・か・・・」
恩人の名前、そして居場所は判明した。
あたしにもひとつの目標ができた。
アルピニアにいつくるかわからないクリアンを待つのは性に合わない。
ならば、こちらから彼に会いにシラリスに行けばいいのだ。
明日の遠征は、シラリスへの通り道でもある。
いまはまだシラリスへ行ける実力はないだろうが、いつか必ず行きたい。
そう思った。

「おまちどおさま〜。たくさん食べてね〜」
美人ウェイトレスのデフラがペペロンチーノを運んできてくれた。
「ありがと。いただきますにゃ〜〜♪」
「ねね、アリスちゃん。なにか難しい顔をしてたけど、なにかあったの?」
デフラが少し心配そうにあたしを見ていた。

あたしは、初仕事のため明日レイン川に出かけることを彼女に説明した。
「そうなんだ。それじゃ気合入れないとだね〜」
「そういうことにゃ」
「あ、いいこと思いついたよ。アリスちゃん、あした出かける前にここに
寄っていってよ。すぐ済むから」
「え? ああ、まあいいけど・・・なんかあるの?」
「ナ・イ・ショ♪」
人差し指を唇に当てる仕草。
相手が男ならば、これほど刺激的なものはないだろう。

2014/11/3 04:42  [1498-1512]   


翌朝、ねこ6匹のパーティーはアルピニアを出発した。
目的地であるレイン川の橋へは真東へ歩き続ければいい。
人も多く行き来する道もあり、迷うことはないだろう。
装備係のハムとペシェが労を尽くしてくれたおかげで、準備は万全。
なんだかんだいって、あたしの弓もちゃんと準備してくれていた。
ルナティッククロスボウ+1。機械式の弓で、矢を素早く装填すればある程度
連射もきく優れものだ。
あとは、あたしたちの戦闘能力しだい、ということだ。

さいわい天候は晴れ。
朝のみずみずしい草原を吹き抜けるそよ風が気持ちいい。
「ここから、そのレイン川の橋までどのくらい時間がかかるんだ?」
歩きながらダンガンが聞いてきた。
「エラの話だと、人間の足で1時間半くらいらしいにゃ。ちょっと遠いけど
夕方までには楽勝で戻ってこれるよね」
それを聞いてムスターファはため息をついた。
「1時間半も歩くのかぁ。魔法使いは体力ないんだから、20分歩いたら
休憩することにしたいな」
トナも頷いた。
「ボクもムスタさんに賛成です。橋に着くまで、きっと何度かモンスターと
戦うことになると思いますし、慎重にいきましょう」
「そうでござるな。ここはマジシャンをペースメーカーにすべきでござる」
体力のあるウォーリアーのにゃんざぶろうも同意する。
一同はムスターファの意見に従い、焦らずに行動することにした。

『ねこじゃらしでくすぐられる心〜もう止められないの〜♪』
野原を歩きながら、みんなで大合唱。
そのへんで拾った小枝を地面や木にピシピシ叩きながら歩く。
ほとんどピクニックの雰囲気だ。
天気もいいし、景色も悪くない。
遠出をしたことないねこばかりだから、みんな少しハイになっているのかも。
そんな、気分のいいときのことだった。

ざすっ!

突然トナの足元の地面に1本の矢が突き刺さった。
「うわっ!」
トナは驚いて尻餅をついた。
無理もない、もう数センチずれていたら、大怪我をしていたところだ。
「な、なにごとっ! 敵襲!?」
あたしはみんなに戦闘態勢を促した。
それぞれが武器を装備し、身構える。

矢はどこから飛んできた? 敵はどこにいる?
ややすると、草むらから物音がした。
「いや、すまない! 申し訳ない!」
出てきたのは、人間の傭兵パーティーだった。
男が3人。ウォーリアーとアーチャーとマジシャンだ。
トナに向かって放たれた矢はアーチャーが射ったものだったようだ。

リーダーと思われる戦士の男はあたしたちに向かって深々と頭を下げた。
「モンスターと誤認してしまい、危うく狩ろうとしてしまった」
そう言われて、あたしは頭に血が登った。
「ちょっ! すまないじゃすまないにゃ! 仲間が大怪我するところだった
じゃない! 矢ガモならぬ矢ねこなんて洒落にもならないにゃ!」

男はひらすら頭を下げて謝り続けた。
「いや、ほんと悪かった。ねこのパーティーがいるなんて思いもしなかった。
今後このようなことのないように気をつけるよ」
「ふざけんにゃ! ねこのパーティーがいて悪いかー!」
気分のいいときに水を挿されたせいか、あたしはかんしゃくをおこしてしまった。
「まあまあアリス、やっこさんも謝っていることだし」
ダンガンとしんぱち、にゃんざぶろうがあたしを押さえつける。
「ボクなら大丈夫ですから」
トナがそう言っても、あたしはギャーギャー言い続けた。
人間に見下されているような気分になると、異常なまでに腹が立つあたしの
悪い癖だ。

「うむむ、確かに謝って済む問題じゃないかもしれないな」
人間の男は膝を折り、懐からひとつの宝石を取り出した。
「申し遅れた、僕は『ぽてちサポート』というクランのプリングルスという者です。
お詫びのしるしに、太陽の海岸という場所で入手した貴重な宝石を
差し上げるよ。これでご機嫌を直してくれないかな」
そう言うと、プリングルスと名乗った男は、その宝石に簡単なネックストラップを
付け、あたしの首に下げてくれた。

あたしは暴れるのも忘れ、きょとんとした。
「これは・・・?」
宝石をまじまじと眺める。
夕焼け空のような橙の巨大な結晶。ねこのこぶしくらいもある大きさだ。
「おお、いいなあアリス、こんな大きな宝石みたことねーぜ」
「これを店に売ればきっと相当な値段で取引できるでござるよ」
みんなが宝石を取り囲んでもてはやす。

あたしの怒りも、その輝きにすっかり消えてしまっていた。
「あ、あのプリングルスさん、いいの? こんな高価そうなものを」
プリングルスはにっこりと微笑んだ。
「いいんですよ。もらってください」
プリングルスとアーチャー、マジシャンの3人は改めて頭を下げると
アルピニアの方向へ去っていった。

プリングルスたちの歩きながらの会話。
(おいプリン、いいのか? あれゲットするのに相当苦労したじゃないか)
(いや・・なんとなくあのねこが本来の宝石の持ち主だったような気がして・・・)
(あのねこにはまだ使いこなせないだろ、あの『大いなる集中のソウェル』)
あたしたちは、そんな会話は聞こえなかった。

2014/11/5 18:26  [1498-1514]   


「いいヒトたちだったじゃないか」
歩きながらダンガンが言った。
「そうだね。すごく礼儀正しかった。傭兵もガサツで乱暴なひとたちだけじゃ
ないんだね」
トナがそう言って頷く。
「うん・・・あたしもそう思ったにゃ。人間に対する見方、すこし改めないとだね」
あたしはそう言って、キレた自分を反省した。
「それにしても見事な宝石じゃないか。よかったなアリス」
ムスターファがそう言うと、あたしは改めて首に下げた宝石を手にとった。
こんな大きくてきれいな宝石、みたことがない。
その吸い込まれそうな輝きに、あたしは意識を失いかけた。

「でもアリスがそーゆー光物を飾っても、アレだ。読んで字の如し、
ねこに小判だな」
しんぱちがゲラゲラと笑いながら言うと、あたしは失いかけた意識を
取り戻し、しんぱちにサマーソルトをかました。

太陽がてっぺんにさしかかったところで、目的地に到着した。
幅およそ30m程度、透明できれいな清流のレイン川。
そこに架けられた橋梁、ペノル橋。
アルピニアとシラリスを結ぶ頑丈な石造アーチ橋だ。
騎士隊長エラの話では、この橋を占領している猫モンスターが
いるとのこと。

やつらをこの橋から追い出したり、駆逐することで任務は完了
することとなる。
はずだった。
しかし、その橋にはだれもいない。
文字通りねこの子1匹いない。
「なんだよ、誰もいねーじゃん」
「ガセネタか?」
せっかく装備を入念に整えてはるばるやってきたというのに、
拍子抜けだった。

このままアルピニアにとんぼ返りというのもシャクだし、とりあえず
橋の上でしばらく様子をみることにした。
「だれもいなかった、とエラに報告したら、任務はどうなるのかにゃ」
ふとそんな思いを呟いた。
「心配ないでござる。我々はここに誰かいようがいまいが、
任務をまっとうするために行動してきた。報酬は必ずあるでござるよ」
にゃんざぶろうがそう言ってくれた。
「そうだね」
橋の上でしばしのんびりとくつろぐ。

空にはぽっかりと雲が浮かび、鳥がさえずりながら平和そうに
飛んでいる。
穏やかすぎる。
この国がモンスターによって脅かされていることなど忘れそうになる。

ふと橋の向こう側を眺めた。
橋の先に続く1本道が平原の彼方まで続き、そのさらに向こうには
頂上を白く染めた高い山岳が連なっている。
シラリスの街はその先にあるらしい。
はやく行きたい。行ってクリアンさんに会いたい。
そのあとどうするかは、そのときになってみないとわからない。
今は彼に会うことしか考えられないのだ。

2014/11/8 10:16  [1498-1516]   

ダンガンが橋の下を覗き込んで言った。
「お、いまなんか光った。魚がいるぞ、この川」
男どもはみんな橋から身を乗り出して下を眺める。
「ほんとだ。魚がいるっぽい」
「うまそう」
「ふむ、うまそうでござるな」
「そういや朝からなにも食べてないもんなー。はらへったー」
「ボクもそうです」
「じゃあさ、あの魚を釣って、焼いてたべよう。オレとトナは火の魔法が
使えるから、焼くのなら任せてくれよ」
「お、いいねぇ。じゃあ戦士のオレたちで次々に釣り上げようか」
「釣竿と糸と針はどうするでござる?」
「む。そうだな・・・釣竿はそのへんに落ちてる枝でいいんだけど」
「アリス、なんか糸と釣り針持ってないかぁ?」
みんなが一斉にあたしの方を振り向いた。
そして、全員の目は点になった。
あたしは、ひとりでもくもくとお弁当を食べていたところであった。

「な・・・」
「ちょ・・おま・・・! なにひとりで弁当なんて持ってきて、ひとりで
食べてんだよー!」
「弁当持参なんて話は聞いてないでござる。ずるいでござる」
「うわぁ、なにこれ、みたこともない豪華な弁当〜」
みんながあたしを取り囲んでぶーぶー文句をならべる。
「いや、だってこれは今朝デフラにもらったのにゃ」
昨晩、酒場でデフラと約束したのは、このお弁当のことだったのだ。
あたしがそう説明すると、いっそうざわめきが大きくなった。
「酒場の美人ウェイトレスのデフラさんのお弁当だって!」
「人間の男の間では時価数千万の価値があるとまで噂されている、
幻のお弁当じゃないか!」
「アリスっ おまえばっかりズルいぞ。オレたちにも・・・・」

あたしはにっこりと微笑んだ。
「こんな大きなお弁当、あたしひとりじゃ食べきれないし。みんなの
ぶんのお皿もあるから、取り分けてあげるよ。みんなで食べよ」
そう言うと、みんなの顔がぱあっと輝いた。
「うおお、さすがアリス、話せるじゃねえか」
「やった、予期せぬお弁当にボク感激ですー!」
「腹が減ってはなんとやら、馳走になるでござる♪」
「はやくっ、はやく取り分けろよー」
「焦らないで。順番にあげるから・・・・」

そんなときだった。

どこからともなく投げられた小石が、あたしの持つお弁当箱に見事に命中。

ぱっこーん!

「あ」
あたしの手を離れ、宙を舞うお弁当箱。
まるでスローモーションになったように、中のおかずやおにぎりが
飛び出て・・・・・。
ぼっちゃ〜ん!
お弁当箱ごと、そのすべてがレイン川に落ちてしまった。
「あ・・・・・・・・・」

2014/11/11 22:41  [1498-1517]   


「おうおうおうおう、オレたちのナワバリでなにくつろいでんだコラ」
橋の向こう側から、10匹ほどのねこがぞろぞろと歩いてきた。
見知らぬねこたちだ。
それぞれ、大きなレンチを武器に持っていた。
石を弁当箱に当てたのは、彼等に間違いない。

「トイレ休憩にいってる間にこの橋を陣取ろうなんて、セコいこと
してんじゃねーよ。あ?」
「おまえらアレだろ。アルピニアのクソねこだろ」
「はは、もしかしてオレたちを討伐しにきたってのか」
「うぜー。おまえらみたいなただの野良猫が、オレら訓練された
エリートに敵うわけねえんだよ」
「ザコはザコなりに、帰って日向ぼっこでもしてろや」
「ま、生きて帰さねーけどな」
言いたいことを次々と言う品のないねこども。

こいつらがこの橋を占拠したモンスターねこだということは、
もはや疑う余地もなかった。

「なんとかいったらどうなんだ、あぁ!?」
あたしたちは、一同に無言で彼等に目を向けた。
「ひっ!?」
あたしたちの眼を見たモンスターねこたちは、短い叫びをあげて
一瞬でひるんだ。
真っ赤に充血し、危険なほど赤く光る目。
ぎりぎりぎり、と手に持つ武器がきしむ。
傍から見たら、どちらがモンスターかわからない状況だ。

「ムスタ、トナ、先制」
あたしは二人に短い指示を出す。
『アイ・マム』
ムスタとトナは杖を振りかざし、口々に叫んだ。
「ウォーター・ポール!」
「サンダー・ボルト!」
どばぁ、とレイン川の水が水柱となって彼等を襲い、次の瞬間
天からの強烈な電撃に撃たれる。
効果は抜群だ。
「ぎぃやぁああああ!」
モンスターねこの絶叫。でもあたしには聞こえない。
「ダンガン中央、しんぱち右、にゃんざぶろう左、各個撃破」
『アイ・マム』
魔法のショックも覚めやらないうちに、3匹のウォーリアーに
3方向から襲われる。

次々と倒れるモンスターねこ。
全滅は時間の問題かと思われた。
そして残り最後の1匹。

がきーん!

ダンガン、しんぱち、にゃんざぶろうの3匹の同時攻撃を、
なんと1本のレンチで受け止めていた。
だが、受け止めるだけで精一杯で、それ以上微動だにできないでいる。
「くっ、レイン地域最強のオレたちが、こうも簡単に脅かされるとは・・・
貴様らいったい何者だ・・・!」
どうやらこの最後の1匹がリーダー格か。

「トナ、あたしにサブ・スキルを」
「アイ・マム」
トナは攻撃力と俊敏力増大のサポート魔法をあたしにかけた。
みるみる力がみなぎってくる。
1本の矢をクロスボウに装填し、敵リーダーに狙いを定めた。
あたしの胸に下がる宝石が、きらり、と輝く。
「そのソウェルはまさか・・・! 貴様、一体、一体・・・・・・!」
あたしはぼそりと呟いた。

「hasta la vista...baby」

ばしゅ、と放たれた矢は、そのレンチのど真ん中に命中、
そして、勢いを失わないその矢はレンチをまっぷたつにし、
敵リーダーの心臓に突き刺さった。
「なんなんだー!」
絶叫とともに、敵リーダーは絶命。

あたりに静寂がたちこめた。

あたしたちは、敵の落としたお金やドロップアイテムを回収もせず、
静かに自分の武器を収めて無言で歩き始めた。
まるで、葬式の帰り道のように・・・。

2014/11/15 00:54  [1498-1526]   


あたりが夕焼けに包まれようとした頃、アルピニアに到着した。
やや帰りが遅いとあって、留守番をしていたハムやペシェが
城砦の門の前で待っていた。
その後ろには、騎士隊長のエラまでもが心配そうに待ち構えて
いた。
「みんな無事だったみたいね。ご苦労さま! 任務は果たすことが
できましたか?」

「・・・・・・・」
パーティーの誰もが無言だった。
「ど、どうしたの? うまくいかなかった? 誰か怪我してるの?」
「なあ、うまくいったんだろ? またみんなで酒場で盛り上がろうぜ」
ペシェとハムが心配そうに言う。
一同のリーダーとして、あたしは気力を振り絞って呟いた。
「・・・任務は・・・橋のモンスターは・・・・・・倒したけど・・・・・・・
大切な・・・おべん・・と・・・が・・・」
そこまで振り絞って言ったが、もう我慢の限界だった。
「うう・・・うわーん うわーん うわーん!!」

人目を気にすることもはばからず、あたしは声を張り上げて泣き出した。
「うわぁ〜〜ん うわぁ〜〜ん!」
ほかのみんなも我慢の限界を越え、大声で泣いた。
「一体なにがどうなってるの・・・?」
エラとハムとペシェは事情がまったく理解できず、オロオロするばかり
であった。

ようやく落ち着いたところで、エラから貰った報酬で一同は酒場に
向かった。
笑顔で迎えてくれたウェイトレスのデフラに、みんなが頭を下げて
お詫びすると、彼女はにっこりと微笑んでくれた。
「みんなが無事に帰ってきてくれただけで、あたしは嬉しいわ。
次回また遠出するときには、必ずまたお弁当つくってあげるから、
元気を出して。あたしがねこちゃんたちの応援団長になってあげる」
それを聞いた一同は、どわあっ、と活気が戻った。
それからは、もういつもの通り。飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎ。

ふと、しんぱちがデフラの前に立った。
「デ・・デフラさん、あの、いつもお美しいあなたに贈り物が・・っ」
真っ赤な顔をして、しんぱちがもじもじしている。
「あら、あたしに? なにかしら?」
しんぱちから受け取った紙袋を開けてみると、なんと中身は
ねこみみのカチューシャだった。
「これをあたしに・・・?」
しんぱちは真っ赤な顔で頷く。
デフラは頬を赤く染めながら、おずおずとねこみみを頭に付けた。
「これでいい・・・にゃん?」
めいっぱいのサービスで、語尾にもねこ言葉で話すデフラ。
「グッジョブ!」
「グッジョブ!!」
酒場にいた人間の男性客が、みんなしんぱちに親指を突きたてて
称えた。
いつもはねこだけで盛り上がってた宴会も、今日は酒場にいた人間も
混ざって大宴会になっていった。

お弁当がほとんど食べられなかったのは本当に悔しかったけど、
こうして最後、みんなが無事で、おいしい酒が楽しく飲めたのだから、
終わりよければ全てよし、なのである。
一件落着。ちゃんちゃん。


その夜・・・。
誰もが寝静まり、夜露のひんやりとした神殿前の広場。
そこで密会するふたつの影があった。
「ただいま戻りました、サウルス様」
「グルル・・・ごくろうだったな。して、首尾はどうであった?」
「探索者は、やはりあの奥にいるようです・・・私の忍び足ではそこまで
たどり着けませんでしたが、まず間違いありません」
「グルル・・・渦の門は時空と輪廻を司る聖なる地。それと同時に、
忌まわしき事故の発端となった悪夢の地よ。一刻も早く奪還しなければ
わが国どころか、このオムニバスワールドそのものすら、脅かされる」
「探索者を葬るためには、やはり・・・」
「グルル・・・彼女、いや彼の力なくしては、いかなる屈強な者とて探索者には
敵うまい・・・。彼女の成長を見守るとともに、例のものを探しだすのだ」
「はっ。この身に変えましても、必ずや・・・」
そして2つの影はお互い闇に消え、あたりは静寂に包まれた。


act.4 に続く

2014/11/17 07:42  [1498-1529]   

act.4  シラリスの星空の下で


「ちょ・・・おま・・・なんだこれはっ!」
ひまねこたちが集まる集会所で、珍しくおやっさんが声を張り上げた。
あたしの胸に輝く宝石を見るなり、すごい剣幕で向かってきたのだ。
「え・・・え? 何おやっさん、これがどうかしたの?」
あたしはわけもわからず狼狽した。
まるでなにか悪いことでもしたような気分にもなる。
「アリス、おまえこれをどこで手に入れた!?」
「ふぇっ? これは、レイン川に行く途中で、人間のヒトにもらったのにゃ」
「レイン川へ行く途中・・・?」
おやっさんが首をかしげていると、ムスターファがフォローをいれた。
「たしか、どこかの海岸でみつけた、珍しい宝石だって言ってたぜ」
おやっさんはそれを聞くと「太陽の海岸か・・・!」と呟いた。

ネックストラップを外し、宝石をおやっさんに渡すと、おやっさんは目を細めて
それを見つめた。
「間違いない、本物だ。そうか・・・太陽の海岸にあったのか。護送者カーニバル
あたりが保管者だったようだな・・・」
この宝石は、あたしが思うよりもはるかにすごいものらしい。
とはいえ、あたしじゃその価値はまったくわからない。
というか、翌朝ふと無くなっていたとしても、さして気に病むこともないくらいだ。

「アリス、いや、この場にいるみんなにこの宝石がどれくらいすごいか、
まず教えてやる」
おやっさんはそう言うと、みんなを引き連れてメインストリートへ繰り出した。

向かった先は、ソウェル屋のルアのところだった。
軒先にきれいに光る宝石、ソウェルをたくさん並べて売っている。
「うわ。なんでねこがこんなにたくさん店先にいるの。ペシェの友達かしら」
店のカウンターからルアが出てきた。
容姿端麗、絵に描いたような金髪の美少女なのだが、それを鼻にかけた
ずる賢い性格で、望みが異様に高いので、これといった彼氏はいないらしい。
とはいえ、アルピニア・グラジュエイトジェモロジストという、王国に唯一認められた
宝石鑑定団体の頂点に立つソウェルの鑑定士でもある。
伊達にソウェル屋を営んではいないのだ。

おやっさんは、おもむろにあたしの宝石をルアに見せた。
彼女は最初「はいはい、きれいな宝物みつけたねー」などと、どこかで掘り当てた
光り物とでも思ったらしく、ほとんど相手にしなかったのだが・・・。
「ん・・・? ちょっと待ってよ。その夕陽色の輝きってまさか・・・!」
とたんに目の色が変わった。
「いやぁぁぁあああああ! それってまさか、スペリオル・トワイライトスター!
またの名を『大いなる集中のソウェル』! こんな伝説級の、国宝ともいえる
ソウェルの結晶体を、なんでねこがー!」
いつも「かったりー」とか「あー、どっこらしょー」とか無気力にオバさんくさい
ルアが、瞳に幾重にも透過光を輝かせてその宝石に釘付けになっていた。
そんなにすごいものなのか。

「これ、いちおうあたしのなんだけど、売るといくらなのにゃ?」
ためしにルアに聞いてみた。
ルアは「えっ 売ってくれるの!」とハァハァ言いながら、ソロバンを弾いた。
その金額。いち、じゅう、ひゃく、せん、まん・・・
「これで買い取るわよ! どう?」
見たこともないような桁。
そのへんにいる傭兵の10年ぶんの給料に匹敵するほどの金額だ。
毎日毎日宴会をやっても、とうぶん事足りる。
みんなの口からヨダレがしたたり落ちる。
考えてることは、みんな一緒だ。
「売る」
あたしは即答した。
「売るなっ!」
すぱん! とおやっさんはあたしの頭をスリッパで思いきりひっぱたいた。

2014/11/20 10:51  [1498-1530]   


ルアからこの宝石について聞くだけの情報を聞いて、一同は集会所に戻った。
この宝石は世界三大ソウェルのひとつ。
弓に装着すれば、その攻撃力は計り知れないくらい向上するという。
ただし、持ち主の身体的、精神的な強靭さがないとその効果はない。
あたしが理解できる部分はそんなところだった。

ためしにあたしのルナティック・クロスボウに装着しようとしたが、
スロットに差し込んでも、すぐに外れてしまった。
まるでソウェルの意志で装着を拒否しているかのように。
「いつも肌身はなさず持っていること」
そうおやっさんに釘を刺された。
それは、大金だから、というわけではなさそうだ。
なにか他に意味がありそうな、そんな気がした。

いま、あたしは新たな旅立ちに向けて意気揚々している。
新たな旅立ちとは、もちろんシラリスへ行くことだ。
物心ついたときから、街といえばアルピニアしか知らない。
だから、他の地域の文化というものをまるで知らない。
もともと興味があったわけではない。
クリアンという命の恩人のナイトストーカーに会いにいく目的ができて、
その彼が住むシラリスにも興味が沸いたのだ。
どんな街で、そこでの生活がどんなものか。
それは話を聞いてもいまひとつ実感がわかない。
どうしても自分の足で行って、自分の眼で見てみたい。
こんな感情が自分の中にあったなんて。
これが俗にいう、冒険心というものなのかもしれない。

翌日。
あたしはついにひまねこの仲間たちに打ち明けた。
「あたしはもうすぐシラリスへ旅立とうと思ってる。場合によっては、しばらく
このアルピニアに帰ってこないかもしれないにゃ。んでもって、一緒に
行ってくれるメンバーを募りたい」
あたしは一呼吸おいて「一緒に戦ってくれるメンバー・・・にゃ」と訂正した。
仲間たちはどよめく。
みんな、険しい顔をしている。
無理もない、毎日のごはんを食べる目的でモンスター退治をするのに
わざわざシラリスへ赴く必要などない。
ましてその地方はここと比べるまでもなく、屈強なモンスターがたくさんいる。
あたしのように目的がなければ、まず行く必要などありえないだろう。

「ふむ、いいだろう、私は同行しよう」
おやっさんが手を挙げた。
たぶん仲間の中で最も保守派のはずのおやっさんが、肯定し同行してくれる
というのだ。
すこし意外ではあったが、素直に嬉しかった。

「オレも行くぜ。おもしれーじゃん、新天地シラリスってのも」
「拙者もシラリスへ参るでござる。修行の地にはうってつけでござる」
次に同時に手を挙げたのは、ウォーリアーのダンガンとにゃんざぶろうだった。
もうひとりのウォーリアー、しんぱちは、険しい顔をしたままだった。
「オレは・・・」
しんぱちは声を振り絞った。
「ここに残る。オレまで行ったら、ここにウォーリアーが一匹もいなくなっちまうだろ。
ここに残ったひまねこクランを存続させていくには、ウォーリアーが絶対必要だ。
だから・・・オレは行かない」
「しんぱち・・・」
あたしは彼の言葉に胸を撃たれた。
自分のことに夢中で、ここに残された仲間のことをまるで考えてなかった。
そして同時に、クランのことをここまで考えてくれていたしんぱちに心から感謝
するのであった。

結局、シラリスへ行くメンバーは、あたしとおやっさん、ダンガンににゃんざぶろう
の4匹となった。
他のねこはしんぱち以外みんな飼いねこであるため、無理なのだ。

「それじゃあ、現時刻をもってこの4匹は『ひまねこ』クランを脱退し、新たなる
『ひまねこ遊撃隊』クランを結成するにゃ!」
あたしは声高らかに叫んだ。
『おおー!』
一同は手を掲げ、新生クランを称えあった。

2014/11/24 23:53  [1498-1547]   


アルピニアでの最後の夜。
ひまねこ全員が酒場に集まり、あたしたちの送別会をしてくれた。
アルピニア城砦の外で暮らすモーリー親子やジュリも駆けつけ、
飲めや歌えやの大騒ぎになった。
ほとんどねこたちの貸切となった酒場、ウエイトレスのデフラもねこみみを
装備してくれて、みんな大喜びだ。

思えば、この酒場が暖かい食事を出してくれるから、あたしは戦おうと思った。
お金を払えば、食べ物を出してくれる。人間社会では当たり前のことかも
しれないけど、ねこだってお金を稼いで、そのお金で食事をしても
おかしいことなんてなにひとつない。
そんな毎日でも、きっと悪くはなかっただろう。

でも、もっともっと強くなりたい。
仲間を守る強さがほしい。
そう思ったからこそ、シラリスのクリアンに会いたいと願うのだ。
ナイトストーカー。他の追随を許さない圧倒的な間合いの広さ、
そして正確無比な射撃精度と攻撃力の高さ。
あたしの求める全てが、彼にはある。
クリアンに会って弟子入りをするのか、シラリスの地で強いモンスターと
戦って稼ぐのか、どうするかはまだわからない。

「エラ」
あたしは酒場の片隅、窓際の席に座ってひとり飲んでいるエラに話しかけた。
「アリス・・・送別会の主賓が場を抜けるなんて行儀悪いわね」
「少しくらいはいいの。あたしは少しエラとゆっくり話したかったのにゃ」
あたしがそう言うと、エラは向かいの席を勧めてくれた。
あたしはその席に座り、エラと乾杯した。
「いよいよ明日、旅立ちね。がんばるのよ。クリアンやほかの神官によろしく
伝えておいて」
「あ、うん・・・」

あたしは一呼吸おいて、エラに質問した。
「ねえ、エラ。あたしたちの戦うモンスターって、いったいなんなの?
どこで生まれ、なんのために生きているの?」
エラは驚いてあたしの顔を見つめた。
「どうしてそんなことを聞くの? 傭兵たちはみんな理由も聞かず、報酬の
ためだけに戦う人たちばかりなのに」
「いや別に。シラリスって、このアルピニアより強力なモンスターがいるらしいにゃ。
つまり、モンスターの本拠地に少しは近いところなわけでしょ。ちゃんと敵について
勉強したいのにゃ」
「それは、本格的にモンスターと戦う覚悟を持った、ということなの?」
あたしはぶんぶんと首を振った。
「あたしは単に、シラリスにいるクリアンさんというヒトに会いにいきたいだけ。
会ったあとのことなんて、まだ考えられないにゃ。ただ、みんなが戦っている敵が
知りたいだけにゃ」
「あら、そう。まあいいでしょう。まず敵について教えてあげるわ」

オムニデクロンという、『無貌の神』から生み出された君主。
それがモンスターに君臨する敵の親玉。
その直下に何匹もの手下がいて、このオムニバスワールド各地を侵略し、
制圧している。
そのボスクラスのモンスターが、星の数ほどいるモンスター達を生み出している。
各地にある『世界の柱』を破壊するために。

この世界に存在するすべての柱を破壊したとき、この世界は滅亡するという。
いくつかのボスクラスのモンスターの本拠地は判明しているが、現状において
アルピニア騎士団が討伐の準備を整えている段階。
君主であるオムニデクロンのアジトは不明。
一説によると、まったく別次元にあるのではないか、というがそれを証明した者は
おらず、真相はまったくもって不明。

エラはそんなことを教えてくれた。
正直いって、理解できたような、できないような。
あまりに抽象的かつ漠然とした話なので、現実味を帯びてないのだ。
でも、あたしたちの前に立ちはだかるモンスターたちは、紛れもない現実。
それを少しでも理解しなくては、もしかしたらあたしたちがモンスターにとって
侵略者とみなされているのかもしれないのだから。
でも、これでちゃんと戦える気がした。
モンスターが目的とするのは世界の破壊。
それと対するのは、きっと正しい。それだけだ。

「私が認めた人は、みんな私のもとを去っていくわ。ある者は『太陽の海岸』へ。
またある者は『プレミオ』へ。より強大な敵へ挑んでいった。そして多くの
人はそのまま帰ってこない・・・」
エラは腰に忍ばせた短剣を取り出してあたしの前に差し出した。
「餞別よ。たぶん今の私には必要でなく、あなたが必要なもの。何も言わずに
持っていきなさい」
「あたしは弓使いだよ。剣なんて使わないにゃ」
「この短剣はあなたでも使えるテンダーフード装備です。いつか役に立つわ」
エラはいままで見せたことのない優しい瞳で、あたしにその短剣を持たせた。
「エラがそうまで言うなら・・・大切に使わせてもらうにゃ。ありがとう」
あたしは席を立ち、エラのテーブルを離れようとして、一言だけ付け加えた。
「あたしはこのアルピニアに必ず戻ってくるよ。みんながいるから」

2014/11/29 22:32  [1498-1562]   


みんなのテーブルに戻ると、おやっさんが目を丸くしてあたしの刀を見た。
「それは守り刀『闇桜』・・・! エラの短剣をもらったのか」
「うん、餞別だって」
「そうか・・・鍛冶屋のアルポードが特別に打った名品だ。大切にするんだぞ」
「まあ、使う機会なんてないと思うけど、お守りにするにゃ」
そう言うと、エラのいる席に振り返った。

エラは窓際の席で、ひとりで葡萄酒を飲んでいる。
いつもあの席で、いつもひとりで飲んでいる。
だれかが来るわけでもない、だれかを待っているわけでもない。
なぜかいつも愁いを帯びた表情で窓の外を眺めている。

そういえば、以前彼女の向かいの席に無断で座って怒られたことがあった。
『そこは指定席なのよ』と。
つまり、誰か決められた人の席なのだ。
いったい誰の席なのか。
「エラは、むかし悲しい別れがあって、それ以来あの席でその人を
待っているんだ・・・その特別な席を、今まで誰にも譲らなかったのに、
お前さんに座らせるとは・・・」
おやっさんがそう言った。
どうしてエラの過去をおやっさんが知っているのか不思議だったが、
あたしはそれ以上なにも聞けなかった。


翌朝。
旅立ちの刻は来た。
あたしとおやっさん、ダンガンとにゃんざぶろうは大勢の仲間に見送られながら
アルピニアの城門をくぐった。
「おれ、昨日から興奮しっぱなしで、眠れなかった」
ダンガンが上ずった口調で話した。
「拙者もでござる。新天地へ行く期待で、武者震いが止まらないでござる」
にゃんざぶろうも珍しく興奮している。
「あたしも同じだよ。期待と不安のドキドキでいっぱいにゃ」
あたしは素直にそう言った。
おやっさんだけは、穏やかな表情で、いつもの日常であるかの如く歩を
進めていた。
歳を重ねるとあまり感情を表に出さなくなる、ということだろうか。
まあ、とにかく同士がいるのはこの上なく心強い。
この仲間となら、きっとどんな困難でも立ち向かっていけるだろう。

昼前には、先日戦闘のあったレイン川のペノル橋に到着した。
ここまで何度かモンスターと戦って、すこし疲れたので橋上で休憩することにした。
あたしは今朝デフラからもらったお弁当を取り出すと、みんなに分けてあげた。
今度こそは、みんなが無事にちゃんと食べることができた。
「こりゃうめえ!」
ダンガンが思わずがっつく。
さすが時価がつくくらいの伝説のお弁当、その美味しさは折り紙つきだ。

おやっさんは先日のこの橋上の出来事を知らないので、詳しく説明してあげた。
「そうか、そんなことがあったのか。さぞ悔しかっただろうな」
おやっさんは何度も頷き、あたしたちに同情した。
あの、悪夢のような出来事は忘れようもない。
あの一件で、あたしは悪行を成すモンスターを心底許せなくなったのだ。
もうあんな経験は二度としたくない。
だが、その甲斐あって、今では誰もが何事もなかったかのように
橋を通れるようになった。
「・・・トンネルを掘るヒトの気持ちが少しだけわかった気がするにゃ・・・」
あたしはそう呟いた。
「なんだよそれ」
ダンガンが首を傾げた。
「トンネルってさ、開通させるのにえらく苦労するみたいにゃ。でも、完成したら
多くのヒトがさも当たり前のようにトンネルをくぐって行くでしょ。そこにトンネルが
あることが、さも当然のように、さ」
「そりゃ、トンネルひとつひとつをありがたがって通るやつなんていねえだろ」
「喉もと過ぎればなんとやら、ということでござる」
「そういうことにゃ。なんか、納得いかないような気持ちになるにゃ」
あたしは玉子焼きをかじりながら感慨にふけた。
「アリス」
おやっさんがハンバーグを食べながら言った。
「トンネル掘りにはトンネル掘りのプライドというものがある。楽にこちらと向こうを
行き来できるために掘ったものならば、そのトンネルを活用している者を見て
喜ぶべきではないか。開通のために想像を絶する犠牲が伴ったとしても、だ」
「そっか・・・そうだね」
おやっさんの言うとおりだ。
この橋を占拠していたモンスターはあたしたちが撃退した。
その過程でなにがあったかなど問題にしてはいけない。
任務を完遂し、現状において橋が誰でも通れるという当たり前の通り道に
なっていることを、誇りに思えばいいのだ。

2014/12/10 06:11  [1498-1625]   


お腹もいっぱいになり、一同はペノル橋を後にシラリスへと再び出発した。
レイン川が長年にわたって作り上げた、広大な平地。
開拓すればいい農業地になりそうな土地にみえるが、現在はモンスターが
そのへんを徘徊するだけの荒地になっていた。

巨大なレンチを持ったアヒル、ダックレンチ。
巨大なキノコのお化け、マッシュルームマン。
はたまた機械仕掛けのカニ、ゲイプクラブなんてのもいる。
モンスターはその土地のボスから生まれる、とエラが言っていたが、
機械のモンスターもそうなのだろうか。

これらのモンスターをいちいち相手にしていたらキリがない。
あたしたちは奴らに気づかれないよう、迂回しながら東を目指した。
それでも出くわしたモンスターは全力で殲滅したが、なかなか奴らも強い。
アルピニアで出発するときに持てるだけ体力回復剤を持ってきたが、
思った以上にその消費が激しい。
はたしてシラリスに到着するまで回復剤が足りるかどうか。

山岳地帯の谷間に突入。
両脇を険しい崖に阻まれ、戦闘スタイルも自由がきかない。
しかもモンスターはこのへんから急にその強さを増してきた。
「シラリスに近づいてきた証拠だ。レイン川流域と、シラリス地域では
それぞれ別のボスがいるのだ。無論、シラリスエリアのボスのほうが
格段に強いってことだ」
おやっさんがそう説明した。

「はあはあ、想像以上にキツいな・・・オレの回復剤、残り5個だ」
ダンガンが息を切らせながら言った。
「武器が刃こぼれして、切れ味がどんどん悪化してるでござる」
にゃんざぶろうは酷使しすぎた刀を心配した。
「ひげを2本も切られたぁ〜〜〜」
あたしはねこ特有の反射神経と動体視力の源たるひげをやられ、
明らかに命中精度が悪くなっていた。

「弱音をはくな。この谷を抜ければ一気に視界が開ける。なだらかな
丘陵地帯を登りきったところにシラリスはある。くたばるなら
シラリスに着いてからにしろ!」
おやっさんがみんなを励ます。
おやっさんだってそうとう疲れているはず。
若いあたしたちが元気で負けてどうする。
「ま・・・負けるもんか! 全員無事にシラリスに行くのにゃ!」
『おう!』
一同は元気を取り戻し、再び歩き出した。
アイテムがどうの、装備がどうの、技術がどうの、もう言ってられない。
ここからはもう、精神力の問題だ。

山岳地帯をなんとか抜けると、高原の野原が広がっていた。
高原植物を眺めながらのんびりハイキングしたら素敵だ、と
現実逃避したくなるくらいの激戦区がそこにあった。

あたしたちを見つけるやいなやいきなり襲い掛かってくる、舌が異様に
発達した小人モンスター・ジップロールの群れ。
「アリス、後ろだ!」
戦闘の中ダンガンが叫ぶ。
「え・・・」
振り向いた瞬間。
あたしの死角から間合いに飛び込んだ1匹のジップロール。
その舌で往復ビンタを喰らい、べろん、と顔面を舐められた。
唾液で顔中がべとべとになる。
「ぎゃ・・・いやぁあああぁああああ!」
気持ち悪さでパニックになるあたし。

その場を全力で離脱するが、ジップロールも追いかけてきた。
「来るな、来るなー!」
「待てアリス、単独行動は危険だ!」
おやっさんの静止も聞かず、あたしは一目散に駆けた。

もう何がなにやら。
ほとんど記憶が途切れ途切れ。
「いやあああああああ! 来るなぁぁあああああ!」
絶叫しながら駆けずり回るあたしを先頭に、追いかけてくるジップロール、
そのあとにおやっさんたちが追いかけてくる。

その様子は周辺に生息するモンスターを余すことなくおびき寄せた。
草原のいたるところからモンスターが出現、あたしたちに向かってくる。
ブローディージェスター、スタンプブレイカー、ウッドポークなど、その数、
もはや30体を超えている。
いくらなんでもここで立ち止まったら、最後だ。

もう止まらない。どうにも止まれない。
スタミナの切れたジップロールがスピードを落とすと、おやっさんと
ダンガン、にゃんざぶろうに踏み潰され、トドメに後方から追いかけてくる
モンスターの土煙に消え、その姿を消した。
こうなると、あたしたちは多数のモンスターに追いかけられる、という
単純な構図になった。
もはやあたしたちは戦意を喪失し、顔面蒼白で力の限り逃げまくるだけだ。

2014/12/13 12:07  [1498-1641]   


目の前になにかの城壁が見えた。
大昔の古代遺跡のようで、今はその機能を果たしていないが、その門を
スパナを持ったねこモンスター、バッチリンクスの群れが待ち構えていた。
その門を守護しているらしく、通ろうとする者を片っ端から襲っているのだ。
バッチリンクスの代表者が前に出て言った。
「おうおうおう、このクソねこども、ここを通りたかったらその命を差し出・・・」
「どいてどいてどいてー!」
あたしは走るスピードをワンランク上げ、そのバッチリンクスに飛び膝蹴りを
かます。

「な・・・おやびんっ!」
代表者を瞬殺され、残されたバッチリンクス部下はうろたえながらも、その手の
スパナを振りかざしてくる。
「邪魔だっての!」
ダンガンは、振り回すスパナをひらりと避けウエスタンラリアートで一匹を倒す。
「邪魔でござる!」
にゃんざぶろうは、スパナを刀の柄で流し、勢い任せでいなせ倒した。
「ええぃ 邪魔!」
おやっさんは持っていたまたたび酒の瓶を地面に叩きつけて割った。
飛び散るまたたび酒の匂いがバッチリンクスの鼻腔をくすぐる。
「これは伝説のまたたび酒・・・・っ」
残りのバッチリンクスどもは条件反射のようにその割れた酒瓶に向かっていくと、
次の瞬間、後方から迫りくるモンスターの大群の土煙にその姿を消していった。

城壁を抜けると、小高い丘が広がり、その丘の上に大きな菩提樹がそびえ、
その元に人工の建造物が立ち並んでいた。
「見えたぞ、あれがシラリスの街だ!」
おやっさんが叫ぶ。
「あそこまでたどり着けば・・・っ!」

後ろからはモンスターの大群が迫ってきている。
・・・などと後ろをちらりと見たのがいけなかった。
あたしは木の根っこに足をとられてしまい、地面に倒れてしまった。
「アリス!」
みんなが叫ぶ。
いまので右足をくじいたらしく、起き上がろうにも激痛で動けない。
迫りくるモンスターの大群。
これはやばい。
シラリスを目前に、やられてしまうのか。
あともうちょっとで着くのに。
あたしを間合いにとらえたモンスターたちは次々に飛び上がり、あたしに
襲いかかってくる。
ここまでか・・・・!

無念に目を閉じようとした、その瞬間だった。

どこからともなく放たれた1本の矢があたしの頭上のスタンプブレイカーに
直撃、次の瞬間その矢は光のつぶてとなって離散し、周辺すべての
モンスターにダメージを与えた。
「え・・・・!?」
モンスターがばたりばたりと倒れていく。
あんなにも強いモンスターたちが、たった1本の矢で、倒されたのだ。
「大丈夫か、アリス!」
みんながあたしのもとへ駆けつけた。

あたしはにゃんざぶろうの肩を借りて立ち上がった。
「あたし・・・助かった・・・」
いったい誰に助けられたというのか。
「たしか今の技は、エクスプロージョン・アロー。1本の矢が命中すると
周辺の敵にも同様のダメージを与える技だ。かなりの上級者しか
使いこなせない範囲系の攻撃スキルだな」
おやっさんがそう説明してくれた。

あたしは眼を凝らしてあたりを見渡した。
街の中心にそびえる大きな菩提樹、その枝に立つひとりの青年を見つけた。
大きな弓の構えを解いているのが見える。
間違いなく、彼が撃ったものだろう。

あんなに遠くから、しかも攻撃スキルを付加してのピンポイントの正確な射撃。
そんな芸当ができる者はちょっとやそっとじゃ見かけることができないが、
あたしには心当たりも身に覚えもあった。
「まさか・・・クリアンさん・・・ねえっ クリアンさんでしょ、クリアンさ〜〜ん!」
あたしは力の限り大きな声で叫んだ。
その声が届くかどうかもわからない、はるか彼方に見える男性。

すると、菩提樹の枝の青年は、ゆっくりと手を振ってくれた。
間違いない、あのヒトがクリアンさんなんだ。
ああ・・・会えた。
ついにクリアンさんと会うことが、できた。

ねこのひげも、足もやられ、みんなもボロボロの満身創痍だけど、
ようやくシラリスにたどり着いた。
太陽が西に傾きはじめた、そんな時間だった。

2014/12/17 13:24  [1498-1671]   


門番に出迎えられ、あたしたちは街の中に入った。
菩提樹の緑が生い茂るその下にいくつかの丸太の建物が立ち並ぶ。
地面はふかふかの芝生で、そのへんに気持ち程度の石畳が敷いてあった。
アルピニアに比べて簡易で質素、まさに田舎の街だ。
「おお、ねこ4匹でよくシラリスにたどり着いたな!」
「大変だったろう、ゆっくり身体を休めるんだよ」
シラリスの居住者らしき人間が何人か集まって、あたしたちを歓迎してくれた。

その集団の中から、一人の青年が現れた。
「大丈夫だったかい」
青いマント、青い髪、そして碧眼の男性。
「僕がこの街のアーチャー転職神官、クリアンです。話はエラの手紙で
伺っていたよ。ひまねこ遊撃隊のみんなだね。シラリスへようこそ」
そう言うとクリアンは深々と頭を下げた。
このヒトがあたしの憧れ続けた、命の恩人。
アルピニアでパコと戦ったときだけでなく、つい今しがたも助けられた。
「ああ・・・クリアンさぁん、クリアンさぁ〜〜〜ん!」
あたしは助けてくれたお礼を言うのも忘れ、クリアンさんに抱きつこうとした。
そのとき。

「ウチの主人に触るんじゃ、ね〜〜〜っ!」

どごぁ!
あたしは何者かにドロップキックの直撃を受け、きりもみ状態で地面に
叩きつけられた。
「な!?」
「アリス!?」
「我らの隊長に狼藉を働くとは、何奴でござるか!」
みんなが武器をとる。

そこに立っていた者は、1匹のねこであった。
頭にバンダナを巻き、いかにもゲリラっぽい風貌のメスねこだ。
「ウチがこのシラリスのねこを仕切ってる、チャイや」
とふんぞりかえって自己紹介をして、
「ウチの御主人であるクリアンさまに指一本触れたら、タダじゃおかないよ」
などと脅しつけた。
「あいたた、あいたた、あいたた〜・・・」
あたしはゆっくりと起き上がって、チャイの前に立った。
「チャイっていったかにゃ。初対面の相手に飛び蹴りをぶちかますのが、
シラリスの礼儀なのかにゃ」
「知ったこっちゃないねぇ。ウチは単に御主人にむらがるハエを退治してる
だけさね」
「は、ハエだって!?」
あたしとチャイの視線の間にバチリと火花が交わされる。
「フーっ!」
「フシャーっ!!」
全身の毛を逆立て、一触即発状態だ。

「やめなさい2匹とも」
クリアンがあたしとチャイの手をにぎって制した。
「離してご主人、アルピニャンごときにナメられたらおわりなのよ!」
さらにあたしを威嚇するチャイ。
あとで聞いた話だが、アルピニャンとはアルピニアのねこのことらしい。
ちなみにアルピニアの人間はアルピニアンというのだそうだ。
「ぼくの前で喧嘩は許さな・・・・ハァハァ・・・」
クリアンは仲裁に徹しようとしているが、なんだか様子がおかしい。
息を荒げ、恍惚とした表情であたしとチャイの肉球をいじりはじめたのだ。
「ふあぁ〜、やっぱこの感触、最高だよぉ〜〜〜」
「・・・・???」
わけわからないあたし。
「あ〜〜、もう、ご主人ったら・・・」
チャイはため息をつきながら説明した。
「ご主人はごらんの通り、ねこの肉球フェチなの。こうやってつかまったら最後、
しばらく開放されないから」
「げっ!」
まわりを取り囲むみんなが、一斉にクリアンから一歩遠ざかる。
あたしも反射的に逃げようとしたが、彼に捕まって身動きとれない。
なんてことだ。
憧れの命の恩人が、肉球フェチの変態だったとは・・・!
「ああ、このぷよぷよ、お持ち帰りィィィ〜〜っ!」
彼に対するイメージが音をたてて崩れる瞬間であった。

2014/12/28 12:24  [1498-1717]   


そんなとき。
ズン! という激しい衝撃音があたりに響き、シラリスの菩提樹に
とまっていた鳥たちが驚いて一斉に飛び上がった。
「て、敵襲! モンスターだ!」
門番のモーガンが叫んだ。

モンスターが襲ってきた、というのだ。
木が陰になってモンスターの姿はこちらからは見えない。
それにしても、基本的に人間の住む街は結界が敷かれてあり、
モンスターはそこに入ってこれないはず。
そんな当たり前の常識が・・・・

ドカン! さらに衝撃音。
「ぐわっ!」
吹っ飛ばされるモーガン。
「くぅっ! 敵は1体か。手ごわいぞ!」
もうひとりの門番のウディが叫ぶ。
一見平和そうに見えるこの街の、本当の姿を垣間見た。
街を守るため、生き残るために、みんな必死なのだ。

「結界を破って街に侵入してきたモンスターがいるのか」
あたしの肉球をいじるのをやめ、きりりと表情を引き締めるクリアン。
さっきまでのとろけかかったダサダサの表情が脳裏を離れないので
もはや貫禄もないが。

「モンスターなんて、ウチらが追い払ってやるさね!」
チャイが巨大な銃砲、バリスタを持って駆け出す。
アーチャーの神官のペットだけあって、彼女も弓使いらしい。
「ヘタレのアルピニャンに、シラリスねこの戦い方を教えてやるさぁっ」
「待てチャイ! 相手は結界無効化の特性を持った特異モンスターだ。
そのへんのザコとは違うんだぞ! おまえじゃ無理だ!」
クリアンの制止も聞かず、チャイは逃げる人々を避けながらモンスターに
向かっていった。
チャイが口笛を鳴らすと、どこからともなく数匹のねこが現れた。
あれは、このシラリスに住むねこたちのようだ。
「迎撃するよ、みんな!」
チャイがみんなに命令する。
「合点だ、姉さんっ」
シラリスのねこたちはフォーメーションを組んでモンスターに向かっていった。
どうやらチャイはこの街のねこのリーダーらしい。

「ふん、たかがねこの分際でこのオレに敵うと思っているのか」

どかっ!
衝撃音とともに、向かっていったねこたちが吹き飛ばされる。
あたしの脇の木にチャイが叩きつけられた。
その衝撃で彼女は気絶した。
「チャイ!」
クリアンの絶叫がこだまする。

このへんのモンスターを相手に戦ってきたシラリスのねこのほうが、
アルピニア育ちのあたしたちより何倍も強いと思っていた。
そのねこたちがまるで歯がたたないのだ。
あたしたちが相手をしても、きっと返り討ちにされるのがオチだ。
ついさっきだって、このへんのザコを相手になにもできなかった。
ぜんぜん強さが足りないのだ。

───でも、違う。

背筋がざわり、と騒ぎ立てる。
同じねこが傷ついて倒れるのを見て、無視などできるはずがない。
「ダンガン、にゃんざぶろう、行くよ」
あたしはクロスボウを握り、立ち上がった。
この街にたどり着くのにもうへとへとだったけど、戦える。
いや戦わなければならない。それが状況だ。
「おうよ」
「シラリス初陣でござるな」
ダンガンもにゃんざぶろうも応えてくれた。

───あの声、忘れたことがない。

「待つんだアリス、ぼくたち神官に任せるんだ!」
クリアンが叫ぶ。
あたしは振り返らずに言った。
「おやっさん、チャイの手当てを」
おやっさんは「うむ」と頷く。
おやっさんもわかっていた。
これは運命だ、ということを。

───このモンスターから逃げることなんて、できない。

なぜなら・・・
「これ以上好きにはさせない! あたしが相手にゃ!」
あたしはそう言って、やつの名を叫んだ。
「テスラー・ソート!!」
あたしはやつと以前戦ったことがあるのだ。
忘れもしない、アルピニアの南の平原での死闘。

モンスターの前に燦然と立つ。
テスラー・ソート。
人間の倍はあろう毛むくじゃらの巨体。
その身長と同じくらいの長さのバスター・ソードを軽々と振り回す怪力。
豹を思わせる、しましまの不気味な尻尾。
そして、その素顔を隠す奇妙な鉄仮面。

「おまえ・・・アルピニアの、あのときのねこか」
テスラーはあたしを眼下に見下ろすと、ぎり、と牙を見せた。
「あたしの名はアリス。ここであんたの好きにはさせないにゃ!」
「オレはダンガン。おまえに受けた肩の傷、いまこそその借りを返して
やるぜ!」
「拙者はにゃんざぶろうと申す。いざ尋常に勝負でござる!」

立ち並ぶ3匹。
シラリスの西に沈む夕陽が、3匹のねこと1体の巨体モンスターの
シルエットが街の芝生に浮かぶ。

2015/1/1 11:28  [1498-1727]   

テスラーは、その歯をきしませ、バスター・ソードを握る手に血管が
浮かぶほど強い握力をにじませた。
「アリスと言ったな。あのとき貴様に受けた屈辱は・・・」
ズン! テスラーの軸足が衝撃とともに砂煙をあげる。
「貴様の命をもって晴らせてもらう!」
凄まじい風切り音で巨大なソードが振りかざされた。
「散っ!」
あたしの合図とともにダンガン、にゃんざぶろうは左右に展開する。
バトル開始だ!

「う・・・」
低いうめき声をあげて薄目をあけるチャイ。
「気がついたか、これを飲むんだ」
おやっさんから体力回復剤を受け取ると、少しずつ喉に含む。

「姉さん、大丈夫で?」
シラリスの他のねこたちはチャイのまわりを取り囲み、心配そうに彼女を
見つめていた。
彼等はチャイほどのダメージは受けておらず、心配なさそうだった。
「ウチはもう大丈夫さね。それよりあのモンスターは?」
彼女の問いに、おやっさんが答えた。
「我らのメンバー3匹が戦っているぞ」
「なんやと? あんなウチより弱っちいねこが戦ったってやられるに
決まってるやろが」
チャイは、侮蔑の舌打ちをした。

「さて、そう決め付けるのは、すこし早計だと思うがな」
おやっさんは険しい顔をしてチャイを否定した。
「アリスはあのモンスター、テスラー・ソートと以前戦ったことがある。
装備も何もなく、ただ棒きれ一本だけで、それで奴にダメージを与え、
みごと撃退に成功したのだ」
「そんなの嘘や! ありえない! あんなひ弱なねこがあの怪力モンスターと
渡り合ったなんて、ウチは信じない。いいかげんなこと言うな!」
チャイは逆上しておやっさんにつっかかった。

「信じる信じないは、お前さんの勝手だ。だが、いま目前で起こっている戦いの
結果を見ればいい。それが事実、それが全てだ。なんなら賭けてもいい」
チャイはにやりとしてみせた。
「ふん、面白いねえ。ならばあんたらのねこが負けたら、あんたら全員
ウチの子分になってもらうさね」
「よかろう。ならばアリスたちが勝ったならば・・・」
「勝てるもんか、あほう」

おやっさんとチャイたちのやりとりなど知らず、あたしたちはテスラーに
憤然と立ち向かっていた。
3方向から取り囲み、乱数加速でテスラーをかく乱する。
そしてテスラーの死角にいるにゃんざぶろうが斬りかかる。
やつの足に確かにヒットしたはずだが、その強靭な肉体に対しては
薄皮一枚切った程度のダメージしかない。
「痛くもかゆくもないわ!」
テスラーはにゃんざぶろうを、まるでシュートするかのように蹴りつけた。
「ぬうう!」
吹っ飛ぶにゃんざぶろう。
今だ!
テスラーに隙ができた。
あたしはクロスボウを一斉射撃、ダンガンは飛び斬りをかます。

ひとつひとつの攻撃は確実にヒットしているが、やはりテスラーの肉体の
前にはさしたるダメージにならない。
「もう一度いくにゃ!」
体勢を立て直したにゃんざぶろうとともに、再度フォーメーションを組み立てる。
「こざかしい!」
あたしたちの乱数加速を鬱陶しく感じたテスラーは、地面を思い切り
足で踏みつけた。
ズン!
地面がめり込み、ひび割れるほどの凄まじい衝撃。
あたしたちは揺れる地面に足をとられ、素早い動きが瞬間封じられた。
「終わりだ。死ね」
巨大なバスター・ソードを水平に、豪快にスイングする。

「こんのォ!」
ダンガンがシールドで受けるが、勢い止まらず吹き飛ばされ、あたしと
にゃんざぶろうもダンガンの身体に次々とぶつかって10メートルほど
飛ばされ、地面に叩きつけられた。

2015/1/4 02:12  [1498-1732]   


「言わんこっちゃない、あいつら逃げないと死ぬことになるよ」
チャイが青ざめて見ている。
「ご主人、なんとかしてやってよ」
チャイに急かされ、クリアンは「そうだな、よし」と腰を上げるが、
「黙って見ているんだ」
とおやっさんに制止された。

いまの一撃で砕けたシールドを投げ捨てるダンガン。
「さすがだな、強烈な一撃だったぜ」
口の中にたまった血をぺっと吐き出し、剣を両手で構える。
あたしもにゃんざぶろうも起き上がり、身構える。

それを見たテスラーはすこし驚いてみせた。
「オレの攻撃を受けて、まだ向かってくるか。すこしは経験を積んで
きたようだな」
いかにもあたしたちを見下したような言い方。

あたしは「ふん」と鼻で笑ってやった。
「あんたのその慢心が、前回の敗北の原因なんじゃないの?」
「なに・・・・!?」
あたしはすう、と息を吸い込むと、この街の隅々まで届くくらいの大声で叫んだ。

「あたしらは強い! 強いんだ! 何度戦っても、あんたは勝てない!」

大気をも震わせるような雄たけび。
それはダンガン、にゃんざぶろうの闘争心を真っ赤に燃やした。
「へっ 言ってくれるぜアリス! やってやるぜぇ!」
「今宵の斬鉄剣は一味は違うでござる!」

それどころか、離れて見ていたシラリスのねこにまで飛び火した。
「そ、そうだ! あんなモンスターなんかやっつけちまえ!」
「がんばれアリス! ダンガン! にゃんざぶろう!」
チャイが驚いてまわりのねこを見渡す。
自分の子分だったはずのねこが、アルピニアから来た3匹を応援している。

なんなのだ、一体。
自分より弱いはずのねこに、もはや勝ち目などないはずなのに。
テスラーにはほとんどダメージを与えてないのに。
なのに、何かをやってくれそうな予感がする。
チャイ自身の胸にも熱いものがこみ上げてくる。
これが、リーダーの素質というものなのか。

そうはいっても、現実は生易しいものではない。
あたしたちは戦法を変え、テスラーの怪力を逆に利用したカウンターで
ダメージを狙っていたが、うまくいかない。
本来カウンターは相手に真正面から攻撃されたところを紙一重で避け
その反動を利用して反撃するもの。
戦闘の経験、それと野生の勘は悔しいがテスラーが何枚も上手。
あたしらの繰り出すカウンターの裏をかいた攻撃を易々と仕掛けてくるのだ。
こんなことを繰り返していたら分が悪くなるのは日を見るより明らかだ。

前回テスラー・ソートには、その片目を突いて勝利することができた。
もう同じ手はくわないだろう。
ほかに弱点はないか。
あんな鋼鉄のような身体をしていては、まともな戦略では歯がたたない。
なにか勝つための手段を見つけないと。

探せ。
探せ。
考えろ。

「・・・・・! あれをやってみるかにゃ・・・・!」
あたしは一筋の勝機を定め、ダンガンとにゃんざぶろうに耳打ちした。
その驚愕な戦術に2匹とも顔が青ざめる。
「ンなことできんのか!」
「こんな土壇場の一瞬で、針に糸を通すような真似など・・・」
あたしは覚悟を決めて、言った。
「できなきゃ、あたしが死ぬだけにゃ。あたしの命、ダンガンと
にゃんざぶろうに預けたよ」
その言葉を聞いて2匹も表情を引き締め、覚悟を決めた。
「・・・わかった。最後の力で決めてやるぜ!」
「承知したでござる。逆転確率1%に賭けるでござる!」

2015/1/7 17:20  [1498-1747]   


「いくよっ!」
あたしの合図とともにダンガンとにゃんざぶろうは左右に展開する。
そして、テスラーの正面のあたしは乱数加速をしながらクロスボウの
矢尻に呪文を唱えた。
「我握る弩の一撃に鉄鎖の封印を・・・奇襲・・・!」
ぶぅん、と矢尻が光り輝く。
これで準備完了。

あとはテスラーが仕掛けてくれれば。
「貴様らのかく乱戦法は、もうオレには通用しない!」
テスラーは片足を掲げて、ずん! と地面を強く踏む。
「うわあっ!」
その地響きで、あたしの足はもつれ、地面に倒れた。

テスラーはその瞬間を見逃さなかった。
「バカめ、終わりだ」
テスラーは左足を浮かせ、全体重をかけてあたしを踏み潰す・・・

その刹那。

あたしはさっとクロスボウを掲げ、叫んだ。
「これが狙いにゃ! くらえ、ブラインド・アロー!!」
力強くトリガーをひく。
ガシュッと矢が放たれ、それが足に当たる寸前、矢は光につつまれ
黒い鎖のような形に変化し、一瞬でテスラー・ソートの全身を縛りあげた。
「ぬぅっ!?」
ばしん、という衝撃とともに、テスラーはあたしを踏み潰そうとしたポーズの
まま硬直した。

「うまいっ! アクティブアタックスキルの『ブラインド・アロー』に
アクティブサブスキルの『奇襲』を掛け合わせた一撃! ダメージはなくとも
相手を数秒間硬直させることができるッ!」
遠くで見ていたクリアンが、思わず身を乗り出して叫んだ。

「ダンガン、にゃんざぶろう! いまにゃ!!」
倒れた姿勢のまま、あたしは叫んだ。
「くらえ、オレの渾身の一撃!!」
上空からダンガンが『飛び斬り』を。
「ぬあああ! 奥義、抜刀ねずみ返し!!」
その直下の地面からにゃんざぶろうが『打ち上げ』を。
両者同時に必殺技を発動させる。
ふたつの衝撃波がぶつかりあって、眩いばかりの閃光がはしる。

「・・・・・・・・!!」
あたりが沈黙に沈む。
いったいなにがどうなったのか。
二匹が切りあったはずの、テスラーの左足には傷ひとつついてない。
失敗だったのか。
もしくはヒットしていてもノーダメージだったのか。
ならば、テスラーの硬直が解けた瞬間、あたしは踏み潰されて死ぬ。

「あ・・・アリス、逃げてぇぇ!!」
思わずチャイが叫ぶ。
だが、あたしはその場を動こうとはしなかった。
ダンガンとにゃんざぶろうの姿を見て悟っていたのだ。

「・・・また、つまらぬものを斬ってしまった・・・」
にゃんざぶろうがぽつりと呟く。
そしてダンガンとにゃんざぶろうは同時に剣を鞘におさめ、かちん、と鳴らす。
次の瞬間。

ばちーん!

大きなゴムが弾けるような音が響き、そしてテスラー・ソートは、
「ぐあああぁああ!」
うめき声をあげながら、ずぅん・・・と土煙をあげて尻餅をついた。

2015/1/12 21:00  [1498-1758]   


「き、貴様ら、一体なにをしたのだ・・・・!」
仮面をしているので直接はわからないが、その下に隠された素顔は
苦痛に歪んでいるに違いない。

「あたしたちが何匹束になっても、あんたに致命傷は与えられない。
だから、大気・・・自然の力をほんの少し貸してもらったのにゃ」
もはやテスラーの左足は使いものにならないだろう。
片足を失えば、機動力は格段に落ち、また鋭い剣さばきもできない。
テスラーの攻撃力のほとんどを封印したのだ。
あたしはテスラーの眼前に立ち、クロスボウを片手で構えた。
「あたしたちの、勝ちにゃ」
どわあっ、とシラリスの町中から堰を切ったように喝采の声があがる。
みんな、張り詰めた空気に耐えられなかったみたいだ。
あたしたちの逆転勝利に、全身で喜びを沸きあがらせていた。

あたしは、町中からあふれる声を背に、クロスボウをきつく握り締めた。
テスラーにとどめをさすべきか、それとも・・・。
「殺せ。生き恥などさらさん」
悩むあたしを諭すようにテスラーは言った。
「・・・・・・・」
あたしははっとした。

なんか、違う。

実に言いにくい、表現しにくいことだが、テスラーはいままでのどんな
モンスターとも違う雰囲気をしていた。
殺意に満ち溢れていたときはわからなかったが、死の淵に追い込まれた、
まさに今になって、その奇妙な雰囲気が露呈されたのだ。
「行って。見逃してあげる。ただし、もう街や人を襲わないことにゃ」
あたしはそう言って弓を下ろした。
「な・・・に・・・?」
「はやく行けってば、いいから・・・っ」
あたしは苛立つようにテスラーをせかした。

テスラーはバスター・ソードを杖にし、立ち上がるとぼそりと呟いた。
「アリス・・・といったな」
そして片手を掲げると、
「二度と忘れん」
そういい残し、煙玉を地面にたたきつけ、まわりの視界を遮った瞬間に
何処かへ消えていった。


「やったな、見事な逆転勝利だった」
おやっさんに肩をたたかれ、ようやく我にかえった。
たくさんの人間とねこたちに囲まれ、シラリスの街は活気が甦った。
辺りは薄暗くなっていて、家や店が明かりを灯しはじめていた。
「最後の一撃、あれはいったいなにが起こったんだ?」
クリアンが質問してきた。
「ぼくの眼は誰にも負けないほどの動体視力があると自負してきたけど、
最後の一撃だけはなにがどうなったのか、まったくわからなかったよ」

ナイトストーカーであるクリアンですら見抜けなかった一撃。
それはどれだけものすごい一撃であったか、と言っているようなものだ。
ダンガンはおどけながら、
「まあな、へへ。これがオレたち流のパーティーバトルってこった」
なんて言ってみせたが、それではなんの説明にもなってないので
あたしが説明することにした。

「あたしたちがいかに斬りつけても、あいつの身体は頑丈で、ぜんぜん
ダメージを与えられなかった。でも一定の条件下で、どんなものでも
切り刻むことができる自然現象を、あたしたちは知っているのにゃ。
ダンガンとにゃんざぶろうのふたつの剣をほんのわずかな隙を
あけてクロスさせることで、その条件を満たし、発動させたのにゃ」
「・・・かまいたち現象・・・か!」
クリアンが手を叩いて言った。

剣と剣を、当たるか当たらないかのギリギリの差をもって交差させると、
その間の空気は瞬間的に真空になる。
そしてそれが弾けるとき、周囲に爆発的な破壊エネルギーが生まれる。
それはねこ2匹が全力で斬りつけるより、くらべものにならないほどの
攻撃力になるのだ。
「それを、テスラーの左足を上げた状態の、かかとの上を狙ったの」
「なんと、あのゴムの切れたような音は、踵骨腱・・・アキレス腱の
切れる音だったのか」
「うん。そこがダメになればその足は使えなくなるからね」

「なんて無茶を。あの土壇場で、かまいたち現象が起きる剣同士の
交差をやってのけるなんて、はっきりいって奇跡もいいところさね」
チャイが呆れ顔をして言った。
「まあ、そうかもね。あはは・・・」
あたしは曖昧に笑いながら頭をかいたが、その横にいたおやっさんが言った。
「そうではないだろう。その奇跡を呼び起こしたのが、アリスなんだ。
ダンガンとにゃんざぶろうに、それができなければ自分は間違いなく死ぬ、
という状況をつくりあげ、無理矢理にでも2匹の集中力を極限まで
上げさせたのだ。ゆえに、あの攻撃は成功して当然だった、とすら言えるのでは
ないかな」

まったくもってその通りだった。
あたしが踏み潰されそうになった状況を自らでっちあげた理由はふたつ。
ひとつはテスラーの足を上げることで、ダンガンの『飛び斬り』とにゃんざぶろうの
『打ち上げ』の交差ポイントにテスラーのアキレス腱を重ねようとしたこと。
もうひとつは、おやっさんの言うとおり、2匹の同時攻撃が失敗した場合、
即あたしが死ぬ、という危機的状況を作り上げ、2匹の集中力増加を狙ったこと。
きっと、あの奥義同士の打ち合いのとき、2匹の脳内にはかつてないほどの
大量のアドレナリンが分泌されていたに違いない。

「なんちゅう信頼関係・・・。ウチらには、到底まねできないさね」
チャイは、お手上げのジェスチャーをして、そしておもむろに右手を差し出した。
「改めて自己紹介。ウチはチャイ。このシラリスに住むねこのリーダーだったけど、
たった今からあたしを含め全員あんたらの仲間に加わるさね」
すこし恥ずかしがりながら差し出された手。
あたしはそれをぎゅっと握り返した。

「ひまねこ遊撃隊へようこそ。仲良くするにゃ」

わあっとまわりから拍手喝采を浴びる。
あたしはそれを見渡し、ようやくこのシラリスに到着した、という実感が
湧き上がったのであった。

2015/1/18 00:26  [1498-1761]   


その後、チャイの案内でシラリスの街をひととおり見てまわった。
特徴的なところは、酒場が1件もない、というところだった。
ならば食事はどうするのか疑問に思ったが、いくつもの露店が並んでおり
自分の好きなものを買い、そして好きな場所で食べればいいのだ。
なるほど、田舎ならではのスタイルということか。
けっこう好きかも、こういうの。

宿泊場所として空いている神官用の寄宿舎を提供されたが、あたしたちは
丁重にお断りした。
もともと野良ねこ、そういった密閉された場所は落ち着かない。
この街に着いてから、あたしたちのベッドはここ、と決めていた場所が
あったのだ。

「ここ、ここをあたしたちのベッドにするにゃ〜♪」
あたしたちは菩提樹の適当な枝によじのぼり、腰を下ろした。
樹のベッド、なんと素敵なことだろう。
風をやさしく防いでくれたり、星が見れたり。なによりも樹のぬくもりと
心地よい香りが気に入った。

夜中。
みんなは旅の疲れで、ぐっすりと眠っている。
あたしはなんとなく眠れず、ぽっかりと浮かぶ月を眺めていた。
そんなときだった。
クリアンが、彼の寄宿舎から出てくるのが見えた。
なにをするのだろうか。

彼は北の門番、ウディと交代して見張り役に立った。
なぜ転職神官が門番の役目までする必要があるのだろうか。
「あ・・・」
あたしは思い出した。
ウディのほかに、もうひとり門番のモーガンがいたのだったが、
テスラーに重症を負わされていたのだ。
クリアンはそれに替わって門番を引き受けたのだった。
人手のあるアルピニアと違い、ここでは自分の仕事以上のことまで
やらなければならない。
またひとつ、勉強になった。

「クリアン」
あたしは樹から下りて、彼のもとへ寄った。
「おや、アリス。眠れないのかい?」
クリアンは優しい瞳であたしを見た。
「ううん・・・月と星がきれいで、見とれていたのにゃ」
「田舎だからね」
近くの草むらから鈴虫の音がする。
自然がこんなに近くにある。
素敵な街じゃないか。
来てよかった、と本当に思った。
「クリアン・・・」
「ん?」
あたしは彼ににっこりと微笑み、そしてゆっくりとこう言った。

「あたしを助けてくれて、ありがとう・・・」

穏やかなシラリスの星空の下、ゆったりと時が流れていた。


(おしまい)

2015/1/19 12:00  [1498-1764]   

あとがき


ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
ほんとうは、もう3話ほど続くのですが、当時はゲーム自体がサービス停止、
読者も誰もいなくなって、ここまでの未完となってしまいました。

投げかけた謎とか放置のままになってしまい申し訳ありません。



アリスたちの冒険物語、いかがだったでしょうか。
書き方を主人公アリスの視点にしてますので、感情移入はしやすかったかなと思ってます。
他の作品はたいてい神の目の視点ですが、今回は実験的にそんなことをやってました。
アリスの行動原理も、思うまま、感じたままに行動するタイプなので、
読んでてけっこうすんなり溶け込めたかな、と。

また、他ゲーム他アニメの引用をそのへんに散らばせました。
ニヤリとできるセリフまわしとか、いくつかあるのではないでしょうか。

なにはともあれ、一件落着。

これ以降、私以外からのレスを解禁いたします。
ご意見、感想などありましたら、ぜひお寄せください。
楽しみにしてます〜

2015/1/19 12:13  [1498-1765]   


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